『アメリカニズムを如何にせん』ゲスト 佐伯啓思(京都大学名誉教授) 伊藤貫(ワシントン在住 評論家)〜西部邁ゼミナール 年末特別番組(前編)〜

『アメリカニズムを如何にせん』ゲスト 佐伯啓思京都大学名誉教授) 伊藤貫(ワシントン在住 評論家)〜西部邁ゼミナール 年末特別番組(前編)〜

西部邁:評論家、雑誌「表現者」顧問、近著「生と死、その非凡なる平凡」(新潮社)、「ファシスタたらんとした者」(雑誌「正論」連載中)

ゲスト
佐伯啓思京都大学名誉教授、近著「さらば、資本主義」(新潮新書

伊藤貫:評論家、国際政治・米国金融アナリスト、近著「自滅するアメリカ帝国 〜日本よ、独立せよ」(文春新書)

【ニコ動】西部邁ゼミナール 2015年年末特番

アメリカニズムを如何にせん(前半) 2015.12.31


アメリカニズムを如何にせん(後半)2015.12.31


今村有希
大晦日の西部邁ゼミナール特別番組ということで、素晴らしいゲストをお招きしました。アメリカワシントンD.C.から空を飛んで来て下さった伊藤貫先生と、京都から電車でお越し下さった佐伯啓思先生とに『アメリカニズムを如何にせん』と題して議論していただきます。

この間のイラク問題、アフガニスタン問題、ウクライナ問題、そしてシリア問題と振り返ってみますと、そこにはアメリカの侵略的といって差し支えない軍事や政治が深く関わっているようにみえてなりません。

その事実についての最高の知識者である伊藤先生と、それが近代の思想の問題として論じ続けてこられた佐伯先生とからどんなお話がお伺いできるのか大いに期待できるところです。では、宜しくお願い致します。

◉アメリカによる中東戦略の大失敗 問われる日本の自主防衛

あぁ〜お二人よくいらして下さいました。

話を何処から始めるか・・・近々の話から始めると、僕は最近、新聞もテレビも本当なんですけど、カラダの調子も悪くて見ていないんですけどね、たまにテレビのスイッチを入れて、何かノーベル平和賞チュニジアの4団体が民主化に貢献したって平和賞貰って・・・

今村有希
はい。

でも、そういうのに触れると、おやおやと・・・まぁ〜あんな(ノーベル)平和賞は昔からゴマかしですけどね、文学賞もついでに言うとそうですね。経済学賞ももっとそうです(笑)

伊藤貫
はいはい。フフフフフ(笑)

そんなことはどうでもよくて、つまり例の【アラブの春】というね。チュニジアから始まって、あとは次はどこでしたっけ・・・リビアか、そしてエジプト・・・

イエメンもそうですね。

あぁ〜、それとシリアでしょう。あろうことか、国際政治学者まで含めて、アラブの春・・・つまり、「とうとうアラブもアメリカの応援なり声援のもとに民主主義へと踏み切った!何とこれから素晴らしくなることだろう!!」と。

・・・その結果、いま現在、新聞テレビをロクに読んでない僕ですら、どうやらエジプトの方々の6割か8割かまで知りませんけど、『やっぱりムバラクの独裁時代の方が良かったなぁ〜』と。イラクで言えば、『フセインの独裁時代が良かったなぁ』と、『アサドの独裁でどこが悪かったの?』と、こんな日々続く爆撃、殺し合い・・・というのがアラブ人の大方の本音なわけでしょう。

[*アラブの春:2010年末にチュニジアで勃発した後、アラブ諸国に飛び火した反独裁政権運動 ]

ってなことを考えるとね、アメリカン・デモクラシー、これを普遍的なものとして・・・デモクラシーが普遍的というよりも、その内容ね、“アメリカ的なもの”にそれを具体化していくんだと。アラブ、ついでに言うとウクライナも含めて。そういうことが次々と『失敗』してきているというのが、いまその失敗の結果としてヨーロッパに難民が押し寄せている。

アラブの春、あるいは、それを後押しした、アメリカン・デモクラシーのそれこそグローバリズム、これは世界のほとんどを大破壊をもたらしつつある』と・・・佐伯先生ね、日本の問題と関わらせて言うと、

[*アメリカンデモクラシーが大失敗し世界破壊へ ]

えぇ。

まぁ大雑把なイメージよ・・・安倍晋三という人は政治でツイてる人だなぁと思うのは、例の「安保法制」でね、まぁ大騒ぎしている方もオカシイんだけど、そんなことはともかく、アメリカにどう協力するかということについて、それを法制化するということを、まぁそれは一応は完了したんですよね。

えぇ。

それで今度ね、あれでしょう、プーチンというかロシアがアサド政権支援のための空爆に踏み切ったでしょう。当然ど素人だってね、どうして(空爆に)踏み切れたかというと、「アメリカは手を引くだろう」と。それもそのはず、アメリカはイラク、いやシリアか、シリア自由連盟(※自由シリア軍=シリア反政府組織)とかを応援している武器は次々とテロリストの手に渡ってると、ね(笑)

伊藤貫
(うんうん)

はい。

アメリカのやっていることは、全く逆効果である。そろそろ手を引かざるを得ないということを、ロシアは踏んでいるから。

伊藤貫
(うんうん)

ということは、逆に言うと、じゃあアメリカは一体これから何処に行くんだろうと考えるとね、アフガニスタンからも手を引きつつもあるわけでしょう・・・云々と考えるとね、結局アジアにね、というかそれが東シナ海南シナ海か知らないけど、『アジア問題』をめぐって、アメリカ軍のプレゼンス、存在感を示すというね。

でも、アメリカと中国ですから、お互いに実験国家で似た者同士ですから、手を結ぶこともあるだろうが、その分だけ相争うこともある。でそこで日本をどうするかという問題を含めて、何れにしても、安倍さんはツイてるなぁ〜と思うのはさ、安保法制が完了した直後にアメリカの関心は、言ってみれば、アメリカの大破壊の失敗の結果としてシナ海にアメリカが来始める(笑)

そこで、安保法制が出来てくる、と思っているんだけど、それでいいの?

うん、そうですねぇ・・・。だけど、それと同時に、スプラトリーといいますか南シナ海でね、本当に中国と小競り合いになってきて紛争が起きた時に、これ逆に言えば、「集団的自衛権を行使しないとダメだ」という話も出てきてしまうわけでね。

あれは元々は尖閣の問題が念頭にあって、日本と中国が厄介なことになった時に、アメリカを出来るだけ引きつけておきたいというのが基本的なあれだったのが、本当に逆にアメリカと中国が軍事衝突しかねない状態の時に、一体、日本はどうするのかというかなりシビアな問題が突き付けられますね。

仰る通りで、僕はそれが言いたかったんだけども、実は逆に言うとね、仮にアメリカがアラブ問題とかスラブ問題でですよ、まぁまぁ成功を収めるなり何なりしてればね、日本とどんな協定を結ぼうがね、アメリカはすっぽかすといえば言い過ぎだが、うん、日米安保でこうこう協定を結んでいるから、お前らに協力するにやぶさかではないけれども、俺たちも忙しくて、アラブとスラブでこうこうこういいうことをしないといけないから、そのスプラトリー、南沙諸島というんだけども、協力しないわけじゃないけど、この程度しかしねーよ、という形で日本との約束を反故といったら言い過ぎだけど、サボタージュ出来るわけアメリカは。

でもね、今やそういう状態じゃなくて、アメリカの関心がアジアにしか向かないという力学的な傾きの中ではね、そういうアメリカの言い逃れが多分少なくなるね。そういう意味で僕は安倍さんてツイてるなぁと。

うん・・・そうですね、全くその通りだと思いますね。思うけれど同時にこれ・・・ツイてると同時に(笑)、本格的にそうなってきた時に、まぁ安倍さんどういう決断をするのかなぁと、大変ね。

そうでしょう。

伊藤貫
僕は、実は今度の安全保障法案ですか、集団的自衛権を行使するというやり方に最初から賛成していないわけですね。それは何故かというと、assumption(アサンプション=想定、仮定)というか、premise(プリミス=前提)というか、前提になっているのは、『アメリカは世界一強いグローバル・パワーであって、アメリカが東ヨーロッパ、特にバルト海周辺とかウクライナとか、それからミドルイースト、南アジア、中央アジア東南アジア、東アジアを全部支配してくれるから、 そのグローバル・パワーであるglobal hegemon(グローバル・へジェモン)、世界的な覇権国であるアメリカに自衛隊が協力して一緒に戦えば日本は大丈夫だろう』という前提があるわけですね。

で、僕はその前提が間違っているというのが僕の考えで、何故かと言いますと、今のアメリカのgrand strategy(グランド・ストラテジー)=「最も基本的な国家戦略」は、1991年に決められたんですね。1991年というのはどういう年かと言うと、ソ連帝国が崩壊して、アメリカに対する軍事的な対立国が遂に消滅したという時なんですね。

[*ソ連崩壊(1991)の後 覇権主義強める米国 ]

伊藤貫
その時にアメリカはもう舞い上がっちゃって、「今後は俺たちの能力はローマ帝国以上だ、世界に俺たちに敵う者はいない。」というんで、1992年2月にアメリカは、Defense Planning Guidanceという秘密文書を作って、その秘密文書(DPG)で、アメリカがヨーロッパと中東とアジアと中南米も全て支配すると。

それからもう一つ(DPGに)書いてあったのは、ロシアと中国がアメリカのPeer Competitor(ピーア・コンペティター=同等の競争相手)、Peerは「同僚」、要するに、「同じような力を持つチャレンジャーになることを許さない!」と。

[*米国のPeer Competitor許さず 中・露に力を持たせない ]

伊藤貫
で、(DPGの)もう一個、3つ目に重要なのは、第二次大戦の敗戦国でありう日本とのドイツには、決して自主防衛能力を持たせないと。

[*敗戦国の日本とドイツには自主防衛能力を持たせない ]

▷参考(伊藤貫著書より)
「1994~99年のための国防プラン・ガイダンス」Defense Planning Guidance for the Fiscal Years 1994~1999(通称 DPG)1992/2/18 作成 ペンタゴンの機密文書

チェイニー国防長官とウォルフォウィッツ国防次官(当時)は、この機密文書(DPG)の戦略構想に承認を与えた。DPGの内容を知り得たのは、統合参謀会議メンバーと、四軍(陸海空海兵隊)の最高幹部のみ。しかし、DPG作成の三週間後この機密文書の内容が、NYタイムズと、ワシントン・ポストにリークされてしまった

● DPGの最重要七項目

ソ連崩壊後の国際社会において、アメリカに対抗できる能力を持つ大国が出現する事を許さない。西欧、東欧、中近東、旧ソ連圏、東アジア、南西アジアの諸地域において、《アメリカ以外の国がこれらの地域の覇権をにぎる事態を阻止する。》

❷アメリカだけがグローバル・パワーとしての地位を維持し、優越した軍事力を独占する。アメリカだけが新しい国際秩序を形成し、維持する。そして、この新しい国際秩序のもとで、他の諸国がそれぞれの正当な利益を追求する事を許容する。どのような利益が他の諸国にとって 正当な利益であるか、という事を定義する権限を持つのは《アメリカのみ》である。

❸他の先進産業諸国がアメリカに挑戦したり、地域的なリーダ ーシップを執ろうとしたりする事態を防ぐため、アメリカは他の諸国に対して《必要な配慮》をする。アメリカが国際秩序にとって害とみなされる事態を修正する責任を引き受ける。何が国際秩序にとって害とみなされる事態であるか、という事を《決めるのも“アメリカ政府のみ”》である。

❹アメリカに対抗しようとする潜在的な競争国が、グローバルな役割、若しくは地域的な役割を果たす事を阻止する為の(軍事的・経済的・外交的な)メカニズムを構築し、維持していく。

❺ロシア並びに旧ソ連邦諸国の武装解除を進める。これら諸国の国防産業を民生用に転換させる。ロシアの所有する核兵器を急速に減少させる。ロシアの先端軍事技術が他国に譲渡される事を許さない。ロシアが、東欧地域において覇権的な地位を回復する事をそんなのはする。

❻ヨーロッパ安全保障の基盤をNATOとする。《NATOは、ヨーロッパ地域におけるアメリカの影響力と支配力を維持する為のメカニズムである。》ヨーロッパ諸国が、ヨーロッパだけで独自の安全保障システムを構築する事を許さない。

❼アメリカのアジア同盟国(※特に日本)がより大きな地域的役割を担う事は、潜在的にこの地域を不安定化させる。従ってアメリカは、太平洋沿岸地域において優越した軍事力を維持する。《アメリカは、この地域に覇権国が出現する事を許さない。》

《DPGの中に描かれるアメリカの潜在的な競争国(※敵性国)として描かれていたのは、ロシア、中国、日本、ドイツの四国である。》

DPGについてリークした当時のワシントン・ポスト紙の表現:
『このアメリカのグランド・ストラテジーが構想された前年に軍事帝国が崩壊したロシア(89年)と、二年半前に天安門虐殺事件をおこした中国は納得する。しかし、すでにほぼ半世紀間も「アメリカの忠実な同盟国」としての役割を果たしていた「日本とドイツ」が、米政府の機密文書において、冷戦後のアメリカの潜在的な“敵性国”と描写されていた事は「外交的なショック」であった。

伊藤貫
で、僕はそれを読んでて、まず胃袋が煮え返ったんですね。この野郎!!と。こういうことを考えていたのかと(笑)

(笑)

伊藤貫
で、もう一つ(DPGについて)思ったのは、こんなこと出来るわけないだろうと。あまりにもover ambitious(オーバー・アンビシャス)であると。だって、世界中を自分たちだけが支配すると決めたら、世界中で戦争しなけりゃいけないわけですよ。そんなこと、だって当時すでにアメリカは貯蓄率がどんどんどんどん減ってって世界中からお金を借りなきゃいけないと。世界中の純貯蓄の毎年の新しい貯蓄の7割をアメリカの債券を買って貰わなきゃならないということをやりながら、世界中を俺たちが支配するんだって、これはちょっとオカシイなと。

で、lo and behold ! (ロー・アンド・ビホールド)、じっと見てたら、アメリカは世界中に介入して、結局、2011年の9月11日のテロ事件を口実として、イラクを属国にしようとしていま大失敗したわけです。

アメリカのglobal hegemony(グローバル・ヘジェモニー)はグラグラし出した時に、日本の外務省の人たちはおバカさんだから、「アメリカにくっ付いていれば大丈夫だ!」とそういう【吉田茂】以降のこの人たちは本当に馬鹿で、馬鹿と言っちゃ悪いんだけど、すごく鈍いんですよ。吉田茂はそういうふうに決めて上手くいったから、21世紀になってもアメリカにしがみ付いていれば大丈夫だろうと。

で、アメリカは文句言うんだったら、アーミテージ集団的自衛権を行使しろと言ったから、アーミテージの言う通りにして集団的自衛権を行使して米軍と一緒に戦えば、ずっと(日本を)守ってくれるだろうと。(伊藤はNO!!のジェスチャー)

[*吉田茂元首相の対米従属体制を今なお引きずる外務省 ]

◉米国流「自由」「民主」主義を押し広げる歴史なき国家の傲慢さ

アメリカという国はね、そういう風にして世界警察をやる力をどんどん無くしているのにも関わらず、アメリカン・デモクラシーでも、アメリカン・リベラル・デモクラシーでもいいんだけど、そういう理念めいたものをいろいろ誤魔化しを交えて振りかざしつつ、自分たちの力を世界に示すんだという形でしか、アメリカという国自身がもたない。そういうやり方以外には、言わばアメリカの普通でいう、national identity(ナショナル・アイデンティティー)なる【歴史がない】せいでね、無いのだと。

伊藤貫
えぇえぇえぇ。

となると、世界警察力が衰えながらもそれを尚も追い求めるという以外に(無い)?

伊藤貫
そうなんですよ。100%当たりで、要するに自分たちの実力が、世界を支配する実力が無くなってきたにも関わらず、自分たちの“思い込み”ですね、僕はそれをアメリカの『傲慢病』と『自惚れ病』という風に呼んでいるんですけども、とやかく傲慢と自惚れというのは、これはやってる本人は気が付かないんですね(笑)アメリカも僕みたいにある意味で、僕は“外人”ですからね、だから外人のシラっとした目で見ると、なんでこの連中はこんなにも自惚れているんだろうと。それからもう一つは、何でこんなに傲慢なんだろうと、思っているんですけども、それをやってる本人は、『自分たちはWilsonian idealist(ウィルソニアン・アイデアリスト=ウィルソン的な理想主義者)だと!』

あぁ〜そうか。

伊藤貫
ウィルソニアン的な民主主義と自由主義を世界に拡めるために、Crusade(クルセイド=聖戦)をやっているんだと。世界のために・・・

今村有希
?????

・・・今村さん。

今村有希
はい(笑)

ウィルソニアニズム(Wilsonianism)というのは・・・

今村有希
なんでしょうか、すいません(笑)

伊藤貫
(笑)

あれ第一次世界大戦ですよね、国際連合の前だから「国際連盟」をつくった時のアメリカの大統領が【ウッドロウ・ウィルソン】といって学者上がりなんだけども、非常にズルい人でありながら、とも同時に非常に理想主義的な、まぁ〜言ってみればアメリカ・ピューリタニストの系譜の、そういうアメリカの理想主義、それを翳した人ね。

[*トーマス・ウッドロウ・ウィルソン第28代米国大統領(1913~21) ]

それを戦後日本もね、アメリカに(戦争で)負けたでしょう、山ほど殺された日本がアメリカを一つの理想として追い求めた。その根っこを言うと、もっと古いんだけども、少なくとも20世紀で言うと、そのいま言ったウィルソニアニズムがあるという。どうぞお先に!(笑)

フッフッフッフー

今村有希
(笑)

伊藤貫
えぇ。だから非常にもうね、あのアフガニスタンに対してもパキスタンに対してもイラクに対してもシリアに対してもイエメンに対してももう徹底的に武力を行使して鉄拳制裁をやっているんですけども、彼らそういうことをやっている連中は、(※熱いジェスチャーを交えながら)・・・

We're Wilsonian idealist !! と。

(笑)

伊藤貫
・・・そのつもりなんですよ。それでバンバンやってめちゃくちゃ殺しまくるんですけど、たぶん、自分たちは善人で良いことをやっているんだと、これが怖いわけですね(笑)

もうちょっと広く言うと佐伯さんね、急に文化論にシフトさせて悪いけど、アメリカって国は何だろうと思うと、結論を言うとね、移民の国だってことがあるんだけども、一旦できてからも次々と流れてくるものは、つまりは「外来のもの」ですよね。それがヒスパニックだったり、今で言えばアジアだったりする、その外部からの刺激を利用してね、何か「新しいげなもの」をつくってさ、それである種のファッションとしてアメリカ人自身もいい気持ちがするし、世界中もそれに憧れると。

ところが、それアメリカの本当の固有のものね、かつてはピューリタニズムという宗教があったでしょうけども、それはもうねぇ、僕に言わせれば1820年か・・・えぇ、例のアレですよ、何と言いましたっけ・・・

ジャクソン二アン・・・

そうそうそう。【アンドリュー・ジャクソン】って1820、30年代の人なんだけども、アメリカインディアンを山ほど殺したので有名な人で『西部の男』ね。

[*アンドリュー・ジャクソン第7代米国大統領(1829~37) ]

今村有希
はい。

僕は「西部(ニシベ)」ですけども。

(笑)

今村有希
フフフ(笑)

西部の男として大統領になってね、いわゆる「大衆人気」ね。気分、流行、機運、それでもってそのアメリカのデモクラシー、それを『Jacksonian democracy(ジャクソニアン・デモクラシー)』、今から200年前ですわ。それからアメリカは変わったと言えなくもないんですけども。

ウォルター・ラッセル・ミード(アメリカ政治学者)は、アメリカ外交の伝統を四つの歴史潮流に分類して説明している。①ハミルトニアン、②ジェファソニアン、③ウィルソニアン、④ジャクソニアンである。いずれもアメリカ史上の有力政治家の名に因んでいる。

①のハミルトニアンは、ワシントン大統領の下で初代財務長官を務めたアレキサンダー・ハミルトンに由来している。この流れは、北東部の利害を代弁して、国際通商の中で発展するアメリカを想定し、そのために、連邦政府と民間企業の協調とアメリカの対外関与を重視する。端的に言えば、海洋国家志向である。建国当時のアメリカにとって、当然、そのモデルはイギリスに求められた。ハミルトンがイギリス贔屓であったことも、よく知られる。

これに対して、②のジェファソニアンは国内の安定と発展を第一義的に考え、大陸国家をイメージしている。その名称も、ハミルトンの政敵であったトマス・ジェファソン(第三代大統領)にちなんだものである。大陸国家としてのモデルはフランスであった。彼はまた、独立自営農民こそが民主主義の中核であると信じていた(ジェファソニアン・デモクラシー)。彼らの独立性を守り高めるためにも、連邦政府は強大であってはならない。これは南部の利益でもあった。

ハミルトンとジェファソンはそれぞれ、今日の共和党と民主党の源流を形成した人物でもある。その後のアメリカ産業の発展で、共和党は大企業の活動を規制する強い連邦政府を嫌うようになり、民主党は社会的弱者を支持基盤とすることから、弱者保護のための強い連邦政府を志向するようになった。国連を世界政府になぞらえれば、共和党の一部が国連に強い不信感を持つことも、理解しやすい。

③のウィルソニアンは、民主主義的な理念を世界に押し広めることこそ、アメリカの使命でなければならない、と考える。第一次世界大戦時の大統領ウッドロー・ウィルソンは、その旗手であった。アメリカ国内で法の支配や三権分立が成立するとすれば、国際社会でもそうならないはずがあろうか、とウィルソニアンは信じるのである。

最後に、④のジャクソニアンは、アメリカの物質的な安全と繁栄を最重視し、そのためなら赤裸々な実力の行使を辞さない立場であり、国威の高揚にも熱心である。アンドリュー・ジャクソン(第七代大統領)は正規の教育を受けず、叩き上げの軍人として米英戦争で英雄となり、大統領にまで登りつめた人物である。ブッシュ政権で言えば、ラムズフェルド国防長官やディック・チェイニー副大統領が、この路線を代表している。

海洋国家 対外関与に積極的 国力の限界に楽観的

②ジェファソニアン
大陸国家 選択的な対外関与 国力の限界に自覚的

③ウィルソニアン
普遍的な理念を外交目標として追求

④ジャクソニアン
国権の発動や国威の高揚を重視 軍事力に傾斜

何を言いたいかというと、アメリカに本当の固有のものね、「歴史」から出てきた「アメリカはこう考えるんだ」というこういうようなものが無いものだから、外部からの刺激が来ると一時利用して新しいものを作るのだけど、どんどんどんどん外部を利用するんだけど、それは外部を利用しているだけで、固有のものが無いからね、もう利用する外部なんて無くなっているわけですよ。せいぜい国境を超えてくるメキシコ人ぐらいでね。でもそれをもう利用できませんからね。恐らく、何も出てこない、けどしかし、その「振る舞い方」だけはね、自分たちは何かをクリエイトして、それを世界にばら撒いて、言う事を聞かない者はいま伊藤さんが仰ったように力を持って潰してしまうんだという、そういうやり方だけは万古不易(※ばんこふえき=永久に変わらないこと)で残っちゃったと。

うん・・・最初ね、ちょっとローマ帝国の比喩が出てきましたけどね、もともとアメリカの建国の精神というのは非常にローマ的ですよね。ローマをモデルにしていて。だけど、そのローマというのは共和国なんですよね、帝国の方じゃなくって。だから、最初のアメリカの建国の精神というのは、政治的には【共和主義】で、経済的には個人主義自由主義、【自由な個人による資本主義】みたいなものですよね。

うん。

それから宗教的には【ピューリタニズム】と。で、それでやってきたんだけど、19世紀通じて今の大衆運動も出てくるし、それから「西部もフロンティアは無くなってしまう」し、「新しい市民」と言われる、いわゆるプロテスタントではないようなカソリック系とかユダヤ人とかそういう新しい移民がどんどん入ってくる。

だから19世紀から20世紀に入る辺りで、アメリカという国の基本的な柱みたいなものが大きく変わってくるような気がするんですけどね。で、いまの共和主義に変えて『大衆民主主義』みたいなものが出てくるし、個人主義自由主義的な資本主義に対して、もっと『大企業中心金融中心の経済』に変わってくるし。

[*政治、経済、宗教の多様化で国家の柱が変化したアメリカ ]

考えたら、話は少し飛ばして悪いけど、まぁね、日本のインテリはオカシイんですけどね、前もこの番組で言ったかな、明治維新のちょっと前に『南北戦争』があるでしょう、アメリカで。市民戦争、Civil War(シビル・ウォー)あれはすごい戦争で、アメリカの南部とお互いどれくらい殺し合ったかご存知?

今村有希
いえ(笑)

明治維新の時にはね、例の会津戊辰戦争の時は8千人ぐらい死んでいますけども、それを入れてね、1万2、3千人ぐらいしか死んでいないと言われている、明治維新をめぐっては。人口3千万。

[*明治維新の時は人口3千万人 戊辰戦争を含む死者1万2千人 ]

(シビル・ウォー)当時のアメリカもたぶん人口3千万人ぐらいで、(戦死者は)どれぐらいだと思う?

今村有希
半分ぐらい・・・

60万人殺し合ったの、南北戦争で、国内でよ?凄まじい殺し合い。

[*南北戦争時の米国の人口3千万人 そのうち60万人を殺害 ]

何を言いたいかというとですね、それが1860年代でしょう。その後、実はね、あの人の名前は覚えているでしょう?「トムソーヤの冒険」を書いた・・・

伊藤貫

マーク・トウェイン】ね。そのマーク・トゥエインが1870年代のアメリカを指して、黒板に書かないけど、Gilded Age(ギルデッド・エイジ)。

伊藤貫
えぇ。

guild(ギルド)というのは、この場合は商工業組合のことじゃなくて、ギルドってのはメッキですよ「金メッキ」、つまりメッキ時代ね。直訳は「金ぴか時代」って・・・

伊藤貫
金ぴか時代、はい。

つまり“金(カネ)の世界”ね、金ぴか。「我がアメリカは、結局は金ぴか=カネを中心にする“金ぴか文明”しかこの国にないのか!?」と嘆いたのがマーク・トウェインの、それは1870年ですよね。

[*「金ぴか時代」(Gilded Age) マーク・トウェイン(作家) ]

あれからもう140年も、もっと経ってるのか・・・でもね、それを理想だと思って日本がね・・・日本ぐらいなんですけどねぇ・・・アメリカに理想見出しているのは。

でも、アメリカもね、日本は手放したくないと思うよ。

伊藤貫
僕はなんかもっとシニカルというか意地悪な見方なんですけども、僕がワシントンにずっと住んでて、あのアメリカ史を読んでてマトモだなと思うのは、まず「最初の6人はマトモ」なんです、大統領の。

で、ワシントン、アダムス、ジェファーソン、マディソン、モンロー、もう一回アダムス、ジョン・クインシー・アダムスと。

あぁ。

伊藤貫
で、僕が特にお気に入りなのは「アダムス親子(2代と6代President」なんですけど、ジェファーソンはあんまり好きじゃないですけどね。だけどそれは別として、この6人は一応は『Gentleman Class(ジェントルマン・クラス)』なんですよ、要するに『紳士階級』で、もっとハッキリ言うと、政治家になってお金を稼ぐ必要が無いんですよ。

[*Gentlemanクラスの大統領:初代大統領 ジョージ・ワシントン(George Washingto)、第2代大統領 ジョン・アダムズ(John Adams)、第3代大統領 トーマス・ジェファーソン(Thomas Jefferson)、第4代大統領 ジェームズ・マディソン(James Madison)、第5代大統領 ジェームズ・モンロー(James Monroe)、第6代大統領 ジョン・クィンシー・アダムズ(John Quincy Adams) ]


うん。

伊藤貫
で、その後の(西部が)さっき仰ったジャクソン(Andrew Jackson、第6代)ですね。あれは小学校も出ていないと。

あぁそうなの?

伊藤貫
そうそうそう。

小学校も出ていない(笑)

伊藤貫
それで軍人になって、インディアンを殺しまくって、それで(大衆に)ワァーッと人気が出て、そういう野蛮人でもって、ウェスタン(映画)に出てくるクリント・イーストウッドとか、あのアーノルド・シュワルツェネッガーとかね(笑)、あぁいう感じのもう、それで大衆の人気を得て、あそこからもうvulgar and coarse(ヴァルガー&コアース)、粗野で野蛮な連中がアメリカの大統領になって。

[*vulgar and coarse 粗野で野蛮化 アメリカ大統領の系譜

伊藤貫
で、例外的にリンカーンエイブラハム・リンカーン:Abraham Lincoln、第16代)は偉かったですね。リンカーンは偉くて、その後のセオドア・ルーズベルト(Theodore Roosevelt、第26代)もすごくお金持ちの子供で政治家なんてならなくてもよかったのになったと。

それからフーヴァー(Herbert Clark Hoover、第31代)さんですね。フーヴァーもまともな人間で、第二次世界大戦後で言うと、アイゼンハワー(Dwight David Eisenhower、第34代)と、それからブッシュのお父さん(George Herbert Walker Bush、第41代)、この2人はあのジェントルマン・クラスと言っていいと思うんですね。

で、後はもうほとんど全員「成り上り者」で・・・

そうだね。

伊藤貫
キチンとしたgoverning philosophy(ガバニング・フィロソフィー)というようなものがあったのは最初の6人だけでね。それから後は、もうあれですよ・・・オモチャ箱をひっくり返したような感じで。

(笑)

佐伯さんご存知だと思うけどね、話を戻して、ぼく昔ね、【福澤諭吉】を読んでた時に、あれは明治12年ぐらいになるのかな?だから1879年あたりに『世情一心』だと思った・・・

あぁ〜。

小さめの論文を書くんですね。実はそれね種本があって、彼の弟分が、同じ慶応の【小幡篤次郎】(※元中津藩士、慶應義塾塾長、教育者、思想家)という人がね、それがトクヴィルを訳したのね。全訳じゃなくて抄訳ね。

[*福澤諭吉の弟分である小幡篤次郎トクヴィルを抄訳する ]

伊藤貫
えぇ。

というのは彼らは徳川幕府出身だから、徳川幕府はフランスと関係があるからフランス語は出来るわけさ。トクヴィルはフランス人でしょう。

伊藤貫
えぇ。

それで小幡が訳したのを、兄貴分の福澤諭吉が、あくまで想像で言ってるのよ(笑)・・・ふ〜んと。あそこで書いてあることは『アメリカ批判』(※トクヴィル著「De la démocratiee en Amérique」)なんですよ。

伊藤貫
はい。

簡単に言うとね、いわゆるデモクラシーってのは「多数派が支配すること」だけども、おそらくそれは致し方なく進むという意味で歴史の必然だが、1835年に出た本よ、日本でいえばまだ江戸期の末期に出た本で、

今村有希
はい。

(※トクヴィルの「アメリカのデモクラシー」が出版された当時の)要するにアメリカという国は、多数者の専制、英語で the tyranny of the majority(ザ・ティラニー・オブ・ザ・マジョリティ)、もっと言うと、凡庸なる多数者の群れが得体の知れない Periodical Press(ピリオディカル・プレス=定期刊行紙、新聞)、今でいえば「新聞」ですよ、まぁパンフレットを含めてね、そんなものに誑かされて、その場限りの世論でもって、多数者の専制、というものが行われていると。

[*「アメリカのデモクラシー」トクヴィル:the tyranny of the majority「多数者の専制」その場限りの世論で動く米政治の危うさを指摘 ]

伊藤貫
えぇえぇ。

簡単に言うと、(アメリカは)とんでもない国になるんじゃないの、ということを如何にもね・・・彼は一応、トクヴィルはフランスの下層だけど貴族なんですよ。

伊藤貫
えぇ。

非常に上品な人で遠慮深く書いているから、日本のお馬鹿さんの西洋の学者さんたちが、よくこのトクヴィルのことを「アメリカン・デモクラシーを褒め称えた書物」と言ってる人もねぇ(呆)・・・アメリカの専門研究者にすらゴロゴロいるという、とんでもないことなんだけど、

伊藤貫
えぇ、そうそう。

実際にちゃんと読むとそう書いてある(※アメリカ批判)のね。で、福澤諭吉の時代で、福澤は弟分(※小幡篤次郎)経由で既に「大変なことになる」と。太平洋を支配している蒸気機関と郵便と出版と通信かな、これは西洋に大混乱をもたらしている。この猿真似をしたら、猿真似としての『文明化』を明治日本がやったらヒドいことになるぜ、と福澤諭吉が警鐘を鳴らしたのは明治12年なんだよね。だから、日本人も昔は利口だった。

[*蒸気機関・出版・通信で西洋は大混乱 猿真似を警告していた福澤諭吉

フフッ(笑)

今村有希
(笑)

伊藤貫
(うんうん)

ところがあなた、それから何十年も経った戦後日本人が「アメリカさまァー!!」と(両手を天に翳して)こうやっていると。

うん、今のアメリカの理想主義というのが確かにあるんだけども、例えば、そのウィルソンが参戦した一つの大きな理由は、要するにアメリカ側がヨーロッパに、イギリスにものすごくお金を貸していましたからね、戦費を。

伊藤貫
えぇ。

だから、もしもヨーロッパが、イギリスが負けたら「(貸した金が)返ってこない」んですよね。

あぁ。

それで、ウォール街の金融業者たちがかなりウィルソンに圧力かけたり、まぁそういう背景もあって、で、アメリカはドイツに直接攻撃されていませんからね、ルシタニア号とかいう客船が(ドイツに)攻撃されて、

伊藤貫
そうそうそう。

(それで)アメリカ人が100人ぐらい死んで、アメリカの世論が若干交戦、戦争に傾いてきた時にね、そのウォール街の利益をある意味でうまく吸い取った形で、ウィルソンの理想主義を掲げて参戦したという形でしょうね。

[*ウィルソン大統領に掛けた ウォール街の圧力が第一次大戦参戦へ / ルシタニア号事件:1915年5月7日、イギリス船籍の豪華客船ルシタニア号がドイツのUボートの攻撃を受け沈没、アメリカ人128名を含む1198名が死亡するルシタニア号事件が発生した ]

だけど、僕はウィルソンは誤魔化し野郎だなんて乱暴なことを言ったのは、大した言葉を知らないんだけども、普通に確認されているのは、あの第一次世界大戦後の『パリ講和条約』でね、日本の外交団が断固頑張ってね、世界のいわゆる『人種差別問題』ね、それに対して、やはりその白人たちの人種差別をやめよう、という提案を日本が持ち出したの。

伊藤貫
(うんうん)

それを巧みにね、すっぽかしちゃったのが理想主義者ウィルソンなんだ(笑)その辺りからが、もう随分とね。

◉アメリカニズムに染まっていった近代、対米従属してきた戦後日本人

ちょっと話がそれますが、この前の例の安倍さんの『戦後70年談話』でね、あそこで安倍さんはいろんな政治的状況を考えながらやってるんで、まぁ苦しいなかでやっていることはよく分かるんだけども、あの談話の基本的な基調というのは、要するに、日本がまだ明治維新で独立した時は、まだ西洋の植民地化が、アジアに植民地を(西洋列強が)つくろうとしていた。日本はそれをなんとかして独立を守ろうとした。そのために近代化をしたと。で、それはまだよかった。

だけど、19世紀の終わりから20世紀の初めに入った頃には、時代は変わっていた。特にウィルソンが出てきて、アメリカが世界のデモクラシーを世界に広めていって、世界秩序をつくろうとして、新しい世界秩序が出来あがっているその動きの中に、日本は全く乗らずに、それで世界秩序に挑戦するようになった。それが例の「侵略戦争」に結び付いたってのが基本的な安倍さんのトーンでしょう。

[*戦後70年安倍談話のトーン 米国が広げる世界秩序と侵略戦争 ]

で、その前のですね、あの「21世紀懇話会」か、21世紀であの北岡さん(北岡伸一:政治学者、東大名誉教授)が中心になってやった、

あぁ〜。

あれ(=北岡座長の21世紀懇談会)なんかも基本的に、「20世紀の初めには国際秩序というものが出来上がる方向に動いていた」と。で、それでウィルソンが出て来る、国際連盟がまぁ中途半端だけど出来る。パリ講和会議があり、でワシントン条約軍縮があり、不戦条約になる。こういう国際的な平和秩序の構築ということに(日本は)刃向かったと。

[*20世紀初頭には国際秩序が完成と「21世紀構想懇話会」(北岡伸一座長) ]

そうか。

これはねぇ、《これこそが本当にアメリカニズム》ですねぇ。アメリカニズムに見事に騙されたというか(失笑)

[*安倍談話をめぐる発表以前の北岡氏の発言についての参考サイト:http://ironna.jp/article/1332 http://www.sankei.com/column/news/150317/clm1503170001-n1.html

伊藤貫
そうそう。『それは東大法学部的な歴史解釈(=北岡伸一)』で、僕は昔から特に北岡さんの考えには合わないんですけども、その理由を言いますと、まずウィルソン自体はイデオロギー、American Ideology(アメリカン・イデオロギー)を広めたいという理由で(第一次大戦に)参戦したんですけども、だけど、ウィルソンがそういう参戦の理由を決める前に、米軍のestablishment(エスタブリッシュメント=上層部)は既に参戦することを決めていたんですね。

あぁ〜そう。

伊藤貫
えぇ。何故かと言いますと、1890年代にマハン(Alfred Thayer Mahan:アルフレッド・セイヤー・マハン)っていたでしょう?「海上権力史論」の。

あぁ。

伊藤貫
で、マハンが、イギリスがどういうふうに世界帝国になったかという本を書いて、それでセオドア・ルーズベルトとか、アメリカの上院の外交委員会の委員長だったヘンリー・キャボット・ロッジ(Henry Cabot Lodge, 政治家、歴史家、1850~1924)とか、非常にinfluential(インフルエンシャル)な、影響力の強い男なんですけども、彼らが(ロッジの理論に)熱狂して、要するに1890年代になるともうイギリスが reclining empire(リクライニング・エンパイア=傾いた帝国)であるというのが明らかになってきたんですよ。次は俺たちだ!!と。

[*Alfred Thayer Mahan(米海軍軍人、歴史家、戦略研究者、1840~1914):海洋戦略を展開「海上権力史論」を書く。イギリスの興隆を研究、セオドア・ルーズベルトも影響を受ける ]

伊藤貫
で、その時にアメリカは何をやったかというと、あのアリもしないベネズエラの国境問題でイギリスと対立してみせて、大英帝国の艦隊をカリブ海から追い出すということを始めたんですね。

[*英国に対し強硬の米国は「ベネズエラ危機(1896年)」1895年から1896年にかけて、イギリス領ギアナベネズエラとの間の国境紛争に関し、当時の米国大統領 グロバー・クリーブランド(Stephen Grover Cleveland、第26代)は、武力を使ってもイギリスに対抗すべきという断固たる態度をとった。その意図は、イギリスの勢力を西半球から追い出したいというものだった ]

あぁ〜。

伊藤貫
それと同時にスペインの海軍をカリブ海とフィリピンから追い出すために『米西戦争』(1898年)を起こす。だから、1890年代に既にアメリカの外交史を読んでいると、「俺たちがイギリスに代わる次の世界の覇権国になるんだ!」ということがいろんな文書から出て来るんですね。

[*「米西戦争」(1898)に勝利したアメリカはスペインのカリブ海から太平洋における植民地を獲得する。フィリピン、グアム、プエルトリコを独立支援の名目のもとキューバ保護国化]

伊藤貫
で、その時に、彼らが考えたのが Western hemisphere(ウェスタン・へミスフェア=西半球)、要するに、西半球を支配する regional hegemon(リージョナル・へジェモン)、地域的な覇権国になると。

うん。

伊藤貫
で、彼らはそれだけでは気が済まなくて、regional hegemony(リージョナル・ヘジェモニー=地域覇権)を握った後は、ヨーロッパと東アジアにおいてアメリカに対抗できるような覇権国(へジェモン)が現れるのを許さないと。『ヨーロッパと東アジアで強そうになる国が出て来たら、我々は必ず叩くんだ!』ということを決めたんですね。それは、1890年代に決まっているんで、だから、 日露戦争に日本が勝ったら、アメリカは急に態度が冷たくなったでしょう。

はいはい。

伊藤貫
それから、ドイツがやっぱり当時のドイツの陸軍というのはどう考えても世界一ですから、そうするとこのドイツをやっぱり叩いとかないといけないと。

『だから、もう20世紀の初めからアメリカは、ドイツと日本を敵視するというか、こいつらに東アジアと西ヨーロッパの覇権を握らせないという意図があったんですね。』

[*ヨーロッパと東アジアにおいて米国に対抗できる覇権国を許さない ]

ウィルソンはそのグループには所属していないんですけども、要するに自分の事を理想主義者で、神様から、彼は牧師の息子でしょう?

あぁ、そうですね。

だから、自分には神様から与えられたmission(ミッション=使命)があるという、missionary spirit(ミッショナリー・スピリット=伝道師精神)がこれまた入ってたわけですね。

うん。

伊藤貫
で、僕が例えば北岡さん(北岡伸一)だけじゃなくて、あの(日本の)外務省の連中と喋ってて、どうも合わないのは、彼らは、アメリカは如何にもそういうウィルソニアン的な理想主義で国際政治をやってきたんだということばっかり言って、模範的な hegemonism(ヘジェモニズム=覇権主義)というものがどう見たってあるのに、日本の外務省の連中はそれを殊更に無視するんですよ。

[*ウィルソニアン的な理想主義による国際政治だと覇権性を無視する外務省 ]

伊藤貫
それで、例えばこの前の戦争(大東亜戦争)にしても、僕は(日本軍が)中国に入っていったのは間違えだと思うんです。満州事変をやったのも間違いだと思うんですね。それは、Geopolitical(ジオポリティカル=地政学)な面から見て、日本がそんなアジア大陸に入っていって平定出来るわけがないから軍事的に僕はオカシイと思うんですけども、外務省の連中は「不戦条約を守らなかったからイケナイ」という甘っちょろいというか、要するにそういう理屈で来るわけですね。

翻訳本があって、そのタイトルは忘れたけども、

伊藤貫
えぇ。

大統領の裏切りだったか、陰謀だったか・・・それはルーズベルトね。

伊藤貫
えぇ。

アメリカは(日本との)戦争をやりたいわけ。日本を潰したいわけ。

伊藤貫
えぇ。

ところがある時に、ヨーロッパの戦争に参戦しているんで、一つはアメリカ人に厭戦気分があってね、それから財政事情もアメリカだってお金の問題もあるから、さらにドイツのみならず日本ともやるのかと嫌だなと。それを突破するには是非とも日本に先制攻撃をさせると。

伊藤貫
えぇ。

それでいろんなことをやるわけ。日本封じ込めだなんだって、挑発するの。とうとうそれが成功して日本軍が真珠湾に行くでしょう。その時のアメリカ人はまたクソ真面目なところがあってね、その時の「議事録」が残っているんですよ、大統領を含めて陸軍・海軍の大将、総督たちの。とうとう(日本軍が)真珠湾をやった時は、もう全員がかりで「ヤッタァー!!」っと喜んでいる議事録がね。

[*日本に戦争をやらせようと挑発、真珠湾攻撃を喜ぶ米海軍 ]

フッフッフッフ

これで要するにRemember Pearl Harbor(リメンバー・パールハーバー)。

でも、その前によくね、伊藤さんご存知だと思うけど、日露戦争で取り敢えずね、ポーツマス条約の時に(アメリカは)味方したけども、その直後に何だっけ『Yellow Plan(イエロー・プラン)』、これおかしいんですけど、第一に軍隊の机上の戦略なんですよ。この軍隊をどう動かすと。まぁ僕に言わせれば明らかに“Yellow Jap(イエロー・ジャップ)”のことが念頭にあって、その机上の計算は1906年かそこらの話ですよ。

伊藤貫
えぇ、そうです、大体そうです。

『日本を如何に滅ぼすか』という机上の作戦だけど、それもアメリカがやっているのね。それがまぁ1906年とか何かでしょう。それから何年も経ってとうとう真珠湾を1941年の時には(アメリカは両手を挙げて)ヤッタァー!!って。それで3年半後に日本を滅ぼすというね。

ぼく別に怒って言っている、反米主義で言っているんじゃなくって、歴史的事実の経緯としてそういうものなんですよね。

◉米国が仕掛けた戦争と占領政策、洗脳された戦後日本人

うん、まぁしかもね、その戦争後に「占領政策」に入って、完全にアメリカは日本を非軍事化するのはまぁ分からんではないんだけども、もう一つアメリカがやろうとしたのは、まぁ言ってみれば【洗脳】ですよね。

洗脳だね。

日本人のモノの考え方を完全に変えてしまう、War Guilt Information Program(ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラムWGIP)という「あの戦争が如何に日本が間違ったことをしたかということを、とにかく日本人の頭の中に植え付けてしまう。アメリカ型の自由や民主主義と(日本の)軍国主義の戦いであった、ファシズムとの戦いであった」というそれにまぁ(戦後日本は)見事に染まりましたよね。これは本当にあぁいうところではアメリカのスゴいところだと思いますけどもね(呆笑)

[*WGIP:War Guilt Information Program 戦争についての罪悪感を日本人に植え付ける宣伝計画 ]

日本人がここに引きすえられてね、薬を打たれ、睡眠をとらされずに拷問によって強引に洗脳されたんじゃないんですよ、日本人は。《御自ら日本人は洗脳して下さーい!!って》・・・

フッフッフッフッフッフ(笑)

貴方の言う事に従いまーす!!って喜び勇んで・・・

うん。

むしろアメリカ人の方がビックリしたでしょうね。これでもって1回目の結論として貰いたいけどね、先ほどのアラブ問題からその始まったから、イラクの時にフセインの時に俺もうビックリした。アメリカは堂々と発表したんですよ、まずイラクを滅せると思ったんでしょう。

伊藤貫
(うんうん)

最初の発表・・・イラクのNation Building(ネイション・ビルディング)、国家建設・・・新しくイラクを国家建設するんですってアメリカは。そのお手本は「GHQ方式」、General Headquarters、それは何かったら、「日本の占領方式をそれをモデルとして、イラクに新しい国をつくりましょう」・・・

[*イラクのNation Building 国家建設は、日本を占領したGHQ方式をモデルでと ]

今村有希
(うん)

・・・といって、脆くもざまぁみやがれ!と僕は思っているけど、(アメリカはイラク政策に)失敗しましたけどね、でもね、後半部分は僕の乱暴発言を抑えつつ、僕の乱暴な発言は伊藤君のために抑えつつ・・・

伊藤貫
(笑)

アメリカとは何ぞやという話を延長しましょう(笑)