「内外情勢の非常事態化のなかでの憲法改正」① ゲスト:佐藤正久(自民党参議院議員)〜西部邁ゼミナール〜
今村有希
今回のゲストは、「ヒゲの隊長」こと自民党参議院議員の佐藤正久先生です。佐藤先生は、陸上自衛官として25年に渡る実践的な経験を持ち、イラク先遣隊長、復興業務支援の初代隊長などを務めました。また、昨年はいわゆる「安保法制」の成立に尽力し、現在は参議院で外交防衛委員長としてご活躍されています。
世界規模で広がるテロにみられるように、混迷を極める世界情勢の中で、日米同盟が日本の外交の軸と言われていますが、日米関係のバランスを保つには、軍事・外交だけでなく文化的な側面も含め、日本の力の強化が問われています。
そこで今回は2週に渡り、内外情勢が非常事態化するなかで、憲法改正と非常事態法をめぐる議論をしていただきます。それでは先生方、宜しくお願い致します。
あぁ、どうもお出まし願って。ありがとうございます。
宜しくお願いします。
僕あの安保法制の論議の時に、あまりテレビを見ないのですけど、珍しくずっと見ていたら、お世辞じゃなくてさすが自衛隊におられた方だけあって、独壇場で大胆かつ終始展開出来るのは佐藤先生だけで、他の知ったか振りの防衛評論家たちはポカーンと口を開けてるというね(笑)なかなか見事な場面がありましたけどね。
今村有希
はい(笑)
今村さん最初に。
今村有希
はい。(佐藤)先生にご質問させていただいて宜しいですか?
はい。
今村有希
今村有希
はい。
ただ、今ある新聞の調査によると、自衛隊に対する支持は92%超えているんです。安倍内閣の倍以上ですね。それくらい支持が広がっているというのがあります。
今村有希
はい。
ただ、日本の憲法には自衛隊というのは明記しておりませんから、非常に曖昧な存在。最初は警察予備隊から、保安隊、自衛隊と変わってきましたから、警察予備隊をつくる時に当時の総理、【吉田茂】総理は、「これは今の憲法に照らして国民を守るとはいえ、こういう武装集団をつくるというのはダメだ」、という論陣を張ったらしいんですね。
一方で共産党の【野坂参三】先生が、「そんな馬鹿なことあるか!国民を守らない。そういうことが憲法には書いていない。(だから)国民を守る為に、こういう武装集団は必要である!!」と言って。昔の共産党は立派でしたね。
今村有希
はい。
社会党のね、鈴木清三って人だったかな?今で言えば左翼、当時の日本社会党。憲法論議の中で堂々と、「なんという下らない憲法だ!これでは日本はアメリカにおんぶでだっこではないか!!いずれ数年後に日本は独立するハズだ。その時に自分で自分を守らなくてどうするんだ!!」と叫んだのは(当時の)共産党と日本社会党だったの。
[*米国におんぶにだっこの憲法、独立に向け自衛しないのか ]
今村有希
へぇ〜。
(笑)
それどうしてくるっと変わったかというと、朝鮮戦争が起こるでしょう、1950年に?
今村有希
はい。
そうすると、ソ連側が、中国も含めてだけども、日本を非武装地帯にしておくとソ中にとって便利なわけさ。それで憲法を字義通りに解釈して、日本は非武装にしようというような命令が、簡単に言うと、コミンテルン、国際共産主義運動本部がやってきて、日本の左翼は態度をぐるりと変えて「自衛隊は憲法違反」と、こうなった。
今村有希
はー。
確かに今の憲法を読んでもですね、第1条から全て読んでも、自衛隊とか国防とか抑止とか自衛権という言葉が一つもない。書いてあるのは「戦争の放棄」とは書いてある。戦争の放棄は書いてあるけども、国防とか自衛隊とか自衛権の一つもないんです。
今村有希
はい。
そういう憲法というのは他の国を見ても無いと思いますね。
9条すごいんですよ。前項(第一項)の目的を達するために、前項というのは「侵略戦争をしない」だから、「侵略戦争をしないという目的のために、戦力は持たない、他国との交戦はしない」と言ってる。
ところが、自衛用の戦力とかね、自衛用の交戦、(他国に)攻められたから攻め返す反撃という、そういうことが何一つ一切書いてないの。従って、いま日本人がとらわれているのはね、憲法を字義通りに解釈するか・・・それなら自衛隊を認めちゃいけない。ところが、(世論調査によれば国民の)9割が認めているわけさ。
[*憲法を字義通りに解釈するか、日本人に問われている ]
今村有希
はい。
うん。
僕ね、裁判官がね、裁判官はしゃーない、法律を字義通りにやるのがあれ(仕事)だから。でもね、学者というのは違います。裁判官じゃないですからね、この憲法について解釈しなければならないでしょう。学者でしたら、「この憲法9条第二項はダメな文章です!悪法も極まれりです!!」と。こんなものいつまでも真正直に受け取っててひどい事になりますよというのが、学者のコモンセンス、常識のはずなのに、学者というのがね・・・
[*悪法も極まれりとするのが学者の常識 common sense ]
はい。
右左問わず、(オツムを指して)イカれてるんですよ。
ハハハ、そんなことも無いですけども(笑)、今村さん?
今村有希
はい?
私を拳で殴ろうとしてください。
今村有希
えっ!?・・・はい。(殴りかかる)
(今村の拳を腕でガードする。)この時に防ごうとするでしょう?
今村有希
はい。
これ(ガードした腕)が自衛隊。
そうなんだよ。
今村有希
はい、はい。
今村有希
・・・のはOK?
今村有希
これが権利、はい。
その代わり、自分からこうだ(相手に殴りかかる)というのはダメだとかね。
今村有希
はい。
はい。
「日本の平和と独立を守るために」というね。
僕が強調したいのは、自衛隊法の方が内容的には立派なんですよ。independence、『独立』ね。つまり、安全と生存だけでしたら、強い者に巻かれてね、あなたの奴隷になりますと。なんでも言う事を聞きますからというと、安全に生存できるかもしれないのね。まぁその可能性が強いの。ところが、自衛隊法の方が立派でね、【日本の独立】ということを言葉の上では謳っているわけさ。だから僕は、自衛隊法の方がこの問題に関する限り、憲法よりはよっぽど常識だと。そういうことをね、そろそろ日本人の当たり前の事としなきゃならないんですけどね。
(うんうん)
いま世間で安倍内閣が、今度の選挙で圧勝したとしたら、
はい。
まぁ衆参両院選挙が行われるかどうかというのもあるでしょうけども、憲法改正勢力が2/3を上回れば、憲法改正の発議を国会でやって、いよいよもってこの9条第二項を『廃止』という方へ進むんじゃないかと言われている。同時にね、武力衝突が、もちろん日本は反撃ですけどね、攻められた時の反撃、それで衝突が起こった時にどうするんだい?となった時のことを考えて、【緊急事態法】のことも準備していると、いうふうに言われているんですね。そこで一つ質問なんですけども、
はい。
緊急事態というのは英語で言うと、emergencyでしょうけどね、
はい。
「緊急事態」というのは救急病院が典型ですけど(笑)、どんな病気がどの程度起こるかというのは予想されるけど、いつね、具体的に起こるかまでは分からないから、法律も病院の制度をつくって準備しておく、というのが緊急事態でしょう。
(うん)
ところが、「非常事態」というのはもっとそれ(緊急事態)を上回るところがあってね、『予想もしていない事態が不意に起こる』と。
[*緊急事態 emergency と 非常事態の違い ]
今村有希
はい。
従って、それに対する法制的な準備もね、例えばですけど、ITのボタンを押せばどうにかなるという技術的な準備も出来ない。何はともあれ、自衛隊を中心とする人間の集団の緊急の努力でもってその非常事態に対応する、それが本当の『非常事態法』で、その時にあれですよね・・・明治憲法の31条かな、戦争及び国家の危難の時には天皇大権ね・・・僕は天皇を今のご時世で『大権』ね、大きな権利、もっというと独裁権ですよ、そんなね、面倒なことを持たせるのは天皇に失礼だから、僕は首相なり内閣なりに、まぁ大権、そういうことを必要とするのが『非常事態』ですよね。
法律的準備なんか間に合わない、技術的準備も不十分でしかない、それである種の『大権』をもって、極論すると、一時的ですけども『独裁権』をもって対応するという。そこまで自民党は考えていらっしゃるんですかねぇ?
[*『非常大権』による一時的独裁はどうなるのか ]
あぁ〜。
でやはり、非常事態なり緊急事態なり定義はありますけども、大きな災害、災害の時の国民の命を守るような事態もあれば、或いは、ミサイルとかテロによっての国民の命を守る場合、或いは、本格的な武力侵攻の場合とか幅はあるんですよね。
まぁそうですね。
そういう時に、どこまで個人の権利や自由を制限しても・・・
あぁ、その問題ね。
はい、国が命を守るために動けるような仕組みをつくるか、場合によっては市長とか町長の方に権限をいかに与えるか、というのについてはいろいろ議論があります。
なるほど。
要は、全部国が持った方がいい場合と、やはり今度は逆に、現場の市長・町長の方に権限を与えないと全然動かない場合もありますから、
そうですね。
はい、災害の場合、やっぱりテロとかいう場合と、本当に武力侵攻の場合では若干違いますから、(西部が)言われたように。
(佐藤)先生の本当に最大のご努力で、安保法制、
今村有希
はい。
あれは世間でね、ギャーギャー反対している人もいるけども、ちょっとオツムが正常に動く人はね、ごく当たり前の事としか言っていないんですよね。
今回、私が非常に残念だったのが、『周辺環境に対してどういう評価をするかという議論』が、あまりなされなかったんですね。
なるほどね。
その部分が、どんなに日本が厳しくなったという部分を議論しなければ次に進まないんです。入口の前の段階の「憲法違反だ」とか、そういう議論が結構多くて、実際に日本が置かれた環境がどうなんだという議論が薄かった。周辺環境が厳しくなったと言いながら、対案を出さない。これは非常に『無責任』だと思います。
[*日本の周辺環境が厳しいと認識しつつ対案のない無責任 ]
やっぱり政治というのは、国民の命とか平和な暮らしを守るために、じゃあどうすべきかということの解を出さなければいけない。要は、危機管理というのは、備えあれば憂いなしと。
今村有希
はい。
逆にこれが、憂いなければ備えなしのものでもダメだけど、一番悪いのは、憂いあれども備えなしが一番無責任なんです。
(笑)
周辺環境が厳しくなった時には対案を出さない。これは正しに、憂いあれども備えなしという一番無責任なパターン。こういう部分が若干見られたのが非常に残念です。
[*周辺事態が危機の最中、憂いあれど備えナシの無責任 ]
周辺事態が危なくなっているということを、それを分かっていさえすればですよ、一つね、たとえこれまでは「後方支援ならばいい」と言ったけども、でもね、支援するからには、行われていることが正しいから後方から支援しているわけでしょう?
今村有希
はい。
でもね、後方からだけじゃ間に合わなくなったらね、自分が前線に行くことも必要にして可能ならば有り得べしと。ということは、人道でも支援するには、正しいと思うから人道的に支援しているんでしょう。
今村有希
はい。
でも人道だけじゃね・・・ゴメンなさいよ?
どうぞ。
「橋をつくるだけじゃ間に合わない」ということならばね、ある種の武力的な部分に必要にして可能ならば参加する。当たり前のことで。
それからグローバル、グローバルと言ってるんですからね、本当に地球の反対側で起こってることは、すぐ東洋に飛び火することも、いま現に飛び火しつつありますけどね。
[*日本への原油輸送の約8割はペルシャ湾から運ぶ 」
今村有希
はい。
それは、日本の周辺だけが止まるという場合もあれば、場合によってはペルシャ湾で止まってしまっても日本に届かないわけです。新幹線で考えたら分かると思うんですけど、東京と大阪(間)を考えた時に、東京と品川間が止まる、というのが非常に分かりやすいですけども、その逆に京都と大阪が止まっても東京の方に影響が出ちゃうんです。油の道は繋がっていますから、そういうことも今、(西部)先生が言われたように、日本から離れていても影響が有る場合って有るんです。
そうでしょう。安保法制はね、全く当たり前のことね。もうこんなことで騒いでいるのはね、極めて特殊な日本列島だけで、世界中でもしも実際に(それを)知ったら口あんぐりするぐらい愚かしい議論が日本であったということ。
[*安保法制の改正は全く当然で時宜を得たもの ]
今村有希
はい。
で、今から21年前に『阪神・淡路大震災』がありました。約6千5百名弱の方が亡くなった。
今村有希
はい。
今村有希
えぇ〜(驚)
これはダメだっていうので法律を変えたんです。
先生、それには小さい声で異論を唱えておきたい。
はい。
いま先生ご自身が言ったようにね、超法規的、
今村有希
はい。
やっぱ法律に書いていないけどやっちゃうと。
(うんうん)
僕はそろそろ自衛隊はね、たぶん内部ではやっていると思いますよ、いちいち法律なんかに従うたって、法律の準備をしていないんですから。でも、やらなきゃいけないことがあったらね、やっぱり自衛隊はね、曲がりなりにも『軍隊』なんですからね。
(うん)
もういざとなったら超法規的にやっちゃう・・・ということを「うん」と仰ると、先生の立場が悪くなるから頷かなくて結構なんだけど(笑)
[*超法規的にやらざるを得ないのが非常事態 ]
今村有希
(笑)
今回まさにそういう法的な隙間を埋めるために、この法制をつくったわけで。で今回、『抑止力』ということを総理も何回も言いましたけども、備えあれば憂いなしということが、やっぱり抑止に繋がる。
今村有希
はい。
抑止力というのは、「やったらもっとやられる(=反撃される)から、やっても意味がない」と(いうように)相手が思わないと抑止にならないんです。
うん。
だから、要は平時から緊張状態そして有事まで、“日本とアメリカがお互い守り合う体制”をとった方がやっぱり相手は手が出せないんです。
[*日米同盟の堅固さを示すことによる『抑止力』とは ]
今村有希
はい。
私が単独でやるのと、西部さんと私がお互いに守り合った方が、どっちが今村さんは攻撃しづらいかと。
それの肝心の今の話ですけどね、先生が日本で、僕がアメリカとしましょうか。
今村有希
はい。
「日米同盟」と世間で言われている。つまり(自分を指差して)ニシベね。
ん?うん、ニシベ(笑)
今村有希
(笑)
(自分を指して)コイツがですよ、アメリカが、果たしてどこまで信用出来る奴かどうかというね。もちろん100%まではねぇ・・・。いちおう日米安全保障条約があるということは、それなりに信頼出来るということだけども、しかし、特にベトナム戦争以後の長い歴史を見ると、アメリカは大いにしばしば暴走しているんですよね。
[*ベトナム戦争以後しばしば暴走しているアメリカ ]
そこのところを自衛隊も含め、日本政府としてね、「いや、その話は我が日本にはムリですので、協力出来るとしてもこの程度以上は出来ませんよ」、という、たとえばそういうことを言えるようになるためには日本がチカラを持っていないとね。
[*軍事・外交・文化的な日本のチカラを強化する必要 ]
うん、そうですね。
いちばんの大事なチカラは『軍事力』ですけどね、軍事力をはじめとするやっぱりチカラを強化しないと、確かに日本の左翼の、僕に言わせれば阿呆共が言ってるね、「アメリカのやる戦争に引き摺り込まれる」、という懸念は払拭しきれないところはあるんですよ。
[*アメリカに引きずり回されず日本との約束を守らせるには ]
(うん)
お答え難いでしょうけれども、況してや、イラクに行かれて頑張ってこられた方には不愉快かもしれないけども、やっぱりその問題はどうしますかね?
やっぱり、そこはまさに『日本の覚悟』という部分が問われていると思いますね。一般に「同盟」というのは、
今村有希
はい。
3つを共有しないと真の同盟にはならないと言われている。
今村有希
はい。
①一つは、価値観の共有、②一つは、負担の共有、③それから、リスクの共有なんです。で、リスクの共有をしなければ、やっぱり本当の信頼関係は出来ません。
[*⑴価値観、⑵負担、⑶リスクの共有、真の信頼関係による同盟 ]
今村有希
はい。
特に、いま(西部)先生が言ったように、アメリカは世論の国ですから、いかに日米同盟があったといえども、やっぱり、本当に日本がリスクを共有する覚悟が無ければ、アメリカの議会が、「日本の為にアメリカの若者に血を流してまでやってこい」、というように認めるかどうかはかなりクエスチョンですね。
そうですよね。
今村有希
はい。
で、結果としてアメリカの海軍の若者2名と、かのcoast guard(コーストガード=沿岸警備隊)1名、合わせて3名が命を落としたんです。その時にアメリカが言ったのが、『同じ活動をしてリスクを共有している仲間を助けるのは当たり前だ!』と。
今村有希
はい。
今村有希
はい。
ところが国会の方で、当時の民主党の小沢代表を中心に、「海上自衛隊のインド洋(での給油支援)は憲法違反だ!」と言って活動が中断しちゃったんです。(それで)ガラッと変わりました。『なんで、アメリカの若者が日本の油を守るために命を落とさなければいけないのか!?』と。ね?リスクを共有しない、それでガラッと変わった。それが現実です。
[*インド洋で海自の給油支援中止後に態度がガラリと変わる ]
さらに遡るとね、あのブッシュJr.じゃなくて、パパ・ブッシュの時のね、要するにクエート問題、『湾岸戦争』の時に、あの時に小沢幹事長(※小沢一郎は当時は自民党幹事長)がね、1兆円お金を出したんです、国際貢献と称して。事態が終わってから、協力してくれた国々100カ国ばかりでしたかね・・・感謝文を出したんです。クエートが。
クエートがアメリカのそういう新聞の方に。
ところがね、今の100カ国ぐらいの間に日本は入っていないんですよ。なぜならば当たり前で、金しか出さないで命を出そうとしないから。いま(佐藤が)仰った危険を負担しようとしないから。金で済ませますよと言ったもんだから、感謝状の一片も貰えないというね。そういう恥ずかしいことが、今も去る25年前ですよね、あった。
はい。
〜エンディング〜
今村有希
はい。
構造とか、国柄みたいなイメージがありますから、やっぱり今の憲法に日本のその価値観とか、そういう覚悟という部分を書き込まないと私はいけないと、個人的には思っています。それで憲法改正というのは、私は大事だと思ってます。
僕も全く同感だ、というところで次の週に続けましょうか。
今村有希
はい。
今週はありがとうございました。
佐藤・今村
ありがとうございました。