◼︎(続)アジアは大火事で燃えている(西部邁ゼミナール)評論家 国際政治・米国金融アナリスト 伊藤貫
◼︎(続)アジアは大火事で燃えている(西部邁ゼミナール)政治思想家 伊藤貫
評論家 国際政治・米国金融アナリスト 伊藤貫 【著書】『自滅するアメリカ帝国 - 日本よ、独立せよ』(文春新書)
【ニコ動】
(西部邁ゼミナール)アジアは大火事で燃えている【2】2014.04.20
日韓、日中、日米の関係・が異常なまでの困難・混迷を示している。
『アジアは大火事で燃えている』
混沌とした国際政治の中で、日本人がどう考え、日本の進むべき道はいかにあるべきか。
『アジアは大火事で燃えている』というタイトルは僕がつけたのだけど、ちょっと古い話なんですけどね、僕は東南アジアの一回だけいろんな国を訪れたことがあって、その時、中国の経済がこうなって(=上昇して)「中国の次は東南アジアだ!」と言って日本の企業がわんさか東南アジアの安い賃金を求めて出かけていってる時に、あらゆる経済雑誌その他は、『アジアは燃えている』と。
この燃えているというのは、活力豊かで素晴らしいことが、東南アジアで起こっているという意味を込めて、『アジアは燃えている』と。その真っ最中に(東南アジアに)行って、僕がある雑誌に描いたのが、『アジアは燃えているが、すでに大火事でボーボーと燃えている』と、こう書いてね、その翌年に、アジアがIMFの・・・(※タイ、インドネシア、韓国は急激な通貨下落により経済パニックに陥り、一時的にIMFの管理下に置かれた)
伊藤貫
96年から97年の(アジア通貨危機ですね)はい。
[*タイ中心に急激な通貨下落 アジア通貨危機 1997年]
(通貨下落)パニックを起こしてね、僕の言うとおり(=パニック前にすでに大火事でボーボーである)になっているのに、小さい声で言うけども、(小林)麻子ちゃんね、誰も(当時)僕を褒めてくれなかったの。
それからね、大火事が今や「軍事」のことも含めて大火事が広がっているように見えるのだけど。
伊藤貫
アメリカでもそういうことを言う人がいるんですよ、シカゴ大学の【ジョン・ミアシャイマー】というのがいまして、ミアシャイマーさんは、19世紀の1823年かな、【モンロー・ドクトリン】というのがありましたよね。要するに、「ヨーロッパは西半球のことに口出しするな!」と。
[*欧米両大陸の不干渉を主張 モンロードクトリン 1823年]
第五代アメリカ大統領【ジェームズ・モンロー】が1823年に議会で行った7番目の年次教書演説で発表した、通称『モンロー宣言(モンロー教書)』において、アメリカ大陸とヨーロッパ大陸の相互不干渉という外交の基本方針を示した。この宣言の実態は、ヨーロッパ列強に対する(中南米を含めた)『アメリカ大陸縄張り宣言』だということで、アメリカの縄張りに対して如何なる介入も許さない(敵対行為とみなす)というもの。]
[*英国艦隊の撤退を米国が要求 ベネズエラ危機 1896年⇒1895年から1896年にかけて、イギリス領ギアナとベネズエラとの間の国境紛争に関し、当時の米国大統領【グロバー・クリーブランド】は、武力を使ってもイギリスに対抗すべきという断固たる態度をとった。
『モンロー・ドクトリン』というのは、1823年?モンローという大統領がですよ、要するに逆に言うと、「アメリカはヨーロッパに口は出さないが、アメリカに対しても・・・(口を出すな)」、この場合のアメリカというのは『アメリカ大陸』(※ラテンアメリカも含まれる)のことでね、「北大陸・南アメリカ大陸は我がアメリカ合衆国が徹底的に支配する(※縄張り宣言)」というノリだという、そういう意味合いのドクトリンだよね?
伊藤貫
えぇ。それでミアシャイマーさんが言うのは、『俺たち(アメリカ)だって、ヨーロッパを追い出しただろう?チャイニーズが(それと)同じことをやって、どこが悪いの?!』と。
[*中国勢力圏拡大というが 米国も(それを)やってきた ジョン・ミアシャイマー]
それで、アメリカ人はなんか偉そうにね、「中国が勢力圏を作るなど、そんなことは許さない」などと言ってますけども(笑)、あのアメリカだって(それを)やっただろうと。で、それから見れば、Quiet Natural、ごく自然なこと(そうなるはず)である、と。
だから、僕は別に中国に腹を立てているわけじゃないわけです。だけど、『それじゃ、日本の立場としては中国なんかに、なんかと言っては失礼ですけども、(中国の)勢力圏に飲み込まれることになる』わけですよ。だから、そしたら前回の放送で何回も話したように、【自主的な核抑止力を持って自主防衛するしかない】わけですね。
[*中国の勢力圏が嫌なら核抑止力による自主防衛]
で、これ【重要なこと】を申し上げますけども、1945年から現在までアメリカという国はなんだかんだ偉そうなことを言いながら、【核を持っている国とは絶対に戦争しない】ですよ、みなさん。
[*米国は1945年以降 核保有国と衝突していない]
でね、核の傘があるからなんとかかんとか〜とか言いながらね、例えば、ソ連と絶対にぶつからなかったでしょう?結局ね、口ではそう(いうふうに)言うけども、それじゃあ、僕がペンタゴンとか国務省の官僚に「それじゃあ、あなた中国と戦争するのか?」と(直接)聞いたら、『いやぁ、それはやらない。』と。
その時に国防長官をやっていたマクナマラ(ロバート・マクナマラ)も、ケネディとジョンソンの安全保障補佐官も彼らが言うには、『アメリカにもし一発でも核弾頭が飛んでくるのだったら、アメリカの大統領は決してそんなこと(※核保有国との戦争)はやらない』と。
ちょっと話はズレますけども、ゲーツ元国防長官(※【ロバート・ゲーツ】)によると、北朝鮮も今から三年後にはICBM(大陸間弾道ミサイル)、アメリカ(本土)を直撃可能な核ミサイルを持つそうなんです。で、日本に対して直撃する(核)ミサイルはもう既に持っているのですよ。
そうすると、アメリカは今でさえ『本音では中国と戦争しない』んですね。そんな【尖閣問題で(アメリカが)出てくるわけが無い】んであって、「(日米)安保の第5条が適用される」というのは、あれはもう半分、いや【半分以上ウソ】です。そんなの絶対にやらないですから。
で、もっと怖いのは、『三年経つと北朝鮮だってICBM持つようになる』と。そうすると、(米国は)【北朝鮮すら相手に戦争をしたくなくなる】と。これはもう、1945年から2014年まで一貫して、アメリカは核を持った国とは絶対戦争しないと。だから、【もしも中国の勢力圏に日本は含まれたくなかったら、日本は自主的な核抑止力を持って自主防衛するしかない!】んですね。
[*米国は核保有国とは戦争をしない 1945~2014年]
だけど、それじゃ中国自体がそんなにヒドい国か?というと、僕は必ずしもそういう考えには同意しなくて、何故かと言えば、僕には『中国人が何やろうが、あの人たちの勝手だ!』というのがあってね、それでね、中国人の中に手を突っ込んで「これもヒドい。あれもヒドい。中国人はウィグル人をなんとかかんとか〜」とみんな言うわけでしょう?「もう公害がヒドくて」とか。それでみんな、日本の保守派の方は中国人と中国文明を貶めるようなことばかり言うわけですね。そんなことを言ってたってしょうがないし、でしかも、《アメリカの属国で自主防衛もしていないくせに、そんな中国の悪口ばかりを言ってもね。》そう、そうでしょう?
中国人って結構ね、皮肉な意味で言うのかもしれないけども偉大だなって思ったことがある。
僕の友人の若い奥さんが中国人で、それでね、その友人も含めて、日本人がよく「中国批判」をするでしょう。いま言ったように「PM2.5」がどうのとかね。それに対して、(中国人の)若妻がとうとう言ったんですよ。『日本人の方がよほどおかしい。私たち中国人は「私たちの方がおかしい」ということをとうの昔から分かって生きている』とね(笑)
これはね、ちょっとかないませんよ、日本人ごときが「お前たちおかしいおかしい」と。だって、中国人の中国のそれこそ『どうしようもない事情を乗り越えて生きている人たち』にね、そういうことを軽はずみに言うな、というのが伊藤さんのあれだね。(※伊藤貫の日本の保守派の論調に対して言いたかったこと)
伊藤貫
中国の弁護をし過ぎかもしれないんですけども、僕は中国が帝国主義と覇権主義をやるのは、彼らにだって帝国主義者になる権利があるのですから、やりたきゃやればいいわけで、我々はその被害者になりたくないのだったら、【自主防衛すりゃあいい】んですよ。だから、あんまり中国の悪口言ってもしょうがないなと。
[*中国の勢力圏に日本が巻き込まれないためには]
で、「韓国」に関しては、これはちょっとおかしいんじゃないかと。というのは、ものすごい日本人の中で『韓国嫌い』が増えているでしょう。で、本当のことを言うと、僕もね、韓国に対して悪い感情が無かったわけ。で、最近ね、ちょっと英語で言うと『Enough is Enough!!』って感じでね(笑)
もう結構だと(笑)
伊藤貫
『もう(韓国は)向こう行ってくれ!』って感じです(笑)
でね、僕みたいにぜんぜんコリアンに対してね、(元々)悪意の無い人も、ちょっと(コリアに)ウンザリと。考えてみれば、(韓国は)日本人をこれだけ『敵対化』して、韓国にとっての長期的な国益にならないわけですよ。それが僕にとってはすごく不思議なんですよね。
人から聞いたんだけど、『脱北者』、北朝鮮から逃れる人を脱北者と言ってるけども、今の韓国の問題なのは【脱南者】ね。南朝鮮、韓国、コリアもう〜あ韓(あかん)というんで韓国を逃れて、脱南して何処行くのかといえば、基本的にはアメリカとかオーストラリアでしょうけどもね。
[*韓国を逃れ米国へ 脱南者増加の危機的状況]
脱南者が増えているという相当、危機的な状況の中でEnough is Enoughの「もうこれで結構」という、日本の従軍慰安婦がどうのこうのということをやりまくって、もう呆れ果てて。
[*従軍慰安婦がどうのこうの Enough is Enough もう結構]
多分あれね、「日本は昔ひどいな」と思っているアメリカ人も、まぁいなんやたくさんいるんでしょうけど、でも、もうちょっと時間が経つとね、そういうことをワーワー騒いで続けてる韓国の方がおかしい、いい加減にしたら?というのが多分、世論にはならないとしても、【世界の気分】になるでしょうね。
伊藤貫
僕とすごく仲のいい自衛隊の幹部がいて、彼は韓国に駐在してたことがある。で、彼は、日本と韓国の喧嘩しているのを見て、「両方とも浅ましい」と言うんですね。
なんで(両方とも)「浅ましい」かと言うと、韓国人というのはアメリカ人の前ではヘーコラヘーコラして媚びへつらって、それで(自分たち韓国人よりも)アメリカ人の方が上だから「なんでも真似しなければいけない」と。ところが、日本人には「お前ら朝鮮民族より下だ!」と言うんで、ものすごく傘にかかって、悪口ばっかり言うと。
だけど、日本にもね、アメリカというとバァーっと土下座して、なんでもアメリカ人の言うことを真似して、それで韓国人に対しては「俺たちの方が上だ!日本人の方が上なんだから、おまえら〜」と、朝鮮民族の悪口しか言わない日本人がいるでしょう。(西部:笑)
そうすると、両方とも自分より強そうな奴にはヘーコラヘーコラして、こいつらは自分たちより格下だと見なすと、突然すごい傲慢な態度で罵詈雑言を浴びせるわけね。それで、僕の友だち(自衛隊の幹部)は、「日本人と韓国人は(そういうところが)似てるじゃないか!」と(爆笑)
似てるねぇ〜(苦笑)
伊藤貫
(笑)それってちょっと言えないこともないわけで。
いやぁ〜、僕もそう思うよ。
伊藤貫
とにかく、日本と韓国のこういう紛争というか喧嘩は、国際政治的に見て『不毛』なんですよ。なんのProductivity(生産性)も無いわけ。
だけど、中国は、自分たちの勢力圏を着々と拡大していこうというもとに、日本の悪口を言ったり、日本を抑えつけようとしたりしているでしょう。結局ね、彼ら(中国)には、『戦略的な目的』というものがあるわけ。それは僕ね、意外と認めちゃうわけですよ。「あ〜あの連中はちゃんと計算して日本を追い詰めているな」と。
だけど、コリアンの場合はねぇ、戦略性もクソも無くてねぇ、「とにかく日本が憎いから悪口を言う」と。それってね、ちょっと日本と似ててね。
[*日韓紛争は不毛 中国は勢力圏拡大に戦略的]
韓国も日本もそうなんだけど、『憎い』という感情すら、そんなに強いものか、深いものか、疑わしいとこあるのね。なんかね、「浅い」「薄い」レベルでその相手の悪口を言うなんてのは習慣ね、悪習、悪い習慣ね。その習慣に身を委ねてるというね、なんかそういう嫌いすらあるんですよね。
よくあるじゃない?本当はお父ちゃんのことを好きなくせして、「お父ちゃんが悪い、お父ちゃんが悪い」と言ってる子供・悪ガキがいるじゃない、家庭内にさ。俺もそうだったんだけどさ(笑)
伊藤貫
ただ一つ、朴槿惠さんに感謝しているのは、彼女がワーワー言い出してから、日本人は「日韓の相互理解」とか、「日韓友好の年」とか言わなくなったでしょう(笑)もうみんな諦めたわけ。こういう奇妙な(日韓の相互理解とか日韓友好などと言った)夢をね、「もっと話し合えば相互理解に達する」とかね、そういう【ヘンテコりんな幻想】が完全にピューっと消え失せてスッキリしたと僕は思うのですよね。
簡単に「国際交流」と言うけれど(伊藤:そうそう。)国際交流をやれば、相互理解も深まる面もあるけども、『相互誤解』ね。(伊藤:えぇ。)協調は深まるかもしれないけども、『相互葛藤』も深まると。『相互葛藤』も『相互敵対』も深まるぐらいなら、(国際)交流もほどほどにしておく方がいいという、そういうことね。(伊藤:えぇ。)
[*国際交流をすれば、相互の葛藤や敵対も深まる]
交流したら、交流と聞いた途端、「頑張りましょう」というのは、【子供の所業】だと。本当にですよ、日本の、自分の周辺だってあんまり付き合わない方がいい相手というのは、(伊藤:そうそうそう。)結構いるんですよ。
伊藤貫
だから朴槿惠さんが、日本がやった歴史的な怨みか何か知らないですけども、「千年経っても忘れない」と。で、僕は『良くぞ言ってくれました!!』ってね(笑)『それじゃあ、千年間相互理解しなければいいのか。じゃあ〜こっちも気が楽だ』と(大笑い)
要するにそういうふうに思うと、向こうもね、日本人の悪口を言う意気込みが失せてくるわけですよ。「こっち(日本側)が相互理解ということをやりたくなくなっている」と。だから、一番いい方法は、『そっちが千年怨みを忘れないのだったら、僕たちも千年間交際なんかしなくたっていいんですよ』と。
それね、僕ね、韓国人の方の肩を持つわけじゃないけども、例えばね、アイルランドで言うとね、クロムウェル(※【オリヴァー・クロムウェル】)・・・『清教徒革命』(1649年)のね。凄まじい大虐殺をアイルランドに仕掛けてね、アイルランド人もよくね、「千年の怨み」ってことを言うのね。
さて、それをいいと言っているんじゃなくて、僕の言いたいのは日本人ね、もう少々は『怨みの感情』というの?例えばね、アメリカに対してですよ、【東京大空襲】によって、一晩で9万、10万の人を殺す、【原爆(投下)】は言うに及ばず。あの『大東亜戦争』のたった最後の半年間で【90万人もの日本の一般市民が(米軍に)焼き殺されていく】わけね。
[*一般市民90万人が米軍に焼き殺された大東亜戦争]
そのことに対して、僕は感情というよりもさ、『こういうことをやった国は、そう簡単には許さない!』と。仮に許さないと言ってもしょうがないんだけど、心の中でですよ。
『酷い国を相手にしながらしか「戦後」が始まらない、厄介な話だね』ぐらいのことを、僕はね、もうちょっと日本人が持ちながらえるべきだったと思うのだけどね。
[*酷い国を相手にしながら戦後がはじまった日本]
伊藤貫
それに関しては、僕は、僕自身の解釈というのがありまして、『怨みを全部忘れた「フリ」をする』と(西部:あぁそうか。)いうことをやり出したのは、池田政権(※【池田勇人】)からでしょう?
あれから、『日本人は怨みを忘れたフリをして、アメリカに(彼らが)お腹一杯に出来るぐらい輸出して、銭儲けすればいい』と。だから、『金儲けをするためには、アメリカに怨み辛みを言わないほうがいい』と。
要するに、非常に「形而下的」な、「マテリアスティック(materialistic、物質主義)的」な計算で『怨みを忘れたフリ』をし出したわけ。
[*金儲けのために米国に対する怨みを忘れたふり]
3月10日の「東京大空襲の日」も、新聞を見ると何も書いてないわけね、今年も。それって結局ね、【「銭が稼げればアメリカに屈服したフリして、怨みを全て忘れたフリして、媚びへつらった方が得だ」】と。損得の計算でしょう?でね、そこには Metaphysical な Valueね。【形而上的なヴァリューなんて何も無い】わけ。
[*形而上的なMetaphysical Value 価値はなにもない]
人間というのは、「お金稼いで飯を食わなくてはならない」から、そういう形而下的な Self-Interestな計算ね、自己利益の計算というのも必要なんだけど、それとは別に、人間にも国家にも 【Independence】とか、【Integrity】とか、【Dignity】とかね。日本語で言えば、インディペンデントは『独立』、インテグリティというのは『連結』、ディグニティというのは『自尊の精神』ですね。
[*Independence独立 Integrity総合性 Dignity自尊]
こういうのは、Independenceにしても、Integrityにしても、Dignityにしても、【金じゃ計算出来ない】わけでしょう。
なんか英語って面白いのね、ラテン語でしょうけども、「in-dependence」ってね、平気で日本人は「独立」って言っている。それでいいんでしょうけども、間違ってはいないのね。でもよく読めば・・・
伊藤貫
dependence。
そう、dependence 依存。『依存は「しない」』という否定形(接頭のin)ですからね。「依存はしない!」というある意味強い、強い姿勢、相手との関係のね。
[*Im-dependence 相手に依存しない強い姿勢]
それをね、偉い人も「僕たち独立してま〜す」とかって言ってるけども、本当は「dependent=依存している」というね。
伊藤貫
で、僕自身の解釈では、日本人が「怨みを持たない」若しくは「怨みを忘れたフリをしている」というのは、先ほど言った、三つの形而上的な価値ね。Independenceとか、Integrityとか、Dignityとか、もう興味無いわけ。(西部:そうね。)それで、目先のもう銭が稼げればいいと。こうなっちゃったわけでしょう?だから、『「歴史解釈」でも、例えば、いまアメリカがギャーギャー言ってくると、あっという間に屈服しちゃう。若しくは「屈服したフリをする」わけね。』
で、それって結局、形而下のメタリアリスティック(materialistic)な、若しくは、お金の計算と、それから形而上的なお金では計算出来ない価値ね、そこのバランスが完全に崩れていて、形而上的な価値というのは、どこかに吹っ飛んでしまった。もう目先の金の計算ばっかりなわけ。
[*金では計れない価値とのバランスが崩れ目先ばかり]
でね、ハッキリ言って、《外国で日本はある意味で軽蔑されている理由》といういのは、そういう『あなた達(日本人は)形而上的な価値は無いのか!?』と。
そういうことだね。
伊藤貫
これだけね、周りの国にやられて、アメリカにやられて、自尊心というのは無いのか!?と。
日本のね、いわゆる「保守派」がね、なんか結構な、リアリスティックな原因的な議論をするけども、その第一歩もね、最初に Safty & Survival、安全と生存。一見ね、非常に大人のような判断でしょう。でもね、本当はいま仰ったような『これ以上の価値があるハズだ』と。
[*Safty & Survival 一見すると大人の判断だが]
つまり、【自尊心】とか、【独立心】とか、Dignity?【威厳】とかね。つまりね、『何のために安全に生存したいか?』
安全に生存するためならね、アメリカでも中国でも『屈従』した方が、『奴隷』をやっていた方が安全に生きれるかもしれない。
[*自尊心、独立心、威厳 安全と生存より価値がある]
『勇気(Courage)とは、己を守るために発揮するものだが、本当の勇気とは何か?命を捨ててかかることだ』ってね(笑)
つまり、命を守るために、命を捨てるというね、パラドックスの中にある。そういうことをしっかり引き受けることが、精神のDignity(威厳・尊厳)とかなるんだけどさ。
[*本当の勇気 Courageとは 命を守るために命を捨てる
『勇気とは、死に急ぐ形を取りながら生きようとする強い欲望。』「正統とは何か」より。Gilbert Keith Chesterton]
単に、安全に生存したいとなれば、それはアメリカの属国でも、中国の属国でもそれでも殺されるかもしれないけども、まぁ属国やってれば、なんとかね、という話になっちゃう。
日本の保守派だって、『いわゆる保守派』ってね、その程度なんですよ。
伊藤貫
そうですよ。「保守派」はそうですよ。
【三島由紀夫】が、最終的に腹を立てたのは、保守派(に対して)でしょう?
そうですよ。
伊藤貫
そうですね。
伊藤貫
それから、【通産省】、【大蔵省】ね。それから、【親米保守の言論人】ね。彼は、保守派に腹を立てて、腹を切って、これでも見せてくれようと。別に、共産党(のこと)なんかどーでもよかったわけ、三島由紀夫にとっては(笑)
これね、明治のね、まぁ〜自己宣伝になっちゃうけど、【中江兆民】、世間では「民主主義」とか「社会主義のご先祖」とすらずっと言われている兆民がね、やっぱり日露戦争の前に死んだのだけど、日露戦争が近づく時ね、ロシアがね、『露國討つべし!』と。単にそれだけじゃないの。要するに、簡単なことだと。相手が、当時の「清」であれ、「露西亜」であれ、要するに簡単なことで、、
『国が滅びてでも戦う構えを持てば、どうにかなるもんじゃ(中江兆民)』ってのがね、僕はあれ大好きですけどもね。
[*国が滅びてでも戦う構え どうにかなる 中江兆民]
「滅びるのが嫌」という、(僕だって)滅びるのは嫌なんですよ。でもね、「滅びるのは嫌」というところから議論を始めるとね、「本当にDignity・威厳を失ってでも生きようぜ」になってしまう。
伊藤貫
例えば、国際政治学者の非常に有名なモーゲンソー(※【ハンス・モーゲンソー】)とか、ハンティントン(※【サミュエル・ハンティントン】)なんかは、
『国家には三つの要素が必要である。それは「経済力」と「軍事力」と「価値観」である』と。
[*経済力と軍事力と価値観 国家に必要な三つの要素 リアリスト学派の国際政治学者モーゲンソーとハンティントン]
[*「参考」ハンス・モーゲンソー:ドイツ生まれ、シカゴ大教授、国際政治学者⇒「20世紀のアメリカ外交とは幾つかの単純な “道徳的原理” を振りかざして、世界をアメリカのイメージに合わせて作り変えようとするものだ。アメリカ国民の知的な貧困が、このような外交政策を作り出してきた」]
[*「参考」サミュエル・ハンティントン:国際政治学者、ハーバード大教授⇒「“神との契約” によって “世界の全ての人々の模範となる丘の上の都市を築く” という使命を負ったアメリカ人は、“我々こそが選民だ” という自覚を持って行動してきた」(ハンティントン著『Who are We?』)]
で、どういう『価値観』を持っているのですか?
これが、要するに『国家というのは三つの足(三本足)で立っている』のだと。それを、ハッキリ言って、過去69年間の日本というのは、『戦争に負けたからもうアメリカに安全保障をやらせておいて、アメリカの価値観を真似するフリして、「価値観外交」とか言って、それで結局、お金儲けだけ』でしょう。
とすると、国家の三つの要素(経済力・軍事力・価値観)のうちの結局、【お金だけ(経済力)】なのね。こんなことをやってたら、うまくいくわけがないし、それからハッキリ言っちゃうと、日中関係だって、日韓関係だって、こういう「三つの要素」をバランスしていない日本を中国とか韓国が尊敬するわけがないんですよね。
日本の経済界が後押しして、「いま日本は人間が大事だ、教育が大事だ」と。どんな教育をやるのかと聞けば、「グローバル人材を〜」、グローバル人材とはなに?と聞けば、「英語が喋れて、コンピュータを操作、プログラムが出来る」と(伊藤:はい、そうそうそう。)、そういうことらしいのね。
これ、冗談で言うんだけど「Globe」ってもともと「地球」、「球(体)」でしょう。Global人材というのは何かと言えば、要するに『地球人』なわけね。
これ、冗談で言ってるんだけどさ、「地球人(=グローバル人材)になりましょう!」ってのはね、「日本人が唯一たどり着いた価値観」だというのだから、笑えないよね。
伊藤貫
要するに、価値判断の部分は『Empty(空っぽ)』なわけね。空虚だと、それに気がついていないのが怖い。
そう。単に、勢力均衡(バランス・オブ・パワー)というリアリズム・現実主義だけじゃなくて、現実主義を懸命に貫くためには、いま仰った【価値観】、価値観と言って広すぎれば、民族・国民としての『独立心』とか『自尊心』とか、そういうものをベースに持ってないとダメなんだって、そんな本来ならアメリカとかなんか「子供っぽい」という話を先週やったけど、本来そういう話は『子供にだってわかる話』ね。自尊心と独立心無きものは地球上から去れと。
伊藤貫
で、(西部)先生ね、ディグニティ(Dignity=威厳・自尊)と、インテグリティ(Integrity=統合性)と無い人間は、本気で努力しないんですよ。だからもう、安全保障政策にしても、外交政策にしても、ぜんぶ中途半端でしょう。中途半端で誤魔化すわけ。それはもうメタフィジカル(Metaphysical)な、形而上的な価値を本気にしていないから、「もう目先の誤魔化しでなんとか相手をなだめないといけない」と。こうきちゃうわけですよ。で、これはいつまで経ってもうまくいかないです。
そうね。形而・・・Metaphysic(メタフィジック)のPhysics(フィジックス)ってのは「物理学」だけども、『物を超えたもの』ね。
これ簡単に言うとさ、宗教になっちゃうけど、彼(伊藤貫)がさ、単に宗教を言っているんじゃないんですよね。やっぱりね、正義とか勇気とかいうものだって、一種の抽象的な観念ですからね。そういうものを強く思うね、自分の日常の生活を超えたものについて「何か思いを馳せる」というね、そういうその程度のメタフィジック(伊藤:そうです!)ね、それが無くなって来ているってことなのね。「お金勘定しかない」というのは、そういうことですよね。
そういうことでですね、伊藤さんは、今回は「年に3回」は(日本に)帰って来られて・・・
伊藤貫
いやいやいや・・・(勘弁して下さい。笑)
まぁ〜そうなると思いますけども(笑)本当に二週に渡りありがとうございました。
【次週】「公共施設が乏しければ、市場活力はかならず萎える」
市場活力、市場活力言っておるが、市場活力が出るためには、可能となるためには、実は広い意味での【公共施設】というものが日本国土に整備されなければいけないんだ、というごくごく平凡でかつ大事な問題について2週に渡り議論していただく予定であります。