血盟団が現代日本に教えるもの 血盟団に読む「死の物語」、ゲスト: 中島岳志、木村三浩(西部邁ゼミナール 12/21/2013)

血盟団が現代日本に教えるもの 血盟団に読む「死の物語」、ゲスト: 中島岳志木村三浩西部邁ゼミナール 12/21/2013)

北海道大学大学院法学研究科・公共政策大学院准教授 中島岳志

【著書】『血盟団事件』(文藝春秋

一水会代表 木村三浩

【著書】『鬼畜米英 がんばれサダム・フセイン ふざけんなアメリカ!!』(鹿砦社

評論家 西部邁

【最新著】『中江兆民 百年の誤解』(時事通信社)、『もはや、これまで 一経綸酔狂問答』黒鉄ヒロシ共著(PHP研究所

【ニコ動】

http://sp.nicovideo.jp/watch/sm22496335?cp_in=wt_tg

(【西部邁ゼミナール】血盟団に読む「死の物語」 2013.12.21)

昭和7年(1932年)に勃発した『血盟団事件』、著名な日本の要人の幾人かが殺戮された。

世界大恐慌のさなかで、可及的、速やかに「時代の根本変革」を求める青年たちがテロに走った。この事件が引き金となり、『五・一五事件』『二・二六事件』という軍部の一部も関わるテロが起こる。

今現在、『80年前と類似した未来展望の喪失感』が、青年たちの心理と行動を覆っている。ゆえに、血盟団事件は現代の青年心理を知るにあたり、大いに示唆的である、というのが中島岳志氏の執筆動機である模様。

西部邁

血盟団事件のすぐ後に、1932年の「五・一五事件」が起こる。五・一五事件の【三上卓】(※海軍中尉)という主導者がね、彼が作詞した有名な歌があって、『青年日本の歌』とか『昭和維新の歌』ね、それを今日、久方ぶりに登場した、こちらの先生(木村)ね、中島先生はご存知かな?右翼の気持ちは歌で表現される歌心のある方なので、この三上卓作詞の『青年日本の歌』『昭和維新の歌』をほんの少々だけ、木村さん、お願いします。

木村三浩

わかりました。(昭和維新の歌は)1番から10番まであるのですが、4番を歌います。

(四番)

昭和維新の春の空

正義に結すぶ丈夫(ますらお)が

胸裡百万兵足たりて

散ちるや万朶(ばんだ)の桜花

西部邁

僕の歌い方はちょっと軟弱で演歌調になっちゃうんだけど(笑)

(九番)

功名何なんぞ夢の跡あと

消えざるものはただ誠

人生意気に感じては

成否を誰かあげつらう

という歌を、実は1936年の「二・二六事件」で、青年将校その他が雪の中を歌いながら、首相官邸を襲撃したということになるわけでありますけども。

西部邁

この本(『血盟団事件中島岳志)僕も読ませていただいてね、たいへんに面白いし、この本の前に、東京の『秋葉原事件』の本を書いていますよね。(※『秋葉原事件 加藤智大の軌跡 』中島岳志 朝日文庫

まぁ、簡単に言うとね、なんか人生の目的その他を喪失した青年たちが、なんかちょっと異様な、広く言えば【テロル】ね。テロル(独語: Terror)というのは「恐怖」という意味ですけども、人を恐怖に駆る行為に走らせるということ、それがあんな形で起こってますけども、やはり、それと、現れは大違いだけども、《それと心理の構造としては似たものが》が、1930年代の世界大恐慌の後の日本及び世界の混乱・混迷時期に起こったんだ、ということだと思うけども、中島先生のですね、口から「どうしてこういう本を書いたのか?」、血盟団などというおどろおどろしい事件ね。

中島岳志

そうですね。僕は当時の時代状況と近年というのが、まぁ何から何まで同じとは申しませんが、《似ている側面がある》んじゃないかと思うんです。

大正半ばぐらいに「第一次世界大戦」というのが終わりますけども、第一次世界大戦中というのは、日本はいわゆる『船成金』とか言われた人たちが多く出てきた時期で、いわゆる【バブル経済】のような、景気の良かった時期なわけです。

(※『大正バブル』1915~1920年 第一次世界大戦中の船成金)

しかし、そんな時代でも背景には【格差の問題】というのが、広がっていた。典型的には、【河上肇】(マルクス経済研究)が大戦期に『貧乏物語』(※1916年 9月1日~12月26日まで大阪朝日新聞に連載、翌年書籍化しベストセラー、格差社会と貧困の問題を取り上げた)というのを書いていますけども、そういう格差の問題が生じていた。それが、戦争が終わって、「このバブルが弾けた後」に、一気に問題が可視化されてくるというのが、1920年代に現れた世界なんだと思うのです。

その時期に「青年たち」というのが、様々な鬱屈を抱えながら、労働闘争などをしていくのですが、世の中がどんどん流動化をし、農村がどんどん疲弊するものですから、都市にどんどん人が流れ込んでいき、都市部というのがなかなか自分の【トポス(あるべき場所)】というのが見出しにくい、そんな場所になってきた中で、いろんな不満や鬱屈が蓄積してきた。

(※自分のあるべき場所 『topos』を見出せず、鬱屈した時代)

さらにそれを「政党政治家」や、あるいは「財閥」たちが、彼らの目から見ると『良くしようとしてくれてはいない。』という風に見えたわけですね。

で、当時も二大政党で、20年代の後半になると民政党と政友会の二大政党ですが、『もうどっちになってもなかなか希望を託しにくい。』一方で、財閥というのはどんどん一部が肥えていっている。銀座なんかで見て行くと『エログロ・ナンセンスの世界』になっている。

(※政友会と民政党の二大政党と財閥にも期待が持てない)

こういうようなものを青年たちが見ながら、『あいつらが悪いんだ!』ということで、この【テロの風潮】が生まれてくるんですが、時代背景としては、少し似ているところがあるんじゃないかというのが、僕の認識です。

西部邁

そうですね。本当にいろんなところが似ていて、第一次世界大戦そのものがそうですけども、20年代だって、大きく言えば結局は【グローバリズムの時代】ですものね。イギリス的なグローバリズムと、ドイツ的なグローバリズムがあり、その裏側にアメリカが居るわけだけども、真正面からぶつかって、しかも20年代で言うと、日本もまた典型的ですけども、たちどころに【金融恐慌】ですものね。金融パニックが何回も起こるんです。

(※英・独とその裏の米国 グローバリズムと金融恐慌)

そういう意味じゃ「今の日本」と、GNPの水準はずいぶん違いますけども、起こった出来事の構造・流れは、本当に《瓜二つ》と言いたくなるぐらいで、そこで青年たちが、しかも、その前では『日本共産党』が、1922年ぐらいに結成されるんですよね。

(※1922年7月15日、堺利彦・山川均・荒畑寒村らを中心に設立(9月創立説もある)され、一般には「第一次日本共産党」と称されている。設立時の幹部には野坂参三徳田球一、佐野学、鍋山貞親、赤松克麿ら)

『これは危ない!』というんで官憲が弾圧して、日本共産党は潰されていくと。それに続くようにして、今度は「右翼」の突撃隊が始まるですけどね。

木村先生、僕あの、心は「5.1:4.9」ぐらいで昔から右翼の方にちょっと傾いているんですね、子供の頃から。まぁそれはいいんですけども、貴方も血盟団事件その他にお詳しい。今度の(中島岳志氏の)本を読まれてどんな感想でした?

木村三浩

いや、非常にいろんな人の話をまとめ、川崎(川崎長光)さんの話のインタビューをされて。

<※参照>

http://shukan.bunshun.jp/articles/-/3116

西部邁

川崎さんというのは、血盟団

木村三浩

そう。血盟団の最後の生き残りの方ですね。そういう方にも会われてですね、話を聞いて、非常にいい本だと思いますねぇ。

西部邁

中島さんね、僕のイメージかな。つまり1917年に【ロシア革命(共産主義革命)】が起こりますでしょう。革命の「命」は、『天命の「命」』ですから、言って見れば、正義の【義】ですよね。『この義に基づいて、何か大きな変革を起こす』というのが【革命】という、そういうもんですけども、このやっぱり《ロシア革命の影響》というが強かったんじゃないか。時代のどん詰まりの中で、何か正義を求める主として青年たちが『大変革』に、しかもその時に彼らは『命を懸ける』んですね。まぁ、命じゃないとしても『人生』を懸けると。

こういうことが、日本だけじゃなくて、全世界的に、当たり前ですけどもね。イタリアでは『ファシズム』が突撃してくる。ドイツでは『ナチズム』が最初の突撃隊。あの突撃隊というのは、ある意味じゃ【左翼】ですからね、『国民社会主義』ですからね。その左翼が吸収するようにして、ナチズムが成立するんですけども。

(※正義のために命を賭して、大変革を求める世界の動き)

もっと言えば、その「左翼的な部分」を内ゲバで消して(※粛清して)ね。レーム(※【エルンスト・レーム】、突撃隊幕僚長、『長いナイフの夜』の粛清で捉えられ処刑された)って言うんだけど、レームたちね。突撃隊の。彼らを消して(ヒトラーは)権力を握るのだけど。

全世界的に何か、『正義の為に命を賭して大変革を起こす他ない』という気分が世界を覆ったという意味では、ロシア革命が原因とは言いませんけども、ロシア革命は一つの結果だけども、日本において大きな影響はあったのでしょうね。右翼に対してすらね。

中島岳志

そうですね。ですから、当時ロシア革命の直後ですけども、1918年だったと思いますが、【猶存社】(※1919年8月1日結成)という団体が出来るんですね。

(※「猶存社北一輝満川亀太郎大川周明猶存社の「三尊」)

この団体は、北一輝満川亀太郎大川周明というのが三本柱だったわけですが、北一輝はちょっとロシアを嫌っていたのですけども、満川亀太郎大川周明は、『ボリシェヴィキというのは仲間なんだ』と言ったんですね。

このレーニンのやったことは、自分たちの目指していること。ただし、レーニンたちは、唯物論で問題であると。「自分たちは魂というものを、その中に込めていかなければいけない」と。つまり『日本の天皇を掲げた革命をやるんだ!』 ですから、それがまぁいわゆる【右翼】と言われた青年たちの一つの形態でしたから、《『革命』や『マルクス』というものを土台とした右翼というのが、当時はあったということです。》

西部邁

そういうことだね。ある種の理論によれば、ロシア革命は大問題だと。つまりは『ユートピア utopia』というものを作り出そうとして、「u」というのは「無い」という意味で、「topia」は先程、中島さんが言われた「トポス=場所」ですから、『何処にも無い場所が、ユートピア』つまりは『空想』ですよね。空想社会を作り出そうとして、逆転して『ディストピア dystopia』で、結局はスターリン支配のすごい官僚抑圧体制をやってきたと。ロシア革命が歴史に対して及ぼした犯罪的効果と、てなことで学者たちはまとめるのだけども。

(※参考:ディストピアはユートピアの反対語。否定的で「反ユートピア」の要素をもつ社会をという着想で描かれる。例えば「粛清」、体制が政治体制をプロパガンダで「理想社会」に見せかけ国民を洗脳し、体制に反抗する者は治安組織が制裁を加え、排除する)

(※小説『1984年』ジョージ・オーウェル著(1949年刊行):ディストピア小説(反ユートピア)の系譜を引く作品で、スターリン体制下のソ連を連想させる『全体主義国家』によって分割統治された近未来世界の恐怖を描いた。1948年の「4」と「8」を入れ替えた「アナグラム」であると言われる)

木村三浩

猶存社という団体がね、北一輝大川周明満川亀太郎さんって方が作って、でいろいろロシア革命なんかの研究なんかをしているんですよ。で、それと、同じくして【老荘会】という勉強会が出来てですね(※右派と左派が一堂に会す「老荘会」の結成 1918年)、老荘老荘会ですね。

西部邁

老子荘子老荘ね。

木村三浩

これの第一回の勉強会の講師が【嶋野三郎】という人でね、「ロシア革命を現実に見てきた人」ですよ。その人が帰ってきて「ロシア革命はこういうものだった」というのをその会でやるわけですね。で、その会にはもちろん右翼の人もいるのだけども、左翼の【堺利彦】とかね、で高級軍人なんかも入って、30人ぐらいで皆で侃々諤々するんですよ。それを勉強の紙上に知識として入れて、戦略を立てよということが、まず一点。関心をすごく持っていたということですね。

二点目は、「ボリシェヴィキを援助した」というのは、日本の国策としてもですね、要するに【明石元二郎】なんかは、レーニンにたくさん資金を提供して(※現在の価値に換算すると400億円相当とも言われる)ロシアの皇帝を弱小させようという工作もやっていたんですね。

国家の戦略というものが、そこで一個出ていると同時に、国内においてもその社会運動団体、またはそういう人たちがですね、「革命」「維新」というものをパラレルに考えながらいろいろな動きが存在していたということ。

で、猶存社もあれば、老荘会もあって、明石元二郎もいて、そしてその後に【頭山満】や、前からありましたが【内田良平】が、そのロシアに行って探査するわけですよ。それで『露西亜亡国論』(1901年)というのを書きましたね。

その中で皆、血盟団の人たちも非常に【絶望】というものがあったと思うのですよね。で、【井上日召】さん(※血盟団事件の首謀者と言われる、日蓮宗の僧侶)なんかは、本を読ませていただくと、『日蓮主義』に走って、あの宗教的な啓示を受けながらも、さらに、だけどその前に彼は満州に行って、満州でいろんな放浪生活をしたり、いろんな軍部との生活をしながら、日本に帰ってきて、そしてまた宗教に一念(日蓮宗)していくわけでしょう。そこで、病気を治したりして、困った青年たちを集めて、器用なのは、多少『絶望』ってものがあって、その『絶望を昇華させる』と。最終的にはそれは、革命だ、維新だ、破壊だとかっていうような事になっていって、そこに私は思ったのですけども、【権藤成卿】さんという人が出てくるのですよ、イデオローグで。この人は実は『大化の改新』の研究家なんですよ。「大化の改新というのは、それこそ日本の初めての《暗殺の成功例》であって、暗殺が肯定される事件だった」わけですよ。で、【南淵請安】、この人がすごく影響を与えてですね。

(※社稷=しゃしょく:土地の神(社)と五穀の神(禝)、天子や諸侯が守った国家の守り神)

(※社稷国家を唱えた権藤成卿大化の改新の研究家)

(※南淵請安 みなみぶちのしょうあん: 飛鳥時代の学問僧、中大兄皇子と藤原鎌足は請安の塾に通い、ここで得た知識が大化の改新に生かされたと言われる)

西部邁

権藤成卿って言葉で言うと『社稷』という、貴方(中島岳志氏)が言ったトポスの一つね。なんかこう、社(やしろ)を中心にして、共同体ですかね、そういうもので人間も国家も出来るんだ、ということね。

木村三浩

その権藤成卿さんの『大化の改新論』(『南淵書』1922年)とかですね、『自治民範』(1927年)とかいろいろありますが、そういうところで、何で彼らが絶望していって、そういうふうになるのか。左翼だったら、わりと「労働争議」とか徒党を組んでみんなやるんだけども、アナーキストはね、銀行強盗とかしてましたよね。(西部:笑)その頃ね、「ギロチン社」(※1922年結成のテロリスト結社)とかね(笑)そういう人たちが少数でやるんだけども、左翼が理論的にしっかり持ってみんなでやろうと言うから跳ね上がっちゃまずいわけですよ。

どちらかと言うと右翼は『一人一殺』(※いちにんいっさつ)もそうだけど、自分の信条でいかなきゃいけないというのが、いわゆる『血盟団』みたいな暗殺になっていく。その原型は「大化の改新にあるんじゃないか?」というのが、僕はこれ(※中島著『血盟団事件』)を読んでちょっとそういう風に思ったんですね。

西部邁

すごく歴史は繋がっているのですよね。

日蓮そのものが、鎌倉時代に『元寇』、元がやってくるという状況の中で、簡単に言うとだけども、他の宗派の人たちは怒るかもしれないけども、たとえば【道元】(※鎌倉期の禅僧)のように座禅を組んで悟ったと言ってて、(それで具体的には)どうするんだい?と。あるいは【親鸞】のように「南無阿弥陀仏」と言っててさ、あんなお祈りあげてて救われるのか?と。

やっぱり人間というのは国家の中にいるじゃないかと。その国家が元(げん)にやられようとしているじゃないかと。『宗教も国家のことを考えざるべからず』ということが、宗祖日蓮の考え。

それであの時あれですものね、1930年代で言えば、大東亜戦争満州事変に関わる【石原莞爾】にせよ、文学者で皆して言ってる、例えば【宮澤賢治】にせよ、日蓮宗の中の【国柱会】ね。

(※国柱会▷「我日本の柱とならん」「八紘一宇: 道義的に天下を一つの家のようにする」)

国の柱。「国のことを考えざるべかざる」国柱会ね、こういう人たちですけども、これもそうですよね。ところで、あれもそうでしょう?もうちょっと妙な事件等を思ったけども、【死のう団】ってあったでしょう。あれも日蓮ですよね?

(※「日蓮殉教衆青年党」、通称「死のう団」、『我が祖国の為に、死のなう!!!』)

ちょっと忘れたけど、具体的には「血盟団事件」とは関係は無いんでしょう?

(※『死のう団事件』日蓮会[創立者は【江川桜堂】、本名 江川忠治]の青年部)

中島岳志

直接的な関係は無いですけども、ある種の「カルト的」な集団となって『死のう団』と言われたものが、東京の蒲田にあったのですけど、【江川桜堂】という人が中心となったもので、ある種の《ニヒリズムと宗教が混ざったようなもの》で、「死のう、死のう(死なう)」と言いながら行進をしていって逮捕されるという事件が起きるのですよね。

さらにもうちょっと後の、1930年代後半になると、国会議事堂の前で、死のう団のメンバーの何人かが、、(※割腹する事件を起こす、1937年2月17日)

西部邁

それ簡単に言うと、官憲の方が過剰反応でもって、ものすごく弾圧するものだから、「それに抗議する!」という形で、死のう団の人たちが、国会でもってやるというね。

中島岳志

そうですね。やっぱりこの頃にあった「幻想」というのが、(西部邁)先生が仰った『ユートピア』という幻想だと思うのです。で、この国柱会をつくった【田中智學】(※たなかちがく)という人も、やはり日蓮の【立正安国】という考え方(※立正安国論)を世界、ワールドワイドに広げて【八紘一宇】という考え方を作るんですね。つまり『天皇を中心として、世界を一つに統一しよう。それを日蓮の理念のもとに統一すると絶対平和というものが訪れる』それの段階論というのを彼(田中智學)が作っていくのですが、これに憧れたのが、例えば、先ほど先生(西部)の仰った【石原莞爾】とか【宮澤賢治】ですね。

ですから『五族協和』『王道楽土』というのを掲げた【満州国】というのは、《世界を一つに統一するビジョンにもとづいたユートピア思想》であり、それを「戦争などの武力によってやったのが、石原莞爾」であれば、「もう一人の宮澤賢治は、童話によって描こうとした」と思うんですね。しかしその、【イーハトーブ】というふうに宮澤賢治は言ったものと、【満州国】というのは、《手法は違えどユートピア発想、国柱会の理念から繋がっている》、それが権藤成卿とかいろんなところへ広がっていった時代だと思うのです。

(※五族協和: この「五族」とは、日本人、漢人、朝鮮人、満州人、蒙古人を指す。

(※王道楽土: アジア的理想国家[楽土=ユートピア]を、西洋の武による統治[覇道]ではなく東洋の徳による統治[王道]で造るという意味が込められている)

西部邁

僕の理屈だけども、ユートピアというと、「そんなのユートピアさ」というようなマイナス語になりますけども、先ほどのにちなんで言うと、正義の『義』ですけども、義と言ったって、義という言葉は分かったとしても、「具体的に何であるか?」ということは、《その時の状況》ね、日本で言えば1920年代、30年代の《状況の中で具体的化される》でしょう。状況の如何では、自分がこの問題にそれこそ「命を懸ける」、「死んでみせる」んだって、そういう形でくる。ある種の【決断】ですよね。こちら(※木村三浩氏)も『行動派』ですからね(笑)行動における、しかも「状況」の中でね。

学者、評論家の単なる一般的知識では、裁断出来ない、そこまで来ると『決断』の中にユートピア的なものとか、ユートピアの逆転としての「死んでみせましょう」ということがあったって、実は大いに理解可能なことなんですよね。

小さい声で言うと、僕は長生きし過ぎましたけども、だいたいその途中のタイプだったんですよ、気分の方はね(笑)

木村三浩

でも、5.1ですか?(笑)

西部邁

まぁ〜それはいいとして、ちょっとねぇ、TVでは滅多に議論出来ないことですけども、この人たち(※血盟団井上日召ら)のいわゆる【一人一殺】というの?もっと言うとこうなんでしょう。「一人の人間を殺して、井上準之助でも何でもね、殺して、そしてそこで、命を落とすなり、逮捕される何なりして、そこで《責任をとる》というね。」

もっと一般化して言うと、自分の命なり人生を失うという『責任』『犠牲』でもって、一人の、『状況の中で、悪と見なしたものを殺す』というね、それが一人一殺の主張ですけども、その点は、左翼よりは潔いですよね、気分的に言えば。

木村三浩

気分的に言えば【一殺多生】と言うんですよね。(西部: あぁ〜そうか。)一人を亡くして、多くが生きようという。一人一殺というのは、頭山さん(※頭山満)が喋った。満さんが。

本来的には、日蓮宗でも、井上日召さんにしても、一殺多生なんだと。ということなんですよね。

西部邁

実はね、右翼の「一人一殺」なり「一殺多生」のことを宣伝したいんじゃなくてね、やっぱり《歴史観》としてね、これはね、【佐藤洋二郎】(※小説家、日大藝術学部教授、西部ゼミでもお馴染み)という小説家も、僕も言ってることだけども、冷静に、客観的に歴史を振り返ると、フランス革命だろうが、ロシア革命だろうが、何だろうが、アメリカ独立革命を含めてですよ、結局のところ、大いなる変革、良かれ悪しかれですけども、【全て殺戮を伴なうもの】なんですよね。

(※大いなる変革には殺戮が伴なうもの)

それを僕は礼賛しているんじゃなくてさ、そういう事を消してしまって、「あの革命は良い革命でした」とか言いながら、「テロは一般的にダメです」とか言いながら歴史を語る(騙る)という【インテリたちの偽善】ね。それもね、結構、血盟団事件の書物を読んでいると、そういうような『偽善』も打ち砕く、暴露している、というそういうところはありますね。

(※革命は良いがテロは、というインテリの偽善)

中島岳志

そうですね。当時の彼ら(※血盟団)の理念及び、当時の右翼と言われた人たちが、共有していた観念で【一君万民】という考え方があるんですけども、彼らの考えた構造というのは、どういうことかと言うと、一君の「君」は君主ですから「天皇陛下」ですね。万民というのは、その他の我々「国民」ですけども、《超越的な天皇というものを認めれば、それ以外の国民は「一般化」され、「平等化」されるという観念》なんですね。

(*超越的な天皇を認めれば、国民は平等の一君万民)

で、しかし、世の中では、「不平等」が蔓延っている、これは一体どういうことなのか?というのが、彼らの問いなんですね。

『国体』というものが本来あるはずなのに、当時のメタファー、比喩としてよく使われたのが、「天皇陛下は太陽である」それに対して「国民は大地である」と。それで、その太陽が燦々と、大御心としての日光を大地に平等に照らしている・・・ハズなのに、この大地は平等になっていない。何故かと言うと、その間に雲がいる。その日光を邪魔している雲がいるんだ。そのことを当時の言葉で、【君側の奸】(※くんそくかん)と。天皇陛下の側にいて、よからぬことをしている輩たち、という意味ですけども、そういうのがいると。で、この「雲を取り除け!」と彼らは言うわけですよね。

(※太陽と大地の間の雲、君側の奸を取り除け)

西部邁

「かん(※奸)」と、「女へん」でしたね。女って悪いことをする。これは僕が言ったんじゃなくて、(昔の)中国人ね、中国人がそう思って、「みんな悪いことは女(へん)がついてくる(笑)

(※例えば、姦、姧のみならず、女へんの漢字を検索してみて下さい。ビックリしますよ。汗)

中島岳志

それで、その「君側の奸たち」というのを取り除けば、燦々とまた大御心(※日光)というのが、万民に降り注ぎ、平等な、国民は神の間に間に生き、先ほどの歌の世界ですよね(※三上卓の『昭和維新の歌』の世界)、和歌を歌いあって、透明な関係性を結び合う、そういう平和が訪れる。そのために「この雲をやっつけろ!」それが、一殺多生という問題になっていったということですね。

【次回】血盟団が21世紀に伝えるもの

ゲスト 中島岳志 × 木村三浩