ポピュラリズム~ アメリカの国柄とはどんなものか② ゲスト:京都大学名誉教授 佐伯啓思 〜西部邁ゼミナール〜

ポピュラリズム~ アメリカの国柄とはどんなものか② ゲスト:京都大学名誉教授 佐伯啓思西部邁ゼミナール〜
ゲスト:佐伯啓思京都大学名誉教授 、著書「反・民主主義論」〔新潮新書〕、『「アメリカニズム」の終焉』〔中公文庫〕ほか多数)

 

【ニコ動】

西部邁ゼミナール)アメリカの国柄とはどんなものか【2】2016.11.19

http://sp.nicovideo.jp/watch/sm30072107?playlist_type=mylist&group_id=37360182&mylist_sort=6&ref=mylist_s6_p1_n223


今村有希
アメリカのドタバタ喜劇を演じた大統領選を受け、アメリカの国柄とはどんなものかと題しまして3回に渡り議論して頂いております。ゲストは京都大学名誉教授の佐伯啓思先生です。

今回は『ポピュリズム』(populism)を中心に議論して頂くことになるかと存じます。宜しくお願い致します。

 

西部邁
あぁ今週も宜しくお願い致します。

 

佐伯啓思
お願いします。

 

西部邁
僕ね、ポピュリズム(populism)でこの間ビックリしたのはね、

 

今村有希
はい

 

西部邁
イギリスがEUを離脱(ブリグジット)したでしょう。

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
うん

 

西部邁
ところが、日本のレッテル貼り的に言えば、いわゆる「サヨク」の人たち、これまで「世論の声を聞け!」とかさ・・・彼らはヨーロッパ合衆国(ヨーロッパ連合:European Union)を理想としてたんだね。

 

今村有希
(うん)

 

西部邁
国の壁を無くして、ヨーロッパは1つなる、そういう麗しい気な話をみんな(サヨクは)支持していたわけ。

 

今村有希
(頷く)

 

西部邁
イギリスが(国民投票=民意を問うて)離脱したことに不満なわけよ。それでね、何を新聞テレビで言ってるのかと思ったら、「こういう大事なことを国民投票にかけていいのか?!」って言うの。怒っているわけよ(笑)

 

[*イギリスのEU離脱をめぐり、国民投票で良いのかと左翼 ]

 

佐伯・今村
(笑)

 

西部邁
いやぁ、いわゆるポピュリストもヒドいもんだなぁと。昨日まで人民の声を聞け!!と事あるごとに言ってた奴が、今日になったらね、人民の声を聞いていいのか?!と言っているわけ。

 

佐伯啓思
フッフッフッフッフ(笑)

 

西部邁
populism(ポピュリズム)の語源と言ったらおかしいけど、いつ頃始まったか。

 

佐伯啓思
populismといいますかね、populist(ポピュリスト)というのは元々は「人民党」という政党なんですよね。

 

[*Populist Paty「人民党」〔1891年 米国〕 農産物価格が下落し経済不況に陥った時の農民運動 ]

 

西部邁
そうだよねぇ。

 

佐伯啓思
えぇ。で、アメリカで「産業革命」が起きてきて、

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
それで鉄道が出来て製造業が段々と力を付けてくる。

 

西部邁
そうそうそう。

 

佐伯啓思
そうすると、農民たちが従来の利益を守れなくなってきて、で、農産物の価格が下がってきて、それに対して一般大衆やら農民たちがかなり不満を持っていて、それで「人民党」というポピュリスト党(Populist Paty)という政党をつくるんです。

 

今村有希
はい。

 

佐伯啓思
で、それがまぁアメリカで政治の舞台で populism(ポピュリズム)という・・・

 

西部邁
それはあれでしょう、本源的には何か何となく sympathetic(シンパセティック=同情的な)

 

佐伯啓思
えぇ、そうですね。

 

西部邁
同情を寄せられる。僕もそうなの。

 

西部邁
グレンジャリズム(Grangerism)・・・granger(グレンジャー)って何だと思う?

 

今村有希
・・・・・。

 

西部邁
どうでもいいんだけど、

 

今村有希
(苦笑)

 

西部邁
穀物という意味。

 

今村有希
あぁ〜

 

佐伯啓思
うん

 

西部邁
つまり「農民」ということ。

 

今村有希
はい(笑)

 

西部邁
グレンジャリスト(Grangerist)ということは「農民組合主義」というかね、製造業を握っていたのは要するにアングロ・サクソン系なのよ。人種問題も絡んでいてね、

 

今村有希
(うん)

 

西部邁
で、農民たちは(北米大陸の)中西部のね、北欧だドイツから来た質実剛健に働いているそういう人間たちがグレンジャー(granger)なのでさ、

 

佐伯啓思
うん。

 

西部邁
ニューヨーカーかなんか知らんけども、カネの力でね、要するに(商品の)値を下げられたりね、それでね、(農作物を)安く買われて、搾取される。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
それに対する抵抗運動として “ポピュリスト”(populist)ね、

 

[*Grangerism:グレンジャー運動 1870年代米中西部 農産物の価格下落による危機に際し起きた農民運動 ]

 

佐伯啓思
うん。

 

西部邁
が起こってきて、別名、“グレンジャリスト”(grangerist)、農民組合(運動家)、なかなかね、頷ける意味だったのね。(→populism、populist)

 

今村有希
はい。

 

西部邁
だからね、僕は頑強にポピュリズム(populism)という言葉を使わないでね、「人気」ね、ポピュラリティー(popularity=人気、大衆性)、だから僕は “ポピュラリズム”(popularism)と言っている。人気主義のことをね。

 

[*“人気主義” のことを “ポピュラリズム” ]

 

佐伯啓思
うん。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
全然、普及しないんだけどね(笑)

 

佐伯・今村
(笑)

 

佐伯啓思
いや、もう「人気投票」という感じになってますね、いま民主主義は。

 

西部邁
うん。

 

佐伯啓思
だけど、ポピュリストの政党とは別に、もう少し前ですけどね、アメリカでジャクソン大統領(※第7代アンドリュー・ジャクソン)というのが出てきて、

 

西部邁
あぁそうだ。

 

佐伯啓思
で、これはだいたい1820年代(※在任1829-37年)ぐらいですね。

 

西部邁
20年代だね。

 

佐伯啓思
えぇ。アメリカをつくったかなりエリートがアメリカの政治をリードしてきたのだけど、

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
ジャクソンという人が出てきて、

 

西部邁
Andrew Jacksonというの。

 

今村有希
(頷く)

 

佐伯啓思
アンドリュー・ジャクソンですね。で、この人は戦争の英雄なんですね、なんか。

 

西部邁
インディアン殺しの英雄!!(笑)

 

今村有希
ハー(驚笑)

 

佐伯啓思
えぇ、そうです(笑)

 

西部邁
アメリカ・ネイティブの、本当にそれを皆殺しにするというので、拍手喝采というとんでもない凶暴な男。

 

[*ジャクソニアン・デモクラシーといわれる民主主義、インディアンを討伐したAndrew Jackson大統領 ]

 

今村有希
はい。

 

佐伯啓思
土地所有者がかなり金を儲けて、それで政治家になろうというので、

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
彼(ジャクソン)はエリートじゃないですから、

 

西部邁
うん

 

佐伯啓思
それで「大衆人気」を引きつけようとして選挙権を拡大するんですね。

 

今村有希
(うん)

 

佐伯啓思
土地所有者にしか選挙権が無かったのが、一般の白人、つまり「貧しい白人層」まで選挙権を拡大してその票を全部取り込もうとして。

 

今村有希
(頷く)

 

佐伯啓思
その時に、選挙戦もかなりどぎつい事をやったみたいですねぇ。金を配ってみたり、それから、お祭り騒ぎみたいな出し物をやってみたり。まぁそんなことをやって、みんなの大衆の人気を引き付けていって大統領になった。

 

西部邁
うん。

 

佐伯啓思
それがアメリカの民主主義のまぁ1つの大きな流れをつくったというふうに言われていて、

 

今村有希
(うん)

 

西部邁
そうそう。

 

佐伯啓思
ですから、まぁポピュラリズム(popularism)というのは、その辺りから民主主義の中にかなり取り入られてますね。

 

西部邁
そうね。ところで、いま先生が仰ったね、

 

今村有希
はい

 

西部邁
『ジャクソニアニズム(ジャクソン・デモクラシー)』というんだけども、物凄く悪い意味での「大衆民主主義」ね。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
それが1820年代から30年代にかけてブアーッと広がる時に、アメリカを訪れたのは、かの有名な・・・一部で有名な(笑)

 

今村有希
フフッ(笑)

 

西部邁
フランスの外交官兼政治家のアレクシ・ド・トクヴィルという人でね、

 

今村有希
はい

 

西部邁
トクヴィルはたった9ヶ月アメリカを旅行してね、人の話を聞いたり、パンフレット読んだりしてて、英語で言えば「Democracy in America」という本を書いて、

 

佐伯啓思
うん

 

今村有希
はい

 

西部邁
その本をちゃんと読むとね、『デモクラシーは否応もなく広がるだろうが、理由は多勢に無勢で多勢派が勝つであろうが、このまま放っておけば、アメリカン・デモクラシーは由々しき事態になる』と。

 

[*American democracy は由々しき事に、フランスの外交官兼政治家のTocqueville ]

 

今村有希
はい。

 

西部邁
ということを、非常に如何にも(トクヴィルは)ヨーロッパのまぁ下級貴族だけどね、上品に書いた書物

 

佐伯啓思
うん

 

西部邁
それはね、いま(佐伯が)仰った、

 

今村有希
はい

 

西部邁
ジャクソニアン・デモクラシーの結末を(トクヴィルは)目の当たりにしてね、これはヒデェ国になるぜと。

 

[*ジャクソニアン・デモクラシーの結末を目の当たりに、アメリカが酷い国になると本質を見抜くヨーロッパ ]

 

今村有希
うん(笑)

 

西部邁
日本で言えば江戸時代で文化文政の頃かな。

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
うん

 

西部邁
もうヨーロッパ人には分かってた、アメリカの本質がね。

 

今村有希
(頷く)

 

佐伯啓思
そうですね。で、いまのトクヴィルが言ってる「どうしてデモクラシーがダメになるか?」は幾つかの理由を挙げていますけど、1つはその『平等性』という、平等というものを建前にしてしまうと、みんなが「自分は平等でなければならないハズだ」と思うから、

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
ほんの少しの違いに物凄く大きな不満を持ってしまって、

 

今村有希
あぁ〜。

 

西部邁
そうだね。

 

佐伯啓思
で、その不満がどんどんどんどん大きくなってきて、それが政治をものすごく不安定にする。

 

[*平等を建前にすると少々の違いを不満に感じ、政治を極めて不安定にさせる democracy ]

 

今村有希
はい。

 

佐伯啓思
それが1つと、それからもう1つはね、やはり経済的な利益を、言ってみれば、優秀な連中が経済的な利益をあげることが出来るですよ。それは事業を起こしてみたり、会社を建ててみたりしてね、利益をあげる。

 

今村有希
はい。

 

佐伯啓思
だけど、そういう利益を上げる者はぜんぜん政治に関心を持たないだろうと。公共精神を持たないだろうと(笑)

 

西部邁
フフン(笑)

 

佐伯啓思
だから、自分のことしか考えなくだろうと(笑)

 

[*優秀な人間は経済的な利益を上げるが政治に無関心、公共精神を持たず自分のことしか考えない ]

 

今村有希
はい。

 

佐伯啓思
そうすると、公共精神が衰退していって政治がダメになるだろう。まぁそういうようなことを(トクヴィルは)言ってますよね。

 

西部邁
まぁそうですよね。ただ彼(トクヴィル)もね、条件を付けてね、

 

今村有希
はい

 

西部邁
「もしも次の2つの条件が満たされればアメリカの民主主義にも希望が無いわけじゃない」と。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
その2つの条件はね、「宗教者」及び「司法家」、法律家ね。

 

今村有希
はい。

 

西部邁

これが、いわゆる輿論から距離を置いて、つまり法律の立場から言えば、「今の輿論はおかしいよ!」と。

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
うん

 

西部邁
或いは、宗教の立場から言って、「(輿論は)気が狂ってるんじゃないの?」と。そういう宗教家と司法家が輿論から独立した立場にいて、輿論に忠告を与えるという活動をしっかりと続けばね、

 

今村有希
はい

 

西部邁
まぁ輿論も少しは矯正されて望みがあるやもしれぬという留保をつけているんだよ。

 

[*宗教家と法律家が輿論から距離を置いて、独立した立場で輿論に忠告を与え続けられる事 ]

 

今村有希
はい。

 

佐伯啓思
うん。

 

西部邁
ところが今や、アメリカではね、evangelism(エバンジェリズム)って知ってる?

 

今村有希
知らないです。

 

西部邁
知らないか。televangelism(テレバンジェリズム)も知らないよね?(笑)

 

今村有希
(顔を伏せながら)知りません(笑)

 

佐伯啓思
フッフッフッフッフ(笑)

 

西部邁
televangelismの「tel」はテレビのテレね。

 

今村有希
テレビ、はい(笑)

 

西部邁
evangelism(エバンジェリスム)は福音派(福音伝道)ね。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
ぼくアメリカで暮らしてた時ね、Sunday-morning、僕らサンデーモーニングというと日曜の朝だと思うじゃない?

 

今村有希
はい

 

西部邁
違うんですよ。あれは「日曜日の礼拝」ね。それをテレビで evangelist(エバンジェリスト)は大演説やるわけさ、ガンガンガンガンね。

 

[*televangelism が日曜日の礼拝 sundaymorning evangelist がTVで大演説をやる ]

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
うん

 

西部邁
それはまさしく輿論を煽りたて、法律家と来た日にはあれはクリントン時代でした?ホワイトハウスはほとんど弁護士界で(笑)

 

佐伯啓思
あぁ〜そうですねぇ

 

今村有希
へぇ〜。

 

西部邁
今もそうなんだろうけど、法律家たちがね、まさしく輿論の扇動者としてホワイトハウスに入っていくわけで。

 

佐伯啓思
うん。

 

西部邁
だから、トクヴィルの挙げた条件は遠の昔に外されててね(笑)

 

佐伯啓思
フッフッフッフッフ(笑)

 

西部邁
まぁpopulism(ポピュリズム)かpopularism(ポピュラリズム)か知らんけども、その権化なわけさ。

 

[*法律家たちが輿論の扇動者としてホワイトハウスへ、トクヴィルの条件は外され “ポピュリズムの権化” ]

 

西部邁
実は人類いまに始まったことじゃなくてね、

 

今村有希
はい

 

西部邁
ちょっと言ってくれよ、大昔からあるんだって。

 

佐伯・今村
(笑)

 

佐伯啓思
ギリシャの昔からですか(笑)まぁギリシャのデモクラシーというのはギリシャ人は一方でね、

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
アテネはデモクラシーで素晴らしい町でと言いながら、他方では、デモクラシーというのはあんまり信じてないと言うか、

 

西部邁
うん、そうね。

 

佐伯啓思
ものすごく権力闘争と、それからものすごいカネが動いているんですよね。

 

西部邁
うん

 

佐伯啓思
ギリシャの場合は市民が一様に対等で平等ですけども、しかしやっぱり有力な政治家というのはやはり「旧貴族」で「金持ち」、それから「戦争の英雄」なんですよ。

 

[*アテネでもdemocracy を信じる権力闘争と金、有力な政治家は旧貴族、金持ちか戦争の英雄 ]

 

今村有希
えぇ。

 

佐伯啓思
だから、実際にはギリシャのデモクラシーだってそんなに上手くは行っていない。で、最初の哲学をつくったプラトンというのは『デモクラシー批判』ですからね。

 

[*デモクラシーは如何に酷い状態をもたらすかを批判、政治哲学の原点であるプラトン

 

西部邁
そうなんだよ!だから、日本の政治学者共を撲滅したいと思うのはね、

 

今村有希
はい(笑)

 

西部邁
政治学の原点はプラトンだろうと。プラトンを読んでみたことはあるのか?プラトンを読めば、如何にデモクラシーが酷い状態をもたらすかから、それが彼の国家論なんですよ。

 

佐伯啓思
うん。

 

西部邁
それについて政治学者は一切触れないのね。

 

今村有希
うん。

 

佐伯啓思
トクヴィルの話で、その弁護士とね、それから福音主義者の話されましたけど、これ今回の選挙とものすごい関係していて、オバマ、それからヒラリーも弁護士でしょう?

 

西部邁
そうだね。

 

佐伯啓思
えぇ、ものすごいエリートなんですよ、こちらは。

 

今村有希
はい。

 

佐伯啓思
トランプの支持層は “反エリート主義” なんです。トランプが福音主義者かどうかはそれは知りませんが、『アメリカの福音派の宗教は、あれほど強い力を持つのは端的に言えば、反エリート主義なんです』よね。エリートに対する不信感で、

 

[*オバマ大統領もヒラリー・クリントン氏も弁護士、トランプ氏の支持者は反エリート主義 ]

 

西部邁
そうね。

 

佐伯啓思
その反エリート主義の言い分も分からなくもなくて、今のクリントンにしろオバマにしろ、あぁいうエリート主義者たちは口では民主主義である平等であるというふうに言いながら、

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
実は自分たちが支配しているじゃないか、自分たちのところにカネが入ってくるようにしているじゃないか。で、そうすると、そういう外されてしまった者が、やっぱりアメリカはもともと福音主義の国で宗教がしっかりしていないとダメだ、道徳がしっかりしていないと、それを持ち出してくればこのエリートたちと対抗出来るというふうに思うんですよね。

 

[*オバマ大統領もクリントン氏も民主平等と言うが、自分達が支配して金が入るようにしている ]

 

今村有希
(頷く)

 

佐伯啓思
今回の選挙の構図というのは、いろんな “アメリカの持ってる切断面” みたいなものが表れていて、

 

西部邁
うん

 

佐伯啓思
1つは『エリート 対 反エリート』

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
でそれから、こちらの『自由民主主義者 対 宗教福音主義者』と言いますかね、そういうものの対立もあるし、

 

[*エリートvs反エリート 自由民主主義者vs福音主義者 アメリカの切断面があらわれた大統領選の構図 ]

 

今村有希
(うんうん)

 

佐伯啓思
で、そういうものがほとんどもう “修復不可能” なところに来てしまったと。

 

西部邁
これね、伊藤貫君のあれで、アメリカ国民の5割は150万円以下の金融資産しか持たない。

 

[*アメリカ国民の半数は金融資産150万円以下 〔ワシントンD.C.在住の評論家/ 伊藤貫 ]

 

佐伯啓思
うん。

 

西部邁
(今村を指して)貴女いくら持っているの?!

 

今村有希
ウフフフフ(笑)

 

西部邁
言わなくていいけど(笑)もっとすごいのはね、65歳以上、佐伯君も65。65で定年だから、

 

今村有希
はい

 

西部邁
65歳以上の引退者の3分の1は貯蓄ゼロである!!という。

 

[*アメリカ国民の65歳以上の引退者の三分の一が貯蓄ゼロ〔伊藤貫〕 ]

 

今村有希
はい。

 

西部邁
本当にそういう意味でね、もう貧困階級がウワァーッと拡がっているわけよ。日本にだっているけどね、(アメリカは)ちょっともう目を覆うばかりのね状態が拡がって、何がデモクラシーだ!?っていうね。古代ローマだってね、ジュリアス・シーザーが現れる。

 

今村有希
はい

 

西部邁
殺されましたけどね、ブルータスに(笑)その後、共和制じゃなくなって帝政になるわけね、皇帝が出てくるわけ。それで最初の50年ぐらいはいいんだけどね、

 

今村有希
はい

 

西部邁
100年も経つとコンモドゥスコモドゥスとも言うけど聞いたことない?

 

今村有希
ないです(笑)

 

西部邁
映画であったんだよな、あんた映画通じゃない?(笑)

 

今村有希
はい(笑)

 

西部邁
(頭が)狂った皇帝なんでさ、もっと言うとね、自分のお姉さんともいわゆる近親相姦をしたり何なりして気持ち悪い映画でしたがね、

 

今村有希
(ギョッ!)

 

西部邁
もうその辺りからともかくローマは乱れに乱れ尽くすわけさ。

 

[*皇帝コンモドゥス時代の混乱を描いた映画「グラディエーター」や「ローマ帝国の滅亡」 / ルキウス・アウレリウス・コンモドゥス・アントニヌス(Lucius Aurelius Commodus Antoninus, 161年8月31日 - 192年12月31日、在位期間180年- 192年)は、第17代ローマ皇帝ネルウァ=アントニヌス朝としては最後の皇帝である。たびたび改名を重ねたことから全名は一定しないが、公文書などでは「ルキウス・アウレリウス・コンモドゥス・アントニヌス」と記された場合が多い。 先帝マルクス・アウレリウスの嫡男(第十一子で六男)であるため、ティトゥス帝以来となる父子間の帝位継承を果たした。加えてアウレリウス・コンモドゥスは紫の皇子の渾名で呼ばれた最初の皇帝だった。紫とはローマの皇帝権を指し、在位中の皇帝を父に生まれたという意味である。wikiより ]

 

今村有希
(うん)

 

佐伯啓思
うん

 

西部邁
そういうことを予知するかのように、『パンとサーカス』って聞いたことなぁい?

 

今村有希
ないです・・・orz(泣)

 

西部邁
ちょっと先生教えてやって下さいよ、こちらのお嬢さんに(笑)

 

今村有希
す、すいません・・・(泣)

 

佐伯啓思
いやいや(笑)要するに、大衆を政治に引きつけるというか、大衆に満足を与える。不満を解消するために、ともかく食べ物と、その食べ物をやった後に見世物で大衆を引きつけておいて、

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
まぁ不満が出ないようにやっていくというふうな政治。

 

今村有希
(うんうん)

 

西部邁
これね、詩人のユウェナリスが言った言葉で、彼ら農民主義者で、それこそさっき言った “良い意味でのポピュリスト” でね、

 

[*パンとサーカス〔見世物〕 詩人のユウェナリス古代ローマの世相を揶揄した/ ユウェナリスの「風刺詩集」 ]

 

今村有希
はい

 

西部邁
人間まじめに働いて、あの場合はローマですからね、農業に専念しろよ!と。そんな街へ出てってね、要するに、奴隷じゃないから “自由浮浪民” なんだな。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
それに皇帝がパンをやるわけさ。そしたら食っていけるでしょう。やることないからサーカス見せろ!と、剣闘士ね、殺し合い。

 

今村有希
はい。

 

佐伯啓思
うん。

 

西部邁
最後はライオンと人間まで闘わせるのよ!

 

佐伯啓思
そうですねぇ

 

西部邁
そういう見世物を見させて、みんなを興奮させるというね。そういう時代を指して、『我がローマは、もはやパンとサーカスの時代に入った』と。日本もそうですけど、

 

今村有希
(うん)

 

西部邁
見本例が、あのUSAになっているわけですよね。

 

佐伯啓思
そうですねぇ。そのサーカス、見世物というのが、ある意味でちょっと極端化すれば『戦争』なんですよねぇ。

 

西部邁
そう。

 

佐伯啓思
だからもう、で、我々もう戦争を結局TVで見てますからねぇ(笑)

 

[*パンと見世物〔サーカス〕 TVで戦争を見る現代 ]

 

西部邁
ハッハッハッ(笑)

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
ほんとに(笑)本当に見世物になってしまって、デモクラシーの最盛期というのはアテネが帝国として植民地をあちこちにつくっていった時代ですよね。ローマの場合も共和制ローマが崩れていって、それで帝国をどんどん拡大していくわけでしょう。

 

今村有希
(頷く)

 

佐伯啓思
民主主義はね、平和主義であるなんていう、なんかそんな話しているのは、これ本当に日本人ぐらいで(笑)

 

西部邁
うん

 

佐伯啓思
民主主義というのは一度、国内で不満が出てくると、それを外に敵をつくることによって、その不満を解消しようとしますから、民主主義の中から大衆が拍手喝采をして独裁者みたいな者を選んでいって、

 

[*民主主義は “平和主義” であるという戦後日本人、国内不満を外に敵をつくり解消するのが民主主義 ]

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
まぁヒットラームッソリーニもそうですけど、大衆が生み出したものですからね。

 

西部邁
そうなんですよ。

 

佐伯啓思
それで外国に対して、まぁaggression(アグレッション)といいますか、侵略攻撃をするということは、それは十分にあり得ることで。

 

今村有希
(頷く)

 

西部邁
20世紀で言うと、第二次世界大戦

 

今村有希
はい

 

西部邁
いわゆる「連合国が民主主義の善で、日本・イタリア・ドイツの三国同盟、枢軸国が独裁制の悪だ!」というのでね、東京裁判やetc…やるんだけど、それ自体が大嘘の嘘!!であってね、

 

[*連合国〔米、英、ソ、中〕が “民主主義” の善で、枢軸国〔独、伊、日〕が独裁制の悪とする大嘘 ]

 

今村有希
うん

 

西部邁
いわゆるヒットラー的、ムッソリーニ的、日本の場合で言えば大政翼賛的な・・・(大政翼賛会は)独裁とは思わないけども、まぁそれを独裁と呼ぶのならば、どっから生まれてきたのかと言ったら、実は一般民衆がね、それこそパンとサーカスを求めるようにしてね、要するに、ヒットラー万歳、ムッソリーニ万歳、日本で言えば軍国主義万歳をやって。これをもしも「全体主義」と言うのならば、ソ連のStalinism(スターリニズム)もそうですけどね、全体主義というのは実は民主主義が限界にぶつかるでしょう。

 

今村有希
はい

 

西部邁
二進も三進もいかなくなった時に、実は国民投票、referendum(レファレンダム)といいますけどね、『国民投票という最も民主主義的な手法で民主主義を自己否定して、独裁者万歳!!を叫ぶ』というね。

 

佐伯啓思
うん。

 

西部邁
『民主主義の成れの果てが全体主義』なわけさ。

 

[*民主主義的な国民投票 referendum で自己否定、民主主義の成れの果てが全体主義

 

佐伯啓思
そうですねぇ。

 

西部邁
そういうことすら日本の政治学、政治記者

 

今村有希
はい

 

西部邁
何も言わずにさ、全体主義反対と。

 

今村有希
うん

 

西部邁
小学校じゃなくて幼稚園だね、ジャップのオツムの程度はね。

 

今村有希
(苦笑)

 

佐伯啓思
フッフッフッフッフッ(笑)いま仰ったことは本当にね、プラトンが「国家」篇の中で論じてることに要するに、民主主義の中でみんなが自由を与えられる、平等だと言われる。

 

今村有希
うん

 

佐伯啓思
だけど、実際にはそれを実現できない人がいっぱい出てくる。そうすると不満が出てくる。

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
その不満を吸収して独裁者というか、まぁプラトンの時代ですから「僭主」と言いますけどね。tyranny(ティラニー

 

[*民主主義の中で自由・平等が実現できない不満を吸収 tyranny 僭主政治が現れる〔プラトン「国家」篇〕 ]

 

西部邁
あぁ。tyrannyね。

 

佐伯啓思
ティラニーですね。センシュというのは野球の「選手」じゃないですよ(笑)

 

今村有希
はい(笑)

 

佐伯啓思
独裁者(笑)

 

西部邁
専制僭主だね。

 

佐伯啓思
専制僭主が出てくる。民主主義はまぁほぼ必然的に僭主制、つまり独裁制に移行していって崩壊するというのが、プラトンのいちばん民主主義に対する痛烈な批判ですね。

 

西部邁
うん。

 

佐伯啓思
だけど、それをどうやって回避できるかというと、まぁ1つはそれだけの「徳」と言いますか、「公共心」を持った市民を育成するしかないだろうと。

 

西部邁
うん

 

佐伯啓思
で、もう1つは、政治から少し離れたところに、もう少し大きな判断力を持ったまぁ彼の言葉でいう「哲学者」ですよね、

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
哲学者がいて、それをアドバイスするしかないだろう。

 

[*“僭主制” の回避には、公共心を持つ市民の育成か、政治から少し離れ判断力持った哲学者がアドバイス ]

 

今村有希
(うん)

 

佐伯啓思
しかしアドバイスしたって、結局、大衆がその政治家を選びますから、

 

西部邁
そう

 

佐伯啓思
大衆のレベルが上がらないと、これはどうしょもないと。まぁそういうことですね。

 

[*大衆が政治家を選ぶので、大衆のレベルが上がらなければならない ]

 

今村有希
うん。

 

西部邁
何かトクヴィルってね、すごい人で、

 

今村有希
はい

 

西部邁
メディア、マスコミは「第四権力」であると言うのね。つまり立法府、行政府、司法府の次。

 

[*立法府、行政府、司法府に次ぐ権力はメディア:アレクシ・ド・トクヴィル

 

今村有希
(うん)

 

西部邁
でもね、彼はこう言っているんですよ。Periodical Press(ピリオディカル・プレス)、定期刊行物、

 

今村有希
はい

 

西部邁
実は「新聞」(定期刊行物=Periodical Press)のことなの当時。週刊誌も含めてね

 

今村有希
はい

 

西部邁
定期的刊行物こそが、primary power(プライマリー・パワー)である。

 

[*「Mediaは primary power である」 Periodical Press “定期刊行物” トクヴィル

 

佐伯啓思
うん

 

西部邁
primary(プライマリー)というのは「予備的」とも訳すし、primary school(プライマリー・スクール)というのは小学校のことだからね。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
基礎的な権力は実は Periodical Press、Paper、新聞その他である。何故ならば、民衆の世論はそれに動かされる。

 

今村有希
(うん)

 

西部邁
そうした世論を動かしている奴はプライマリー・パワーに決まっているだろうと。もう1835年にそのことが言われているのにね、今なお日本人はそれに気付かずさ。

 

西部邁
メディアでこういうことを言うのはなんですけどね、毎日、TVを見て新聞の見出しを見てさ、

 

今村有希
うん

 

西部邁
誰に賛成とか、何に反対とか言ってるわけよ。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
少しは、小さい声で言うが・・・自分のオツムで考えろよ!!ってね。

 

[*トクヴィル「メディアは primary power である」 自らの頭で考えてみる ]

 

今村有希
(うん)

 

西部邁
こちらは京大の先生よ。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
僕だってね、東京大学とかってとこの先生をしてたの。

 

今村有希
はい

 

西部邁
(小さい声で)だからよく知ってるの。我々の教え子たちがね、

 

今村有希
はい

 

西部邁
新聞社、TVの入って記事書いたりなんかやってるのよ。

 

今村有希
へ〜

 

西部邁
小さい声で言う。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
(大きい声で)あんな奴等に大したことが書けるわけがない!!と

 

今村有希
(崩れる)

 

佐伯啓思
ハッハッハッ何故なら先生が大したことなかったからね(笑)

 

西部邁
ワッハッハー理由はそれだね!(笑)

 

一同
(笑)

 

西部邁
冗談で終わりましたが、今日はありがとうございました。

 

佐伯・今村
ありがとうございました。


【次回】“進歩”主義をめぐり- アメリカの国柄とはどんなものか③ ゲスト:京都大学名誉教授 佐伯啓思西部邁ゼミナール〜