◼︎「国際社会における力 - ウクライナ危機から学ぶべきもの」ゲスト 評論家 中野剛志(西部邁ゼミナール)

◼︎「国際社会における力 - ウクライナ危機から学ぶべきもの」ゲスト 評論家 中野剛志(西部邁ゼミナール)

【ニコ動】
西部邁ゼミナール)国際社会における力 2014.05.18

評論家 中野剛志
【近著】佐藤健志 中野剛志共著『国家のツジツマ』ー 新しい日本への筋立て(VNC新書)

ロシアはウクライナ東部に本気で、ということは、国家の力を奮い起こして取り組もうとしている。

中国も尖閣への進出の手を休めようとはしていない。

それに対し、我が国は「尖閣は日本固有の領土だ!」「国際法を守れ!」と言葉で叫んでいるだけのようである。

【「力の裏付け無き法のむなしさ」】を我々はこれから知らされることになるのだろうか。

のっけから聞いてみたいことがあるんですよ。尖閣問題で先週話したようにね、アメリカは日本を助ける気なんか、ハッキリ言えば毛頭ありゃあせんと。考えていることは、適当に軍事大国中国と、適当にどういうふうに折り合おうかと。押したり引いたり、その中の「一つの駒」としてね・・・いや、将棋の「歩」にすら当たらないな。本当に(実態は)『ほとんどゴミみたいな存在として、日本を扱う』というのが、こないだの日米共同声明だと、言ってもあながち過言ではないと。それに対して、日本人が何の抗議もしていない。

[*中国との適当な折り合い 日本を助ける気はない米国]

ところがね「おかしな人たちだなぁ〜?」と思うのは、遠い遠いクリミアの話。「ロシアがクリミアを編入する」、東ウクライナを巡って、ウクライナは連邦制でいくべきで、ロシア人が6割だか7割だかいる東ウクライナのある意味での「自立」を、そういうプーチンの(背後での)動きに対して、僕の知る限りよ・・・多くの日本人が「なかなかプーチンやるやんけ!」という感じでね。しかもプーチン発言の中で。堂々と「アメリカから文句は言われたくはない!」と。「アメリカはイラクアフガニスタンで(今まで)何をしたんだ?」ってね。そういうことを堂々と発言して、アメリカの制裁発動に対して、退けているわけね。それに日本人は拍手を贈っているわけね。他人に拍手を贈るヒマがあるなら、自分にも拍手を贈ってね、「俺たちも少し本気でやるか」と構えるかと思ったら・・・違うのね。不思議な人たちだ。

[*イラク、アフガンにおける米国のやり方に不快感]

ところであなた(小林:ハイ。)に聞きたいのは、直感でいいのよ、感情でいいのですけども、プーチン君は麻子さんはお好き?お嫌い?

小林麻子
はぁ。顔がいい顔している(笑)

中野剛志
ニヤニヤ。

そうか(笑)やっぱりプーチン人気というのはスゴイですね。僕の周りでは、ほとんど政治に関心ない人でもね、「プーチン?いいじゃない。」という調子の人多いのですよね。

中野剛志
プーチンは、今回の難しいオペレーションを非常に手際良くやったなぁと。あの、いまこれが放送されている時点ではどうなっているか知りませんが、クリミアを併合するまでの過程では、ウクライナ人が1人死んだだけですかねぇ。ほかはほとんど被害を出さずにあっという間に(ロシアへのクリミア併合を)やったわけですね。

で、あそこから遠い国の話のように見えますけども、これは日本にも関係しているし、あの一件から『学ぶべきこと』というのは非常に多いですね。

[*遠い国のことのようで 日本に関係し学ぶ事が多い]

そもそも、なんでああいうことになったかを簡単にご説明しておこうと思いますけども、《もともとはプーチンを刺激したのはアメリカ》なんですね。アメリカが冷戦後に、NATO北大西洋条約機構)という彼らの同盟を東方へ拡大していった。その頃、ソ連が崩壊して、ロシアがやばい状況にある中で、アメリカのNATOが(東方=旧ソ連圏へ)拡大していくのを仕方なく指を加えて見ていた。

で、(その結果)ポーランドとかバルト三国とかが、もともとソ連の領域にあったものがどんどん(NATOに)侵食されていったのを、ずーっとロシアは【我慢】していたんですね。

ところが、あんまりやられると今度はロシアにとって『ロシア本国の安全保障がマズイ』と。2008年だったと思いますが、ついに「グルジアウクライナNATOに入れる予定だ」みたいなことをアメリカ側から発信しちゃったんですね。(西部:あ〜あ。)

[*隣国グルジアウクライナNATO加盟に強く反発]

[*「参考」wikiより抜粋:

ロシアとの対抗上、グルジアのサアカシュヴィリ大統領はグルジアNATO加盟を目指した。2008年4月、NATOは実施時期は未定としながらもグルジアの加盟に合意した。ロシアはそれに対して、「これはNATOの東側への拡張行為であり脅威を感じている」と発表した。ロシアのプーチン首相(当時)も、「NATOの拡張主義にロシアは反対する!」との談話を発表した。というのも1990年、当時のアメリカ国務長官ジェイムズ・ベイカーソ連ゴルバチョフ書記長に対して、「ソ連がドイツ再統一を認めるのであれば、NATOは東側に1インチも進まない」と語っていたからである。ただしベイカーの談話は外交上あいまいな表現を含ませたものであった。//抜粋終わり]

中野剛志
それで怒ったプーチン(当時は首相、大統領はメドベージェフ)は、グルジアウクライナを(NATO=米国側に)獲られたら、喉元にナイフを突きつけられるようなものなので、それで【グルジア侵攻】(2008年:南オセチア紛争、ロシア・グルジア戦争)を行った。

でもその後も、ウクライナにアメリカはちょっかいを出すものだから、今回のガタガタが起きた時に、「親欧米政権(キエフ政府)」がクーデターでウクライナに出来てしまった時に、(ウクライナ領内の)クリミアにはですね、『黒海艦隊』というロシアの艦隊の基地がそこにあるので、ここがNATOの手に落ちると【ロシア側の死活問題】だったということなんですね。

[*ウクライナ親欧米政権誕生 クリミアには黒海艦隊基地]

もうちょっと細かい話をすると、今は何か「プーチン側が力による支配をやっているんだ」と。特にアメリカは「国際法違反だ!」とかガタガタ言っているんですけども、考えてみたら、もともとヤヌコビッチ政権(※クーデターにより追放された【ヴィクトール・ヤヌコビッチ】前ウクライナ大統領)が崩壊して、暫定政権が出来た。それが「親欧米政権」と言われているのですけども、《これ自体がクーデターによるもので「違法」》なんですね。「違法」なのが出来て、それをアメリカが『支持』したんですね。だから、そういった意味じゃ、別にアメリカが「法の支配を守れ!」みたいなことを言える筋合いには無いっていうのが事実で。

で、もっと面白いのは、先週(の放送で)『法だけではダメ。法には「力」が一緒にないと意味がないんだ』という議論をやったわけですけども、こうすると、じゃあ一方にはですね、『国際法の法は全く意味が無くて、力だけなんだ』という論者もいるんですね。

プーチンは、いかにもまぁ「マッチョ」なイメージだから「力だけ」を考えているようにも見えるのですよ。だけど、よく見ているとプーチンは非常に「手際良く」、向こうの問題について非常に「注意を払っている」のですね。

例えば「軍事介入」をした時は、『追放されたヤヌコビッチ大統領の要請だ』という形をとったんですね。もちろん【建前】ですよ。建前だけど、【建前を重視するのが大事】で、力による勝負で済むのだったら、建前なんて重視する必要なんてない。

それから「クリミアを併合」した時もですね、クリミアで『住民投票』をやらせて、『クリミアの住民がロシア側へ行きと言ったんだ』という手続きをとったと。こういうふうにキチッと、もちろん(実態は)いい加減な手続きなんだけども、【一応、建前・手続きをとる】というのが、満更、『世の中、力だけではない』という面でもあるというのが、今回、(プーチン側に)見せられたのですね。

[*ロシアは法的形式を重視 クリミアでは住民投票

「手続きを重視する」ってのね。デモクラシーが法的秩序を与えるときの、一つのあれなんですね。日本人は「それは単なる手続きだ!」と言うけども、実はそれは、【手続きの積み重ねが、ある種の国の秩序のあり方についての正当性の重大な基準になる】、ということを知っているからね。

つまり、「クーデター政権」は、一般的に言えば、デモクラシーから言えば【正当性を持たない】から、「(建前上、正当性のある)前政権からの要請だ」というふうにして、『デモクラシーに繋がる手続き』を踏んで、次に「住民投票」、住民投票というのはデモクラシーの手続きに合っているわけですから、その形式を踏むというね。(中野:そう。)

プーチンのやったことは、一つの【手続き】だけども、『自分に都合のいいような手続き』でもあるわけね。(中野:そうです。)

ということとはね、「法をどういうふうに解釈するか」ね。「運用するか」といったところに必ず【力】が関係してくるんだと。「裁判とは何か?」と考えた時に、「法」があるでしょ?(小林:はい。)それで、(自分自身を指さして)僕は「容疑者」になる「刑事犯」ね。でもね、容疑者ですからね、相も変わらず。で、この容疑が正しいのかどうかってことについて裁判をやるわけね。『法をめぐって法の解釈』ね。こういう解釈に、例えば「この被告人は有罪である・無罪である」とかね。「あるいは、こう解釈すれば、こいつの量刑は実刑である・執行猶予付きである」とか、【裁判そのものが、実は「法の解釈と運用」のプロセス】なんですよね。

[*法廷での裁判とは 法の解釈・運用・再形成]

そういうことすら分からずに「力による支配は反対!」と。あたかも「全てが法によって律せられる」というようなことをね、一般的に言うと『日本人そのものが、この両者の依存関係(※法と力の相互依存関係)ということについて無頓着』なんですね。

中野剛志
「なんで、法と力が依存するのか」って、こう考えるといいと思うのですよ。

『力』というのは、結局、権力というのは、「人間をたくさん動員すること」ですよね、ワァーッと。こっちの方に参戦とか、攻めていくとか。人間を動員する時に【大義】とか【理想】が無いと、納得して動かないというのがある。だから、『力を動かすには、動員するための「大義」とかがいる。なぜ大義がいるかと言えば、人間というのは「大義」とか「理想」とかを抱く生き物。それの為に「命を捧げる」時すらある。生き物だから。』

[*人間を動員するには 大義や理想による納得]

従って、プーチンは「法的な手続き」とか「大義」ってものを全面に出さなければいけなくなった。【出した方が力が強い】わけですよ。そういうことを、今回ウクライナの件で見たなぁと。

もう一つ見えたのは、【経済の影響力】というのも面白くて、「プーチンがクリミアを併合してもすぐに手放すだろう、失敗するだろう」という論者が、『経済系の人たち』に多かった。何故か?「ソ連の頃と違い、今は世界はグローバル化したのだから、(ロシアも)一つの(グローバルな)市場の中にある。従って、プーチンが愚かな行為をやれば、ロシアの主要の国営企業の株が下がるだろう」と。

[*グローバル市場で株下落 ロシアは失敗と経済論者]

昔は、株式市場なんかはソ連には無かったけども今はある。すると、株が下がってしまうと「損」をするから「戦争なんか損である・コストがかかる・馬鹿げている・阿呆だ」という世界になったのに、プーチンは19世紀的に(西部:あ〜そうか。)クリミア併合を行ったと。だから「失敗する」と。

且つ、アメリカにしても、日本の尖閣と同じで『クリミア半島はロシアにとっては大事かもしれないけども、アメリカにとっては何の関係も無い』ので(※ここで中野お得意の吹き出し笑いを放つw)『クリミアごときのために核兵器を持っているロシア軍と激突するのは嫌』だったわけです。

従って、オバマは何をやったかと言うと『経済制裁』を発動したと。で、「この経済制裁を発動すれば、そのうちロシアは干上がってクリミアを手放すだろう」と。こういう見通しだったのですね。実際には、今のところ全くその気配(※ロシアが経済制裁に屈してクリミアを手放す)は無いわけですね。これは何を意味しているかというと、国家の安全保障とか、軍事、あるいは国家の威信が(ロシアにとって)掛っているわけです、クリミアには。その時には、【経済的利益なんか吹き飛ぶ】ということなんですよ。

[*国家の安全保障が掛る時 経済的利益は吹き飛ぶ]

経済の問題をあえて引き寄せるとしてもね、例えば「株価の問題」を追って、いまアメリカを中心として株価はどういうふうに動いているかというと、本当に「短期的なこと」をね、「今年儲かったから、この企業の株はどんどん上がる」と。でも、冷静に考えたら、「今年儲かっているけど、拡張のし過ぎていずれ傷付いて、3年後には倒れるだろう」というふうな「長期的な見通し」を出せば、『株っていうのはその企業の長期的な価値』ですからね。【経済人もエコノミストも長期的展望を見失っていますから、短期的な反応をする】のね。

[*株は企業の長期的な価値 短期的に見るエコノミスト

仮にそうだとすると、ロシアに対してちょっと金融制裁その他があったら、「短期的には不利益ですから株価は下がるだろう」と思うけども、(長期的な見通しを動機に行動する)【プーチンの方がエコノミストとしても立派である】と。(中野:立派ですね。笑)

長期的なことを考えた時に、ロシアの資源をめぐるヨーロッパの長期的関係とか、ロシアの経済の長期的な見通しを安定させるためにも、実はロシア国家そのものがシッカリしていないとロシアの企業はいつ欧米に足元をすくわれるか分からない。そう考えたら、【ロシアの国家を軍事的な意味も含めてシッカリと整えてこそ、ロシア企業の「長期的な利益」は高まるだろう】から、まともに考えれば、ロシア企業の株価もいずれ高くなるだろうというふうに踏んでいると考えればね、プーチンの方が(※短期的にしか物事を見通せない巷のエコノミストや経済学者連中よりも)直感的に立派なエコノミストなんですね。

中野剛志
【「経済力と政治力、軍事力というのは、実は密接な関係にある」】ということです。

[*経済力・政治力・軍事力は 密接な関係がある]

いまのウクライナの情勢を見て、我々は何を学ばなければならないかと言えば、二点あって、❶一点目はですね、これは「TPPの議論」でよく言われる話なんですが、なぜアメリカとTPPを結ぶのかと。「経済的な連携は安全保障にもなるんだ」と、こういう議論をする人たちがいるんですね。

だけども、我々がいまウクライナで見ていることというのは、『経済的な利益をいくら差し出そうが、何をしようが、安全保障、兵隊が命を懸けて戦うというそういう局面において、そんな経済的な利益など吹っ飛ぶんだ』ということを、いま我々はプーチンの行動から見ているわけですね、それが一点目。

❷もう一点目は、アメリカはクリミアのように自分の国の利益とほとんど関係無いようなことをめぐって、ロシアのような強い軍事力を持つ国(※特に核保有国であること)と戦うことはあり得ない。

[*米国は国益にならない 強い軍事国とは争わない]

で、経済制裁をやっているけども「経済制裁が効かなくなっている」、だとすればですよ、もし『尖閣を中国が攻め獲った場合に、アメリカがやってくれることは、良くて「経済制裁」ですよ。』

[*中国が尖閣を攻め獲っても 米国は経済制裁程度]

『中国に対する、将来、そういうことが起きるであろうことがいま、西ユーラシアのあそこら辺で起きている』というふうにしてテレビを観ていないと、生きていけないぞ!と、こういう話なんです。

ウクライナの件がどう日本に影響するか。アメリカとロシアの対立が厳しくなってくる。そうすると何が起こるか。

[*米国ロシア対立による 日本の影響は]

まず、【中東と関係する】んですね。中東の「シリア危機」というのは、ロシアが仲裁をすることで停戦に至ったと。ところが、ロシアはいまアメリカと仲が悪くなっているので、「じゃあ(それを)やらないよ」と言い出す可能性がある。そうすると、中東がもう一回混乱する。「イランの核兵器の問題」も、あれもロシアはイランに影響力が強いので、ロシアが仲介をしていた。だけども、それももうアメリカに協力するのを「やめた」と放り出す。そうすると、(シリアに続いて)イランもヤバくなる。そうすると、中東がもっと地政学的に不安定になると、あそこに『石油・天然ガスを大いに依存して、原発を止めて、ますます依存している日本はどうなるんですか?』という話が、まず一つありますね。

[*中東の地政学が不安定で 資源を依存する日本も影響]

それからもう一つ想像力を働かせると、こんなふうなことも考えられるわけですね。まずロシアは、欧米、特にアメリカとケチがついたので、もしかしたら「経済制裁」とかそういうことで、(ロシアの)経済活動がうまくいかなくなるかもしれない。そうすると、ロシアは天然ガスと石油をどこかに輸出したい。天然ガスと石油をたくさん食いたい国があるわけですね。それは【中国】なんです。

そうすると、『アメリカとロシアの対立というのは、ロシアと中国が接近するという方向に働きますね。』

[*経済情勢が不安定になり ロシアと中国の接近も]

アメリカはロシアと対立する以上は、今まで以上に中国と対立出来なくなる。どうしてか?【中国とロシアの両方を相手にはしたくない】わけですね。そう考えると、『ロシアと敵対関係が深まると、アメリカはますます中国に対して下手(したて)に出る可能性がある』わけですね。【これは非常にまずい展開】で、じゃあ日本はどうすべきか。日本は中国を牽制したい。《従って、安倍首相は、まことに正しいことに、ソチ五輪に行ったりなど、ロシアとの関係改善に一生懸命務めていた》んです。それは、中国の後ろにある、中央アジアにあるロシアと仲良くすれば中国を牽制出来ると考えたからなんですね。

これはまことに正しいですが、【そのロシア戦略が頓挫する可能性がある】、どうしてかと言うと、「日米同盟強化」と一方で言っている、そのアメリカはロシアに経済制裁をしたいわけですね。そうすると日本にも「経済制裁を協力しろ!」と言うに決まっていて、実際に経済制裁を日本もしているわけです。そうすると、『安倍さんの対中国のためのロシア戦略が、破綻しちゃうんですよ。』

【そうすると、ウクライナ危機で一体誰が得をしているのかいうと「中国」だという。】・・・フハハハハ(笑)

そういう話です。

そういう可能性も含めて、20数年前まではね、「米ソの二極均衡状態」だった。90年代はね、「アメリカの一極支配」だと。じゃあ今度は、チャイナだインドだブラジルも含めてね、BRICsが出てくるもんだから「多極分散」だと。

「無極」ということはあり得ないと思うけども、多極が行き過ぎて、「極がどこにも無いんじゃないか」って『非常に不安定な多極状態』になっているね。そう今(中野が)言った可能性は大いにある。

ところが日本人そこらは、なんであんなことをしてるかなぁ〜ということを考えると、「United Nations:国連」というものがあって、今や何か世界秩序は大きな「?」(クエスチョン・マーク)がついているのにね、「国連で世界秩序が決まるんだろう〜」なんていうね、そういう(考え方)のがまだ生き残っているんでしょうね。

でもね、結論を言うとね、国連なんてそもそもね、第二次世界大戦の勝利国がね、アメリカとかイギリスその他がですよ、『世界支配の道具』として作られたのが国連だと言われて致し方ない。その証拠に【常任理事会(常任理事国:P5)】は、そういう構成になっている。

[*戦勝国が世界支配の道具として作られた国連

ところがね、常任理事会はそれこそね、旧ソ連の現ロシアだの、中国だのってのが『拒否権』を持っていますからね、常任理事会すら上手くワークしないとなっているでしょう。

国連はね、世界秩序の形成主体なんかではあり得ない(中野:ありえない。)一度もあったことはないでしょう。ところが、それに漠たる希望を寄せてですよ、「国連があるから、いずれ秩序が出来るんじゃないかな」という調子のことを、国際政治学者が平気で言ってきた。

[*因みに、小沢一郎は代表的な国連中心主義論者であることは有名。小沢一郎は「自衛隊国連平和維持軍に」とずっと言ってきた。護憲派小沢シンパはこの言動は無視なのか?]

中野剛志
平気で言っていますね。

だから彼らは結局、「アメリカに守られている」という暗黙のがあるので、こういう難しいことを考える必要は無かったから、そういう安易なことを言うわけですね。

でも、【多極化するとそうはいかん】ですよね。

例えば、アメリカの今の立場というのは、中国と仲良くしたい・ぶつかりたくないが、ロシアとは対決姿勢を進めている。一方で、日本というのは、中国と対決しているけども、ロシアとは仲良くやったほうがいいと考えている。つまり、【アメリカと日本で立場がひっくり返っている】わけですね。で、日米同盟強化って、どう考えても積み木が組み合わさらない。これはだから、ある意味その『戦国時代』みたいな、いろんなところで合従連衡を、こういう【タフな時代】をやっている時にですね、そんなヤワな「国連がどうの」とか、「力による支配はいけません」とか、なんかそんなことじゃ無理、とても生きてゆけないですね。

簡単な話だけどもね、中野君が言ったようにね、いろんな意味で「制裁」なんてことをアメリカは簡単に言っているんだけども、考えてみたらね、この【制裁】というのは、sanctionz(=制裁)、negative sanctionというのかな、ある行為に対する『負の対価』を、つまりは制裁なんだけど、《世界秩序を形成する世界秩序なんてものは存在しない》わけね。

[*制裁 sanction 遂行する 世界政府は存在しない]

せいぜいのところ、「国連の暗黙の承認」なりね、その場しのぎの一時的な承認のもとに軍隊で言えば「多国籍軍」がつくられるだけでしょう。

「制裁」だって、国連の中の有力国がね、国連の黙認なり何なりのもとにやっているわけです。そうするとね、厳密に言うと「制裁」ってのはあれなんです。『私的制裁』つまり『リンチ(私刑:lynch)』ね。これと本質は変わらないもの。公的な制裁でしたらね、世界の満遍なく通じる、それこそ秩序というのがあって、その価値とか規範の基準があって、それに反した時に「制裁」を課す。しかも、「世界政府による世界警察のようなものが犯人を捕まえてきて、牢屋にぶち込むという制裁」ね。それが普通の制裁だけども、そんなことは無いんですからね。『自分の都合で多数派工作をやるなり、多数派を黙らせて制裁行動に入る』ということが続いているわけですから。だって、イラクがそうだしアフガンだって(中野:そうです。)みんなそうでしょう?これ(※国連という名のもとの「制裁」の実態)は基本的に【リンチ(私刑)】なわけですよ。

[*多国籍軍などによる制裁はlynch 私刑である]

そういうものに、日本はアメリカの言うがままにやっていればね、「そのうちアメリカに助けてもらえるだろう」という。【アメリカはもともとリンチの国】ですからね、日本人のようなリンチを余りやっていないような・・・あっ・・・連合赤軍はやってたっけね?

中野剛志
あはははは(笑)

それはともかくね。そんなもんやすやすと乗っちゃいけないっていうね。でも、これは「アメリカとケンカせい!」と言ってるんじゃないんですよ。そういうことを少なくとも知識人のレベル、言論のレベルではね、一応、自由に議論して「そうじゃないのか?」という問題提起もしてて、あとは政治家はね、リアルポリティクス(Real politics)だから、押し合いへし合いで、黙るべきことは黙っておいてもらって構わないんですけどね。

今のところあれだもんね、知識人が黙り込んでさ、黙るべき政治家たちが、それまでは慣性の法則イナーシャ(Inertia:慣性)でもってさ、『価値観外交』とか言ってやってるわけですよ。最後に、中野先生から【価値観外交】はいかがなものか?の意見を伺って閉じることにします。

中野剛志
ハハハ(笑)

価値観外交ですか。価値観外交は、あれは、あのぉ〜「第一次安倍政権」の時に打ち出されたと。(西部:あぁそうなの。)「普遍的価値観、自由とか民主主義とかを共有する国々との連携がいいんだ」と言うんですけども、いま中国は、そういう価値観を全くアメリカと共有していないんですけども、いまアメリカと中国は近付いていると。

要は、もう【価値観が吹っ飛んじゃっている時代】で、それどころか、安倍総理靖国参拝の後、それこそ『世界中から日本がリンチされちゃった』んですね。だけど、それってのは、日本以外の国々は、【第二次大戦戦勝国としての価値観】を実は共有していたという。だから、変な意味での価値観外交になっちゃっているんです。

そうですよ。よく安倍政権がね、【脱戦後】と。それ自体は立派なスローガンなんだけども、「戦後とは何か?」と言ったら、『アメリカから陰に陽にから、あるいは「陽に陽に」支配されてきた六十数年が戦後』なわけでしょう?本当に『脱戦後』と言うのならば、アメリカとケンカせい!とは言わないけども、アメリカの言うことがどれほどいかがわしいか、あるいは時として、矛盾に満ちたものか、あるいは時として、昨日まで同盟国と言ってた者を「裏切りかねない」のがアメリカであるってことも含めてね、『戦後から脱却しなければいけない』けども、違うんだね。脱却していない。

[*アメリカから陰に陽に69年支配されてきた戦後]

中野剛志
日本もアメリカもかなり行き詰まっていて、一ついい例を挙げておくと、これ面白いのですけども、前回、【集団的自衛権】の議論をして(西部:あぁ。)、これは一応、アメリカ賛成なわけです。アメリカとしては、自分たちの軍事的な負担というのは減らしたいから、日本にも応分の負担を負って欲しい。

で、ところがですね、アメリカは本当に都合がよくて、日本が自立したいとか、日本が自分たちの歴史観をちゃんと持ちたいとか、安倍総理のような靖国参拝とか、【そういった動きはして欲しく無い】んですよ。

だけど、普通に考えて、防衛力を強化しよう、軍事力を強化しようとしたら、【ナショナリズムが強まるのは当たり前】で、自分の国を誇りを持ちたいとか、自分の国を自分の手で守りたり、歴史観を取り戻したいという考え方無くして、軍事力だけ強めろ!って、そうは問屋が卸さないんですね。

だけども、【アメリカはそういう矛盾した要求をやっている】と。そういったことが、いろんなことで齟齬をきたしているというのが、今の現状なんじゃないでしょうか。

【次回】人間観談義 - 人間の老病死をめぐって

ゲスト:澤村修治(評伝作家・評論家) × 浜崎洋介(文芸評論家)