マイナス金利は資本主義の断末魔② (ゲスト:京都大学大学院准教授 柴山桂太)〜西部邁ゼミナール〜

マイナス金利は資本主義の断末魔② (ゲスト:京都大学大学院准教授 柴山桂太)〜西部邁ゼミナール〜

ゲスト:
柴山桂太 京都大学大学院准教授、「表現者編集委員、近著「静かなる大恐慌」「TPPの黒い条約」〔共著〕(集英社新書)ほか

【ニコ動】
マイナス金利は資本主義の断末魔② 2016.06.18
http://sp.nicovideo.jp/watch/sm29071800

今村有希
三回連続の特別企画として、マイナス金利は資本主義の断末魔というテーマで論じて頂いています。ゲストは京都大学大学院の人間環境学研究科の准教授 柴山桂太先生です。

グローバル時代の中で、世界的な需要の衰退と競争の激化で、グローバル資本の独占・寡占化は進んでいます。マイナス金利政策によって借入れが容易くなると言われていますが、実物投資の収益が見込めない限りその金融政策は無効に終わるという、根本的な問題も横たわっています。

世界全体に広がる経済危機の問題を深く穿つ(*うがつ)本質的な議論が展開されるかと存じます。柴山先生、今回も宜しくお願いします。

柴山桂太
宜しくお願いします。

西部邁
前回ね、僕ちょっと乱暴言ってて、本当に馬鹿な話が続いていると。実物資本に投資しても、経済全体でas a whole、全体としてか・・・未来の期待収益がマイナスなのにね、そこにカネをバラ撒いたってさ、どうなるんだと・・・という話で、馬鹿は死んでも治らないという、僕がつくった格言じゃないんですが、昔からある。それで(前回は)締めくくったんですが。

[*未来の期待収益がマイナスで金をバラ撒いても効果はない ]

西部邁
ところがね、今日はちょっと枝葉に入りますがね、「カネは一体どこに行くのか?!」というね。

柴山桂太
(うん、うん)

今村有希
(笑)

西部邁
今なんか・・・パナマ文書っての?!ぼく読んでないけど、暴露されてるらしいが、

今村有希
はい。

西部邁
その辺りのことをめぐって。

柴山桂太
いや、今まさにこの問題で。ただ今に始まったことでは無いんですよね、もうだいぶ前から。まぁ貯蓄と投資とあるとしますよね、投資というのは企業が使うお金で、貯蓄は我々が貯めていくお金と考えた時に、

今村有希
はい、

柴山桂太
金利が下がっているというのは、要するに、貯蓄の方が増えている。つまり、使いたい人より貯める人の方が多いから、金利が下がっているわけですよね。それで言うと、圧倒的にたくさん貯蓄は持っている。いま日本はだいたい個人の金融資産は1700兆円あるわけですね。で、ところが、それが貸出しになると、その中のほんの僅かしか向かっていないという、そういう状況なわけですね。

[*金利が下がり貯蓄が増加、個人金融資産は1700兆円 ]

柴山桂太
そんな中で企業は生産活動しろと言っても、企業は企業でただでさえ競争が激しい上にグローバル化の時代ですからね、物凄いそういう生き馬の目を抜く競争をやって。

[*激しい競争とグローバル化、生き馬の目を抜く ]

今村有希
はい。

柴山桂太
で、収益もですね、もちろん全体の経済が成長している時というのは、競争をしてもお互いの利益が増えるのですけども、全体が成長しない中で競争すると、だんだんこう歪な競争というか、英語で、cut throat competitionという言葉があって、

今村有希
はい、

西部邁
cut throatって、スロートというのは「喉(ノド)」ね。相手の喉を切っちゃうという。

柴山桂太
喉笛を切るといいますね。

今村有希
はい。

柴山桂太
競争というと、われわれ牧歌的なイメージがありますよね。ヨーイドンで走って1位2位を決めるという、そういう競争だったらいいんですけども、実際に生き馬の目を抜くような競争になってくると、もう不法といいますか、法律スレスレの方法を使って相手を倒すとかっていうようなことにどうしてもなりますよね。

[*全体が成長しない中での競争は歪になってゆく、cut throat competition:喉をかき切るような競争(死物狂いの競争、激烈な競争) ]

今村有希
はい。

柴山桂太
19世紀の終わりにアメリカの経済学者のヴェブレン(*ソースティン・ヴェブレン)という人が、

西部邁
僕が大好きなの。会ったことは無いけど(笑)

今村有希
フフフフフ(笑)

柴山桂太
えぇ(笑)当時のアメリカは今と同じですごい格差社会で(*通称「金ぴか時代:Gilded Age」)それこそロックフェラーですとかね、もう人類史上最大のお金持ちだと言われていますけどイノヴェーションに成功した実業家。(ヴェブレンは)彼らを指してですね、要するに、あれは半分ドロボウみたいなものだ、という。

西部邁
うん(笑)

柴山桂太
かなり不法な行為を行って富を蓄積していったような人たちなんだ、というふうに言ったことがあったんですね。

今村有希
はい。

[*不法行為で富を蓄積した実業家たちは泥棒みたいなもの:
Thorstein Bunde Veblen(1857-1929年、ノルウェー出身のアメリカ人、経済学者、社会学者、文明批評家)/ 経済学の世界では制度派の創始者、私的所有よりも「社会資本」を考慮、社会資本は決して利潤追求の対象として、市場の条件によって左右されてはならないとした / cultureという言葉聞くと鉄砲で撃ちたくなる(ヴェブレン)]

柴山桂太

で、今もそれに近いところがあって、確かにいま沢山の成功企業と言いますかね、そのアメリカを含め日本でも成功した企業がいっぱいある。勿論、中にはしっかりと着実に事業して成功したというのもいるかもしれないけども、大多数はたまたまギャンブルやって当たったと言いますかねぇ、まぁそういうことを言っちゃ失礼かもしれないけども(笑)

今村有希
(笑)

西部邁
captain of finance、金融のキャプテン、

今村有希
はい。

西部邁
captainと言ったら船長さんだけれども、要するに、総帥、頭領ですよね。

今村有希
(うん)

西部邁
capital(キャピタル)というと資本でしょう。

今村有希
はい。

西部邁
これもともとcap(キャップ)というと分かると思うんだけど、

今村有希
(頭部を指して)これですよね?

西部邁
帽子のことなんですよ。

[*captain=船長、頭領、総帥、cap=帽子 ]

今村有希
はい、はい。

西部邁
普通の日本人ね、capitalというと「資本」とかって簡単に言うけどもね、言葉というのは面白くてね、capital(資本)を持ってる者が社会の頂、キャップ、帽子になる。

今村有希
はい。

西部邁
それでcaptain(キャプテン=頭領)としてですよ、全体を差配するという、そういうimplication(インプリケーション=含蓄、裏の意味)、意味合いを裏に秘めながら、実はcapitalism(キャピタリズム=資本主義)と言っているわけですよ。

[*資本主義=capitalism に含まれる意味、capital(資本)を持つ者が社会の頂に立ち全体を差配

今村有希
(うん)

西部邁
もう既に、capitalismと言ったことの中に、人によりますけどもね、あの人これヤバいぜ、おかしいぜ、という意味を込めて資本主義をする。日本人はその点、翻訳文化から始まりますから、この言葉の裏の意味とか隠れた意味(implication)を一切感じずに、資本主義の繁栄ェェェ〜とかさ、

今村有希
(笑)

柴山桂太
(頷く)

西部邁
僕らに言わすと、泥棒の繁栄かって、

柴山・今村
(笑)

西部邁
まぁ(柴山がヴェブレンを引き合いに出して)いま仰ったことはそういうことなんですよね。

今村有希
はい(笑)

柴山桂太
うん。

西部邁
ですから、リーマンショックってあったでしょう。あれ詐欺のことをfraud(フロード=詐欺、詐欺行為)というのかな、あんなものは明らかに詐欺なんですよ。

[*リーマンショック(2008年) fraud「詐欺」話 ]

西部邁
どういう詐欺をやったかというとね、A社、B社、C社、3社の企業の株の将来収益は確率的に平均何%と。そんなのわかるわけ・・・だってイノヴェーションやっているんだから、新しい出来事でしょう?

今村有希
はい。

西部邁
経験が繰り返されればそれは確率も計算できるよ。

今村有希
はい。

西部邁
極端に言えば、新商品だ、新資源だ、新技術だってなものを巡ってね、経験が無いのだから、そんな確率的な予測ができないのに出来ると称して、それでこの3社の株をこういうふうに組み合わせてデリバティブ、派生証券を・・・

[*経験のないイノヴェーションを確率的に予測可能とした嘘 ]

西部邁
あそこにクボタというプロデューサーが居ますけどね、

今村有希
はい(笑)

西部邁
クボタというこの派生商品を作ればいちばん儲けが多いですよと、リーマン(リーマン・ブラザーズ)その他の証券会社が、もう明らかにこれ僕に言わせればね、bull sit!!(ブル・シット)という言葉をご存知?

今村有希
・・・知らないです。

西部邁
映画見てご覧なさいよ!

今村有希
はい〜す、すいません。。。

柴山桂太
(笑)

西部邁
アメリカ人はだいたい下品な言葉、F・U・C・Kも連発してるけど、それと同じくらい、bull sit!!bull sit!!って。bull(ブル)というのはもともと「雄牛」ですよ。

今村有希
はい。

西部邁
sit(シット)というのは「糞尿」ですけどね。bull sitというのは、牛の糞尿じゃなくて、「嘘話」「デタラメ話」ね。

[*bull sit ブルシット「でたらめ」「嘘話」]

今村有希
へぇー。

西部邁
だから、日本語で言えば、デタラメこきやがって!?と言うでしょう、乱暴に。

今村有希
はい。

西部邁
明らかに、リーマンショックその他はね、bull sit(嘘話)として予測をして新商品を作って、さぁどうぞ!!と世界中にばら撒いて、勝った奴らが全部潰れるというね。そういう金融ショックだったの。

今村有希
はー。

柴山桂太
うん。それで儲かった人達が、そのお金をですね、パナマに置いて(笑)

今村有希
(笑)

西部邁
そうなんだ、タックスヘイブン(笑)

柴山桂太
まぁー(笑)税を節約してるという話なんですね。でも、今の話は本当に示唆的だなぁと思うのは、資本主義ってそれを繰り返すんでしょうね。

西部邁
まぁそうだね。

柴山桂太
そうやって、まぁ喉切り競争(cut throat competition)をやってひどい事になった挙句に、やっぱり規制は必要ですね(笑)と言って規制を作る。で、規制を作ってしばらくはそれで社会はちょっと落ち着くのだけども、やっぱりこれじゃ儲からないから、規制を緩和してくれとか、新しくアイデアを見つけたからやるわ、というのが出てきて、これがまた(グルグルと巡り)こうやっていくうちに、だんだんだんだんと緩くなってきてですね、ワァーっとこう大騒ぎになって、最後はまたポシャッてということ。それを繰り返すんだろうなぁと思いますよね。

西部邁
それ本当に繰り返している。チューリップ事件って、

柴山桂太
チューリップ・バブルですね。

西部邁
チューリップ・バブル、あれ17世紀でしたっけ?

柴山桂太
17世紀ですね。

[*チューリップ・バブル:1637年 世界最初のバブル、球根に人気が集まり人々は投資に熱狂し価格高騰 ]

西部邁
大雑把に言うとこういう出来事。

今村有希
はい。

西部邁
チューリップの球根ね、やっぱりチューリップというのは新しい花だったのね。この球根からあの美しいチューリップが。僕はね、チューリップってあんまり平凡過ぎて好かなかったけど(笑)

今村有希
アハハハハ(笑)

西部邁
まぁ死んだカミさんが好きだったから、それは僕の偏見なんだけど、チューリップには恨みは無いんですよ。

今村有希
はい(笑)

西部邁
で、球根を持ってるとね、みんなチューリップを目指すから大儲けになると。今のあれで言うと、1株100万円みたいなところまで上がってしまってね、ハッと気がついたらそれほどの話じゃなかったと(笑)

柴山・今村
(笑)

西部邁
なんだかそれが資本主義の必然と仰ったけど、何かそういう「嘘話に熱狂する」というね、それが周期的に繰り返されると、確かにあるんですよね。

[*嘘話に熱狂し、周期的に繰り返される ]

柴山桂太
ローマどころか、人類の最初からそうかもしれないですねぇ・・・

西部邁
旧石器の時代から?(笑)

柴山桂太
えぇ、NHKの番組で観ましたけども、もう旧石器時代から「石器」ってどんどんイノヴェーションが起こるんですよ。

西部邁
そうなんですよねぇ。

柴山桂太
より使いやすいように進化して、

今村有希
あぁ〜はい。

柴山桂太
人間が高度の脳を持ったというのは、やっぱりある意味「イノヴェーションする能力」と言いますかね、工夫していかないと。まぁそれはある意味で良い部分もあるんでしょうけど、当然ながら、それが様々なアクシデントを当然起こしたりするし、とりあえずそれが戦争に使われたりするわけですし、そういってこう常に新しいものを試していくというのは、人間の中にあるんだろうと。

以前、(西部)先生に伺ったんですけど、「未開社会」ってありますよね?

今村有希
はい。

柴山桂太
一見すると、すごく原始的な暮らしをしていて、新しいことを知らない人達だという考え方があるけども、そうじゃなくて、『彼らはそういうことを一切しないというふうに決めた人達なんだ』という?

[*新しきを知らないのではなく、しないと決めた未開民族 ]

西部邁
うん・・・本当に怖いのは、なんか人間、特に多数いる社会の宿命みたいなところがあって、例えば、我々みたいなインテリに、いったい何の役割があるかと・・・ね?

柴山桂太
(うん・・・)

西部邁
もっと言うと、この番組におけるこのくっちゃべりにね、何か意味があるのかと・・・あるとしたら、これしかないんですよね、旧石器時代から始まる(笑)、人間の新しいものへの熱狂ね、

今村有希
はい。

西部邁
それに少々なりとも、この熱狂の行く末にはバブル、そしてバブルの崩壊のことをburst(バースト)と言いますけどね、膨張と破裂、それで全員が傷付くという未来が待ち構えているのだから、止むを得ない人間の宿命としても、「悪しき宿命に喜び勇んで飛び込むな!」と。「少しはゆっくり歩け!」とかさ、ね。

柴山桂太
(うん)

西部邁
そういうことを言うのが、実際には何にもやってないインテリの唯一の役割だよ。

[*皆が傷付く膨張と破裂へ警鐘鳴らす知識人の役目 ]

柴山桂太
(深く頷く)

西部邁
そのインテリがね、そういうこと(人間の宿痾である新しいものへの熱狂)を煽るわけ。エコノミストはじめそして。この場合、「インテリ」って広い意味で役人も含めて、政治家も、公の場で発言することをもしもintellectual(インテレクチュアル=知的である)といえば、そういう人達が一斉に、そういう人間の悲劇的宿命を礼賛するように、確かに根深い問題がある、今に始まった事じゃないんですよねぇ。

[*人間の悲劇的宿命を礼賛するような根深い問題 ]

柴山桂太
うん・・・。

西部邁
でもね、昔はまだそれに警鐘を鳴らす人ね、或いは、そういうものから諦めて遠ざかる人がもうちょっと多い割合で居たと思う。その今、その割合がもうどこに居るんだい?というぐらい少なくなった。

柴山桂太
うん・・・。例えばね、

今村有希
はい、

柴山桂太
TPPが出てくると、農業がいちばん分かりやすいので農業の話をすると、農業の関税が下がる。そうすると、国内の農家は外国と競争をするのでコスト競争に勝てなくなって、苦しい目に遭う、それで自給率が下がると、こういう話があるわけですよね。

今村有希
はい。

柴山桂太
確かにそれは問題は問題なのだけども、でも何故そういうことが起こるのかというと、都会に住む消費者が、今の話でいうと、まぁ新しいものを食べたいし、

今村有希
うん、うん(笑)

柴山桂太
まぁちょっと変わったもの食べたいし、

今村有希
はい。

柴山桂太
まぁ、いつも買ってる近くの農家じゃなくて、もっと遠いところから来る食材を集めてもっと新しい料理を食べてみたいという、そういう趣向性があるから、そういう自給率が下がるとかね、そういうことが起こるわけですよね。

[*新しいものを受け入れる、消費者の趣向性 ]

今村有希
うん。

柴山桂太
で、イノヴェーションというのは、もちろん作り手の側が一生懸命に新しい商品を作ろうとか、新しいアイデアを形にしようとこういうことですけども、それは消費する人がですね、そういう新しいものをどんどんどんどん受け入れてくれるから、イノヴェーションも起こって、

今村有希
はい。

柴山桂太
いま(西部が)仰ったように、経済が活性化するとも言えるし、大混乱にも陥るというわけで。

[*イノヴェーションによる利益を大歓迎してきた消費者 ]

西部邁
そんなものに飛びついたり、礼賛したりしている一般国民・・・で、一般国民というのは経済で言えば一般消費者であると。

柴山桂太
うん。

西部邁
今村さんの時代はどうかなぁ・・・「新しもの好き」という言葉には複雑な意味があってね、

今村有希
はい。

西部邁
6〜7割のウェイトで軽蔑語ね。

柴山桂太
うん。

西部邁
あいつは新しい物となったらなんでも飛び付く「軽薄才子」という意味が6〜7割、

[*「新し物好き」 に含まれる意味の6〜7割は軽薄才子 ]

今村有希
(うん)

西部邁
でも10割じゃなかったことは確かだね。3〜4割はやっぱりそういう舶来、その船で運ばれてくる外国の商品は新しい物で、それは舶来ね、

今村有希
はい。

西部邁
舶来の物に対する憧れもあるわけさ。僕の親父もそうだったねぇ・・・

[*「新し物好き」の複雑さ、舶来品に対する憧れ ]

今村有希
へぇー。

西部邁
我が家は貧乏人だったのに、急にサイフォンというの?

今村有希
はい!?(コーヒーを抽出するジェスチャーをする)

西部邁
入ってきたの。お袋が怒ってましたけどね、

今村有希
はい(笑)

西部邁
子供達はまだ小学生でコーヒーなんか飲まない。でも、親父は余りの下級サラリーマンとしての生活に耐えかねてさ、やっぱりコーヒー・サイフォンぐらい買って、自分でコーヒーを淹れてグツグツ沸かしてと思ったんでしょうね。

今村有希
フフフフフ(笑)はい。

西部邁
でも親父、それで1回か2回飲んだきりで、たぶん飽きちゃって(笑)

柴山・今村
(笑)

西部邁
複雑なところだけど、いま酷いのは、みんなしてそれを礼賛するわけですよ、新し物好きをね。消費者までもが、これはほんと食い物から衣装の果てまでそうでしょう。

[*食物から衣料まで、新し物好き礼賛の消費者 ]

柴山・今村
うん。

柴山桂太
それでその経済が成長してみんなにお金が回っているうちはね、まだいいのかもしれないけども、まぁ前回の話ですけども、

今村有希
はい、

柴山桂太
マイナス金利になり、成長もほぼゼロになり、物価もほぼゼロになりという形で、資本主義がだんだんこう冷たくなっていっている中で、まぁ〜そうワァーっと騒いでるというのがいつまで続いていくのかなぁ・・・という印象がありますけどね。

[*マイナス金利、物価・成長ゼロ、資本主義が冷たくなっている ]

西部邁
そうなんですよね。消費者論で言えば、いわゆるユーロに統一される前の話ですけど、

今村有希
はい。

西部邁
イタリア人はスゴイなぁと思ったのは、あの頃ね、スペインのワインが(イタリア国内に)どんどん入ってくるんですよ。値段はイタリアのワインよりかは1/2、1/3で安いんですよ。

今村有希
うん。

西部邁
それなのに、イタリアのある村人達のパブね、地元の酒飲んでるんですよ。

[*スペイン産の安い商品入るが、地元のワイン飲むイタリア ]

今村有希
はい。

西部邁
飲んでみたってね、スペインワインもなかなかのものなんですよ(笑)

今村有希
(笑)

西部邁
品質は甲乙つけがたし。にも関わらず、実は隣村で作られているワインを、高いワインを飲んでいる。

今村有希
へぇー。

柴山桂太
うん。

西部邁
どうして?と聞いたら、向こうの返事は、「何を質問されているかわからん。我が家は昔から隣村のナントカ原料で作ったワインを飲むって決めてるんだ!」と。

今村有希
うん(笑)

西部邁
でも、もう変わったでしょうね、さすがにイタリアなんかとうに(経済状況が)ヤバいですから、やっぱり安いものを買いましょうといってね、それで(今は)変わっていると思うけどね。

柴山桂太
うん。

西部邁
どこかね、未開民族だけじゃない、高みの見物しているインテリだけじゃなくて、一般庶民の中にはね、何かせっかくこういう生活を、隣村との何の誰べえが作ったものを飲むことにしてたんだから・・・

今村有希
うん。

西部邁
爺さんも、曾祖父さんもね、だから、俺も子供も孫もそうするわい!、という感じがあったの。それが全面崩壊したのね。だから、マイナス金利は同時にそういう社会の関係性の崩壊みたいになっている。

[*マイナス金利による庶民生活、社会の関係性の崩壊 ]

柴山桂太
うん・・・そうですね。まぁだから考えてみれば、自分の生活がしっかりしてれば、まぁマクロ経済というか、世界経済がどうなろうが、まぁ知ったこっちゃない、というふうなことも言えるわけですよね。

今村有希
うん、はい。

柴山桂太
私もイタリアで、南イタリアをちょっと旅行したことがあって、

西部邁
あぁそう!?

柴山桂太
数字はGDPで見ると貧しいし、一人当たりGDPで言えば途上国並みに(イタリアの)南の方って貧しいんですよね。

今村有希
はい。

柴山桂太
で、実際に見た感じで物質的に豊かそうに見えないけれども、夜になると広場に集まってワインを飲んで、

西部邁
あぁ〜。

柴山桂太
それでもうずーっと喋っているというね。

今村有希
うん。

柴山桂太
えぇ、なんか生活がそこにあるというのが旅行者の目からもよく分かる感じがあって。それでよくイタリアはやっぱり強いと言われますよね、そういう何度も経済崩壊に直面しているのだけれども、でも生活は壊れないという。それが大事なんじゃないかというふうに思いますねぇ。

今村有希
うん。

西部邁
そうね。イタリアの強さって、一つはそれね。

今村有希
はい。

西部邁
南の方で言えば、人種すらね、あれは普通のイタリア人が持ってる「カラブレーゼ」というんですけど、アフリカの血が強いね、で、背丈も低くてずんぐりむっくりでね。その代わり、生活を楽しむね、ずっとやってるでしょう?

今村有希
うん(笑)

西部邁
人間関係も友達のためならお互いにね、日本で言う義理人情の世界ですよ。親友のためなら我が身を粉にしてでも・・・って調子のね。

[*イタリアの人間関係の強さ、日本の義理人情に似ている ]

今村有希
へぇ〜。

西部邁
友情のあれはお芝居でしょうね。ほとんど演劇をやっている(笑)

今村有希
そうなんですか(笑)

西部邁
あれをね、道端でワインを飲みながらやってるね。

今村有希
(うん)

西部邁
そういう関係性がもしもね、日本社会でもまぁある程度保てれば、キャピタリスト?巨大なキャピタリストがどうしようが、そんな派手派手しいイノヴェーションがどうなろうが、えっ?!そんなもんあったの?ぐらいで。

柴山桂太
うん。

西部邁
そういう構えがあれば、本当は狼狽えなくていいんだよ。

今村有希
(うんうん)

柴山桂太
うん・・・格差も是正すべきだという声もあるし、まぁ実際にあまりにヒドい格差は是正すべきだと思うんですけど、

今村有希
はい。

柴山桂太
でも、自分の生活がしっかりして、そこにこう基盤があれば、お金持ちが雲の上の方で何しようが、パナマに税金を送ろうが、なんかヨット持って遊ぼうが、

西部邁
そうね。

柴山桂太
あぁ〜なんか楽しそうでいいねぇ〜と言ってればそれでいいとも言えますよね。

[*酷い格差は是正すべきだが、生活基盤のバランスがあれば ]

今村有希
うん(笑)

柴山桂太
それで、やれも税金を隠さず暴き出せ、1円たりともとってやれ、というのは、まぁそういう気持ちも無くはないですけどね・・・みんな余裕が無くなってきて、もう少しでも成功している人や何かをしている人をこう引きずり下ろしてって、もう本当にどんどんどんどん社会が底が抜けていくような、そういうような時代になっちゃったという。

今村有希
うん。

西部邁
それでね、もちろん失業者とか、不定期雇用とかさ、そういう人達の年収150万とか200万とかさ、

今村有希
うん、

西部邁
そのためにね、法人税を高めて大企業から金を取れってのはそれはその通りなんですけど、

柴山・今村
うん、

西部邁
ぼく賛成するよ。でもね、あんまりそこにのめり込むとね、結局のところは、mammonism(マモニズム=拝金主義、金銭至上主義)・・・mammon(マモン)というのは元々は原始的な言葉なですけど、「富の神様」というんですよ、マモン。富の神様ということは、「カネの神様」ね。

今村有希
はい。

 西部邁
カネの神様に、こう拝跪(*はいき)する、跪いて拝むことをマモニズム(mammonism)と言って、拝金主義というんですけどね。

[*mammonism:mammon「富の神」に拝跪する、金銭を崇拝する拝金主義のこと ]

今村有希
はい。

西部邁
「もっと俺の生活を楽にしてくれ!」と泣き叫ぶということは、下手するとね、自分もmammonist(マモニスト=拝金主義者、守銭奴)、(拝金教の)教徒になっちゃうんだと。

今村有希
うん。

西部邁
「ほっとけ!!」という気持ちをどっかで持ってないとね。

柴山桂太
うん。

西部邁
例えば、1兆円、何兆円持ってる奴が日本でもゴロゴロいて、タックスヘイブン?節税というか脱税のために。でもそれだってね、ほんと考えようによれば、1兆円にしようか・・・その時、大変だろうなと、だってヨット何台買ったって自分が乗れるのは1台だし、

柴山桂太
(笑)

今村有希
そうですね、持ってても使わない(笑)

西部邁
えっ?持っててもでしょう、何をするんだと。

柴山桂太
うん・・・

西部邁
本当は(大金持ちに対して)同情してやることも出来る、憐れだねと。それでいつか死ぬんですよ、

今村有希
はい。

西部邁
最後はさ、薬と医療道具に繋がれて、それで1兆円持って死んでくわけさ。そういうのはどっかで嘲るというぐらいの度胸がないとね。

柴山桂太
そうですよね、えぇ。

西部邁
貧乏人の、われわれ貧しい人間の誇りが、自負心がプライドが、持たないと。という面を5割ぐらい持っててもいいんですけどね。

今村有希
はい。

柴山桂太
うん・・・まぁそういうふうな生活がしっかりあった上で、その上で政府が何をすべきかというふうな議論に進むべきだと思うんですよね。

西部邁
そうだね。3回目は、じゃあどうするか?ということについて、いささかなりともね、

今村有希
はい、

西部邁
考えようではないかと。今週はありがとうございました。

柴山・今村
ありがとうございました。

【次回予告】「マイナス金利は資本主義の断末魔」③ ゲスト:柴山桂太(京都大学准教授)