日本はロシアとどう付き合うべきか② 岩田昌征〔千葉大学名誉教授〕 木村三浩〔一水会代表〕 〜西部邁ゼミナール〜

日本はロシアとどう付き合うべきか② 岩田昌征〔千葉大学名誉教授〕 木村三浩一水会代表〕 〜西部邁ゼミナール〜

 


ゲスト
岩田昌征:千葉大学名誉教授、セルビア科学芸術院外国会員、経済学博士、著書『二〇世紀崩壊とユーゴスラヴィア戦争 -日本異論派の言立て』〔御茶の水書房〕ほか多数


木村三浩一水会代表

 


【ニコ動】
西部邁ゼミナール)日本はロシアとどう付き合うべきか【2】2016.12.10

http://sp.nicovideo.jp/watch/sm30198893?playlist_type=mylist&group_id=37360182&mylist_sort=6&ref=mylist_s6_p1_n226

 


今村有希(女優、西部邁ゼミナール助手)
ロシアのプーチン大統領安倍総理との会談を受けて、日本はロシアとどう付き合うべきか、3回に渡り論じて頂いております。ゲストをご紹介します。千葉大学名誉教授の岩田昌征先生と一水会代表の木村三浩先生のお二方です。


米中露を相手に如何に外交を展開していくのか、今後の日本のあり方について示唆に富む論議になるかと存じます。


西部邁
先週はユーゴスラヴィアをめぐりね、ロシアの裏玄関側、裏庭の話を聞いてもらったんですけど、表庭では今、今度12月の・・・いつですか?プーチンさんいらっしゃるのは?


木村三浩
15日ですね。


西部邁
あぁ〜、15日ですか。プーチンさんが(日本に)来て、まぁ一応世間では経済外交と言われている。もう日本人は経済の事しか関心が無いから。

[*ロシアのプーチン大統領が12月15日に来日、安倍首相のお膝元である山口県長門市で首脳会議 ]


木村三浩
(頷く)


西部邁
要するに、ロシアの自然資源ね、天然ガスその他。資源の少ない乏しい日本がロシアとパイプを持つと。日本というのはアレですよ、


今村有希
はい


西部邁
明治このかた、富国強兵以来ですけど、日本の国柄を守りながら西洋の文物をとり入れて、それこそ『和魂洋才』と称してね、“日本型の近代化” をしたと。


木村三浩
(頷く)


西部邁
それでプーチンさんも考えているのはね、そう簡単にアメリカ型、ヨーロッパ型にしたくない。“ロシア型の近代化” をしたいと。そのためには、日本のこの百何十年のね、近代日本の経験を学ばなきゃいけない。

[*欧米流の近代化でなくロシア型の近代化を希望、日本の百何十年の経験を学ばなければならない ]


西部邁
…というところで大体話がおしまいになっているんだけど、これから話して頂くように複雑な事情が絡み合っていて、


今村有希
はい


西部邁
第二次世界大戦の戦争末期にね、日ソ中立条約ってあった。向こう(ロシア)が破棄して・・・破棄させたのはアメリカなんだよ、破棄しなさい!って・・・ルーズベルトね、戦争に参加しなさいって。

[*日ソ中立条約を破棄しソ連北方四島を占領する:択捉・国後・色丹・歯舞〔1945年〕 ]


西部邁
中国の蒋介石にもね、ヤルタ会談というんだけど、沖縄まで獲っちゃいなさいと。北方領土だけじゃなくて、北海道も獲ったらどう?と。とんでも無いアドバイスをしてたのがね、小さい声で言う・・・“アメ公” なんですよ!


今村有希
(笑)


西部邁
でもね、ルーズベルトは途中で死んじゃってね、トルーマンに代わってからね、もうヨーロッパでは(日本の敗戦前に)冷戦が始まってますんでね、


岩田・木村
(頷く)


西部邁
そう簡単に行かなくなるんですけどね、そういう複雑な過去を持っていますから、今度、領土問題も引っかかってくるね、それから(日露)平和条約の問題も引っかかってくる・・・

[*日露平和条約の締結と北方領土返還の問題 ]


西部邁
(木村を指して)…どういう心構えで日ソ民間外交の先頭を走って・・・えぇ?


木村三浩
フフッ(笑)


西部邁
モスクワ、クリミア、日本の間を何十回も往復なさっているから木村さんに話して貰おう。


木村三浩
まぁトランプさんが(次期米国の)大統領になったんでね、じきに大統領になるわけですけどね、日本が日本として主権をちゃんと守れる、独立する国にならなきゃならない。防衛も自分たちでやれるようになんなきゃならない。


西部邁
うん。


木村三浩
戦後の71年経つ中で、まだ去勢されたですね、体制になってると思うんですね。憲法もろくすっぽ自分たちでちゃんと出来ないし、


西部邁
うん


木村三浩
また安保条約なんかもまだあるし、となれば、戦後体制そのものの “1段目” の日露関係のその平和条約を締結して、当然、北方領土問題もありますから、領土も回復出来るものはしていこうということでですね、ロシアと交流をしてますね。


西部邁
うん。


木村三浩
日本の独立、日本の針路、その自主というかそういう意味ですね。


西部邁
うん、これ日本の主として右翼というか、反左翼と言われてる人たちがね、当時のソ連は日ソ中立条約を・・・あれは8月の?


木村三浩
9日、まぁ8日ですね。(※対日宣戦布告=条約破棄は8日、9日に戦闘開始・侵攻)


西部邁
9日。一方的に破棄して満州に攻め込んだんですよ。


木村三浩
うん。


西部邁
それでダーっと行って、樺太北方領土も獲っちゃった。そのことに限定して言うとね、


今村有希
はい


西部邁
これは aggression(アグレッション)、日本に対するあれなんですよ、「侵略」なんですよね。一応、パリ不戦条約という道徳的な宣言書があったんで、


岩田昌征
(頷く)


西部邁
あれはソ連、中心はロシアですけど、ロシアの侵略じゃないか!!と。


今村有希
うん


西部邁
この侵略が無かったかのように棚上げしてですよ、しかも北方領土、ご存知のように彼(木村)から聞いたのだけど、いま北方領土にはウクライナ人も含めてでしょうが、スラヴ人が?


木村三浩
2万人弱


西部邁
2万人弱ですか?!


木村三浩
えぇ。


西部邁
主として択捉?


木村三浩
国後、択捉、色丹ですね。


西部邁
あぁ〜。そんなことがあって定住しているんですよね。


今村有希
はい。


西部邁
日本人は1人も定住しない。みんな帰って来たんですよ。それも70年以上続いているわけでしょう、そういう状態の中、北方領土は世間で言われているのは多分ね、歯舞・色丹というね、


今村有希
はい


西部邁
北方領土の面積で言うと7%ぐらい?


木村三浩
そうですね、はい。


今村有希
うん


西部邁
あと大きいのは国後、択捉とこうあって、これはロシアは手放さないだろうと。まぁその辺りで領土問題を手を打つ・・・そうするとまた反左翼が怒るわけですよ。たった7%返してもらっただけで、講和条約と言えるのか!!


木村三浩
(うんうん)


西部邁
でも僕ハッキリ言う。領土とは何か・・・国際法だけども、よく日本の政治家はあれ「固有の領土」と言うでしょう。尖閣は日本の固有の領土。北方領土も日本の固有の・・・あれ英語で言うと、inherent(インヒアレント=固有の〜、生まれつきの〜)、固有の領土なんかそんなものは、ありゃしないんですよ!


木村三浩
(笑)


西部邁
神か仏が、これはお前のもんだ!と決めたわけじゃないんですからね、


今村有希
うん。


木村三浩
(うんうん)


西部邁
世界史を見れば領土ってのはね、奪ったり奪われたり、長い間そこに人が住んでれば一番いいんだけど、住んでないとしてもそこの統治権、管理権、施政権がね、非常に持続的・安定的に続いてた時に、国際社会があそこはどこそのの(国の)ものと認めようというふうに共通に承認すると。それで territory(テリトリー)、領土に昇格するというね。それをアメリカがすんごいズルいやり方でこれを分離してね・・・尖閣が典型的ですよ。「施政権は日本にあるから日米安保の適用範囲で中国が手を出したらアメリカも何かする・・・かもしれませんよ?」と言って脅かしをかける。


木村三浩
(頷く)


西部邁
でもね、本当は施政権と領土権(領有権)というのは、日本はね、


木村三浩
うん


西部邁
ずっとあそこは、前に木村さんにあそこに山羊を放ってですね、


今村有希
(笑)


西部邁
僕は山羊に鉄砲持たせりゃよかったなんて言ってからかったことがあるんだけど(笑)


木村三浩
(笑)


西部邁
人間は住んでいないのだけど、まぁ一応、海上保安庁が(尖閣の)周りをぐるぐる巡ったりしてね、一応ね、日本の施政権はまぁ・・・弱いね、


木村三浩
うん


西部邁
弱いけど、まぁ持続してたのね。そしたらアメリカのようにね、施政権が70年、あれ日清戦争の頃からですからね、ずーっと続けばもう100何十年、日本のものだってことはね、本当は領土ですよって言えばいちばんいいのに、アメリカはそれをしない。


今村有希
うん


西部邁
何故しなかったのかと言うと蒋介石ね。


岩田昌征
うん。


西部邁
台湾の当時の。


今村有希
(うん)


西部邁
総統の蒋介石に妥協するために、尖閣は地理的に言うと台湾のすぐそばですからね、あれはオレのものだ!と蒋介石が言った時に、アメリカは “二枚舌” 使ったんですよ!


木村三浩
うん。


西部邁
蒋介石に対して)そうかもしれん!と。でも施政権は日本にと言って(領有権と施政権を)分離しちゃう。話を戻しますけど、北方領土だって、どういう論理になるんでしょうねぇ。70年もですねぇ、ロシアがいて。


木村三浩
うん、択捉には軍事基地がつくられている。国後にもそういう滑走路がつくられていますけど、日本側が奪われてますよね、実際ね。


西部邁
奪われてる。


木村三浩
で、今まで何交渉もしてきましたけど、昭和31年(1956年)のその日ソ共同宣言においてね、


西部邁
えぇ


木村三浩
(日ソ)平和条約が締結した暁には、歯舞・色丹を引き渡しますということになってますよね。


西部邁
そうですよね、二島返還。


木村三浩
二島返還。で、その後の安保条約の改定の時に、今度はソヴィエト側が、「いや(日米)安保を結んでいるならば、二島返還ないよ」ということも言ってきてですね、グロムイコ(アンドレイ・グロムイコ、ソ連外交官、長期にわたり外相)は、


西部邁
うん


木村三浩
でその後はずーっと「領土問題は存在しない」(というスタンスに)立ってきて、ソヴィエトが崩壊する前にゴルバチョフが来て、「(北方)四島の問題はあります!」と、


西部邁
なったんだねぇ…


木村三浩
そういう話ですよ。


西部邁
うん


木村三浩
それから今に続いているわけですよ。で、ゴルバチョフが来るのは89年ですから、崩壊の前ですからもうなんだかんだと言って、もう(それから)20何年経ってるわけですよねぇ。


西部邁
うん


木村三浩
で、いろいろ東京宣言(※エリツィン細川護煕)だとか、クラスノヤルスク宣言(※エリツィン橋本龍太郎)だとか、イルクーツク宣言(※プーチン森喜朗)だとかやってますけどね・・・やっと本格的に今回、始まる状況になってきたんですよ!


西部邁
うん


木村三浩
それは安倍さんとプーチンさんが個人的信頼関係をつくってるし、安倍さんが14回も(プーチンに)会ってヤル気になったという時ですね。平和条約を締結することによって、二島を返還してもらって、そして他の二島はどうするかと。


西部邁
うん


木村三浩
で、例えばその時に「潜在主権」ですよね。それを認めて、施政権を向こうでいいよと言うのかね、


西部邁
うん


木村三浩
潜在主権も認めないで、じゃあどうのこうのということになるのか、いろいろやる方法は・・・


西部邁
或いはそれを(その時の)状況にするか。


木村三浩
状況そう。一緒にやるだとか、そういうことになっていくと思うんですよ。


西部邁
そうですね。


木村三浩
それしかないでしょう。ただ重要なのはね、12月の15日にね、山口県長門で大谷山荘という温泉で、


西部邁
うん


木村三浩
安倍さんと時間を決めないで、プーチン大統領が話すわけ。ところが次の日に東京に来るということになったんですよ!


西部邁
おぉ


木村三浩
で、経団連なんかの会合で経済協力のいろいろ協議をしようということで東京にやってくることになったんです。


西部邁
うん


木村三浩
これスゴいいい面を持っているんですよ!


西部邁
そりゃそうでしょうねぇ。


木村三浩
えぇ。何故かと言うとですね、あのクリミアにロシアが行った後に、G7の国々の首都に入るというのは東京が初めてになるんですよ!


西部邁
おぉ


木村三浩
アメリカ大使館は(それを)すごく嫌がったんです。


西部邁
うん。


木村三浩
で、東京には行かないで田舎でやってくれと、(会談は)個人的に、と言ってたけど、最終的にロシアの側のやっぱり経済でやるんだということで受け入れて、(東京に)来ることになったということの意味は、やっぱり大きな意味があるなと思いますから、


西部邁
うん


木村三浩
12月の15日によって平和条約が締結して、というのは無いのですけどね、無いのですけども、そっからスタートしていってやっぱり二島先行(返還)でもですね、私は早くやった方がいいなと、確かに動かした方がいいなというふうに私は思うんです。


西部邁
うん。岩田さんどう思う?


岩田昌征
そうですねぇ、まぁ私はロシアについてはね、土地勘も無ければ何もないんですけども、


西部邁
僕もね、モスクワ空港にトランジットで数時間いただけ(笑)


岩田昌征
ハハハ僕もおんなじ(笑)


今村有希
(笑)


岩田昌征
まぁ理由がありますけどね。僕はこのソ連には行かない!!という志を立てて(笑)


西部邁
(木村を指して笑う)


木村三浩
(苦笑)


今村有希
ウフフフフ(笑)


西部邁
だってさ、亡くなった奥さん(ユーゴ人)の敵地ですから、


今村有希
うん…


西部邁
ロシアの足を踏まない!!と決めて(笑)


岩田昌征
東欧諸国の小国とか中国を僕の研究対象にしてたから、


西部邁
ワハハハハ(笑)


岩田昌征
やっぱり大国との関係ではね、どっちにしてもこっち側(東欧の中小国)になんとなく心情が移る(笑)しかしまぁそれは別にしてですね、いまプーチンも昔のソ連と違ってね、小国的恐れの心情は持っていると思っている。


西部邁
あぁ、なるほどね。


岩田昌征
世界で大国、地域大国はカナダは別にしてね、


木村三浩
(うん)


岩田昌征
それからオーストラリアも孤立してますから別にして、例えば、中国とかね、アメリカとかね、ブラジル、インドね、これみんなね、自分の広大な領土を守り切るに十分な人口を持っているんですよ。


木村三浩
(うんうん)


岩田昌征
ところが、ロシアは今、1億4500万(人)くらい。


西部邁
そうか・・・日本と大して変わらないんだ。


岩田昌征
で、日本は1億2700万です。日本が日露戦争をやった時にね、日本の人口が4000万ぐらい。


西部邁
うん。


岩田昌征
それから相手(ロシア帝国)は1億4000万だったんです!それで経済力は向こうの方がもちろん上・・・今は、経済力は日本が上で人口もトントン、で、守り切るには相当少ない。


西部邁
うん


岩田昌征
不安要因ですね、プーチンにとっても。


木村三浩
うん。


岩田昌征
それから、もう一つはね、いま温暖化、温暖化とか言われてるでしょう?


西部邁
うん


岩田昌征
温暖化ってことはどういうことかと言うと、海の氷が溶けるということです。


西部邁
うん


岩田昌征
北極海が氷の海じゃなくなって、艦船が自由に通行出来る。そうするとですね、場合によっては、アメリカの第六艦隊、第七艦隊もあそこを遊弋するという可能性が出てきちゃうわけ。今までのロシアは、西部戦線、南部戦線、東部戦線、ここを守ればよかった。


木村三浩
うん


岩田昌征
もう一つ、この地域(北極海沿岸)を守らなきゃいけない。


西部邁
むかしアメリカいた時にね、アメリカって面白い国で、子供向けにね、本屋に地図が売ってるの。


今村有希
はい


西部邁
1ページ目開いたらね、地図の中心が北極なの。


岩田昌征
うん。


西部邁
ということはね、


今村有希
あー、はい


西部邁
今度はアラスカとシベリアが対決してるわけですよ!


岩田昌征
うん(笑)


西部邁
模様まであってそれで何か立ってるんだ。


今村有希
(うん)


西部邁
この模様は何だと思ったら、“ミサイル” ね。


岩田昌征
うん、すごいね(笑)


西部邁
つまり(米露)両軍がね、アラスカとシベリアにこうミサイルを立てて、我々は(日本の地図からすれば)何か向こうがアメリカでこっちがロシアだと思っているけども、向こうにすれば目の前にアメリカ(ロシア)があるという。


今村有希
(笑)


岩田昌征
ミサイルは確かに破壊力は大きい。しかし、心理的な破壊力はね、反対に分けている。


西部邁
そうだねぇ。


岩田昌征
さらにその上にですね、ついプーチンがぽらっと漏らしたのは、2014年の4月の17日かそのぐらいだったと思うんですけども、セルビアの新聞で読んだんですけども、プーチンさんがですねTV討論でサンクトペテルブルクの視聴者の質問に対してですね、「西側の人たちの中にはユーゴスラヴィアを解体するようにロシアを解体しようと策謀している人たちがいる」と、こういうことを言っちゃったんだ。


木村三浩
(うん)


岩田昌征
つまり、クリミア半島を併合して、クリミア半島の併合の正当性でプーチンが出すのは、旧ユーゴスラヴィアコソボのアメリカによる分離、強制分離ですよね。だからアメリカがあぁいうことをやってて、国境を勝手に(アメリカが)変えちゃったわけだと。自分たちもアメリカと同じことをやったんだと、クリミアの例は出してた。


木村三浩
(頷く)


岩田昌征
ところが、その時はじめてユーゴスラヴィア全体の解体の策謀に類することがロシアに行われていると。


西部邁
確かにね、僕の漠たる印象に過ぎないけども、やはりロシアにはそういう恐怖心、不安はあると思うね。それはやっぱりウクライナ問題辺りからね、やっぱりどうもアメリカの capitalist(キャピタリスト)、あるいは militarist(ミリタリスト)でしょうけどもね、


木村三浩
(うんうん)


西部邁
ロシアをどう解体するかはともかく、ロシアの主として “自然資源” ですね、今は自然資源の価格は下がっているけども、何にしても世界に膨大に膨らんだ financial capitalist(ファイナンシャル・キャピタリスト)=金融資本がさ、それの使い途がもう無くなっているわけですよ。最後にあのロシアの自然資源をね、World Market(ワールド・マーケット)に引きずり出して、


岩田昌征
うん


西部邁
簡単に言うと、叩き売ったらどんなもんだべみたいなね、とんでもない策謀が進んでると大雑把に言えばね・・・というふうにプーチンたちはこう身構えているというね、


木村三浩
フフッ(笑)


岩田昌征
うん。


西部邁
まぁそういう風景ですよね。


木村三浩
あの『悪の論理』って書いた倉前先生(政治学者 倉前盛通)がね、それでシベリアの資源のことを言っていますね。


西部邁
あぁ〜そうかぁ。


木村三浩
えぇ。だから、Geopolitics(ジオポリティクス)の、地政学でロシア側にしてみれば、やっぱり自分の防衛するということでの心理性がそういうところであると思うんですよ。


西部邁
でも、そういうことを逆に言えばですよ、国後・択捉がね、(ロシアは)それは手放さないでしょう、ぼくハッキリ言う。


木村三浩
(頷く)


西部邁
ということは、ロシアはロシアでやっぱり太平洋に対して自分たちは睨みを利かすんだなって、まず大したことじゃないでしょうけどね、


木村三浩
うん、うん


西部邁
もう当然そういう strategy(ストラテジー)=戦略持ってるハズですよね。ですからね、日本の人たちが四島返還なんて簡単に言うけども、


木村三浩
(うん)


西部邁
いま世界のいろんな力のね、押し合いへし合いの中で、ロシアはロシアとして頑張ろうとしている時にね、そう簡単にですよ、条約がかつてどうだったからこうだからというのは甘っちょろい話でね、四島返還でないと平和条約結ぶな!なんて黄色い声はね、あげても全く無駄というね、そういうリアリティの中にあるんだと思いますけどね。


木村三浩
二島は返ってくるということですから、それで上手くやるのが一つやるという実績つくった方がいいと思いますけどね。


西部邁
うん、まぁそうだね。


岩田昌征
そこでね、このロシアに対する安心感を与えなければならない。


木村三浩
そうですそうです。


岩田昌征
つまり、四方面防衛しなければならない、あの広いところを。東に関してはね、ロシアを潜在的敵国として扱いませんよぐらいはね、安心感を与えると。日本はヤル気になれば大変な力を持っているのだけど、ロシアが限られた国民所得をね、


西部邁
うん


岩田昌征
膨大なお金を東方防衛のために使うような状況にはしませんよと、


西部邁
うん


岩田昌征
という安心感を伝えなければならない。


木村三浩
でいまロシアが極東で、


岩田昌征
うん


木村三浩
またはシベリアで恐れているのは中国なんですよ、実際。


岩田昌征
うん。


木村三浩
中国人が、


西部邁
どんどん(シベリアに)入ってきてますもんね。


木村三浩
入ってきている(中国人の)移民がね。であそこは大体500万人ぐらいしかいないわけだけど、ロシアの方は、それが入ってきちゃってそれを恐れていてね、ロシアのまぁ高官と話した時に、やっぱり中国ともこうやってユーラシア同盟みたいな形でやってるけど、バランスを取らないと我が国もダメなんだと。そういう意味では日本とね、やりたいということを言ってましたよ。


岩田昌征
うん。


西部邁
結論めいたことをとりあえず言わせてもらうと、やっぱりそのバランスの問題で、


木村三浩
(頷く)


西部邁
いまロシア側から言いましたけども、今度は日本側から言ってもね、


岩田昌征
うん


西部邁
やっぱりアメリカと中国に挟まれているね、アメリカはそれこそトランプじゃないけども、うるせえ!(お前らで)勝手にやれよ!!と、お前たちの面倒なんか見てられねぇ!!・・・そうは速やかにいかないでしょうけど、


木村三浩
(うん)


西部邁
中国は中国でですよ、やっぱりあの国内はガタガタの状況の中でどうしても外部に押し出してくるというね、もう挟み撃ちの状態になる可能性は十分にあるわけね。


木村三浩
そうそうそう。


西部邁
その時に日本が北のロシアとね、それなりに手を結ぶことによって後はこれはどういう外交になるのか知らないけれども、巧みにアメリカなり中国なりにね、それをこう “牽制する” というね、


木村三浩
うん


西部邁
そういう “3つ目の駒” を日本は手に入れるんだというね、そういう意味でも、ロシアにとってもバランスでしょうが、


木村三浩
そうそうそうそう


西部邁
日本にとっても大事なバランスの駒なんですね。


西部邁
今度の安倍・プーチン会談というのは瞠目すべきことなのね。


木村三浩
うん。それはそうだとおもいます。


岩田昌征
(頷く)


西部邁
ということで、3週目に入ります。


木村・今村
はい。

 

【次回予告】『ロシアとどう付き合うべきか』 ③ ゲスト:岩田昌征〔千葉大学名誉教授〕 木村三浩一水会代表〕 〜西部邁ゼミナール〜

 

日本はロシアとどう付き合うべきか① 岩田昌征〔千葉大学名誉教授〕 木村三浩〔一水会代表〕 〜西部邁ゼミナール〜

日本はロシアとどう付き合うべきか① 岩田昌征〔千葉大学名誉教授〕 木村三浩一水会代表〕 〜西部邁ゼミナール〜


ゲスト
岩田昌征:千葉大学名誉教授、セルビア科学芸術院外国会員、経済学博士、著書『二〇世紀崩壊とユーゴスラヴィア戦争 -日本異論派の言立て』〔御茶の水書房〕ほか多数


木村三浩一水会代表

 


【ニコ動】
西部邁ゼミナール)日本はロシアとどう付き合うべきか【1】2016.12.03

http://sp.nicovideo.jp/watch/sm30157146?playlist_type=mylist&group_id=37360182&mylist_sort=6&ref=mylist_s6_p1_n225

 


今村有希
ロシアのプーチン大統領が来日し、安倍総理のお膝元である山口で会談することになりました。ロシアと日本の間には、戦後70年以上に渡り、平和条約が結ばれておらず、北方領土の返還の問題など横たわっています。


先のアメリカ大統領選では、トランプ政権の誕生が決まりましたが、何故、日本の防衛にカネを出さなければならないのかと主張している上、アメリカ人の雇用を失うとしてTPP反対を明言しています。イギリスのEU離脱に見られるように、各国が “保護主義” へと傾きつつあり、政治・経済・外交・軍事といま世界は大きな曲がり角に来ています。


中国の海洋進出や北朝鮮核武装など、近隣諸国との関係もあり、日本が米中露との外交をいかに展開させていくのかが問われています。そこで、今回から3回に渡り、「日本はロシアとどう付き合うべきか」というテーマで論じて頂きます。


ゲストをご紹介します。長い間、旧ユーゴスラビアを旅しながら他民族戦争を研究されてきました、千葉大学名誉教授の岩田昌征先生です。岩田先生はこちらの『二〇世紀崩壊とユーゴスラヴィア戦争』(御茶の水書房)という書物を上梓されております。


もう一方は、いわゆる「クリミア危機」以来、現地に入り民間外交として精力的に活動されております、一水会代表の木村三浩先生です。それでは早速、宜しくお願い致します。


西部邁
岩田先生はね、


今村有希
はい


西部邁
僕とほぼ同級生なの大学で。


岩田昌征
(頷く)


今村有希
はい。


西部邁
僕が(学生時代に)ある組織を持ってたのだけども、その協会近くまで出てきてさり気なく応援してくれるのだが・・・決して、協会には会いに来ないというね、なかなかね、賢明な方なの。


岩田昌征
(笑)


今村有希
はい(笑)


西部邁
で、一度お宅に随分後に訪れたことがあって、奥様がね、ユーゴスラヴィア人と言っていいの?


岩田昌征
そうそう(笑)


西部邁
正確に?


岩田昌征
えぇ。


西部邁
奥様がね、お亡くなりになられたようですけどね、


今村有希
はい


西部邁
先ほど(旧ユーゴを)旅してなんて言ってたけどね、


今村有希
はい


西部邁
向こうに長い間、お住まいになって、ユーゴ人を奥様にして日本に帰られたと。何故、今日来て頂いたかと言うと、スラブ民族ってありますでしょう。


今村有希
はい


西部邁
ユーゴスラヴィア、バルカン辺り全部そうなんだけど、そうやってそしてロシアにまで(スラブ人は)居るわけですよ。


今村有希
はい。


西部邁
それでね、木村先生はね、何回もクリミアだ、ロシアだで動いているけどもね、


今村有希
はい


西部邁
南スラブから上の北スラブを見た時に、一体それはロシア人にはどのように見えていたのか、岩田先生を通じて紹介してもらいながら、来たるべき日露関係に入りたいと。

[*ユーゴスラヴィアは “南スラブ人の国” という意味、パルチザン勢力の指導者チトーにより独立する ]


今村有希
はい。


西部邁
ぼく最初に聞きたいんだけどね、僕は新聞報道しか知らないんだけどね、ユーゴが解体するでしょう、チトー(ヨシップ・ブロズ・ティトー’旧ユーゴ人民共和国初代首相、終身大統領)がユーゴスラヴィア共産主義者同盟ですか、


岩田昌征
うん


西部邁
それが解体してね、セルビアクロアチア


木村三浩
アルバニア


西部邁
アルバニア


岩田昌征
ボスニア・ヘルツェゴヴィナ


西部邁
あそこは回教ですけどね、そういうふうに分解して凄まじい戦いが起こって、

[*ユーゴスラヴィア:南スラヴ人中心の他民族国家、ティトーの死後に民族対立により1991年分離独立 ]


西部邁
それにヨーロッパが介入して、主としてセルビアをやっつけるべく爆弾を落としまくると、


岩田昌征
(頷く)


西部邁
そういう経緯があって、その時にどんな気持ちでおられた?貴方の第二の故郷。フッフッフッ(笑)


岩田昌征
そうですねぇ・・・気持ちを語るよりも前に、もう少し前に遡ってですね、ブレジンスキーという


西部邁
あぁ〜


岩田昌征
アメリカの戦略家(ズビグニュー・ブレジンスキー)がいますよね。そのアメリカの戦略家がですね、


西部邁
うん


岩田昌征
1978年、8月の13日から19日まで、世界社会学者大会というのがスウェーデンのウプサラ(※スウェーデンの学園都市)で開かれたんです。


木村三浩
うん


岩田昌征
社会学者大会。5000人ぐらい世界から集まって、リーダーシップを取るのはアメリカ人の社会学者。

[*社会学者大会〔1978年〕 スウェーデン・ウプサラ、ブレジンスキーが東欧とバルカン外交で情報戦展開 ]


西部邁
うん


岩田昌征
そこでですね、このブレジンスキーがウプサラにとりましてね、そのウプサラのホテルでその大会の指導者であるアメリカの社会学者を何十人か集めて、自分達の対東ヨーロッパ・対バルカン外交に関するスピーチをしたんです。


西部邁
お〜


岩田昌征
秘密のスピーチをした。


木村三浩
(うん)


岩田昌征
当時のユーゴスラヴィアの中の構成共和国のクロアチアの情報機関によって、ユーゴの大統領府に報告があがったわけ。


木村三浩
うん


岩田昌征
で、私はそれを読んだんですね。(報告書には)驚くべき事が書いてあるんですね。ユーゴに関係あるところだけ言いますとね、


西部邁
うん


岩田昌征
78年ですから、そろそろティトー(1892-1980年)が亡くなる可能性がある。ティトー以後を(ブレジンスキーは)見越して戦略を立てると。


木村三浩
うん


岩田昌征
で第一はですね、ソ連との関係において、ユーゴは言わばある種の対抗関係がありますから、

[*ティトーは大戦後にスターリンと対立しコミンフォルムから追放されている、後にフルシチョフとは和解。社会主義でありながら東西陣営どちらの立場も取らない独自中立路線のユーゴ ]


西部邁
うん


岩田昌征
ユーゴスラヴィアの首都のベオグラード(※現在はセルビアの首都)とモスクワの関係においては、アメリカはベオグラードを支援すると。しかし、ユーゴスラヴィア内部のベオグラードサラエヴォ(※現在はボスニア・ヘルツェゴヴィナの首都)、ベオグラードクロアチアベオグラードリュブリャナ(※現在はスロベニアの首都)等々…そういう諸地方、諸民族との関係においては・・・ベオグラードではなくて “こちら” を支援すると。

[*米国はモスクワに対してはベオグラードを支援、ティトーの死後への取り組みブレジンスキー


西部邁
本当?!


岩田昌征
何故かというと、“ナショナリズム共産主義の天敵である!” と。


木村三浩
(うんうん)


岩田昌征
ユーゴスラヴィアナショナリズムとモスクワの関係ではこっちを支援して、この内部ではこっちを支援すると。


西部邁
要するに、共産主義を潰せ!という。


岩田昌征
潰すというそういう方向だった。

[*米国のユーゴスラヴィア戦略、共産主義を潰すこと ]


岩田昌征
それから、今までユーゴスラヴィアに関しては、ポーランドだとかソ連とかよりは甘い態度を取ってきたけども、もうこれからはそうは取らないよと。


西部邁
うん。


岩田昌征
ソ連や或いはポーランドの知識人に対する支援と同じような支援をユーゴスラヴィア国内の知識人に対してもしますよと。


西部邁
うん


岩田昌征
そのためにはですね、別に Anti-Communist(アンチ・コミュニスト)である必要はなくて、トラクチス学派のようなモダンな哲学者たちを支援しますよと。

 

西部邁
うん


岩田昌征
さらにね、ロンドンの銀行家たちはユーゴスラヴィアに70年代ずいぶん貸しちゃったと。そろそろ返してもらわないといけないと思っているけれども、我々は “貸し続けるように” 説得すると。何故かと・・・


木村三浩
(うん)


岩田昌征
借金、債務の重荷はやがて十何年経ったならば、必ず政治経済的に返ってくるんだと(笑)

[*ロンドン銀行家が貸した金、債務は政治経済で返る ]


西部邁
うん(笑)


岩田昌征
短期的な利益ではなくて、そういうことを考える。・・・ということをちゃんともうあの時(ブレジンスキーは)言ってる。


西部邁
スゴイねぇ。


岩田昌征
それが一応、まぁ実現していると言えば、まぁ実現している。


木村三浩
(うん)


西部邁
偶然だけどさ、丁度この頃ブレジンスキーがさ、日本についてね、1冊の書物の中で、『日本はアメリカの protectorate(プロテクトレイト)』・・・つまり保護領であると、言った頃、

[*日本はアメリカのプロテクトレート保護領である:ブレジンスキー〔米国・政治学者〕 ]


岩田昌征
同じ頃です。


西部邁
だねぇ


岩田昌征
そう(笑)


西部邁
だからアメリカはねぇ、全世界規模で何処を掘るようにするか、何処をどう動かすかって計算やってるってことなのよ。


岩田昌征
ちゃんとやってるんですよ。そしてとにかくそういう効力が発揮されて、そして1990年、91年、ユーゴスラヴィアが崩壊過程に入りますね。そこでですね、ヨーロッパの歴史というか、伝統的な宗教的な文明的な違いを前提に置かなきゃならない。それはユーゴスラヴィアという国は、カトリックの地域はスロベニアクロアチア


木村三浩
うん


岩田昌征
それから聖教のモンテネグロとかセルビアを中心にした地域。それからボスニア・ヘルツェゴヴィナのようなイスラムが強い地域と言わば “三文明” が競っている。それを言わばティトーさんがこう統合していたわけです。

[*カトリック・聖教・イスラムの地域の三文明、民族、文化。宗教の違いをティトーが統合する ]


西部邁
よくまぁやったねぇ(笑)


岩田昌征
よくやったもんですけどね。


西部邁
でもティトー自身はクロアチア人。


岩田昌征
クロアチア人です。お母さんがスロベニア人でお父さんがクロアチア人。


西部邁
あぁ〜そういうことか。


岩田昌征
そういうふうにまとまっていた時にですね、内部矛盾が起きる時に、やっぱり凄いんですねぇ。オーストリア=ハンガリー帝国スロベニアクロアチアを言わば長い間支配していた。それで、第一次世界大戦の結果、それがもぎ取られるわけですね。


西部邁
うん。


岩田昌征
宗主国として、その宗主国の意識がですね、やっぱりキチンとあるんですよ。


西部邁
うん


岩田昌征
それでですね、1990年、91年ですけども、オーストリーのモック外相(※アロイス・モック外相、オーストリア国民党代表:当時)は、ユーゴスラヴィアから分離独立をしたがっているスロベニア外務大臣をですね、1991年の6月の19日かそのくらいに、この全欧安保協力会議というのがあったんですけど、


西部邁
うん


岩田昌征
そこにですよ!まだ(ユーゴから)独立もしていない1地域の対外折衝薬の人をですね、オーストリー代表団の一員に加えて(笑)その全欧安保・・・


西部邁
ちょっとさ、物知り博士にさ、途中で何でも聞かなきゃいけなくなるんだけど、スロベニアクロアチアの違いは何なんだ。


西部・今村
(笑)


岩田昌征
あっ、スロベニアクロアチアは、スロベニアオーストリーが直接。


西部邁
あぁ〜。


岩田昌征
クロアチアハンガリーですね。

[*スロヴェニアはオーストリア領、クロアティアはハンガリー領とされていた ]

 

西部邁
ハンガリー


岩田昌征
それでオーストリーハンガリーが一緒なわけで。(かつてのオーストリア=ハンガリー帝国


西部邁
うん。


岩田昌征
とにかく、まだ独立国じゃない国のある独立国の独立派の人達を自分の国際代表団に入れて、国際会議に出席させるような荒技をするわけです。


西部邁
そうか。


岩田昌征
と同時に、このハンガリーの方はですね、クロアチアが(ユーゴから)独立したがっています。


西部邁
うん


岩田昌征
そうすると、ハンガリーが民主政権、市民主義の政権になった途端に武器援助をするわけです。


西部邁
うん


岩田昌征
そういうことが平気で出来るんですね。


西部邁
そうね、本当に複雑で、第二次大戦中ね、


今村有希
はい


西部邁
要するに、まぁヨーロッパ、東ヨーロッパではドイツ・ナチズムが猛威を振るうわけでしょう。オーストリアも併合しちゃう。で、実はクロアチアはナチ側に付いたんだよね?


岩田昌征
そうですね。


西部邁
セルビアとぶつかって、(クロアチアは)セルビア人を20万30万殺しちゃうと。その恨みがセルビア側にはあるわけですよ。

[*ヒトラー政権に付いたクロアティアはセルビア人を20万30万人大量殺戮といわれる ]


岩田昌征
ある。


西部邁
ユーゴスラヴィアの解体の時には、セルビアの中には “それに対する復讐心” もあるわけ当然ね。


今村有希
(頷く)


西部邁
それで一層戦いが激化するというね。


岩田昌征
じゃあロシアは、ということになるのだけど、その頃はエリツィン政権ですね。


西部邁
エリツィンだねぇ。


岩田昌征
そう。90年代の。


西部邁
あの情けない、酔っ払いのエリツィンだ。


今村有希
(笑)


岩田昌征
それでゴズイレフ(アンドレイ・コズイレフ)というのは外相だったんだけど、


木村三浩
えぇ。


岩田昌征
コズイレフさんは、セルビア人の方の親分にあたるわけですよね、宗教も同じで。

[*アンドレイ・コズイレフ〔エリツィン政権外相〕 セルビア人の親分にあたる ]


西部邁
あぁ〜


岩田昌征
第一次世界大戦だって、このセルビアのために参戦したようなもんですからロシアは。


西部邁
ほとんどあれですか、セルビア正教ロシア正教はほとんど同じ?


岩田昌征
ほとんど同じというか独立しているけども、同じ正教で仲はいい。


西部邁
なるほどね。


岩田昌征
ところがね、エリツィン政権の時代には本当にセルビアには冷たかった。モックさん(※オーストリア外相 アロイス・モック)があれほど頑張ってね、こちらのために。ハンガリーもそうなんだけど、


西部邁
うん


岩田昌征
セルビアの方の大親分であるハズのロシアはですね、そこではですね、何もしなかったんですよ。


西部邁
うん。そこでだちょっと、司会者として。民間の対ロシア外交の先頭に立って頑張っている。高く評価するんだけど、何も知らないからね。チェチェンという国があったでしょう。


今村有希
はい


西部邁
アルバニア人が多いのかな、丁度ね、ロシアの石油なり天然ガスのパイプラインが通るところだということがあって、人口はせいぜい100万ぐらいでしょう?


木村三浩
100万ぐらいですねぇ。


西部邁
それが独立しようとした時にさ、ロシアが徹底的に殲滅するわけ。

[*チェチェン〔人口100万人〕 独立しようとした時にロシアが徹底的に殲滅 ]


西部邁
結論言うと、(人口の)3分の1は殺され、


今村有希
はい


西部邁
3分の1は外国に亡命し、残り3分の1は廃墟の中で暮らしていると。


今村有希
うん。


西部邁
もっとすごいことにさ、丁度似たような時期にアメリカが実はイラクをやるわけですよ。


木村三浩
(うんうん)


西部邁
それで米露の間にね、お互い・・・簡単に言うとアメリカ、「俺はイラクをやるからロシア、お前はチェチェンやっていいぞ!お互い文句は言わないでおこうな」と。

[*アメリカが “俺はイラクをやる” と攻撃、ロシアによるチェチェン攻撃が強まる ]


木村三浩
(うん)


西部邁
案外、あなたの好きなロシアも結構ヒドいことやっているんだよ(笑)


一同
(笑)


木村三浩
いやぁまぁね、そういう見方も成り立つですけど(笑)


西部邁
エヘッヘー、そうだね(笑)


木村三浩
ソ連邦が崩壊してね、今のチェチェンは(南北を隔てるカフカス山脈を境に)北カフカスコーカサス)に位置するんですね。


西部邁
あぁ〜そうか。


木村三浩
今はジョージア(※グルジア)と言いますけど、ジョージアがあってちょっと行くとそのウクライナがあって、


西部邁
あぁ〜


木村三浩
ここにチェチェンとかイングーシ(※西に北オセチア、東にチェチェンとの間)、パキスタンとかいろいろあるわけです。ところがね、ひとつ考えなきゃならないのはね、チェチェン独立運動を裏で支援してる人がいたんですよ。


西部邁
おぉ〜


木村三浩
でそれはやっぱり西側の方だと思いますよ、ソ連邦崩壊と共に


西部邁
なるほどね、うん。


木村三浩
で、チェチェンの独立を煽って、それで(ロシアと)戦わさせたと。


西部邁
うん


木村三浩
その一方はこっち側でね、アメリカはイラクに対して攻撃するというね、2つやってると思いますね。

[*チェチェンの独立を煽りながら、一方でイラク攻撃を仕掛けるアメリカ ]


岩田昌征
イラクの前にね・・・


木村三浩
その前はセルビアがあります。

 

岩田昌征
うん、セルビアが(米軍に)空爆。で、第二次世界大戦でヨーロッパであれほど大規模な戦争があって空爆が起きたというのはあそこ(セルビア)が初めてなんですよ。ソ連が盛んに悪い事した時代だって、


西部邁
うん


岩田昌征
あれほどやっていないんですよ。


西部邁
そうねぇ。


岩田昌征
あれだけの78日間に渡る大空爆ね。連日やってるわけですね。

[*セルビア空爆 1999年3月24日から78日間、NATO軍によるユーゴスラヴィア全域攻撃 / 注釈:NATOと言われるが多くが米軍機、米軍によるアライド・フォース作戦 ]


西部邁
いやそれね、ちょっと悪いんだけど、今村さんね、


今村有希
はい


西部邁
僕もあんまり知らないのよ。要するにボスニア・ヘルツェゴヴィナ


今村有希
はい


西部邁
宗教的にはムスリム、回教徒なんでしょうけどね、それとセルビアの間でこう、


今村有希
(うん)


西部邁
それに対してさ、要するに、セルビア側が大虐殺をやってると・・・(その)真実はよく分からない。お互いやっているんでしょうけどね、


今村有希
はい


西部邁
それでさセルビア側に肩入れして、ともかくNATO軍ということになるの、あれは?


岩田昌征
NATO軍です。


西部邁
ものすごい空爆でもって山ほどの、簡単に言えばセルビア人を殺すわけよ。


今村有希
うん。


西部邁
それで、日本人の新聞テレビはさ、何か西洋は正しくて、要するにセルビアは悪いと。


岩田昌征
うん


木村三浩
そうそうそう


西部邁
ボスニア・ヘルツェゴヴィナは可哀想という感情論だけで、あとの何の情報もないという。

[*日本のメディアは西欧が正しくセルビアが悪いと、ボスニア・ヘルツェゴヴィナへの感情だけ報じる ]


岩田昌征
そうですね。実はその前の空爆があって、それはね、1995年の8月31日から2週間、やっぱりアメリカ軍はちゃんとボスニアの “セルビア軍だけ” を攻撃しているんです。

[*ボスニア・ヘルツェゴヴィナ空爆〔1995年〕 ボスニアセルビア軍に対する攻撃 〕


西部邁
あぁ〜そう


岩田昌征
空爆しているちゃんと。僕はその空爆のすぐ近くまで行ったことがあるんですけど、


西部邁
あぁ〜そう


岩田昌征
どうしてそういうことになったかと。最初はね、ユーゴスラヴィアに介入したのはアメリカじゃないんですよ!東西冷戦でアメリカが勝ちますよね。


西部邁
うん


岩田昌征
ところが、ヨーロッパではね、主観的には冷戦の勝利者としてビジュアルに登場したのは “ドイツ” なんです。


西部邁
ドイツかぁ…


岩田昌征
ベルリンの壁の崩壊、統一ドイツの成立でしょう。そうするとなんかドイツ人が舞い上がっちゃったんですね。

[*ヨーロッパの主観的には冷戦勝者としてのドイツ、ベルリンの壁崩壊、統一ドイツの成立 ]


木村三浩
うん。


岩田昌征
それと同時に、ドイツと親近のあるオーストリーも舞い上がるし、またはドイツに頼りにするバチカンも舞い上がる。


西部邁
うん


岩田昌征
そしてですね、ユーゴスラヴィアという正教とカトリックイスラムが合体したような “不自然な国家” は無くなった方が良いと。歴史的伝統的にカトリックの地域であったスロベニアクロアチアは独立した方がいいと。

[*ユーゴスラヴィアのように聖教とカトリックイスラムが合体の国家は無くなった方が良いと… ]


西部邁
もう半ば、5割か7割か知らんけど、宗教戦争だねぇ。


岩田昌征
そうそう、そうゆう。ところが、アメリカはね、ユーゴスラヴィアがCommunist(コミュニスト)の国から民主的統一国家になって自分達の方へ転がり込んでくればよろしいと。

[*ユーゴスラヴィアが Communist の国から民主的統一国家になり自分達のところへと米国 ]


西部邁
そうか。


岩田昌征
ところが、アメリカはこれは近代の国だから民主主義とか自由とか市民というカテゴリーで考えるけど、


西部邁
うん


岩田昌征
ヨーロッパは古い国々ですからね。


西部邁
そう。なるほどねぇ。


岩田昌征
(アメリカとは違いヨーロッパは)こういう “伝統的な境界線” でこっちに持ってきちゃおうというんで、盛んに工作したの。


西部邁
うん。


岩田昌征
ある独立国家を解体するとか、或いは、ある独立国家を幾つもつくりだすという、国際政治の最大問題でしょう?


西部邁
うん


岩田昌征
『その最大問題をね、アメリカが冷戦に勝ったその時から、そのイニシアティブをアメリカはヨーロッパで失っちゃったわけ!』


西部邁
そうねぇ。ということは、今村さんね、


今村有希
はい


西部邁
あのあたりはバルカンと言うのだけど、バルカンは昔から「火薬庫(ヨーロッパの火薬庫)」だと言われてたの。いろんな宗教・人種の入り混じりで。


今村有希
はい


西部邁
要するに、そういう詳しく複雑なこととを知っているのはヨーロッパ人で、アメ公さんはよく分からなかったってことなんだろうねぇ(笑)

[*「バルカンは火薬庫」民族、文化、宗教が絡み合うその複雑さがアメリカ人には分からなかった ]


今村有希
(笑)


岩田昌征
うん(笑)で、ところがね、このボスニア・ヘルツェゴヴィナまで、別にヨーロッパは欲しいとは最初は思わなかったのね。そしてボスニア・ヘルツェゴヴィナにこちらで独立するともちろんこちらも独立したいと。で、その時に戦争無しにね、このボスニア・ヘルツェゴヴィナというところは、クロアチア人もいればボスニア・ヘルツェゴヴィナムスリム人もいれば、セルビア人もいる。


西部邁
うん


岩田昌征
言わば、三民族言わば混住の地域ですからそこをどうするかと。


西部邁
うん


岩田昌征
で、その頃のドイツ主導のEC(※ヨーロッパ共同体:現在のEUの前身)はですね、別に戦争でもって(ユーゴを)分裂させようなんて考えていなかった。これは一生懸命努力して、ポルトガルの外交官のクティリェロ(※ジョゼ・クティリェロ)という人ですけど、1992年の3月段階にですね、三者の合意を取り付けて、リスボンでちゃんと署名までしているんです。


木村三浩
うん


岩田昌征
でその中で、ボスニアの人は不満だったわけです、このヨーロッパの案が。だけど署名したんです、駐ユーゴスラヴィアのアメリカ大使をやっていたティンバーマンという人がですね、ボスニア・ヘルツェゴヴィナイスラム人の親分のイゼトベコヴィッチに会って、その時にいろいろと不満を聞いて、「そんな不満だったら署名をやめちゃえばいいじゃないか。あれは最終的決定じゃないのだからやめちゃいなさいよ」というアドバイスをしちゃったんですよ!


木村三浩
(うん)


西部邁
あぁ〜


岩田昌征
そっから、戦争になっちゃった。


今村有希
うん。


西部邁
分かりました。あっという間にね、戦争が始まったところで、時間が終わっちゃったんでね。


木村三浩
終わっちゃった(笑)


西部邁
僕ね、実はひとり旅でワルシャワポーランドからずーっとで降りてユーゴスラヴィアまで来たことあるの。社会主義、僕別に嫌いじゃないよ。それどころか、今の資本主義の暴走と比べたらね、社会主義的な要素をしっかり埋め込んでいかないと、経済も社会も持たないと思ってるものだ。


岩田昌征
(頷く)


西部邁
けどしかしね、ユーゴスラヴィアベオグラードで店にタバコを買いに入ったの。時計見たら丁度12時だった。いい?ということはね、社会主義の勤労者の昼休みの時間なの。


岩田昌征
(笑)


西部邁
ウーーーン!!と怒ってるわけね、言葉わからない僕。


今村有希
ウフフフフ(笑)


西部邁
で、お釣りを小銭で僕の顔にぶつけたの。なんでお前が俺の休憩時間に邪魔をするんだ!!というね、そういうきおくしかないんだけどさ(笑)

[*ユーゴスラヴィア ベオグラードでのエピソード ]


岩田昌征
あぁ〜(笑)


西部邁
あぁいう時代。ユーゴだけがゲリラ戦でもって、自主的に独立してね、でみんなを集めてユーゴにして、それでロシア(ソ連)の衛星には入らないと。実は東ヨーロッパとは違うのね。


まぁいずれにしてもね、裏側から、ロシアの裏玄関がどうなっているかということを、1回目話して頂いて、


岩田昌征
そう。


今村有希
はい


西部邁
次の2回目には(木村を指して)いよいよ表玄関から入ってこうと(笑)

木村三浩
(笑)


今村有希
ウフフフフ(笑)

 

【次回予告】『ロシアとどう付き合うべきか』 ② ゲスト:岩田昌征〔千葉大学名誉教授〕 木村三浩一水会代表〕 〜西部邁ゼミナール〜

 

“進歩”主義をめぐり- アメリカの国柄とはどんなものか③ ゲスト:京都大学名誉教授 佐伯啓思 〜西部邁ゼミナール〜

“進歩”主義をめぐり- アメリカの国柄とはどんなものか③ ゲスト:京都大学名誉教授 佐伯啓思西部邁ゼミナール〜
ゲスト:佐伯啓思京都大学名誉教授 、著書「反・民主主義論」〔新潮新書〕、『「アメリカニズム」の終焉』〔中公文庫〕ほか多数)

 

【ニコ動】

西部邁ゼミナール)アメリカの国柄とはどんなものか【3】2016.11.26

http://sp.nicovideo.jp/watch/sm30116816?playlist_type=mylist&group_id=37360182&mylist_sort=6&ref=mylist_s6_p1_n224

 

 

今村有希
アメリカの国柄とはどんなものなのか、3回に渡りまして京都大学名誉教授の佐伯啓思先生をゲストにお迎えし論じて頂いています。

 

今回は、新しいものから良きものが生まれるという “進歩主義” について論じていただきます。それでは今回も宜しくお願い致します。

 

西部邁
あぁ3回目宜しくお願いします。

 

佐伯啓思
はい。

 

西部邁
佐伯さんがもう10年、15年前にちょっと雑談で教えてくれた話で思い出したの。

 

今村有希
はい

 

西部邁
どっかの番組らしいんですけど、アラブ首長国連邦の人の、ドバイで100何階かの世界の大高層ビル(※ブルジュ・ハリーファ:828.0m 206階だて)だかホテルだか出来た時に、

 

今村有希
はい

 

西部邁
その持ち主にインタビューするんですって。人生のいちばんの楽しみはなんですか?と聞くの、その大金持ちに、石油王ね。

 

[*世界一の超高層ビル建設、石油王の人生の楽しみとは ]

 

今村有希
はい

 

西部邁
そしたらね、日が暮れる頃にずっと砂漠の方に歩いていって、砂漠に日が沈むのを見るのが人生唯一の楽しみとであると(笑)

 

佐伯啓思
フッフッフッ(笑)

 

今村有希
ええ(笑)

 

西部邁
ほんと然もありなんと思った。例えばね、何兆円持っててさ、まぁジェット機を何台持とうが、ヨットを何十台持とうがね、ビルを別荘を何をどうしようが、人間ひとりでしょう?

 

今村有希
はい。

 

西部邁
で、適当な時期に死んでくわけさ。

 

今村有希
うん。

 

西部邁
それは結局、「砂漠に日が沈むのを見るのが唯一の楽しみ」という大金持ちね。

 

[*「砂漠に日が沈むのを見るのが唯一の楽しみ」 世界一超高層ビルを建てたアラブの大金持ちの人生 ]

 

今村有希
はい。

 

佐伯啓思
うん。

 

西部邁
そういうことを少しもう考えた方がいいんじゃないかという(笑)

 

佐伯・今村
(笑)

 

佐伯啓思
うん、なんか “究極のニヒリズム” みたいな感じですねぇ。

 

西部邁
えぇ。

 

佐伯啓思
そのアラブの富豪が言っていたんだけど、その後で、「どうせ我々は何にもないこの砂漠から出てきたんだから、全部潰れてしまって砂漠に戻ってもそれでいいんだ」というね。

 

[*潰れて砂漠へ戻っても構わないとアラブの大富豪 ]

 

今村有希
ウフフ(笑)

 

西部邁
あぁ〜

 

佐伯啓思
そういう(笑)・・・ものすごい大きな建物、バブルで、物凄い打撃受けたんですよね、バブルの崩壊で。

 

西部邁
あぁそう?

 

佐伯啓思
えぇ、リーマンショックの。

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
またそのあと再建されてきたみたいですけどね。まぁだから、あんなものは消えてしまってもいいというふうな感じが何処かにあるのかもしれないですねぇ。

 

アメリカという国を考える時に、やっぱりその “砂漠の文明” とちょっと近いようなものを感じてしまうんですけどね。

 

西部邁
うん

 

佐伯啓思
アメリカの巨額の富をつくって、40億だか50億だかの資産を一気につくってしまって、

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
それで一体何をしたいのかというと、彼らだってその別にしたい事があるわけじゃないんですよね。

 

今村有希
(うんうん)

 

西部邁
うん

 

佐伯啓思
何日か前にちょっとテレビを見ていたらやっていたのだけど、アメリカの大金持ちがクルーザーで海岸を遊泳しているわけです。

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
で、周りに小さなボートがちょっと幾つかあって、中ぐらいのクルーザーがあったりする。

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
でそれを見ながら、いやぁアメリカってのはとにかく自分で頑張って、自由な社会なんだからやればここまで、こんな大きなモノまで持てるんだよと。

 

今村有希
うん

 

佐伯啓思
で、そう言った後でね、あちらには小さいのもあるねぇとかいう話もして、しかしねぇ、そうは言ったって小さいモノは小さいなりの楽しみがあって、本当のところはどちらが幸せなんだ?なんて言って、フフフフフ。

 

今村有希
ウフフフフ(笑)

 

西部邁
いや僕ね、カミさん亡くなってから時々ね、

 

今村有希
はい

 

西部邁
生まれて初めてだけど、あのコンビニエンスストアでさ、コーヒー買ったりするんだ。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
あの convenience(コンビニエンス)ってのあるでしょう、「便利」って意味でしょう。


今村有希
はい。

 

西部邁
これ(convenience)調べてみたの。con(コン)というのは「一緒」でしょう。vene(ビニ)というのは「集まる」とか「行く」というかね、(convenienceで)『みんなが集まる』という意味なのね。

 

[*convenience 便利な物 con=「一緒に」 vene=「来る」〔集まる〕 ]

 

今村有希
はい。

 

西部邁
これ言い得て妙でね、旧石器の昔からね、新しいモノを発見すると、convenient(コンビニエント)「便利」でしょう?

 

今村有希
はい

 

西部邁
だってね、これまで2発3発打たないと鹿倒れなかったのにさ、立派な鏃(矢尻)で1発首に当てれば倒れるんだから、

 

今村有希
はい。

 

西部邁
でみんなが集まる。それね、やっぱりやむを得ないんでしょうねぇ、便利なモノに集まる。

 

[*旧石器の昔から新しいもの 便利なものに人々が群がる ]

 

西部邁
でも僕が言いたいのはさ、なんにもその息急き切ってね、全員挙ってさ、えぇ、convene(コンビーン)、集まることはなかろうと。10人に1人はさ、もうちょっとゆっくり行こうかなと。

 

今村有希
うん

 

西部邁
なんかこうスピードの問題というか量の問題ね。

 

今村有希
はい。

 

佐伯啓思
うん。

 

西部邁
今違うんだもの、何かあったらみんなあんた、ウワァーって集まるでしょう。僕なんて未だにじゃないけどスマホも、これ恥ずかしいんだけど(笑)パソコンも触ったことないんだよ。

 

今村有希
うん。

 

佐伯啓思
パソコンもだんだん時代遅れになりつつあります(笑)

 

西部邁
そうだろう!(笑)

 

今村有希
(笑)

 

西部邁
息急き切って、しかもみんなしてね、新しいモノ

 

佐伯啓思
うん

 

西部邁
ということは、新しいモノには何か良きモノがあるというふうに多くが思い込んでいるでしょうね。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
昔、ギリシャ哲学者というか翻訳者で田中美知太郎という人の名セリフだと思うんだけど、

 

今村有希
はい

 

西部邁
「昔は人も時代も上等であった」ってね。

 

[*「昔は人も時代も上等であった」ギリシャ哲学の権威といわれた田中美知太郎 ]

 

今村有希
はい。

 

西部邁
まぁ説明抜きで言いますけどね、『古いけれども上等なものは沢山あった』んですよ。

 

佐伯啓思
うん。

 

西部邁
アナタ、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』(In Praise of Shadows)って読んだことない?

 

今村有希
ないです。

 

西部邁
ないのかっ!!

 

今村有希
ハイッ!!

 

西部邁
いいよなくて(笑)

 

今村有希
す、すいません・・・(苦笑)

 

佐伯啓思
ハッハッハッハ(笑)

 

西部邁
陰翳礼讃というのは「薄暗がり」ね。

 

今村有希
はい

 

西部邁
陰翳ね。つまり・・・あれいつ頃なんだ、昭和の初めでしょうねぇ?

 

佐伯啓思
そうでしょうね、京都にいてこちらに来てからですね。関東大震災の後ですよね、彼。

 

西部邁
あぁそうか。それで、どんどんやっぱり新しいinnovationが起こるでしょう、当時からね。

 

今村有希
この場合、具体的に言って「便所」のことなの。

 

今村有希
はー。

 

佐伯啓思
うん

 

西部邁
何も明るい水洗便所でジャーっと流すことないだろうと。だいたい昔の汲み取り便所ってのは家の隅っこにあって薄暗がりでね、

 

今村有希
はい

 

西部邁
ゴメンなさいね・・・尾篭な話したいわけじゃないんだけどね、その陰翳の中でゆっくりとしゃがんでゆっくりとやってるうちにいろいろな思いもめぐって、なかなかおつなもんだと(笑)

 

[*「陰翳礼讃」谷崎潤一郎の随筆 昭和8年〔1933年〕 薄暗がりの厠(かわや)での用足しは思いがめぐる趣がある ]

 

今村有希
うん

 

西部邁
…いう話が陰翳礼讃なんだけどね。

 

佐伯啓思
うん、そうですねぇ。

 

今村有希
へー

 

西部邁
やっぱり僕そういう「陰翳礼讃」、まぁ古いものですけどね、そういうものが何割かは居てね、それでちょうどいいんだという。

 

佐伯啓思
うん。

 

西部邁
聞いたところによると、ブータンという国は結構まだ頑張っているんでしょう?

 

佐伯啓思
うん、まぁそうですね、国民の満足度も高いみたいですね。

 

[*ブータン王国国民総幸福量を建国の理念に過去と繋がっていることで生きられると考えている ]

 

西部邁
うん、新しいものを入れるんだけどね、要するにいろんな規制が敷かれていて、もうそう息急き切って入れるなと。古いものを守れというね。

 

今村有希
うん

 

西部邁
だから、日本ももう「第2のブータン」ぐらいになれば、

 

今村有希
(笑)

 

佐伯啓思
うん

 

西部邁
ただ人口が多過ぎるから厄介ですけどね。

 

佐伯啓思
まぁそうですねぇ・・・やっぱりあのヨーロッパとアメリカで随分と違うところはあるんだけども、今の「陰翳」でいきますとね、

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
ヨーロッパはまだ「陰」の部分は随分ありますよね。

 

西部邁
そうだね。

 

佐伯啓思
たとえば、教会見ても、

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
ゴシックの教会とかは中に入るとものすごい暗いでしょう。で、ステンドグラスから光が集まってくる。

 

[*アメリカに比べ陰翳が残るヨーロッパの教会 ]

 

西部邁
そうだね。

 

佐伯啓思
地下があるんですよね。

 

今村有希
へー

 

佐伯啓思
で、地下にいろんなものが隠されていたり、要するに死体が置かれてたりね、

 

今村有希
(驚いた表情で)はい

 

佐伯啓思
まぁある種のホラーの世界みたいなものが地下にあって(笑)

 

今村有希
(笑)

 

佐伯啓思
それは見えない、普通は見えない。

 

今村有希
はい。

 

佐伯啓思
そういうものの上に教会のこう高い上にそびえる、神に向かって。アメリカはそういう意味では本当に文字通りに「啓蒙主義」という、啓蒙主義ってenlightenment(エンライトメント)で「光を当てる」となるでしょう。だから、「すべてを明るくしよう」というのが、

 

[*啓蒙主義 enlightenment 光だけで陰翳のないアメリカ ]

 

西部邁
そうなんだよね。

 

佐伯啓思
えぇ。その本当に光だけをアメリカは持ってきてしまって、全部「陰」を無くしてしまって。

 

西部邁
奇妙なのはイギリスですよ。イギリスがまず民主革命、産業革命をガンガンやるでしょう。

 

今村有希
はい

 

西部邁
いわゆる「近代」をつくりだしたのはイギリスなわけさ。

今村有希
(頷く)

 

西部邁
ところがね、産業革命がだいたい終了したのは19世紀半ばだと言うのね。

 

今村有希
はい

 

西部邁
その頃から急にイギリス人はね、

 

佐伯啓思
あぁー

 

西部邁
何か古いものを、“アンティーク志向” になってくるのね。その証拠に、あれ1880年かな、例えば
ウィリアム・モリスなんて出てきてね、

 

佐伯啓思
うん

 

西部邁
インテリア・デザイナーたちはよく知っているけど、思想的には社会主義なんだよ。妙な社会主義で「中世に戻ろう」という社会主義でね(笑)

 

[*中世に憧れを持つ社会主義 ウィリアム・モリス〔1880年〕 ]

 

今村有希
へー

 

佐伯啓思
うん

 

西部邁
僕がイギリスで1年ぐらい暮らした時にね、小さな田舎のcottage(コッテージ=コテージ)見つけて、

 

今村有希
はい

 

西部邁
それね、何回も潰れているコッテージなのよ、何回も建て直して。その村の歴史がたまたま手に入って読んだんだけど、自分が住んでた家が最初に出来たのがね、1575年。

 

今村有希
えー(驚)

 

佐伯啓思
うん

 

西部邁
エリザベス1世の頃

 

今村有希
はー

 

西部邁
織田信長の頃かな。

 

佐伯啓思
ほー

 

西部邁
何かイギリスはね、急激に産業革命完了と同時にそっちの方へ志向を。

 

[*antiqueへと志向する産業革命後のイギリス / イギリスでは1575年に出来たcottageを立て直す、エリザベス一世〔日本は戦国時代〕の頃 ]

 

今村有希
(頷く)

 

西部邁
日本人はロンドン、ロンドンと言うけど、多くのイギリス人は「ロンドン?あんなところはイギリスの街じゃない!」と、

 

今村有希
(笑)

 

西部邁
実際外国人だらけですからね。

 

佐伯啓思
うん

 

今村有希
(うんうん)

 

西部邁
宗教に興味ある人はね、ロンドンなんてのは evil city(イービル・シティ)、evilというのはこれ宗教用語で「悪魔」という意味ですよ。

 

今村有希
へー

 

佐伯啓思
ちょっと面白い映画でね、あのマイケル・ムーアの「世界侵略のススメ」という、

 

西部邁
えぇ〜?(笑)

 

佐伯啓思
ご存知ないですかね。

 

西部邁
知らない(笑)

 

佐伯啓思
これ面白い映画ですよ。まぁマイケル・ムーアはご存知の通り左翼系のね、

 

西部邁
うん

 

佐伯啓思
リベラル派の映画監督なんだけど、

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
この「世界侵略のススメ」というのはね、マイケル・ムーアがヨーロッパに出かけていって、アメリカには無いその国の一番いい物をアメリカに紹介するという、そういう映画なんです。ドキュメントで。

 

[*映画「マイケル・ムーアの世界侵略のススメ」 ヨーロッパに出かけ各国の良い物をアメリカに紹介 ]

 

今村有希
へー

 

西部邁
ほー。

 

佐伯啓思
最初にね、まぁイタリアあたり行って、イタリアの経営者と話しをして、有給休暇が2週間貰えるらしいですね。

 

西部邁
うん

 

佐伯啓思
そんなにやって大丈夫なのか。そんなに君らは休めるのかと。

 

今村有希
(うん)

 

佐伯啓思
そしたらイタリアの経営者が、それは我々も遊びたいからだと(笑)

 

今村有希
えー(笑)

 

西部邁
(大笑い)

 

佐伯啓思
何のためにそんなに働く必要があるんだと。我々だって休暇が欲しいんだと(笑)

 

[*イタリア人の長い有給休暇、経営者にインタビュー ]

 

今村有希
(笑)

 

佐伯啓思
今度はフランスに行ってね、フランスで学校を、中学校の公立学校へ行ってランチを見るんです、給食を。

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
そしたらね、フルコース食べているんですらしいんですね、中学校で(笑)

 

[*フランスの小学生はランチにフルコース ]

 

西部邁
ほぉー(笑)

 

今村有希
エェー(笑)

 

佐伯啓思
何か、あのスープから出てきてメインが出て、最後にデザートが出てきて、それを1時間ぐらいかけて食べるらしいんです。

 

今村有希
ふーん

 

佐伯啓思
で、アメリカの公立学校はこんなものを食ってるぞと言ってね、あの写真で見せたら、

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
みんなフランスの子供はビックリして・・・

 

西部邁
可哀想にと(笑)

 

佐伯啓思
そう、可哀想にと(笑)

 

今村有希
へぇー(笑)

 

佐伯啓思
これは鳥のエサなの?とかそんなことを言ってたんですけどね(笑)

 

[*マイケル・ムーアの世界侵略のススメ ]

 

一同
(笑)

 

佐伯啓思
まぁそういう種類のことをまぁドイツ行ったり行ったりね、まぁグルーっと回ってヨーロッパはまだいかにゆとりがあるか、そんなに急か急か急か急か進歩進歩便利便利と考えずにね、

 

今村有希
(うん)

 

佐伯啓思
それぞれの国でそれぞれの国の守るべきものがあるんだと。

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
イタリア人は遊ぶ事をとにかく守りたいと(笑)

 

今村有希
フフ(笑)

 

佐伯啓思
フランス人はちゃんと美味いメシを食いたいとかね。まぁマイケル・ムーアが最後に、本当はアメリカにももともとこういう文化があったハズだと。

 

西部邁
あったんだよねぇ

 

佐伯啓思
うん、いつの間にか変わってしまったということを言うんですけどね。

 

西部邁
もともとイギリスから(アメリカに)移民したのはPuritan(ピューリタン)でしょう。しかも理由がね、なんか食えなくなって流れたんじゃなくて、宗教上の理由というか、迫害から逃れるために来た俺たちが中心だから、ある程度の財産を持って移ったんですよね。それゆえね、財産があるお陰で、ヨーロッパ・イギリスのある文化を実現できる力を持った人たちが東海岸のあちこちにコミュニティを作ったわけさ。だから19世紀まではね、そういうヨーロッパの伝統みたいなものは残ってたんですね。

 

[*英国欧州の文化実現力を持ったPuritanが東海岸へ ]

 

今村有希
うん。

 

西部邁
そういうものがプツンと断ち切られて “如何にもアメリカ的な” ね、新しいものは刺激的でみんな飛び付くと。古いものはカビが生えて嫌だみたいなね、そんな調子、文化で言えば。

 

佐伯啓思
うん。

 

西部邁
(そう)なったのは19世紀からなの。ちょうどAmerican Democracyがね、ウワァーッと花咲く頃にそういう思想的にも「古いものは捨てちゃえ!」という思想が瞬く間に広がった。

 

[*19世紀から American Democracy が花咲く頃、新しいものに飛び付き古いものは捨てろという思想 ]

 

今村有希
(頷く)

 

西部邁
classic(クラシック)ってあるでしょう。

 

今村有希
はい

 

西部邁
日本人は「古典的」としか言わないけど、classicって何だとむかし調べてみたら面白くて、

 

今村有希
はい

 

西部邁
もちろん「古典的」「古いもの」って書いてあるけどね、2番目か3番目の意味で『上等』(=classic)って書いてあるの。

 

佐伯啓思
あぁ〜、class(クラス)ね。

 

西部邁
えぇ。厳密に言うとね、やっぱりclassic(クラシック)本当の意味はね、古くて良いものを守る特定の社会階級が無ければね、

 

今村有希
はい

 

西部邁
文化はダメだと。それを完全に平等にしてしまって猫も杓子もにしてしまうとね、古くて良いものを守る力を社会が無くすという、そういうのがひとつの言葉に表れているんですよね。

 

[*classic「古典的な」「上等な」 古く良きものを守る特定の社会階級が文化に必要 ]

 

今村有希
はい。

 

佐伯啓思
うん、そうですね。ちょっとね、面白いというか、矛盾しているのはね、

 

西部邁
うん

 

佐伯啓思
その “進歩” という概念は本当はアメリカでも成り立たないんですよね(笑)というのは、一方で自由と平等でしょう?

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
自由と平等というのは要するに、「みんなそれぞれ好きなことをやりなさい」という話なんですよね。

 

西部邁
そうなんだよね。

 

佐伯啓思
みんなそれぞれ考え方が違うでしょうと。ある者はゆっくりとしてることが、遊んでることが自由だというふうに考えるし、

 

今村有希
はい

 

西部邁
うん

 

佐伯啓思
ある者は精一杯働きたい。ある者はじぶんの能力を発揮したい。みんなそれぞれ考え方が違うんですよね。

 

西部邁
そうだね。

 

佐伯啓思
考え方が違って、その間に『どれが正しいというふうな序列を付けられないというのが “自由と平等”』ですからね。

 

西部邁
えぇ。

 

今村有希
(頷く)

 

佐伯啓思
ですから、そういう『相対主義』なんですね。で、相対主義の立場に立つと、何が絶対的に正しいと言えないから、

 

西部邁
そうそう。

 

佐伯啓思
“進歩” を計る尺度が本当は無いんです。

 

[*自由と平等は、それぞれの考え方が違う相対主義に絶対的に正しいものが言えず進歩を計る尺度がない ]

 

西部邁
うん。

 

佐伯啓思
相対主義では)“本当は何が進歩かと言えない” んです。

 

西部邁
うん

 

佐伯啓思
言えないからどうなったかと言うと、とにかく新しいものをつくって、技術的に新しいものを生み出した。科学はもうちょっと先まで行きました。それがもう少し新しいものをつくりましたという、その “プロセスが動いていく事が進歩になってしまった” んですよね。

 

[*新しいものを生み出すプロセス動くのが “進歩” とし、良い社会になるのかどこに行くのか全く分からない ]

 

西部邁
あぁ〜。

 

佐伯啓思
だから、どこへ向かって行くのかという、本当の意味で良い社会にになっているのか、一体どこへ行っているのか全く分からない。ただ、動いていくこと自体が良いことだろうというそんな話しですね今は。

 

今村有希
(頷く)

 

西部邁
そうですよねぇ。

 

佐伯啓思
そういう意味では、アメリカというのは本当に “ニヒリズム” と言いますか、進歩を奉じているように見えるけども、本当のところ “進歩というものも信じていない ”。

 

[*“進歩” を奉じているように見え信じていない アメリカのニヒリズム

 

西部邁
criterion(クライテリオン/ クリテリオン)という言葉があって、「基準」という意味ですね。何が良くて、何が悪いかね。

 

今村有希
(うん)

 

西部邁
問題は、この「基準」がどっから来るかと。佐伯先生の前頭葉から出るのか、今村さんの前頭葉から出るのか、

 

[*“criterion”「基準」の意味、その基準はどこからやってくるのか ]

 

今村有希
いやいやいや(笑)

 

西部邁
三者三様の前頭葉をね、出し合った時にさ、

 

今村有希
はい(笑)

 

西部邁
でもね、日本語でもさ英語喋ってもいいんだけど、言葉って我々の発明品じゃないでしょう。

 

今村有希
はい

 

西部邁
どっかからいつの間にやら母を通じて友達を通じて来たものでしょう。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
そしたらね、これも田中美知太郎がむかしチョロっと言ったのだけど、『言葉は必ず過去からやってくる』・・・

 

[*「言葉は必ず過去からやってくる」 田中美知太郎〔哲学者〕 ]

 

西部邁
なんとかスピルバーグやさ、なんとかルーカスは、宇宙からやって来たってな映画作ってるかもしれんけどね、我々を我々足らしめる、人間足らしめている言葉はね、もちろん時代によってどんどん新しく変わっていくんだけども、

 

今村有希
はい

 

西部邁
言葉の全体という基準は、必ず過去からやってくるんですよね。じゃあ3人とも勝手なこと言ってるけど、3人を繋ぐものはね、まぁちょっと時代が違うけどさ、やっぱり「過去」ってものがあってね、何にもないところで、私の勝手、俺の勝手とは違うというね。なんかみんなして共通に考えるべきものとして、我々の “共通の過去” がね、たとえば日本の歴史でも世界の歴史でもあるじゃないかと。

 

今村有希
はい

 

西部邁
どうしてもそこで『歴史』という問題が出てくるわけさ。そこでアメリカが問題なのは、アメリカが出来てもう200何十年経っているんだけどね、

 

今村有希
はい

 

西部邁
何年経とうとも、アメリカ人には歴史が大事だと思う “歴史感覚が乏しい” わけさ。

 

[*歴史が大事だと思う “歴史感覚が乏しい” 1776年の独立宣言から240年のアメリカ ]

 

西部邁
あれね、湾岸戦争の時かな、あのJr.ブッシュが言ってのけたんですよ

 

今村有希
はい

 

西部邁
あの時、東ヨーロッパがソ連から独立してるでしょう、金が無いでしょう。

 

今村有希
(うん)

 

西部邁
それでアメリカがね、アメリカに味方してくれれば援助するぜと言って、東ヨーロッパがワァーッとアメリカ側に付くんですよ。それで西ヨーロッパ側はアメリカにいろいろクレーム付けていたわけ。これが「侵略だ」と西ヨーロッパは分かっているからね。

 

[*東欧州は米国側に付き、西欧州は湾岸戦争を批判 ]

 

今村有希
うん。

 

西部邁
それに対してブッシュJr.がね、「西ヨーロッパは traditional(トラディショナル)である」・・・これね、批難語なんですよ、ブッシュにとっては。

 

[*「西ヨーロッパはtraditionalである」 ジョージ・W・ブッシュ

 

今村有希
うん

 

西部邁
伝統的であるということはね。

 

佐伯啓思
うん

 

西部邁
だから我々(=アメリカ)に反対しているんだと。ところが例の西ヨーロッパにすれば、traditional というのはどちらかと言えば良い意味なんです。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
もちろんね、あんまり古臭ければ日本語だって「因習」と呼んだりね、「頑迷固陋な因習
とも言いますから微妙ですけどね。

 

[*日本でも古臭ければ頑迷固陋な因習となるが、アメリカ人は古いものをすぐに蹴飛ばす ]

 

佐伯啓思
うん

 

西部邁
でもね、アメリカ人はどこかそういう古いものを蹴飛ばすというさ、本当はいろいろあったハズなのに、頓に最近、カネが世を支配するようになってからそうですねぇ。

 

佐伯啓思
そうですねぇ・・・だからそれがいちばん極端に表れているのはね、今の『第4次産業革命』とか言われるようなね、

 

西部邁
うん

 

佐伯啓思
新しい成長戦略みたいなもので、

 

西部邁
あぁ〜

 

佐伯啓思
だからアメリカの場合には、新しい技術というのは全部国から援助がおりて、

 

西部邁
うん

 

佐伯啓思
でその巨大な開発費用を使って、特定の企業が patent(パテント=特許/ pat.)を取って、知的所有権を確保して、

 

西部邁
あぁ〜

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
で、それでそこにものすごく巨大な金が入ってきて、で、その結果がAI(Artificial Iintelligence)とかね、

 

[*新技術は国が援助し特定の企業がpatentを取り、知的所有権を確保し巨大な金を得るアメリカ ]

 

西部邁
うん

 

佐伯啓思
まぁIT革命から人工知能とか、第4次産業革命になってるわけでしょう。

 

今村有希
(頷く)

 

佐伯啓思
で、それドイツもやろうとしてるし、おまけに安倍さんもそれやろうとしているんですよね。

 

[*IT革命から人工知能へと “第四次産業革命” ドイツおよび日本の政府も取り組んでいる ]

 

西部邁
そうなんだよ・・・

 

佐伯啓思
困ったもんですねこれは、ハハハハハ(笑)

 

西部邁
本当にね、これアメリカの問題というのはね、

 

今村有希
はい

 

西部邁
本当は日本の問題でもあるんですよ。

 

今村有希
うん。

 

西部邁
「近代社会」のことをmodern(モダン)というでしょう。これね、model(モデル)=「模型」ね。これ(modern)とね、語源同じなんですよ。

 

今村有希
うん。

 

西部邁
それからmode(モード)というのは様式だけども、あれでしょう「流行」ということも意味するでしょう。

 

今村有希
はい

 

西部邁
それからmodern(モダン)、日本人簡単に近代化近代化なんて言うけどね、

[*近代社会「modern」 「模型」model 「流行」mode と同じ語源 ]

 

今村有希
うん

 

西部邁
「近代化」とは何かと言ったらね、「model」何もかも模型化してしまう、

 

今村有希
はい

 

西部邁
それを何もかも流行化してしまう、mass(マス=大量)というか、これ大量の人々ですけどもね。

 

今村有希
はい

 

西部邁
多くの人々が分かるために、単純なモデル(model=模型)でなければいけないわけさ。

 

今村有希
(うん)

 

西部邁
多くの人々が飛び付くためには、刺激的なモード(mode=流行)でないといけないわけね。

 

今村有希
はい。

 

佐伯啓思
うん

 

西部邁
そしたらね、分かり易い、操作し易いモデル(model)、刺激的な流行(mode)、それに飛び付くのがモダニズム(modernism=近代化)であると。

 

[*分かり易い単純模型「model」が、刺激的に大量に流行「mode」するmodernism ]

 

今村有希
(頷く)

 

佐伯啓思
うん。

 

西部邁
それを日本人はね、明治の頃は相当気を付けてやっていたんだけど、

 

今村有希
はい

 

西部邁
昭和の初めもそうよ・・・でもいつ頃からか、もうともかくあれでさ、戦後15年20年経ってから、もう『日本の Americanization(アメリカナイゼーション)』は凄まじいですからね。

 

西部邁
財界親分衆はしょっちゅうね、こんな莫迦(=馬鹿)を言うんですよ・・・

 

「斯くなる上は、日本をアメリカの51番目の州にしてもらったらどうだ!?」と。

 

今村有希
うん・・・

 

西部邁
もちろん、結構なご意見ですがアメリカが蹴飛ばします。理由は我々1億3千万もいるでしょう。

 

今村有希
はい

 

西部邁
こんな巨大な数の州を持ったらね、

 

佐伯啓思
フフフフフフフフ(笑)

 

西部邁
…アメリカが恐ろしくてしょうがないわけさ。

 

今村有希
ウフフ・・・うんうん(笑)

 

西部邁
で、日本に可能なのは、あのプエルトリコというのは人口300万ぐらいらしいけどね・・・「プエルトリコならいいよ!」と。つまり選挙権を与えないよと。

 

今村有希
はー。

 

佐伯啓思
うん。

 

西部邁
俺たちの保護領ね。「準州」というなら territory(テリトリー)ですね、領土で言えば。

 

[*米国51番目の州にという財界人の莫迦げた話、1億3千万人の人口は選挙で脅威に保護領が関の山 ]

 

今村有希
(頷く)

 

西部邁
投票権与えないよと。

 

今村有希
うん。

 

西部邁
『我々に今や可能なのは、投票権の無いアメリカ人になることです!!』

 

今村有希
(苦笑)

 

西部邁
いや〜だなぁ〜というので・・・終わっていいかな?(笑)

 

一同
(大笑い)

 

西部邁
どうもありがとうございました、また来てください。

 

佐伯啓思
いえいえどうもありがとうございます。

 

今村有希
ありがとうございました。


【次回予告】「ロシア・プーチン大統領の来日で今後の日本は」 ゲスト:岩田昌征〔千葉大学名誉教授〕 木村三浩一水会代表〕 〜西部邁ゼミナール〜

 

 

ポピュラリズム~ アメリカの国柄とはどんなものか② ゲスト:京都大学名誉教授 佐伯啓思 〜西部邁ゼミナール〜

ポピュラリズム~ アメリカの国柄とはどんなものか② ゲスト:京都大学名誉教授 佐伯啓思西部邁ゼミナール〜
ゲスト:佐伯啓思京都大学名誉教授 、著書「反・民主主義論」〔新潮新書〕、『「アメリカニズム」の終焉』〔中公文庫〕ほか多数)

 

【ニコ動】

西部邁ゼミナール)アメリカの国柄とはどんなものか【2】2016.11.19

http://sp.nicovideo.jp/watch/sm30072107?playlist_type=mylist&group_id=37360182&mylist_sort=6&ref=mylist_s6_p1_n223


今村有希
アメリカのドタバタ喜劇を演じた大統領選を受け、アメリカの国柄とはどんなものかと題しまして3回に渡り議論して頂いております。ゲストは京都大学名誉教授の佐伯啓思先生です。

今回は『ポピュリズム』(populism)を中心に議論して頂くことになるかと存じます。宜しくお願い致します。

 

西部邁
あぁ今週も宜しくお願い致します。

 

佐伯啓思
お願いします。

 

西部邁
僕ね、ポピュリズム(populism)でこの間ビックリしたのはね、

 

今村有希
はい

 

西部邁
イギリスがEUを離脱(ブリグジット)したでしょう。

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
うん

 

西部邁
ところが、日本のレッテル貼り的に言えば、いわゆる「サヨク」の人たち、これまで「世論の声を聞け!」とかさ・・・彼らはヨーロッパ合衆国(ヨーロッパ連合:European Union)を理想としてたんだね。

 

今村有希
(うん)

 

西部邁
国の壁を無くして、ヨーロッパは1つなる、そういう麗しい気な話をみんな(サヨクは)支持していたわけ。

 

今村有希
(頷く)

 

西部邁
イギリスが(国民投票=民意を問うて)離脱したことに不満なわけよ。それでね、何を新聞テレビで言ってるのかと思ったら、「こういう大事なことを国民投票にかけていいのか?!」って言うの。怒っているわけよ(笑)

 

[*イギリスのEU離脱をめぐり、国民投票で良いのかと左翼 ]

 

佐伯・今村
(笑)

 

西部邁
いやぁ、いわゆるポピュリストもヒドいもんだなぁと。昨日まで人民の声を聞け!!と事あるごとに言ってた奴が、今日になったらね、人民の声を聞いていいのか?!と言っているわけ。

 

佐伯啓思
フッフッフッフッフ(笑)

 

西部邁
populism(ポピュリズム)の語源と言ったらおかしいけど、いつ頃始まったか。

 

佐伯啓思
populismといいますかね、populist(ポピュリスト)というのは元々は「人民党」という政党なんですよね。

 

[*Populist Paty「人民党」〔1891年 米国〕 農産物価格が下落し経済不況に陥った時の農民運動 ]

 

西部邁
そうだよねぇ。

 

佐伯啓思
えぇ。で、アメリカで「産業革命」が起きてきて、

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
それで鉄道が出来て製造業が段々と力を付けてくる。

 

西部邁
そうそうそう。

 

佐伯啓思
そうすると、農民たちが従来の利益を守れなくなってきて、で、農産物の価格が下がってきて、それに対して一般大衆やら農民たちがかなり不満を持っていて、それで「人民党」というポピュリスト党(Populist Paty)という政党をつくるんです。

 

今村有希
はい。

 

佐伯啓思
で、それがまぁアメリカで政治の舞台で populism(ポピュリズム)という・・・

 

西部邁
それはあれでしょう、本源的には何か何となく sympathetic(シンパセティック=同情的な)

 

佐伯啓思
えぇ、そうですね。

 

西部邁
同情を寄せられる。僕もそうなの。

 

西部邁
グレンジャリズム(Grangerism)・・・granger(グレンジャー)って何だと思う?

 

今村有希
・・・・・。

 

西部邁
どうでもいいんだけど、

 

今村有希
(苦笑)

 

西部邁
穀物という意味。

 

今村有希
あぁ〜

 

佐伯啓思
うん

 

西部邁
つまり「農民」ということ。

 

今村有希
はい(笑)

 

西部邁
グレンジャリスト(Grangerist)ということは「農民組合主義」というかね、製造業を握っていたのは要するにアングロ・サクソン系なのよ。人種問題も絡んでいてね、

 

今村有希
(うん)

 

西部邁
で、農民たちは(北米大陸の)中西部のね、北欧だドイツから来た質実剛健に働いているそういう人間たちがグレンジャー(granger)なのでさ、

 

佐伯啓思
うん。

 

西部邁
ニューヨーカーかなんか知らんけども、カネの力でね、要するに(商品の)値を下げられたりね、それでね、(農作物を)安く買われて、搾取される。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
それに対する抵抗運動として “ポピュリスト”(populist)ね、

 

[*Grangerism:グレンジャー運動 1870年代米中西部 農産物の価格下落による危機に際し起きた農民運動 ]

 

佐伯啓思
うん。

 

西部邁
が起こってきて、別名、“グレンジャリスト”(grangerist)、農民組合(運動家)、なかなかね、頷ける意味だったのね。(→populism、populist)

 

今村有希
はい。

 

西部邁
だからね、僕は頑強にポピュリズム(populism)という言葉を使わないでね、「人気」ね、ポピュラリティー(popularity=人気、大衆性)、だから僕は “ポピュラリズム”(popularism)と言っている。人気主義のことをね。

 

[*“人気主義” のことを “ポピュラリズム” ]

 

佐伯啓思
うん。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
全然、普及しないんだけどね(笑)

 

佐伯・今村
(笑)

 

佐伯啓思
いや、もう「人気投票」という感じになってますね、いま民主主義は。

 

西部邁
うん。

 

佐伯啓思
だけど、ポピュリストの政党とは別に、もう少し前ですけどね、アメリカでジャクソン大統領(※第7代アンドリュー・ジャクソン)というのが出てきて、

 

西部邁
あぁそうだ。

 

佐伯啓思
で、これはだいたい1820年代(※在任1829-37年)ぐらいですね。

 

西部邁
20年代だね。

 

佐伯啓思
えぇ。アメリカをつくったかなりエリートがアメリカの政治をリードしてきたのだけど、

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
ジャクソンという人が出てきて、

 

西部邁
Andrew Jacksonというの。

 

今村有希
(頷く)

 

佐伯啓思
アンドリュー・ジャクソンですね。で、この人は戦争の英雄なんですね、なんか。

 

西部邁
インディアン殺しの英雄!!(笑)

 

今村有希
ハー(驚笑)

 

佐伯啓思
えぇ、そうです(笑)

 

西部邁
アメリカ・ネイティブの、本当にそれを皆殺しにするというので、拍手喝采というとんでもない凶暴な男。

 

[*ジャクソニアン・デモクラシーといわれる民主主義、インディアンを討伐したAndrew Jackson大統領 ]

 

今村有希
はい。

 

佐伯啓思
土地所有者がかなり金を儲けて、それで政治家になろうというので、

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
彼(ジャクソン)はエリートじゃないですから、

 

西部邁
うん

 

佐伯啓思
それで「大衆人気」を引きつけようとして選挙権を拡大するんですね。

 

今村有希
(うん)

 

佐伯啓思
土地所有者にしか選挙権が無かったのが、一般の白人、つまり「貧しい白人層」まで選挙権を拡大してその票を全部取り込もうとして。

 

今村有希
(頷く)

 

佐伯啓思
その時に、選挙戦もかなりどぎつい事をやったみたいですねぇ。金を配ってみたり、それから、お祭り騒ぎみたいな出し物をやってみたり。まぁそんなことをやって、みんなの大衆の人気を引き付けていって大統領になった。

 

西部邁
うん。

 

佐伯啓思
それがアメリカの民主主義のまぁ1つの大きな流れをつくったというふうに言われていて、

 

今村有希
(うん)

 

西部邁
そうそう。

 

佐伯啓思
ですから、まぁポピュラリズム(popularism)というのは、その辺りから民主主義の中にかなり取り入られてますね。

 

西部邁
そうね。ところで、いま先生が仰ったね、

 

今村有希
はい

 

西部邁
『ジャクソニアニズム(ジャクソン・デモクラシー)』というんだけども、物凄く悪い意味での「大衆民主主義」ね。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
それが1820年代から30年代にかけてブアーッと広がる時に、アメリカを訪れたのは、かの有名な・・・一部で有名な(笑)

 

今村有希
フフッ(笑)

 

西部邁
フランスの外交官兼政治家のアレクシ・ド・トクヴィルという人でね、

 

今村有希
はい

 

西部邁
トクヴィルはたった9ヶ月アメリカを旅行してね、人の話を聞いたり、パンフレット読んだりしてて、英語で言えば「Democracy in America」という本を書いて、

 

佐伯啓思
うん

 

今村有希
はい

 

西部邁
その本をちゃんと読むとね、『デモクラシーは否応もなく広がるだろうが、理由は多勢に無勢で多勢派が勝つであろうが、このまま放っておけば、アメリカン・デモクラシーは由々しき事態になる』と。

 

[*American democracy は由々しき事に、フランスの外交官兼政治家のTocqueville ]

 

今村有希
はい。

 

西部邁
ということを、非常に如何にも(トクヴィルは)ヨーロッパのまぁ下級貴族だけどね、上品に書いた書物

 

佐伯啓思
うん

 

西部邁
それはね、いま(佐伯が)仰った、

 

今村有希
はい

 

西部邁
ジャクソニアン・デモクラシーの結末を(トクヴィルは)目の当たりにしてね、これはヒデェ国になるぜと。

 

[*ジャクソニアン・デモクラシーの結末を目の当たりに、アメリカが酷い国になると本質を見抜くヨーロッパ ]

 

今村有希
うん(笑)

 

西部邁
日本で言えば江戸時代で文化文政の頃かな。

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
うん

 

西部邁
もうヨーロッパ人には分かってた、アメリカの本質がね。

 

今村有希
(頷く)

 

佐伯啓思
そうですね。で、いまのトクヴィルが言ってる「どうしてデモクラシーがダメになるか?」は幾つかの理由を挙げていますけど、1つはその『平等性』という、平等というものを建前にしてしまうと、みんなが「自分は平等でなければならないハズだ」と思うから、

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
ほんの少しの違いに物凄く大きな不満を持ってしまって、

 

今村有希
あぁ〜。

 

西部邁
そうだね。

 

佐伯啓思
で、その不満がどんどんどんどん大きくなってきて、それが政治をものすごく不安定にする。

 

[*平等を建前にすると少々の違いを不満に感じ、政治を極めて不安定にさせる democracy ]

 

今村有希
はい。

 

佐伯啓思
それが1つと、それからもう1つはね、やはり経済的な利益を、言ってみれば、優秀な連中が経済的な利益をあげることが出来るですよ。それは事業を起こしてみたり、会社を建ててみたりしてね、利益をあげる。

 

今村有希
はい。

 

佐伯啓思
だけど、そういう利益を上げる者はぜんぜん政治に関心を持たないだろうと。公共精神を持たないだろうと(笑)

 

西部邁
フフン(笑)

 

佐伯啓思
だから、自分のことしか考えなくだろうと(笑)

 

[*優秀な人間は経済的な利益を上げるが政治に無関心、公共精神を持たず自分のことしか考えない ]

 

今村有希
はい。

 

佐伯啓思
そうすると、公共精神が衰退していって政治がダメになるだろう。まぁそういうようなことを(トクヴィルは)言ってますよね。

 

西部邁
まぁそうですよね。ただ彼(トクヴィル)もね、条件を付けてね、

 

今村有希
はい

 

西部邁
「もしも次の2つの条件が満たされればアメリカの民主主義にも希望が無いわけじゃない」と。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
その2つの条件はね、「宗教者」及び「司法家」、法律家ね。

 

今村有希
はい。

 

西部邁

これが、いわゆる輿論から距離を置いて、つまり法律の立場から言えば、「今の輿論はおかしいよ!」と。

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
うん

 

西部邁
或いは、宗教の立場から言って、「(輿論は)気が狂ってるんじゃないの?」と。そういう宗教家と司法家が輿論から独立した立場にいて、輿論に忠告を与えるという活動をしっかりと続けばね、

 

今村有希
はい

 

西部邁
まぁ輿論も少しは矯正されて望みがあるやもしれぬという留保をつけているんだよ。

 

[*宗教家と法律家が輿論から距離を置いて、独立した立場で輿論に忠告を与え続けられる事 ]

 

今村有希
はい。

 

佐伯啓思
うん。

 

西部邁
ところが今や、アメリカではね、evangelism(エバンジェリズム)って知ってる?

 

今村有希
知らないです。

 

西部邁
知らないか。televangelism(テレバンジェリズム)も知らないよね?(笑)

 

今村有希
(顔を伏せながら)知りません(笑)

 

佐伯啓思
フッフッフッフッフ(笑)

 

西部邁
televangelismの「tel」はテレビのテレね。

 

今村有希
テレビ、はい(笑)

 

西部邁
evangelism(エバンジェリスム)は福音派(福音伝道)ね。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
ぼくアメリカで暮らしてた時ね、Sunday-morning、僕らサンデーモーニングというと日曜の朝だと思うじゃない?

 

今村有希
はい

 

西部邁
違うんですよ。あれは「日曜日の礼拝」ね。それをテレビで evangelist(エバンジェリスト)は大演説やるわけさ、ガンガンガンガンね。

 

[*televangelism が日曜日の礼拝 sundaymorning evangelist がTVで大演説をやる ]

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
うん

 

西部邁
それはまさしく輿論を煽りたて、法律家と来た日にはあれはクリントン時代でした?ホワイトハウスはほとんど弁護士界で(笑)

 

佐伯啓思
あぁ〜そうですねぇ

 

今村有希
へぇ〜。

 

西部邁
今もそうなんだろうけど、法律家たちがね、まさしく輿論の扇動者としてホワイトハウスに入っていくわけで。

 

佐伯啓思
うん。

 

西部邁
だから、トクヴィルの挙げた条件は遠の昔に外されててね(笑)

 

佐伯啓思
フッフッフッフッフ(笑)

 

西部邁
まぁpopulism(ポピュリズム)かpopularism(ポピュラリズム)か知らんけども、その権化なわけさ。

 

[*法律家たちが輿論の扇動者としてホワイトハウスへ、トクヴィルの条件は外され “ポピュリズムの権化” ]

 

西部邁
実は人類いまに始まったことじゃなくてね、

 

今村有希
はい

 

西部邁
ちょっと言ってくれよ、大昔からあるんだって。

 

佐伯・今村
(笑)

 

佐伯啓思
ギリシャの昔からですか(笑)まぁギリシャのデモクラシーというのはギリシャ人は一方でね、

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
アテネはデモクラシーで素晴らしい町でと言いながら、他方では、デモクラシーというのはあんまり信じてないと言うか、

 

西部邁
うん、そうね。

 

佐伯啓思
ものすごく権力闘争と、それからものすごいカネが動いているんですよね。

 

西部邁
うん

 

佐伯啓思
ギリシャの場合は市民が一様に対等で平等ですけども、しかしやっぱり有力な政治家というのはやはり「旧貴族」で「金持ち」、それから「戦争の英雄」なんですよ。

 

[*アテネでもdemocracy を信じる権力闘争と金、有力な政治家は旧貴族、金持ちか戦争の英雄 ]

 

今村有希
えぇ。

 

佐伯啓思
だから、実際にはギリシャのデモクラシーだってそんなに上手くは行っていない。で、最初の哲学をつくったプラトンというのは『デモクラシー批判』ですからね。

 

[*デモクラシーは如何に酷い状態をもたらすかを批判、政治哲学の原点であるプラトン

 

西部邁
そうなんだよ!だから、日本の政治学者共を撲滅したいと思うのはね、

 

今村有希
はい(笑)

 

西部邁
政治学の原点はプラトンだろうと。プラトンを読んでみたことはあるのか?プラトンを読めば、如何にデモクラシーが酷い状態をもたらすかから、それが彼の国家論なんですよ。

 

佐伯啓思
うん。

 

西部邁
それについて政治学者は一切触れないのね。

 

今村有希
うん。

 

佐伯啓思
トクヴィルの話で、その弁護士とね、それから福音主義者の話されましたけど、これ今回の選挙とものすごい関係していて、オバマ、それからヒラリーも弁護士でしょう?

 

西部邁
そうだね。

 

佐伯啓思
えぇ、ものすごいエリートなんですよ、こちらは。

 

今村有希
はい。

 

佐伯啓思
トランプの支持層は “反エリート主義” なんです。トランプが福音主義者かどうかはそれは知りませんが、『アメリカの福音派の宗教は、あれほど強い力を持つのは端的に言えば、反エリート主義なんです』よね。エリートに対する不信感で、

 

[*オバマ大統領もヒラリー・クリントン氏も弁護士、トランプ氏の支持者は反エリート主義 ]

 

西部邁
そうね。

 

佐伯啓思
その反エリート主義の言い分も分からなくもなくて、今のクリントンにしろオバマにしろ、あぁいうエリート主義者たちは口では民主主義である平等であるというふうに言いながら、

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
実は自分たちが支配しているじゃないか、自分たちのところにカネが入ってくるようにしているじゃないか。で、そうすると、そういう外されてしまった者が、やっぱりアメリカはもともと福音主義の国で宗教がしっかりしていないとダメだ、道徳がしっかりしていないと、それを持ち出してくればこのエリートたちと対抗出来るというふうに思うんですよね。

 

[*オバマ大統領もクリントン氏も民主平等と言うが、自分達が支配して金が入るようにしている ]

 

今村有希
(頷く)

 

佐伯啓思
今回の選挙の構図というのは、いろんな “アメリカの持ってる切断面” みたいなものが表れていて、

 

西部邁
うん

 

佐伯啓思
1つは『エリート 対 反エリート』

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
でそれから、こちらの『自由民主主義者 対 宗教福音主義者』と言いますかね、そういうものの対立もあるし、

 

[*エリートvs反エリート 自由民主主義者vs福音主義者 アメリカの切断面があらわれた大統領選の構図 ]

 

今村有希
(うんうん)

 

佐伯啓思
で、そういうものがほとんどもう “修復不可能” なところに来てしまったと。

 

西部邁
これね、伊藤貫君のあれで、アメリカ国民の5割は150万円以下の金融資産しか持たない。

 

[*アメリカ国民の半数は金融資産150万円以下 〔ワシントンD.C.在住の評論家/ 伊藤貫 ]

 

佐伯啓思
うん。

 

西部邁
(今村を指して)貴女いくら持っているの?!

 

今村有希
ウフフフフ(笑)

 

西部邁
言わなくていいけど(笑)もっとすごいのはね、65歳以上、佐伯君も65。65で定年だから、

 

今村有希
はい

 

西部邁
65歳以上の引退者の3分の1は貯蓄ゼロである!!という。

 

[*アメリカ国民の65歳以上の引退者の三分の一が貯蓄ゼロ〔伊藤貫〕 ]

 

今村有希
はい。

 

西部邁
本当にそういう意味でね、もう貧困階級がウワァーッと拡がっているわけよ。日本にだっているけどね、(アメリカは)ちょっともう目を覆うばかりのね状態が拡がって、何がデモクラシーだ!?っていうね。古代ローマだってね、ジュリアス・シーザーが現れる。

 

今村有希
はい

 

西部邁
殺されましたけどね、ブルータスに(笑)その後、共和制じゃなくなって帝政になるわけね、皇帝が出てくるわけ。それで最初の50年ぐらいはいいんだけどね、

 

今村有希
はい

 

西部邁
100年も経つとコンモドゥスコモドゥスとも言うけど聞いたことない?

 

今村有希
ないです(笑)

 

西部邁
映画であったんだよな、あんた映画通じゃない?(笑)

 

今村有希
はい(笑)

 

西部邁
(頭が)狂った皇帝なんでさ、もっと言うとね、自分のお姉さんともいわゆる近親相姦をしたり何なりして気持ち悪い映画でしたがね、

 

今村有希
(ギョッ!)

 

西部邁
もうその辺りからともかくローマは乱れに乱れ尽くすわけさ。

 

[*皇帝コンモドゥス時代の混乱を描いた映画「グラディエーター」や「ローマ帝国の滅亡」 / ルキウス・アウレリウス・コンモドゥス・アントニヌス(Lucius Aurelius Commodus Antoninus, 161年8月31日 - 192年12月31日、在位期間180年- 192年)は、第17代ローマ皇帝ネルウァ=アントニヌス朝としては最後の皇帝である。たびたび改名を重ねたことから全名は一定しないが、公文書などでは「ルキウス・アウレリウス・コンモドゥス・アントニヌス」と記された場合が多い。 先帝マルクス・アウレリウスの嫡男(第十一子で六男)であるため、ティトゥス帝以来となる父子間の帝位継承を果たした。加えてアウレリウス・コンモドゥスは紫の皇子の渾名で呼ばれた最初の皇帝だった。紫とはローマの皇帝権を指し、在位中の皇帝を父に生まれたという意味である。wikiより ]

 

今村有希
(うん)

 

佐伯啓思
うん

 

西部邁
そういうことを予知するかのように、『パンとサーカス』って聞いたことなぁい?

 

今村有希
ないです・・・orz(泣)

 

西部邁
ちょっと先生教えてやって下さいよ、こちらのお嬢さんに(笑)

 

今村有希
す、すいません・・・(泣)

 

佐伯啓思
いやいや(笑)要するに、大衆を政治に引きつけるというか、大衆に満足を与える。不満を解消するために、ともかく食べ物と、その食べ物をやった後に見世物で大衆を引きつけておいて、

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
まぁ不満が出ないようにやっていくというふうな政治。

 

今村有希
(うんうん)

 

西部邁
これね、詩人のユウェナリスが言った言葉で、彼ら農民主義者で、それこそさっき言った “良い意味でのポピュリスト” でね、

 

[*パンとサーカス〔見世物〕 詩人のユウェナリス古代ローマの世相を揶揄した/ ユウェナリスの「風刺詩集」 ]

 

今村有希
はい

 

西部邁
人間まじめに働いて、あの場合はローマですからね、農業に専念しろよ!と。そんな街へ出てってね、要するに、奴隷じゃないから “自由浮浪民” なんだな。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
それに皇帝がパンをやるわけさ。そしたら食っていけるでしょう。やることないからサーカス見せろ!と、剣闘士ね、殺し合い。

 

今村有希
はい。

 

佐伯啓思
うん。

 

西部邁
最後はライオンと人間まで闘わせるのよ!

 

佐伯啓思
そうですねぇ

 

西部邁
そういう見世物を見させて、みんなを興奮させるというね。そういう時代を指して、『我がローマは、もはやパンとサーカスの時代に入った』と。日本もそうですけど、

 

今村有希
(うん)

 

西部邁
見本例が、あのUSAになっているわけですよね。

 

佐伯啓思
そうですねぇ。そのサーカス、見世物というのが、ある意味でちょっと極端化すれば『戦争』なんですよねぇ。

 

西部邁
そう。

 

佐伯啓思
だからもう、で、我々もう戦争を結局TVで見てますからねぇ(笑)

 

[*パンと見世物〔サーカス〕 TVで戦争を見る現代 ]

 

西部邁
ハッハッハッ(笑)

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
ほんとに(笑)本当に見世物になってしまって、デモクラシーの最盛期というのはアテネが帝国として植民地をあちこちにつくっていった時代ですよね。ローマの場合も共和制ローマが崩れていって、それで帝国をどんどん拡大していくわけでしょう。

 

今村有希
(頷く)

 

佐伯啓思
民主主義はね、平和主義であるなんていう、なんかそんな話しているのは、これ本当に日本人ぐらいで(笑)

 

西部邁
うん

 

佐伯啓思
民主主義というのは一度、国内で不満が出てくると、それを外に敵をつくることによって、その不満を解消しようとしますから、民主主義の中から大衆が拍手喝采をして独裁者みたいな者を選んでいって、

 

[*民主主義は “平和主義” であるという戦後日本人、国内不満を外に敵をつくり解消するのが民主主義 ]

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
まぁヒットラームッソリーニもそうですけど、大衆が生み出したものですからね。

 

西部邁
そうなんですよ。

 

佐伯啓思
それで外国に対して、まぁaggression(アグレッション)といいますか、侵略攻撃をするということは、それは十分にあり得ることで。

 

今村有希
(頷く)

 

西部邁
20世紀で言うと、第二次世界大戦

 

今村有希
はい

 

西部邁
いわゆる「連合国が民主主義の善で、日本・イタリア・ドイツの三国同盟、枢軸国が独裁制の悪だ!」というのでね、東京裁判やetc…やるんだけど、それ自体が大嘘の嘘!!であってね、

 

[*連合国〔米、英、ソ、中〕が “民主主義” の善で、枢軸国〔独、伊、日〕が独裁制の悪とする大嘘 ]

 

今村有希
うん

 

西部邁
いわゆるヒットラー的、ムッソリーニ的、日本の場合で言えば大政翼賛的な・・・(大政翼賛会は)独裁とは思わないけども、まぁそれを独裁と呼ぶのならば、どっから生まれてきたのかと言ったら、実は一般民衆がね、それこそパンとサーカスを求めるようにしてね、要するに、ヒットラー万歳、ムッソリーニ万歳、日本で言えば軍国主義万歳をやって。これをもしも「全体主義」と言うのならば、ソ連のStalinism(スターリニズム)もそうですけどね、全体主義というのは実は民主主義が限界にぶつかるでしょう。

 

今村有希
はい

 

西部邁
二進も三進もいかなくなった時に、実は国民投票、referendum(レファレンダム)といいますけどね、『国民投票という最も民主主義的な手法で民主主義を自己否定して、独裁者万歳!!を叫ぶ』というね。

 

佐伯啓思
うん。

 

西部邁
『民主主義の成れの果てが全体主義』なわけさ。

 

[*民主主義的な国民投票 referendum で自己否定、民主主義の成れの果てが全体主義

 

佐伯啓思
そうですねぇ。

 

西部邁
そういうことすら日本の政治学、政治記者

 

今村有希
はい

 

西部邁
何も言わずにさ、全体主義反対と。

 

今村有希
うん

 

西部邁
小学校じゃなくて幼稚園だね、ジャップのオツムの程度はね。

 

今村有希
(苦笑)

 

佐伯啓思
フッフッフッフッフッ(笑)いま仰ったことは本当にね、プラトンが「国家」篇の中で論じてることに要するに、民主主義の中でみんなが自由を与えられる、平等だと言われる。

 

今村有希
うん

 

佐伯啓思
だけど、実際にはそれを実現できない人がいっぱい出てくる。そうすると不満が出てくる。

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
その不満を吸収して独裁者というか、まぁプラトンの時代ですから「僭主」と言いますけどね。tyranny(ティラニー

 

[*民主主義の中で自由・平等が実現できない不満を吸収 tyranny 僭主政治が現れる〔プラトン「国家」篇〕 ]

 

西部邁
あぁ。tyrannyね。

 

佐伯啓思
ティラニーですね。センシュというのは野球の「選手」じゃないですよ(笑)

 

今村有希
はい(笑)

 

佐伯啓思
独裁者(笑)

 

西部邁
専制僭主だね。

 

佐伯啓思
専制僭主が出てくる。民主主義はまぁほぼ必然的に僭主制、つまり独裁制に移行していって崩壊するというのが、プラトンのいちばん民主主義に対する痛烈な批判ですね。

 

西部邁
うん。

 

佐伯啓思
だけど、それをどうやって回避できるかというと、まぁ1つはそれだけの「徳」と言いますか、「公共心」を持った市民を育成するしかないだろうと。

 

西部邁
うん

 

佐伯啓思
で、もう1つは、政治から少し離れたところに、もう少し大きな判断力を持ったまぁ彼の言葉でいう「哲学者」ですよね、

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
哲学者がいて、それをアドバイスするしかないだろう。

 

[*“僭主制” の回避には、公共心を持つ市民の育成か、政治から少し離れ判断力持った哲学者がアドバイス ]

 

今村有希
(うん)

 

佐伯啓思
しかしアドバイスしたって、結局、大衆がその政治家を選びますから、

 

西部邁
そう

 

佐伯啓思
大衆のレベルが上がらないと、これはどうしょもないと。まぁそういうことですね。

 

[*大衆が政治家を選ぶので、大衆のレベルが上がらなければならない ]

 

今村有希
うん。

 

西部邁
何かトクヴィルってね、すごい人で、

 

今村有希
はい

 

西部邁
メディア、マスコミは「第四権力」であると言うのね。つまり立法府、行政府、司法府の次。

 

[*立法府、行政府、司法府に次ぐ権力はメディア:アレクシ・ド・トクヴィル

 

今村有希
(うん)

 

西部邁
でもね、彼はこう言っているんですよ。Periodical Press(ピリオディカル・プレス)、定期刊行物、

 

今村有希
はい

 

西部邁
実は「新聞」(定期刊行物=Periodical Press)のことなの当時。週刊誌も含めてね

 

今村有希
はい

 

西部邁
定期的刊行物こそが、primary power(プライマリー・パワー)である。

 

[*「Mediaは primary power である」 Periodical Press “定期刊行物” トクヴィル

 

佐伯啓思
うん

 

西部邁
primary(プライマリー)というのは「予備的」とも訳すし、primary school(プライマリー・スクール)というのは小学校のことだからね。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
基礎的な権力は実は Periodical Press、Paper、新聞その他である。何故ならば、民衆の世論はそれに動かされる。

 

今村有希
(うん)

 

西部邁
そうした世論を動かしている奴はプライマリー・パワーに決まっているだろうと。もう1835年にそのことが言われているのにね、今なお日本人はそれに気付かずさ。

 

西部邁
メディアでこういうことを言うのはなんですけどね、毎日、TVを見て新聞の見出しを見てさ、

 

今村有希
うん

 

西部邁
誰に賛成とか、何に反対とか言ってるわけよ。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
少しは、小さい声で言うが・・・自分のオツムで考えろよ!!ってね。

 

[*トクヴィル「メディアは primary power である」 自らの頭で考えてみる ]

 

今村有希
(うん)

 

西部邁
こちらは京大の先生よ。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
僕だってね、東京大学とかってとこの先生をしてたの。

 

今村有希
はい

 

西部邁
(小さい声で)だからよく知ってるの。我々の教え子たちがね、

 

今村有希
はい

 

西部邁
新聞社、TVの入って記事書いたりなんかやってるのよ。

 

今村有希
へ〜

 

西部邁
小さい声で言う。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
(大きい声で)あんな奴等に大したことが書けるわけがない!!と

 

今村有希
(崩れる)

 

佐伯啓思
ハッハッハッ何故なら先生が大したことなかったからね(笑)

 

西部邁
ワッハッハー理由はそれだね!(笑)

 

一同
(笑)

 

西部邁
冗談で終わりましたが、今日はありがとうございました。

 

佐伯・今村
ありがとうございました。


【次回】“進歩”主義をめぐり- アメリカの国柄とはどんなものか③ ゲスト:京都大学名誉教授 佐伯啓思西部邁ゼミナール〜

 

 

アメリカの国柄とはどんなものか① ゲスト:京都大学名誉教授 佐伯啓思 〜西部邁ゼミナール〜

アメリカの国柄とはどんなものか① ゲスト:京都大学名誉教授 佐伯啓思西部邁ゼミナール〜

ゲスト:佐伯啓思京都大学名誉教授 、著書「反・民主主義論」〔新潮新書〕、『「アメリカニズム」の終焉』〔中公文庫〕ほか多数)

 

【ニコ動】

西部邁ゼミナール)アメリカの国柄とはどんなものか【1】2016.11.12

http://sp.nicovideo.jp/watch/sm30029298?ref=search_tag_video&ss_pos=1&ss_id=cbca8c98-1e55-447f-96df-f5e0baf07935

 

今村有希
史上類を見ない嫌われ者同士の対決となった、ヒラリー・クリントン候補ドナルド・トランプ候補による大統領選挙、“アメリカのドタバタ喜劇” を演じたわけですが(※放送収録時は大統領選挙の結果が出る前)、トランプ氏は大統領選で「アメリカ第一主義」を掲げ、外国の戦争には関わらず、自国の問題を最優先にすると主張しました。

 

そこには、拡大する格差や人種問題、イスラム教圏への軍事介入の大失敗に対する国民の不満が色濃く映し出されています。

 

アメリカの自由民主主義を押し広げ、世界を破壊してきた “アメリカニズム” とは一体何なのか、今回から3回にわたり、京都大学名誉教授の佐伯啓思先生をゲストに迎えまして、アメリカの国柄とはどんなものなのかを論じて頂きます。

 

それでは先生方、宜しくお願い致します。

 

西部邁
あぁ、今日はわざわざありがとうございます。

 

佐伯啓思
ありがとうございます。

 

西部邁
最初にですね、この番組の録画が実は “大統領選の前” に行われておりましてね、

 

今村有希
はい

 

西部邁
たぶんこれが放映される時にはヒラリー、トランプ、どっちか決まっているんですよね。佐伯先生もそうでしょうが、どっちが勝とうがね、急激になんかこうアメリカの政策が変わるわけはないんで。長期には少しづつ変わるでしょうけどね。それぐらいアメリカはもうCIAだろうがペンタゴンだろうが何だろうがね、世界中に網の目広げていますんでね、急に網を切ったり仕上げたりできませんから。もっと広くアメリカ論として、話せばいいだろうとこう思っている。“アメリカニズム” という言葉もね、

 

今村有希
はい

 

西部邁
最初に活字として使ったのは誰であろう・・・この先生(佐伯)なの。

 

今村有希
あー、そうなんだ!(驚)

 

佐伯啓思
(笑)

 

西部邁
それでねぇ、まさかこの先生が使ってると知らなかったのだけど、

 

今村有希
はい(笑)

 

西部邁
踵を接して2番目に使ったのは誰であろう・・・

 

今村有希
(笑顔で西部を指差す。)

 

西部邁
僕なの(笑)

 

佐伯啓思
(笑)

 

西部邁
もうずいぶん前のこと20年ぐらい前のことかねぇ・・・

 

今村有希
へぇ〜

 

西部邁
アメリカニズムの?

 

佐伯啓思
えぇ、終焉というね。

 

西部邁
終焉だったよね。

 

f:id:sakurajimaoyuwari:20161114151223j:image

 

佐伯啓思
えぇ、はい。丁度、最初の湾岸戦争の直後ぐらいですかね、書いたのは。(※『「アメリカニズム」の終焉』〔中公文庫〕佐伯啓思著)

 

西部邁
あぁそうですかね。それじゃあもう25年ぐらい前。

 

佐伯啓思
94年ですね、はい。

 

西部邁
ところで今村さん、

 

今村有希
はい。

 

西部邁
どうしてアメリカは “アメリカ” というと思う?

 

佐伯啓思
フッフッフッ(笑)

 

今村有希
へへへ(笑)一番最初に発見した、アメリゴ・・・

 

佐伯啓思
(小さい声で)ベスプッチ。

 

今村有希
ベス・・・プッチさん?

 

西部邁
左様(笑)

 

今村有希
笑。その方が名付けられた。

 

西部邁
まぁ正確にいうとね、南米にコロンビアという国があるでしょう?

 

今村有希
はい、

 

西部邁
名前からわかるようにね、コロンビア・・・大陸があるじゃあないかと。それを発見したのは本当はコロンブスなの。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
ところがベスプッチがね、ちょっと遅れて発見したにも関わらず、(コロンブスよりも)一足先にヨーロッパに帰ったの。イタリア人ですけどね、

 

今村有希
はい

 

西部邁
それで「俺が発見した!」みたいなことを自分から言ったかどうか、もう大人気でね、講演が相次いで、何たって巨大な大陸があるらしいというのでね、それでね、アメリゴね・・・アメリカでしょう?何かヨーロッパ人にね、美しく聞こえたみたいね、アメリゴ・ベスプッチの「アメリゴ」って言葉がね。“アメリカ” と名づけようじゃないかと。

 

今村有希
(うん)

 

西部邁
ところが数ヶ月後に実はそれが “ウソだった” とバレたわけさ。

 

今村有希
はい(笑)

 

西部邁
だからアメリゴ・ベスプッチというのは別名ね、「詐欺師」って意味なの。

 

今村有希
フフフフフ(笑)

 

佐伯啓思
(笑)

 

西部邁
ねっ(笑)そのことをアメリカ人相手に言うとね、10人のうち2人か3人は知ってて、

 

今村有希
へぇー

 

西部邁
ミスター西部その話はやめてくれと。

 

佐伯・今村
(笑)

 

西部邁
あなたが『アメリカニズムの終焉』(中公文庫)って書いた、

 

佐伯啓思
えぇ

 

西部邁
主要の論点は何でした?

 

佐伯啓思
90年に冷戦が終わってそれで世界中がグローバル化するという、そういう話になりかけた時期なんですよね。

 

西部邁
あぁ、そうだね。

 

佐伯啓思
その時に最初の湾岸戦争が起きて、

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
まぁイラクとアメリカの間に一種の戦争が起きると。

 

西部邁
うん。

 

佐伯啓思
その時に、ぼく初めてアメリカに1ヶ月少し行ってきたんですね。

 

西部邁
あぁそうなんですね。

 

佐伯啓思
はい、初めてアメリカを旅行しましてね、

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
で、ちょうどワシントンで湾岸戦争の勝利パレードをやってたんですよ。

 

西部邁
うん。

 

佐伯啓思
で、その後いろんな場所でいろんなアメリカ人と喋ったり、まぁ政府関係者のような人とも喋ったりしましたけれども、何かみんな一様にあんまり自信がないんですよね。

 

西部邁
あぁ、あの頃ね。

 

佐伯啓思
えぇ。で、湾岸戦争に勝ったぞ!というふうに言ってるわりには、何か将来に対して非常に不安を持っていて、

 

西部邁
うん

 

佐伯啓思
で、まだ日本がこれほど悪くなる少し前なんですよね。

 

西部邁
そうだねぇ。

 

佐伯啓思
えぇ、93年ぐらいですからね。まぁ日本はその後、『失われた20年』という長期的な停滞に入りますけど、

 

西部邁
うん

 

佐伯啓思
まだその前で、アメリカ人と喋っていると「いやぁこれからまだ日本の方がいいじゃあないか、アメリカはもうダメだ」みたいな話をしていて、ものすごくある種の不安に駆られているなぁと
いう感じがしたんです。

 

西部邁
うん。

 

佐伯啓思
で、ものすごく焦ってるなぁという感じがしましてね。

 

今村有希
えぇ

 

佐伯啓思
いわゆる「アメリカン・デモクラシー」というのも、彼ら自身も何かそういうものを信じきれていないようなそういう印象がありまして。ですから簡単に言えば、要するに、『アメリカ型の自由や民主主義でグローバル世界を上手くやっていくというふうなやり方はたぶん失敗するだろう』なぁと(笑)

 

西部邁
うん。

 

佐伯啓思
で、まぁ(※本を出した当時の93年頃は)その入り口でね、そういうふうに入るあたりなんですけど。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
なるほどね。

 

佐伯啓思
えぇ。

 

西部邁
まぁ四半世紀近くアメリカの混乱・衰退はもう目を覆うばかりね。

 

佐伯啓思
うん。

 

西部邁
これはね、実は伊藤貫君って、彼はね、アメリカ(ワシントン)在住ですから、そのうちの一部を言うとスゴいんですよ。この26年間(=1990~2016年)、

 

今村有希
はい

 

西部邁
アメリカ人の9割の実施所得が低下していると。

 

佐伯啓思
うん

 

西部邁
他方ね、トップの0.1%の超富豪の資産評価で言うと数百兆か、数百兆円ずつ増加している。この間、アメリカの労働生産性ね、80%上昇しているのだが・・・いい?

 

今村有希
はい。

 

西部邁
アメリカの平均所得は本当は労働生産性に応じて労働者の賃金もUPするわけ。たった4%しか上昇していない!

 

佐伯啓思
うん・・・

 

西部邁
あとの分、誰が持ってくかというと、上位1%もしくは0.1%ね。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
その巨大な何十兆円、何百兆円と持っているそのうちの6、7割はこれは正確な統計で、特にヘッジファウンダーになってくるとアメリカ重視だと言われているんですがね、彼らが全部持ってくわけさ。そんな巨大な所得格差ね。今村さん、

 

今村有希
はい

 

西部邁
日本の社長とね、MXも社長が居られると思うんだけども(笑)、まぁ社長・重役と平社員ね、

 

今村有希
はい

 

西部邁
まぁ平均の(給与格差は)せいぜい15倍程度しかないんですよ。一般勤労者の所得が年間500万だとすれば、5000万、6000万というのが社長の年収ね。向こうは何倍だと思う?・・・300倍、400倍よ!

 

今村有希
はー!!!(驚)

 

西部邁
それぐらいね、CEOとか言ってさ、Chief Executive Officer(チーフ・エグゼクティブ・オフィサー:CEO)もう巨大なこう(格差)なの。もうそこまで(格差が)開いちゃって。

 

今村有希
うん。

 

西部邁
その連中たちがね、巨大な金を「政治資金」にこれを注ぎ込むわけ。しかも、その7、8割は民主党系らしいのよ。小さい声で言いますが、日本人ね、この間(広島に)オバマが来て、オバマさんバンザーイ!!なんてキャーキャー言ってたけどね、オバマの時代にへっへっへ(笑)ものすごいその政治資金が民主党の側に傾いた。

 

佐伯啓思
うん

 

西部邁
本当、オバマこそはね、

 

今村有希
はい

 

西部邁
オバマこそは)本当にアメリカのその所得格差をはじめとする、そういう社会格差の最後の総仕上げだね。

 

佐伯啓思
うん。

 

今村有希
(頷く)

 

西部邁
それが日本人はね・・・オバマちゃん♪ヒロシマに行ってくれてありがとう♪♪ とか言っちゃって、広島行っただけでね、「オバマさんには核兵器の廃絶を期待する!!」とか言って、新聞の見出し、テレビの見出しでやってる。

 

今村有希
(うん)

 

西部邁
オバマ時代にアメリカは、核兵器関連の財政支出を30%増やしているわけさ!!』

 

今村有希
(うんうん)

 

佐伯啓思
うん。

 

西部邁
ハッキリ言ってね、bullshit!!(ブルシット=デタラメ)って言うの英語で?(笑)

 

佐伯啓思
(笑)

 

西部邁
それアメリカ人みんな知ってるワケさ、だいたいね。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
だからトランプのようなさ・・・まぁ日本で言えばとんでもなくなんて言うの?・・・小さい声で言うけどね・・・どこのゴロツキじゃいってね・・・でもそういう人間にだってブアーッと要は集まったわけ一時ね。

 

今村有希
(うん)

 

西部邁
それから、民主党の第二候補のサンダースなんてのは、自分のことを「社会主義者」と言っているのよ。もうアメリカ人の社会主義嫌いはほとんど病気みたいなモンだけど、社会主義者と名乗ってもね、『こんな所得格差が広がるぐらいならば社会主義でもいい』みたいな気分の奴らが・・・民主党(代表選挙)で落ちましたけどね、

 

今村有希
はい

 

西部邁
もうヒラリーに肉薄するぐらいの票を集める。それぐらい今もアメリカ人は、俺たちもうダメだと。

 

佐伯啓思
普通に考えればね、それは政治的な経験からするとクリントンが圧勝ですよね。

 

西部邁
うん。

 

今村有希
はい。

 

佐伯啓思
問題にならないハズですよね普通なら。まぁ好き嫌いはちょっと別にしても。トランプが大統領になる・ならないに関わらず、ここまで旋風を巻き起こしたこと自体が、非常に重要な話で、

 

西部邁
うん

 

佐伯啓思
今のアメリカを象徴していますよね。

 

今村有希
はい。

 

佐伯啓思
あの今、民主党系に随分政治資金が集まっているって仰ってましたけど、ヒラリー・クリントンはものすごい巨額な政治資金であれだけの選挙戦をやって、で、トランプがまぁ人気があったのは、トランプはまぁ(政治資金は)貰ってるでしょうがね、ヒラリーに比べれば、選挙支援者からの資金は(トランプは)ものすごく少ない。

 

西部邁
うん!

 

佐伯啓思
基本的には「自前」でやってきたんですよね。

 

今村有希
はい。

 

佐伯啓思
(選挙戦を)自分の資金でやってきた、そういうところがトランプがウケた、まぁひとつの理由ではあるんですよね。

 

西部邁
しかもその政治資金は単にヒラリー本人に入るんじゃなくて、“マスメディア” にも入っていくわけね。

 

佐伯啓思
うん。

 

今村有希
(頷く)

 

西部邁
だから、マスメディアは本当にもうAからZまでほぼ全部ヒラリーが得するような報道番組を作りあげるわけさ。

 

佐伯啓思
うん。

 

今村有希
はー(驚)

西部邁
こんな恐ろしい国になっちゃったんだね。

 

佐伯啓思
そうですね。だからトランプが「この選挙は不正が行われている!!」と(笑)

 

西部邁
ワッハッハッ(笑)

 

佐伯啓思
メディアも含めて要するにまぁ出来レースみたいなね、インチキやってるんだと(笑)

 

西部邁
うん

 

佐伯啓思
で、訴えるみたいなことを言っていましたけども、メディアは自分たちの意見を書くこと自体は別に合法ですからね、それは別に問題はないんだけれども、

 

西部邁
うん、まぁそうでしょう。

 

佐伯啓思
その背後まで言うとね、トランプの言いたいことも分からなくはないですよね(笑)

 

西部邁
うん。アメリカってヒドい国でね、一応、法律ではね、個人の政治献金は幾ら幾ら、日本で言えば何十万円って決まっているのよ。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
ところがね、アメリカって面白い国で、憲法があるでしょう?

 

今村有希
はい

 

西部邁
憲法を持ち出して、

 

佐伯啓思
うん。

 

西部邁
「誰に幾ら金を出そうがそれは人間の自由だ!」と。

 

今村有希
うん。

 

西部邁
ね?憲法で自由を保障されている以上ね、こんな憲法なんかはね、(制限・規制を)実行しちゃダメなんだというマスコミが作りあげる世論が支配してね、

 

佐伯啓思
うん。

 

今村有希
はい。


西部邁
大金持ちたちはさ、もう凄まじい献金、何百億円というやつをバンバンやるわけね。しかも、ある奴なんて、ヒラリーに何百億円やると同時に共和党のね、もうどんどんアラブなんか潰しちゃえというね、そういう戦争屋みたいな候補にもまた献金してるわけさ。

 

今村有希
へー。

 

西部邁
もう本当に『カネの世界』ね。

 

佐伯啓思
うん。ずーっとまぁ、アメリカのその政治というのはそういう体質だと。つまり政治とそれから軍と産業が結び付いているというふうにずーっと言われてきて、

 

西部邁
うん

 

佐伯啓思
昔、あの『The Best and the Brightest(ベスト・アンド・ブライテスト)』という有名な本が、

 

西部邁
あぁ〜

 

佐伯啓思
僕らの学生時代ですね。

 

西部邁
要するに、アメリカのベトナム戦争を指揮した国防長官(※ロバート・マクナマラ

 

今村有希
はい。

 

佐伯啓思
そう。だからベトナム戦争と冷戦絡みで、軍と産業と政府がどれだけくっ付いてそこにカネが集中してるかって話を書いた人(※ニューヨーク・タイムズの記者デイヴィッド・ハルバースタ)がいて、

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
その構造がやっぱりずーっと結局は続いているんですね。

 

西部邁
そうだね。

 

[*ベスト・アンド・ブライテスト(The Best and the Brightest)は、「最良の、最も聡明な人々」を意味し、1960年代のアメリカ合衆国ケネディとそれを継いだジョンソン政権において安全保障政策を担当した閣僚および大統領補佐官たちを指す。

 

ニューヨーク・タイムズの記者デイヴィッド・ハルバースタムにより、同名の本が出版された。ベトナム戦争を始めたケネディ政権と、それを継いだジョンソン政権において国防長官を務めたロバート・マクナマラを中心とした「最良の、最も聡明なはずの人々」が、いかにして政策を過ち、アメリカ合衆国ベトナム戦争の泥沼に引きずりこんでいったのか、ホワイトハウスの内情を克明に描いたドキュメンタリーである。/ wikiより ]

 

佐伯啓思
で、一時はその(ビル)クリントン大統領の時には、ウォール街とそれからIT産業とそれから政府が完全に結び付いていると。昔の軍はやはり重工業なんですよね。

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
ところが、1990年代のアメリカはIT産業が発達したから、ITとそれからウォール街、金融街と、それから政府が結び付いていたというふうによく言われて、

 

今村有希
へぇー。

 

佐伯啓思
ずーっとアメリカはそういう体質なんです、結局のところは。

 

西部邁
僕が好きな人で昔のね、ソースティン・ヴェブレンという1929年に死んだ人がいるのよ。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
これね、19世紀から20世紀にかけてのアメリカを牛耳っているのはここに書いた(※板書)ね、captain of finance(キャプテン・オブ・ファイナンス)ね。

 

佐伯啓思
うん。

 

西部邁
financeってこの場合「金融」って意味ですよ。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
captainというのは日本では船長さんのことだけども、まぁこの場合は「首領」という意味ですね。要するに『金融の首領が、首魁が、アメリカを牛耳っていると』、これはもう本当にね、昨日一昨日始まった話じゃないのね。

 

今村有希
(うん)

 

西部邁
今で言えば、100年前からなんだけど、その規模が巨大に広がったわけさ。

 

今村有希
(頷く)

 

佐伯啓思
そうですね。今回のその選挙というのは、かなり重大だということの意味は、

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
そのアメリカだけの話でもなくって、

 

西部邁
そうねぇ。

 

佐伯啓思
世界全体に関わる話だって気がするんですよ。それは簡単に言えば、こういうグローバリズムで物凄い世界的な大競争をやって、でしかも、ITと金融工学だとかね、

 

今村有希
はい

 

佐伯啓思
金融市場、そこで物凄くカネが儲かるような仕組みを作ってしまった。それはアメリカが中心になってやったけど、今はもう世界中がみんなそうなってしまって、

 

西部邁
うん

 

佐伯啓思
そうすると、資本は非常に簡単に移動するから資本の収益率の高いところに一気に資本が流れていく。流れていったところで働いている連中はものすごく得をするのだけども、

 

今村有希
(うん)

 

佐伯啓思
資本が無くなった(引き上げられた)ところはものすごく苦しくなるわけですよね。

 

今村有希
はい。

 

佐伯啓思
だから世界中でどこに行っても格差が開いてきていて、つまり、このグローバルな競争の中で物凄く大きな格差が世界的についてきていて、で、その “象徴的な表れ” がいまアメリカに出てきているってことですよね。

 

西部邁
そうそう。しかもね、アメリカのやっていることはどうもこうみたい。その企業利益が入るでしょう?その利益の90何%を株主が持っていっちゃう。

 

佐伯啓思
うん。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
ということはね、『企業利益・収益を使って設備投資・開発投資をほとんどしない!!』ってこと、アメリカは。じゃあ大変だと思うでしょう?

 

今村有希
はい。

 

西部邁
で、何をやるかと言ったら、その株主資本主義であるその連中たちが、外国の設備投資・研究投資をやって着実に・・・まぁ着実かどうか、いろんなことをやってるやつらを要するに “買収” しちゃうわけよ、乗っ取っちゃう。

 

今村有希
(うんうん)

 

西部邁
そういう形のなんていうの・・・カネでもって自分たちのカネを使ってね、そのカネで設備投資やって世界をリードするというならまだいいんだけど、

 

今村有希
はい

 

西部邁
そのカネを使って、優秀でまぁ効率いいことをやってるやつをカネで乗っ取っちゃうというね、それをやってるのね。

 

佐伯啓思
うんうん、そうですね。

 

西部邁
そういうグローバリズムなんです。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
もう日本なんてまんまとその餌食になっている。

 

今村有希
うん。

 

西部邁
小さい声で言う、僕はザマァみやがれ!!と思ってる。

 

今村有希
(笑)

 

西部邁
言わんこっちゃないだろうと。これだけ佐伯と西部が25年にわたって言ってるのに(笑)

 

今村有希
はい(笑)

 

佐伯啓思
ワッハッハッハッ、まぁそうですねぇ(笑)だから、やっぱりそのアメリカが生み出したグローバリズムをどういうふうに始末するというか、

 

西部邁
うん

 

佐伯啓思
それから、トランプが「世界から身を引く」というのは要するに『反グローバリズム』なんですよね。

 

西部邁
そう。

 

今村有希
(うんうん)

 

佐伯啓思
『もうグローバリズムが上手くいかない』と彼は言っていて、それにあれだけ一般のまぁ普通の白人の労働者が共鳴しているんですよね。

 

今村有希
うん。

 

佐伯啓思
だから、中間からちょっと下ぐらいの人たちが全くそれに共感しているというのが、それがものすごく重要な。で、イギリスがEUから離脱したというのも基本的には同じことです。

 

西部邁
うん、同じこと。

 

佐伯啓思
えぇ。あれの離脱を支持したのもイギリスの中間からちょっと下ぐらいの労働者層なんですよね。

 

今村有希
はい。

 

佐伯啓思
その辺に(グローバリズムの)しわ寄せがきてしまっていて。

 

西部邁
かのTPPってあったでしょう?関税撤廃ね。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
で、あれを擁護する日本のエコノミスト、政治家、役人のほとんど全部(TPPを)擁護していたんだけど、最後の擁護の理由がね、日米同盟を、日本とアメリカの関係をより緊密にするためにはね、要するにアメリカの要求しているこの関税撤廃、グローバリズムと関係ありますが、自由貿易の姿を環太平洋に広げるべきだと。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
ところがその肝心のアメリカがですねぇ、

 

今村有希
(笑)

 

西部邁
トランプ君は、『TPP?んなもんやめちゃえ!!』と。

 

今村有希
(笑)

 

西部邁
ね?それで守る理由もないものはヒラリーもね、

 

今村有希
はい

 

西部邁
それを守ると言うと選挙戦が不利になるから、実際にやるかどうかは兎も角、選挙運動では「私もあんまり(TPP)賛成じゃありません」みたいなことを言っているわけ。

 

今村有希
(うんうん)

 

佐伯啓思
フッフッフッ(笑)

 

西部邁
日米関係強化のためにTPPと言ってた・・・汚い言葉だけど、あのジャップどもは一体何モンなんだってね!?A新聞からZ新聞、AテレビからZテレビまでみ〜んなしてね、日米関係強化のためにと言ってたのよ。ところが肝心のアメリカが、わしゃ知らんと。

 

今村有希
はい(笑)

 

西部邁
ほんとは(TPPなんか)やりたかねぇと言ってるわけ(笑)

 

佐伯啓思
フッフッフッフッフッ(笑)

 

西部邁
もうね、呆れ返ってね、最後に貴女に質問する。

 

今村有希
はい(笑)

 

西部邁
なんかあなた最初さ、「ドタバタ劇」なんて言ったけど、

 

今村有希
喜劇、はい。

 

西部邁
英語でなんて言うか知ってるよね?

 

今村有希
あー、わからないです(笑)

 

佐伯啓思
フッフッフッ(笑)

 

西部邁
slapstick(スラップスティック)というのね。

 

今村有希
はい(笑)

西部邁
slapstick comedy(ドタバタ喜劇)というのよ。

 

今村有希
はい(笑)

 

西部邁
slap(スラップ)というのは頰っぺたを引っぱたくこと。stick(スティック)というのは棒でつつくこと。

 

今村有希
はい。

 

西部邁
あれ舞台の上でね、チャップリンとかなんかが昔やってたけど、サイレントの時代にね。

 

今村有希
はい

 

西部邁
いろんなもん叩いたり突いたりしてひっくり返ってバカげたドタバタ劇。

 

今村有希
はい

 

西部邁
それをslapstick comedyというの。今の大統領選はどう見ても、あのセクハラされたって女が並んだりね、

 

今村有希
(笑)

 

西部邁
お前もやったんじゃないかとか、お前の夫もやったじゃないかとか、

 

佐伯・今村
(笑)

 

西部邁
あれ世界のみんなが見ている中でやってるのよ、アレを。

 

今村有希
はい(笑)

 

西部邁
俺がアメリカ人なら恥ずかしくてね、

 

佐伯・今村
(笑)

 

西部邁
あれ日本語で穴があったら入りたいという言葉があったでしょう?

 

今村有希
はい(笑)

 

佐伯啓思
あぁ〜

 

西部邁
それを公然と全世界に公開している・・・参りました。

 

西部邁
さて、大統領選

 

今村有希
はい。

 

西部邁
これが放映される頃には決まっているでしょうが(笑)

 

今村有希
(笑)

 

西部邁
slapstick comedian(スラップスティック・コメディアン)のどちらかが大統領になっている。めでたしめでたし。

 

佐伯・今村
(笑)

 

西部邁
来週に続きます。

 

今村有希
はい、ありがとうございました(笑)

 

佐伯啓思
フッフッフッフッフッ(笑)

 


【次回】アメリカの国柄とはどんなものか②『ポピュラリズム』 ゲスト:京都大学名誉教授 佐伯啓思西部邁ゼミナール〜

 

「天皇制」論総浚い② - 今上陛下の譲位の御意思を受けて:ゲスト 高森明勅[神道学者・歴史家・皇室研究者]〜西部邁ゼミナール〜

天皇制」論総浚い② - 今上陛下の譲位の御意思を受けて:ゲスト 高森明勅神道学者・歴史家・皇室研究者]〜西部邁ゼミナール〜

 

ゲスト:高森明勅神道学者・歴史家・皇室研究者) 著書『歴史で読み解く女性天皇』(ベスト新書)『日本の10大天皇』(幻冬舎新書)『皇室論 - 伊勢神宮式年遷宮に寄せて』(青林堂)ほか

 

【ニコ動】
西部邁ゼミナール)『天皇制』論総浚い② 2016.10.15
http://sp.nicovideo.jp/watch/sm29839034

 

今村有希
天皇陛下による譲位の御意向を受けて、天皇・皇室のあり方をめぐり広い視野で議論する、「天皇制」論総浚いの2回目です。ゲストは神道学者で皇位継承のあり方について研究されている日本文化総合研究所代表の高森明勅先生です。

今回は、日本の長きに渡る歴史によってもたらされた天皇制、そして皇室の安定的なあり方にまで議論が及ぶものと思われます。それでは先生方、早速宜しくお願い致します。

高森明勅
宜しくお願い致します。

西部邁
あぁ今週も宜しくお願い致します。今日はね、ある程度問題を限定して『皇室典範』にね、

今村有希
はい

西部邁
皇室典範の)改正問題について、高森先生に教えていただこうと・・・というのは、今村さんもご存知と思うけど、

今村有希
はい

西部邁
あの皇室典範にはね、生前退位というか『御譲位』のことは明記されていないんですよね。

[*天皇が崩じたときは、皇嗣が直ちに即位 - 【第4条】皇室典範には、譲位について明記されていない ]

高森明勅
(頷く)

西部邁
従って準法律的に言えばね、皇室典範の改正が必要になるということになるわけですよ。

今村有希
はい。

西部邁
ただ、そこで世間が懸念しているのは、これは皇室をむしろ擁護する人達が懸念しているのはね、どう改正すべきかによって、憲法がどうの皇室がどうのと議論がね、それこそ百家争鳴状態になって、ますます天皇の地位が不安定になる恐れがあると。ここはひとつ『特別措置法』でね、

今村有希
はい

西部邁
今回に限るかどうかはともかくも、今回のこととして特別措置法で処理しようというのが、どうも安倍首相周辺のご意見のようだと。

[*今上陛下の御譲位について、特別措置法で対処を模索 ]

今村有希
はい。

西部邁
それでいいのか?!という議論を高森先生から教えてもらおうと。

今村有希
はい。

西部邁
(高森)先生はあれでしょう?

高森明勅
はい?

西部邁
(皇室)典範改正論者なんでしょう?

高森明勅
そうです。これ以外、出口は無いと。

西部邁
うん。

高森明勅
ただその前にひとつ前提として申し上げたいのは、現在の皇室典範のあり方が必ずしもですね、本来の皇室のあるべき姿と合致しているとは思わないんです。

西部邁
なるほどねぇ、それで。

高森明勅
えぇ。で、『明治の皇室典範の場合、皇室典範は皇室で決める』というですね。

今村有希
はい。

高森明勅
これは当然なんですよね。皇室典範というのは皇室に関する基本法ですから、

西部邁
うん

高森明勅
これをですね、『政府があれこれ言うとか議会があれこれ言うということは一切出来ない』というルールが明治あったんです。

[*皇族会議及枢密顧問ニ諮詢シテ之ヲ勅定スベシ:旧皇室典範【第62条】があり議会は干渉外に ]

西部邁
あぁそれでね、うん。

高森明勅
ですから、私は本来のそのルールに戻すべきだと。

西部邁
なるほど。

高森明勅
あの皇室が自らを律する “自律主義” というんですけどね、そういう国会体制を明治の日本はとっていて、それがまぁ言って見れば “敗戦” までは続いていた。

[*“皇室自律主義” 明治から敗戦まで続く ]

西部邁
うん。

高森明勅
ところが、敗戦下、占領下でですね、GHQの圧力の下で今の憲法ができた時に、要するにGHQは大変な誤解をしていまして、日本の天皇は物凄い強大な権力者だったと。

今村有希
はい。

高森明勅
それからですね、絶対的な神格化がされていたと。

西部邁
うん。

高森明勅
もう日本人は無知蒙昧で(天皇を)神様として崇め奉っていたと。そして(皇室は)巨大な財閥だったと!!

[*GHQによる天皇の誤解、強大な権力と神格化 ]

西部邁
なんかねぇ(笑)

高森明勅
だから(GHQは)皇室財産を全部取り上げろと。そして「人間宣言」をさせて、神格を自分で否定させろと。そして、天皇からあらゆる権限を取り上げて、皇室のことさえも国会が決めるようにですね、

西部邁
うん

高森明勅
民主的なコントロールの下に(天皇を)置いてしまえと、

西部邁
そう。

今村有希
はい。

高森明勅
ということでやってしまっていますから、この形は皇室に対するGHQの誤解、或いは、皇室の存在感をより弱めていこうという意図によるものですから、これはこのまま私は本来は肯定してはいけないと。

西部邁
うん。

高森明勅
日本国憲法の第2条に、皇位の継承の仕方は皇室典範のルールに従えと、

西部邁
そうですね。

高森明勅
そういうふうに憲法に書いてあるわけです、これが憲法第2条に。

今村有希
はい。

高森明勅
そして典範を見てみると、典範の第4条にですね、天皇が崩じた時は、皇嗣が直ちに即位すると。

今村有希
はい

高森明勅
天皇がなくなった時だけしか即位してはいけない」、そうするとこの憲法とこの典範を放置したままですね、今回、天皇陛下が8月8日にですね、あの明らかにされた「御譲位」というものを実現することは・・・少なくとも法律上、憲法上は無理。

[*天皇が崩じたときは、皇嗣が直ちに即位する / 憲法皇室典範を放置したまま譲位は実現不可能 ]

今村有希
(頷く)

西部邁
天皇が崩じられた時に皇嗣が、皇太子がそれを継承すると(皇室典範に)書かれている。でももうちょっと捻くれて読むとですよ、

高森明勅
(うん)

西部邁
今度のような形で生前退位しちゃいけないと禁止されているわけでもないんですね。憲法も含めて法律論の根本にはね、実は法というのは『法の本質は禁止の体系』なんですよね。

[*生前退位を禁じてはいない / 法の本質は禁止の体系 ]

高森・今村
(頷く)

西部邁
今の憲法もそうなっていないのだけれど、つまり今村さんも僕もさ、別に悪党だというわけではないのだけども、

今村有希
はい(笑)

西部邁
愚か者なところはあるしね、ひょっとしたら僕は悪党かもしれないんですよ。

今村有希
ウフフフフ(笑)

西部邁
殺すなかれ、盗むなかれ、騙すなかれというそれこそモーセの十戒でいえばその十戒を犯しかねないところがあるわけさ。

今村有希
はい。

西部邁
で、犯したらですよ、「こういう罰を与えるぞ!」というのが法なわけですよね。そのことを誇張して言うとね、

今村有希
はい

西部邁
『法に禁止されていないことは実はやってもいい』と解釈もできるんですよね。ちょっとそれは強引すぎる?(笑)

高森明勅
え〜〜はい、これはちょっと無理で、

西部邁
わっはっは(笑)

高森明勅
天皇が崩じた時と限定していますから、

西部邁
まぁそうだねぇ・・・

高森明勅
2つしかないんですよ。

今村有希
はい。

高森明勅
天皇が退位した時か、崩じた時か。でも皇位継承って2つしかなくって、崩じた時は即位しろと言ってるので、こちらを変えていないのにですね、いやそれは禁止していないからといってもちょっと無理なのと、

西部邁
無理か(笑)

高森明勅
あとそうした場合ですね、じゃあ退位した天皇ってどういう立場になるのか。

西部邁
うん。

高森明勅
これも典範に「太上天皇上皇)」ということを位置付けないと、

西部邁
うん

高森明勅
略していうと「上皇」その上皇がなくなったときはどういう葬儀をするのかですね、

西部邁
うん・・・

高森明勅
その上皇は皇族のメンバーに入っているのか入っていないのか、皇族のメンバーはこれだけがメンバーですよいうことを典範の中で規定しているんです、実は。

今村有希
はい。

高森明勅
で、そこから洩れてしまうということを考えるとですね、具体的な支障が生じるわけですから。

[*「退位」後の太上天皇上皇としての位置付け / 皇族のメンバーから洩れてしまう問題が生ずる ]

西部邁
なるほど。まぁそれはそうだね。

高森明勅
ただ間違った議論がありまして、憲法変えなきゃいけないという話が早い段階からですね、実はメディアに流されて、まぁ私が意地悪に見ると、どうも読売新聞・日本テレビ系のですね、報道は常に「憲法改正が必要だ!」と。

[*憲法改正の必要性がある / 間違った情報がメディアに ]

西部邁
これはどういう理由ですか?

高森明勅
これはですね、ひとつは水をぶっかけてですね、譲位に向かう世論を押し留めようと。

西部邁
あぁ〜!

高森明勅
だって憲法改正必要だよと言ったら、(世論は)「あぁ無理だなぁ〜」と。

西部邁
あぁ〜。

高森明勅
あとは読売が間違った憲法草案をつくっていると思いますけども、(読売は)改憲派なので。

西部邁
あぁ〜。

高森明勅
あわよくばこれを改憲に利用できないかと。

西部邁
なるほどねぇ。

高森明勅
どちらにしても私は、非常に不純な動機があって、

[*攘夷へ向かう世論押さえる / 改憲利用の不純な動機 ]

高森明勅
でも憲法改正する必要が無いというのがこれまでの政府ですね、昭和46年、47年そして53年、繰り返し政府答弁されていて、典範は改正すれば法律的には可能だと。

[*皇室典範改正で攘夷可能 / 改憲必要なしが政府答弁 ]

西部邁
そうだよねぇ。

高森明勅
わざわざ憲法を変える必要はないというのが今までの(政府の)解釈ですから、憲法改正は必要ないと。ただ特措法だけでやると。

西部邁
うん。

高森明勅
特措法だけでやるとなると、今度は典範に従えと憲法に書いてるのに、典範は変えないで特措法だけでやっちゃえと、一代限りの、

西部邁
あーあー

高森明勅
これは逆に憲法違反になるということで、

西部邁
そうだねぇ。

高森明勅
憲法改正が必要無い特措法はダメ!!

西部邁
うん

高森明勅
ということで、典範改正が王道だろうと。

[*皇室典範の改正が王道 / 特別措置法は憲法違反 ]

高森明勅
私自身も、あの(皇室典範)改正に必要な条文も検討しましたけども、追加すべき条文は一条だけですね。

西部邁
へぇー。

高森明勅
現行の条文を幾つか手直しすればいいというだけであって、一部に報じられて、或いは、識者たちが言ってるような大掛かりな制度変更が必要だというような話にはなりません。

西部邁
うん。

高森明勅
でしかもですね、今の天皇陛下が(昭和)64年の1月7日に即位をして、翌日から「平成」にかわったわけですけども、

今村有希
はい

高森明勅
平成元年の1月9日に、即位後 朝見の儀ということで、

西部邁
あぁ、ありましたねぇ。

高森明勅
初めて天皇として御言葉。『自分は此の度 日本国憲法皇室典範の定めるところにより皇位を継承した』

[*日本国憲法及び皇室典範の定めるところ - 皇位継承 即位後 朝見の儀における御言葉〔平成元年1月9日〕]

西部邁
うん。

高森明勅
という言い方をされていまして、要するにこれは、前近代の歴代の天皇が即位をした時に、『天下の大法に従って自分は即位した』と。

西部邁
うん。

高森明勅
要するに、勝手にですね、

今村有希
はい

高森明勅
恣意的に即位したんではなくて、その古代以来のルールに則ってやっていると。

西部邁
うん。

高森明勅
憲法の定めるところにと言ったって、皇位は『世襲』というですね、そして親から子へ継ぐというルールですから、それに従って自分は即位したということを仰っている。

西部邁
うん。

高森明勅
ところがですね、憲法は勿論ですけども典範も変えないでですね、単独の特措法でですね、これはやっぱり皇位を継承するという重大事を余りにも軽んじていると。

[*皇位の継承は国家の重大事である ]

西部邁
先ほど(高森が)言った明治の時代にね、

今村有希
はい

西部邁
気分的に言うと戻して貰いたいということがあるもんだから言うのだけど、皇室典範の改正が必要でもね、ただの1行以上書いたことは、皇室内部の事情により、変更されることもあるべしと。

[*皇室典範改正 皇室内部の事情によって変更されることもあり得べし - 条項の追加で十分 ]

今村有希
はい。

西部邁
ただ、本当はそこは書かなくていいんだけど、条件もあってね、俗世の世界と皇室の世界というのは先ほど言ったように繋がっているわけですよ。

今村有希
はい

西部邁
条件というのはね、まぁこれは結論飛んじゃうけど、天皇は日本国家の象徴である。言葉を変えれば、文化的なHead(ヘッド)=元首であると。それでね、政治的な元首は、実は総理大臣でいいと。

今村有希
はい。

西部邁
しかしこれは通底で政治は何やってるかといったら政策を決めてるわけさ。あれ勝手にサイコロで決めてるんじゃないんですよ。

今村有希
はい

西部邁
ある「日本人の価値観」を基準にして、これは良くてこれは悪いということになるでしょう。じゃあ日本人の価値観は何なんだと、価値観はどこから来たんだと、転々と行くとその象徴の問題に、文化の問題に結び付くという意味で、文化元首と天皇元首はどこかで繋がっている。

[*天皇は “文化的元首” “政治的元首” は総理大臣 / 日本人の価値基準をめぐり文化的象徴と通底する ]

高森明勅
(頷く)

今村有希
はい。

西部邁
条件というのは、政治的元首、もっというとね、本当は内閣でもいいんですけども、そういうところと皇室の連絡がね、ちゃんと取れている限りですよ、皇室典範はいま書いてあることが基本だとしても、それに変更することも、皇室の事情によってあり得べしと、いうごく曖昧な1行を付け加えてそれで話はおしまい!!・・・とするのはダメですか?

[*文化元首〔天皇〕と政治元首〔首相〕が連絡取れている限り、皇室の事情によって典範を変更することもあり得べし ]

高森明勅
・・・苦笑。

西部邁
ダメだと彼(高森)は言うんだよ(笑)

今村有希
(笑)

高森明勅
いや、状況としてまず政府自体が皇室を、その聖なるですね、存在として、

西部邁
うん

今村有希
はい

高森明勅
聖域として扱っているのかと。

[*政府が皇室を聖なる存在として扱っているか ]

西部邁
(頷く)

高森明勅
現在の安倍政権のやり方というのはたいへん不安がありまして、宮内庁の幹部人事というのは他の象徴と違ってですね、その政治的な任用をしないんです。

西部邁
うん。

高森明勅
というのは、天皇を直接お支えするのが宮内庁ですから、

今村有希
はい

高森明勅
この宮内庁に政治的な人事を行うということは、その天皇を政治に巻き込むということになりますから、

西部邁
うん・・・

高森明勅
これまでの内閣は、実は法律上は可能であっても、直接ですね、総理大臣・首相官邸が手を突っ込むようなことは避けてきた。

[*政治的な任用をしない / 宮内庁の幹部人事をめぐり ]

西部邁
うん、なるほどね。

高森明勅
ところが、今回初めて、

今村有希
はい

高森明勅
官邸の幹部職員を直接、宮内庁の次長に入れたんです。

西部邁
あぁ〜。

高森明勅
今まではだいたい各省庁の次官まで昇りつめて、それで民間に天下って1回政治的な臭みをきれいさっぱり洗い流した人が、宮内庁の次長に入って、それで皇室のルールを身に付けて長官になると、

西部邁
なるほど。

高森明勅
ということをやっていたんですけども、官邸から宮内庁の次長に行ってるんですね。(それで)次の長官という。こういうやり方が罷り通っているということは、非常に私は心配で、

西部邁
うん

高森明勅
だから、そういう面でもやっぱり皇室典範とか、或いは、宮内庁自体をもっと政治から離すという知恵が逆に必要。

今村有希
(頷く)

西部邁
なるほどね。

高森明勅
今回は緊急の場合ですから、もう陛下が平成30年ということを仰っていますので時間もありませんから、これはやるしかないんですけども、

今村有希
はい

高森明勅
本来であれば、宮内庁の位置付けであるとか、或いは、皇室典範の位置付けなんかもやっぱり考える。

西部邁
そうですね、本来はそうですね。

高森明勅
はい。

西部邁
これはどうです?もうね、最近はあまりちょっと下火ですけどもね、『男系相続』となってて、

今村有希
はい

西部邁
要するに女帝ね、が問題だと。そのうちに女系はもっと問題だと。なんならば、女系が、こんな下品な事いうと昔なら不敬罪になるけども、

[*女帝女系天皇をめぐり巷間に広まる狭量な話 ]

今村有希
はい

西部邁
その女性が・・・ちょっとホリエモン君って会ったことないんだけど・・・ホリエモン君にも失礼だな(笑)

高森・今村
(笑)

西部邁
ホリエモン君と結婚した形で女系を認めていると。

今村有希
はい

西部邁
こんなことも起こりかねないじゃないかみたいなことも巷間で議論しているわけですよ。そういうことをも知った上で言うんですけどね、やはり皇室というファミリーがね、

今村有希
はい

西部邁
つまりさ、男ひとりでは何ともしがたいんですよね。でしかも、男ひとりでは子供を産めないでしょう?

今村有希
はい

西部邁
それのみならず、ひとつの儀式だってね、天皇と皇后と相協力して、或いは、(皇室)ファミリー全体としてやっているわけですよ。とてもおひとりじゃ出来るようなそんな軽いお仕事じゃないわけですよ。

そうならば、考え方から言うとね、天皇論、天皇論ということになっているけども、それでいいんですが、天皇は実は『皇室の代表者』であると。こう考えて本当に大事なのはね、sacred family(セイクリッド・ファミリー)というか、半ば『聖なるファミリー』として考えられる皇室ね、

[*天皇は皇室の代表者、sacred 聖なるファミリー ]

今村有希
はい

西部邁
この歴史的連続が大事であって、そのことを確認すればね、女帝であるか女系であるかというのは少なくとも二義的三義的な問題である。

今村有希
(頷く)

西部邁
もしも国内の統合の象徴だけを考えれば、

今村有希
はい

西部邁
女性の方が遥かにある種の統合能力ね。(今村を指して)見てごらん・・・微笑ひとつでね、

高森明勅
(笑)

今村有希
(照笑)

西部邁
えっ?男共をたぶらかすだとかさ(笑)

今村有希
(笑)

西部邁
例えが、言葉が悪いけどね(笑)

高森明勅
それセクハラかもしれないですね(笑)

西部邁
(頭を押さえながら)セクハラか・・・(笑)

今村有希
(笑)

西部邁
なんかそのねぇ・・・英語でじゃあ言おう。Integration(インテグレーション)というんですけどね、

今村有希
はい(笑)

西部邁
大体の家庭・家族そうでしょう?家庭内部のね、この場合でいえば国民統合ですよ、それはやはりね、女性的な能力の方が人によりますけども、平均でいえば優れていると言えなくもない。

[*Integration 統合、女性的な能力の方が優れる ]

今村有希
(頷く)

西部邁
だから、女帝であっても一向に構わない。それから、民間から入ってきたって今の皇后陛下がそうですけどね、民間から入ってこられたけども、ともかく見事にね、その聖ファミリー、sacred family としてのですね、皇后としての仕事を見事にこなしているわけね。

[*聖 sacred ファミリーとして皇后陛下の見事な仕事 ]

今村有希
はい。

西部邁
それはもう見事ですよ。

高森明勅
(頷く)

西部邁
僕はそのね、聖ファミリーとしての皇室が大事なんだということから考えると、もっともっと皇室典範は “聖なるという条件を守りつつ” も、やはりそのあんまりせせこましくね、天皇の血統の連続とか何とかというところに論点を絞るべきじゃないと。

[*皇室典範は聖を守りながら、狭い論点に絞るべきでない ]

高森明勅
これものすごい大事なテーマで、

今村有希
はい

高森明勅
陛下御自身が譲位を望むということを仰られているので、それの緊急の対応と思われてそちらを優先的に取り組まれていますけども、実はそれに劣らずですね、実は時間の余裕も無い。

西部邁
うん。

高森明勅
でしかも、重大さからで言えば、“皇室そのものの存続に関わる事柄” ですから、今のですね、皇位継承のルールというのは “日本史上かつてない窮屈なルール” になっていまして、皇室の血筋、皇統である、男系である、男子である、

西部邁
うん

高森明勅
そして、現に皇族であって、しかも嫡系、要するに正妻の子供でなければならない。

[*皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する、皇族であり嫡系、正妻の子でなければならない ]

西部邁
なるほどね。

高森明勅
要するに、明治の典範で「男系の男子」という縛りを初めてつけたんですよね。

今村有希
(うん)

高森明勅
でさらに今回、嫡系、世の側室という制度が無くなって、正妻から必ず1人以上の子供が産まれなければ続かないと。

今村有希
はい。

高森明勅
こういうルールでやっていてはもう存続出来なくなることは自明なんですね。

西部邁
そうでしょうね。

高森明勅
で、明治以前のですね、形式上ですけども、法制史上最高の法的位置にあったのは、実は奈良時代に制定された『養老律令』(※藤原不比等)なんですよ。

西部邁
ほぉー。

高森明勅
これは面白いんですけどね、その養老律令の規定を見ると、女帝の子供は親王として皇位継承権があると、

[*奈良時代の “養老律令” の規定では女系を容認、女帝の子供は親王として皇位継承権がある ]

今村有希
はい

高森明勅
こういう規定が入っていて、実は前近代はですね、女系を容認していたんですよ。

西部邁
なるほどねぇ。

高森明勅
それを明治の典範で狭めて、今の典範でもっと狭めていると。それをですね、まともな形に広げていけば・・・だって側室と男系限定がセットだったわけで、で、側室というのは今後あり得ませんからね、

今村有希
はい

高森明勅
そうすると、やっぱりそこを見直さなければ皇室は存続出来ないと。

西部邁
うん。もういろんな人の意見をこう眺めてきててね、本当に今日お呼びした高森先生のご意見が歴史の系譜を踏まえていると同時に、論理的理論的にいろいろと consistent(コンシステント)=整合的、かつね、今の皇室の現状が抱えている困難をね、

今村有希
はい

西部邁
乗り越えるのに非常に現実的な対応策でもあると。今日の締め括りの司会者としての言葉は、皇室問題についてはこれ以上、西部も含めて高森先生以外の発言を禁じると!!

高森明勅
(驚く)

今村有希
(笑)

西部邁
というので締めていいですか?(笑)

高森明勅
はい(笑)

今村有希
ウフフフフ(笑)

西部邁
2週間ありがとうございました。

高森明勅
ありがとうございました。お世話になりました。

今村有希
ありがとうございました。

【次回予告】青山恵子の日本の歌教室 “維新の唄” :ゲスト 青山恵子[声楽家メゾソプラノ]〜西部邁ゼミナール〜

 

「天皇制」論総浚い① - 天皇陛下の譲位の御意思を受けて:ゲスト 高森明勅[神道学者・歴史家・皇室研究者]〜西部邁ゼミナール〜

天皇制」論総浚い① - 天皇陛下の譲位の御意思を受けて:ゲスト 高森明勅神道学者・歴史家・皇室研究者]〜西部邁ゼミナール〜


ゲスト:高森明勅神道学者・歴史家・皇室研究者) 著書『歴史で読み解く女性天皇』(ベスト新書)『日本の10大天皇』(幻冬舎新書)『皇室論 - 伊勢神宮式年遷宮に寄せて』(青林堂)ほか


【ニコ動】
西部邁ゼミナール)『天皇制』論総浚い① 2016.10.08
http://sp.nicovideo.jp/watch/sm29794486

 

 

今村有希
今回は皇室問題について造詣が深い神道学者の高森明勅先生にお越し頂きました。高森先生は現在の皇位継承のあり方について、歴史的な背景を紐解きながら女性宮家などの創設など、積極的な提案をしておられます。


さて、ことし8月8日、天皇陛下が譲位を望まれる御気持ちが強く滲む御言葉を御示しになりました。いわゆる生前退位の御意向を受け、皇室典範の改正や特別措置法など、狭い意見が巷に広まりつつあります。


そこで当番組では戦後の日本国家において思考停止に陥ってきた天皇と皇室の関係について「天皇制」論の総浚いとして議論を試みたく存じます。それでは先生方、宜しくお願い致します。


高森明勅
宜しくお願い致します。


西部邁
あぁ〜どうも先生有難うございます。僕この方面の専門家じゃないので、最初にね、僕はだいたい天皇のことをこんな風に考えているんだと。でもくどいことを言うとね、高森先生にご発言頂きたいのに時間を取っちゃうんでね。


今村有希
はい。


西部邁
ぼく随分からこんな風に思っていたんですよ。(板書を指して)このだいたい丸のところがこれに書いてるように、これは「俗世」ですけどね、英語で言うとsecular(セキュラー=俗人)、やっぱり俗世の根本規範を示すのが(丸の中にある)「憲法」であると。で、国民は憲法から出来る法律に従って生きると。


[*俗世 secular の根本規範が憲法


西部邁
ところが、憲法なるものはね、あれは第一章ですけども、


今村有希
はい


西部邁
天皇は国民統合を象徴するという。ところが、「象徴」というのはね、明治憲法ですと「神聖」と書いてありますけどね、


[*天皇は日本国の象徴であり日本国民統合の象徴・・・ / 天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス【明治憲法第3条】 ]

 

高森明勅
はい


西部邁
この「象徴」というのはあの・・・サインの記号や、或いは、シグナル、標識とは違ってね、『何程かは俗世を超越する』ね、


高森明勅
うん。


西部邁
そういうことに関わるんですよ。だから(真ん中に「憲法」と書かれた円は)口を開いていてね、だからここにsacred(セイクリッド)=聖なるということですけども、この(sacredとsecularの)境界線上に御座しますのが天皇であると。


[*聖 sacred と 俗 secular 境界線上におわす天皇


西部邁
それがもともと世を辿っていけばご存知のように神話に通じていて、天照大御神、あれ天照大御神が太陽神と先祖神の合体だというふうに思われますけどね・・・まぁそんなことはともかく、そういう俗世を超えた話にのぼっていくと。


今村有希
うん。


西部邁
これは今日のテーマじゃないけど、下へおりてくと、


今村有希
はい


西部邁
今の日本国憲法には無いんですけどね、普通でしたらこの俗世の世界がね、憲法の世界が、例えばものすごい戦争状態かなんかで、ここに書いたようにcrisis(クライシス)=危機に見舞われた時には、ここ(丸の中の「憲法」から下方へ口を開けたところに) に書いたように「非常事態」です。『非常事態では憲法は停止される』わけですよね。ちょうどここに天皇が現れると似たように、非常事態条項ではある種の『独裁権』を持った、一種の『非常大権』と言うのですけど、そういうものがあらわれると。これは憲法と皇室とまぁ今日はこっち(非常事態)は論じませんが、非常事態というね、そういう構造になっているんだと。

 


[*非常事態時には独裁権、大権を持ってあらわれる ]


西部邁
で僕がここでとりあえず言いたいのは、我々・・・僕なんか俗世のね、どっかにいる1億3000万の1匹なわけだけど、多くの学者たちだってそうなわけですよ。それがね、自分たちの世界(=俗世)を何程か超え出る皇室、でこの(sacredとsecularの)境界線上に御座しまして、時々こっち(俗 secular)に顔出すんですよ。例えば、震災の時にお見舞いの訪問とかね、戦地の御慰問とか、ですから境界線なんだけど、そういうところへおられる方、及び、方々の挙措について御振る舞いについて、


今村有希
はい


西部邁
あれこれ大声であれやこれや丁々とね、軽々しく喋るな!と。それ以上に、何か考え方として何て言うんでしょうか・・・「憲法でこう書いてあるっ!」・・・こっち(憲法=俗世の根本規範)を優先させてね、それでこれに従えとかさ、どうのこうのって議論をね、どっか狂ってるんじゃないかと・・・まぁ最初の発言はこうなんですけど。


[*挙措へ論評と狭き皇室論、暫し沈思黙考を ]


高森明勅
はい(笑)


西部邁
ではもうちょっと演説して下さい先生(笑)


高森・今村
(笑)


高森明勅
大切な点を(西部が)示されたと思いますのが、要するに、日本国憲法の第1条にある『象徴』という言葉、


西部邁
うん


高森明勅
これ一般の方々にだいたい質問すると、「天皇」という言葉を投げかけて何を連想する?という質問をすると、だいたい「象徴」という連想が働くわけですよね。


[*一般的に “天皇” で連想するのは “象徴” ]


西部邁
うん。


高森明勅
それ恐らく日本国憲法第1条、


今村有希
はい


高森明勅
天皇は日本国の象徴であり 日本国民統合の象徴であって その地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」・・・という条文。


西部邁
なるほど。


高森明勅
一国の憲法にですね、その「象徴」という『聖なる用語』ですよね?


西部邁
そうですよね。


高森明勅
(象徴というのは)神聖な概念なんですよね。


今村有希
はい。


高森明勅
日本人は(「象徴」と聞くと)sign(サイン)さっき仰った記号と、象徴の区別がついていないんですけども、


西部邁
ヘッヘッヘッヘッ(笑)


今村有希
はい


高森明勅
その世俗的な用語は「記号(sign)」ですよね。


西部邁
そうですね。


高森明勅
それに対して「象徴」というのはやはり聖なる概念であって、


[*“象徴” とは聖なる概念、世俗の記号とは異なる ]


西部邁
そうなんですよね。


今村有希
はい


高森明勅
しかも「記号」と「象徴」の違いというのはですね、これは『歴史を背負っているかどうか』


西部邁
それです!!


高森明勅
記号というのは、今村さんと私がですね、「これが赤になったら渡りましょうね」という合意が成り立てば、意味を変えることが出来るわけです。


今村有希
はい。


高森明勅
それでも例えば、十字架をですね、これはキリスト教の象徴としてもう古いからなんか替えようよと言ってですね、


西部邁
あぁ〜そうね。


高森明勅
現世の人間だけでいくら合意が成り立ってもおいそれと替えてはいけない。そういう『超越性』をやっぱり背負っているのが象徴と。


[*『象徴とは何か』 歴史、超越性を背負う ]


高森明勅
戦後のそれこそ憲法学ではですね、象徴という言葉をものすごく引き算で考えて。


西部邁
そう。実はアメリカ軍・・・といったって所詮、軍人ですからね、大して教養もない、もっと分かりやすく言えば、ヨーロッパでsymbol(シンボル=象徴)と言えば、いま(高森が)言ったような理解をするのだけど、アメリカというのはなにちょっと数百年前出来た歴史の無い国のあれでしょう?


高森明勅
はい(笑)


今村有希
(笑)


西部邁
言葉の意味そのものがね、アメリカで非常に子供っぽくなっていて、


高森明勅
(頷く)


西部邁
憲法)草案で言うとね、「天皇はシンボルに過ぎない!」という意味で(日本国憲法を書いた)アメリカ軍がまず見做そうとした。それ自体が、まぁ「アメ公」というとアメリカ人怒るから、


高森・今村
(笑)


西部邁
アメリカ人たちの言って見れば言語感覚のレベルの低さでね。


[*アメリカ占領軍は、天皇主義政治の元凶とみて、天皇をシンボル “象徴” に過ぎないと憲法草案へ ]


高森明勅
細かく言うと、


今村有希
はい


高森明勅
GHQのスタッフでですね、民生局(次長)のケーディス(チャールズ・ケーディス)、彼があの「象徴」という概念を採用するのに中心的な役割を果たしたとみられているのですけども、彼もちょっと別々の証言をしていてですね、信用できないんですけど、ある証言では、日本の憲法学者西修に対しては、「それは日本人から聞いた」と。


[* Charles Louis Kades:象徴の概念を採用した中心的な役割とみられる ]

 

西部邁
ほぉー。


高森明勅
要するに、「天皇というのは日本にとって象徴みたいなもんだ」と・・・


西部邁
うん


高森明勅
いう発言を聞いて、(ケーディスは)それに飛びついたと。


今村有希
はい。


西部邁
なるほどね。


高森明勅
というどうも経緯があったようでしてね、そのあたり、あの大日本帝国憲法でですね、天皇は統治権の総攬者であると。それは取り上げるよ、という取り上げるその引き算をして残ったのが「象徴」だったという経緯と、


今村有希
はい


高森明勅
もう一つは日本人が、(天皇に対して)とにかく何か神々しいようなものを・・・神というのは一生懸命にGHQは(日本人に対して)否定しようとするのだけども、ある種の超越性をですね、当時の日本人が感じていたそのあたりと、


[*天皇の統治権の総攬を取り上げる引き算の象徴、神々しさ超越性を感じていた当時の日本人 ]

 

西部邁
うん


高森明勅
後は、ダグラス・マッカーサー自身がやっぱり昭和天皇と会ってですね、


西部邁
うん


高森明勅
ある種、(西部)先生の先ほど仰ったですね、何かちょっと世俗を超えたものを感じてしまった。


[*天皇と会い世俗を超えたものを感じたマッカーサー


高森明勅
要するに(マッカーサー天皇と)直に会っているわけですよ。


今村有希
はい


高森明勅
で、命乞いをすると思って悠然と構えてですね、踏ん反り返って上から目線で見ていたらですね、全く逆の発言が出てきてですね、ビックリしたということを(マッカーサー)本人が証言して、それが学問的に無かったんだという説が一時あったんですけどやっぱりあったと。


西部邁
うん。


高森明勅
やっぱり天皇自身が、自分の身を投げ出して、


今村有希
はい


高森明勅
国民の為に、という発言はあったと見なさざるを得なくて、それに対してそれまで(マッカーサーは)「陛下」ということを言わなかったのがですね、1回目の会見が終わってから「陛下」というふうに。


西部邁
英語で言うと、Majesty(マジェスティー=陛下)ですね。


高森明勅
そうですね、それまでの態度を変えたと。マッカーサーの個人的な「天皇」体験と、


西部邁
うん


高森明勅
それからそのケーディスの、日本人から自分たちにとって(天皇は)そういう存在なんだよと、そういうのを込み込みして、要するに、「絶対的な権力者からは(天皇を)外すぞ」と。しかし無くすわけにもいかなかった、GHQとしては。


今村有希
(うんうん)


高森明勅
無くしたら占領行政が円滑に行かないという現実的な理由もあった。


今村有希
はい。


西部邁
こういうのもあるんですよね。前文にね、主権、先ほど(高森)先生が仰った『主権』、これ原文では sovereign power(ソブリン・パワー)と言うんだけども、直訳すると「崇高な権力」ですけどね。


[*主権 sovereign power 崇高な権力 ]


西部邁
崇高な権力(sovereign power=主権)が国民に存すると書いて、


今村有希
はい


西部邁
天皇の条項でも、「天皇の地位は主権の存する国民の総意に基づく」と。


今村有希
はい


西部邁
それを戦後日本人がね、誤解して、いま生きてる今村さん、ぼく、向こうにクボタってプロデューサーがいますけどね、


今村有希
はい(笑)


西部邁
(現存する)我々の総意に基づくと。


高森明勅
うん。


西部邁
ところがね、先ほど『歴史』ということを(高森)先生は仰ったけども、ちゃんと解釈すればですよ、国民と言ったってさ、先祖も意外と何百何千年のご先祖もいて色んな事を我々に遺してくれているわけさ。


今村有希
はい。


西部邁
その証拠に、日本語って僕らの発明品じゃないですからね。


高森明勅
そうですね、はい(笑)


今村有希
(笑)


西部邁
国民の総意とは何かと言ったら、歴史上の言ってみれば総国民だとそう考えると、それ普通日本人は『伝統の精神』と呼ぶわけですよね。


[*天皇の地位は主権の存する日本国民の総意に基づく、戦後日本人は、いま生きている国民と誤解 / 歴史上の総国民の総意で “日本の伝統の精神” 何百何千年の中で先祖が智恵を残している ]


高森明勅
うん。


西部邁
だとしたらね、本当は天皇のその地位は主権の存する国民の総意、言い換えれば、『日本の伝統の精神に基づく』と、


今村有希
はい。


西部邁
こう解釈するのが我々の天皇観にあっているのみならず、国民だとか主権だとかいう言葉の意味もね、無理なくですよ、あんまり喋っちゃいけないけど、“スマホ遊びしかやっていない!!(怒
”・・・ゴメンなさい、(※手をあわせるジェスチャーで)スマホ会社の人に謝る、


高森・今村
(笑)


西部邁
謝るけどね(笑)、スマホ遊びしかしていない人たちにね、


高森明勅
(番組に)もうCM付かないですね(笑)


一同
(爆笑)


西部邁
・・・崇高な権威(sovereign・power)があるとかって言葉自体がみんなおかしいでしょう。


今村有希
はい(笑)


西部邁
長い何百何千年という歴史に遺した『歴史上の智恵』にはね、崇高と言わなくてもいいけども、何かやっぱりやんごとなきね、尊ぶべきものがあるということには多くの人が同意できる。


[*何百何千年の歴史上の智恵には尊ぶべきもの ]


高森明勅
うん。


西部邁
そういうことを含んでいますよね。


高森明勅
そうですね。よくだから誤解するのがですね、


今村有希
はい


高森明勅
要するに、主権の存する国民の総意に基づくのだから、天皇の代替わり毎に国民投票しなきゃいけないじゃないか、みたいなね、


西部邁
これはだいぶいる!!


今村有希
(笑)


高森明勅
そういう底の浅い議論をする人がいるんですけど、


今村有希
えぇ〜?!(驚)


高森明勅
これに対してはですね、反天皇派の憲法学者、例えば、横田耕一氏(九州大学名誉教授)などでもですね、「いや、そういう意味じゃないんだ。この憲法第1条が維持されている限り、どんな天皇になってもそれは国民の総意によって裏打ちされてる」と。


西部邁
おぉ〜。


高森明勅
そういうふうに憲法は見なしているのだから、


西部邁
そうですよね。


高森明勅
その代替わり毎に国民投票とか、そういう話ではないということを言っていますし、第2条を見ると、『皇位世襲』ということがハッキリ書いてあって、


西部邁
あぁ〜そうなんだよ。


今村有希
はい


高森明勅
皇室の血筋で代々受け継ぐんだと。


西部邁
うん。


高森明勅
まぁそのあたりを見ると、結構、日本国憲法の「第1章」についてはですね、なかなか重要な点は崩していないと思うんです。


西部邁
そうなんですよね。第2条の「世襲問題」とも関係あるんですけど、


今村有希
はい


西部邁
先ほど高森先生が『歴史』ということを仰った。そして、『継承』ね、継承ということは、天皇の生涯、もちろん今度は生前退位ですけどね、


[*なぜ皇位世襲なのか、時代の変化と継承 ]

 

今村有希
はい


西部邁
まぁ普通で言えば、天皇崩御されれば次の代の・・・つまりこれがね、なかなかすごいところで、これも不敬罪にあたるけど昔ならば、


高森明勅
おっ!


今村有希
(笑)


西部邁
未開民族はあれでしょう、象徴はトーテム(totem pole)ですよ、木を削ってね。


高森明勅
はいはい。


西部邁
あれは気が腐るまで何百何千年も立っている、同じトーテムがね。


今村有希
へぇー。


西部邁
いい?


今村有希
はい。


西部邁
キリスト教圏で言うとね、見たことのがないけど、GODとかさ、


高森明勅
(笑)


西部邁
イスラム圏で言うと、


今村有希
アラー(笑)


西部邁
アッラーとかいうね、


高森明勅
会ったことがないですね、まだ。


西部邁
ねぇ。


今村有希
(笑)


西部邁
絶対神』をもってきて、それで歴史を通じてですよ、不変のGODだ、アッラーだとこうやるわけよ。


ところが、日本人の巧みさはね、何程か崇高でありながら、実はその崇高な方々も「生涯」を持たれていて、誕生され、生活なされて、そして死んでゆくというね、


高森明勅
うん


西部邁
それと同じようにね、個人だけじゃなくて時代というものもね、明治の時代は誕生し、そして45年で終わり、で大正に何事かを遺し、で15年で終わり、そして昭和に・・・というふうに『時代の継承』ってありますでしょう、


今村有希
はい


西部邁
そういう意味で、『歴史というのは時代の継承なんです』よね。


高森明勅
うん。


西部邁
それをね、実は天皇は人間であることによってね、実はそういうことも象徴しているんですよね。


高森明勅
うん、そうですよね。


西部邁
これね、ひょっとしたら偶然そうなったのかもしれないけども、歴史的に言えば、やっぱり非常に面白いと同時に見事なある種の国家象徴なんですよね、人間で。


[*現人神や超歴史的でない人間を国家象徴の見事さ ]

 

今村有希
はい。


西部邁
例えば、チベット、いま中国に獲られちゃってますけどね、あれはダライ・ラマというのはなんかこう現人神でね、


高森明勅
うん


西部邁
わーっと国中探して、何かこの少年はすごいらしいと。


高森明勅
うん、要するにその霊を受けているんですよね。


西部邁
そういうんで現人神にしちゃえと。


高森明勅
転生しているというか。


今村有希
(うん)


西部邁
でもね、それもちょっとね、それと比べたらやっぱり『世襲』の方がね、何かを継いでまた受け渡すというね、そういう『時代の歴史性』、『国家というのは時代の歴史性』ですからね、それも象徴しているという意味でね。


[*何事か次の世代へ継承、国家は時代の歴史 ]


今村有希
(うんうん)


西部邁
どういう偶然が重なったのか僕には詳しい事は分からんけども、見事なあるその文化制度なんですね。


高森明勅
うん。今の天皇陛下は125代なわけですよね。


今村有希
はい・・・へぇー。


高森明勅

だから初代の天皇と伝えられている神武天皇から125代、


今村有希
はい


高森明勅
代々替わってきているわけです。日本書紀神武天皇がなくなったのが太陽暦で4月3日だと。


今村有希
はい


高森明勅
でしかも、今年で2600年経っているというのが日本書紀の記述なんです。まぁそのまま私は学問的な立場から信じているわけじゃあないんですけども、日本書紀に基けば2600年前に、ちょうど2600年前の4月3日になくなったと伝えられていて、


今村有希
はい


高森明勅
その日に今年の4月3日、両陛下は奈良県神武天皇の御陵に御参りされているんですよ。


[*初代の神武天皇陵へ 天皇皇后両陛下が参拝 ]


西部邁
んん〜。


高森明勅
そして宮中では皇太子殿下、雅子妃殿下が御出ましでですね、皇霊殿で御祀りをされている。


西部邁
なるほどね。


高森明勅
そういうことが実際に行われていまして、


今村有希
はい


高森明勅
そうやって代々かわっていくのだけども、その間、三種の神器と言われるものがですね、受け継がれている。


[*皇室は代々三種の神器を受け継いでいる ]


高森明勅
だから、昭和が終わって昭和天皇がなくなられて、今の天皇陛下にかわって一番最初に何をやったかというと、『三種の神器を受け継ぐ』という、


西部邁
うん


高森明勅
この行事を最初に行ってまして、


今村有希
はい


高森明勅
で、三種の神器というのは私よく言うのだけども、三種だけども五つあると。


今村有希
はい


高森明勅
要するに、一番中心になるのが「八咫鏡」でこの御本体は伊勢の神宮に御祀りしているわけですね。


今村有希
はい。


高森明勅
ただその御分身がありまして、その御分身が宮中三殿の真ん中にある賢所(かしこどころ)


西部邁
あぁ。


高森明勅
これで二つですよね。


今村有希
はい。


高森明勅
次の「草薙剣」これは御本体は愛知県の熱田神宮に御祀りしてあって、


今村有希
はい


高森明勅
そのやはり分身がありまして、この分身の第一号は壇ノ浦に沈んでいます。


西部邁
ほぉ。


高森明勅
あの源平合戦の時に、安徳天皇と一緒に沈んでしまった。


今村有希
(うん)


高森明勅
ただその第二号が宮中の天皇陛下が御住まいになっている御所の、この御休みになる御部屋の隣の特別な部屋がありまして、


西部邁
うん


高森明勅
そこにありまして。


今村有希
はい。


高森明勅
でこれで四つですよね。で最後が三種の神器の三つめの 八坂瓊曲玉(※もしくは「八尺瓊勾玉」)という玉がありまして、


西部邁
ありますね。


高森明勅
これは本体しかなくて、さっき言った陛下が御休みになる隣の部屋に剣の二番目の御分身と一緒にですね。


[*“三種の神器は五つ” 八咫鏡〔やたのかがみ〕 草薙剣〔くさなぎのつるぎ〕 八坂瓊曲玉〔やさかにのまがたま〕 ]


西部邁
なるほどね。


高森明勅
で、陛下が奈良県に行かれたり伊勢神宮に行かれたりする時は、侍従が持って一緒に旅行するんですよね。


西部邁
あぁそうですか?


高森明勅
はい。そうやって継承を目に見える形で示している。


西部邁
なるほどね。国民一般で言えばね、家族ファミリーをめぐって父、お爺さん、お婆さんというふうに継承していく、


今村有希
はい


西部邁
そういうね、人間の歴史をね、そのいま言った三種の神器、そういう神器を抱きながら『歴史の継承を象徴する』というね、ですから人間というのはこれまた言うとあれだけど、ここ(=板書を指して)で言うと、こっち (俗世secular) から見るとね、(天皇は)当然、俗世から見るから「人間」なんですよ。


今村有希
はい。


西部邁
わざわざ人間宣言されなくたって人間に決まっているわけ。


今村有希
はい。


西部邁
これは実は我々の精神でもあるわけね。


今村有希
うん


西部邁
貴女にだってね、時々だろうけど、僕はもっと時々だけど、やっぱり自分の俗世の金とかなんかの問題を越えて、何か超越ゆえの何か少なくとも眼差しってあるでしょう。


今村有希
はい。


西部邁
勝手に皇室だけが超越しているんじゃなくて、国民の意識のどっかにお寺参りをしたり、神社参りをしたり等にみられるように、何か俗世を越えたものへの気持ちが、少なくとも傾きがあるわけね。


[*国民精神にも俗世を越えた超越性の眼差し傾き ]


今村有希
はい。


西部邁
そういうものを知るのをこう、もしもこっち側(=聖 sacred)から覗いてみたと想定すれば、当然「神」という想念になるわけね。


今村有希
はい。


西部邁
だから「人」であり同時に「神」であるという、そういう意味での『境界人』というね、Marginal(マージナル)まぁ英語で言う必要はないのだけど、Marginal Man、Marginal Family というのはそれが皇室なんだというね。


今村有希
(頷く)


西部邁
なんかそれでね、あとグダグダ議論するんじゃない!!ってのが僕の(笑)


高森・今村
ワハハハハ(笑)


西部邁
(高森)先生は、先生のよう議論はいいんだけどね、あれはもう(笑)


高森明勅
いやいやいや(笑)


西部邁
テレビとか新聞でさ、


今村有希
はい(笑)


西部邁
憲法違反だとかさ、その他いろんなことをね、本当にあったんですよ。


今村有希
はい


西部邁
新聞ってヒドいの。自分の社説じゃなくてね、「投稿者」に恐らく自分の配下の “左翼教授” でしょう、「憲法1条に “国民の総意” と書いてるじゃないかと。そうなら昭和天皇がなくなられたのだから、国民の総意をもう一度問うために “国民投票” をさせて、天皇制が必要かどうかやったらどうだ!」という意見の投書をさせるわけですよ。


高森明勅
(うん)


今村有希
はい


西部邁
それよく覚えてる、ヒデェことやるなぁと思ってさ。しかもそれ “憲法学者” がそう言う。投稿するんですよ。


高森明勅
そのあたりは是非次回(笑)


今村有希
(笑)


西部邁
ということで1週目は天皇でしたが、2週目は多分、皇室問題の改正問題をめぐってもっと具体的な議論をやって頂きます。


今村有希
はい。


西部邁
今週は先生ありがとうございました。


高森明勅
ありがとうございました。


今村有希
ありがとうございました。

 


【次回予告】“天皇制” 論総浚い② - 今上陛下の攘夷の御意思を受けて :ゲスト 高森明勅神道学者・歴史家・皇室研究者]〜西部邁ゼミナール〜