アメリカ帝国大混乱!!!① ゲスト:伊藤貫(評論家)〜西部邁ゼミナール〜

アメリカ帝国大混乱!!!① ゲスト:伊藤貫(評論家)〜西部邁ゼミナール〜

ゲスト:
伊藤貫:評論家、国際政治・米国金融アナリスト、近著「自滅するアメリカ帝国 〜日本よ、独立せよ」(文春新書)ほか多数

【ニコ動】
西部邁ゼミナール)アメリカ帝国大混乱① 2016.08.13
http://sp.nicovideo.jp/watch/sm29440449

 

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今村有希
今回は、アメリカのワシントンD.C.から評論家の伊藤貫先生がお越しくださいました。

 

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今村有希
アメリカの大統領選挙では、民主党からはヒラリー・クリントン候補が、

 

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今村有希
共和党からはドナルド・トランプ候補が選ばれ、11月の投票日に向け、熾烈な選挙戦が繰り広げられています。

僅か0.1%の富裕層が莫大な富を得て格差が広がるだけでなく、政治・経済・軍事をも支配するという異常事態に、アメリカ国民の不満が高まっています。

グローバル資本主義による共同体の破壊、諸外国への軍事介入と大きな問題を抱える“かつての帝国”は、今や大混乱に陥っています。

EUからの離脱を選んだイギリスに見られるように、グローバル資本主義はもはや断末魔の叫びであり、いま世界は大きな曲がり角に差し掛かっているようです。そこで今回から3回に渡り『アメリカ帝国大混乱!!!』と題しまして議論して頂きます。それでは先生方、宜しくお願いします。

西部邁
あぁ、どうも良いタイミングで来てくださいました。

伊藤貫
はい。

西部邁
良いタイミングというのは日本でね、安保法制なるものを巡ってね、

伊藤貫
はい、はい、

西部邁
サヨクは「戦争法反対」だと言って、ウヨクは「日米同盟でもって危険を負担しなきゃいけないんだ」と。

[*左翼“戦争法反対” 右翼“日米同盟危険負担” ]

伊藤貫
(うん)

西部邁
そういう馬鹿なケンカをやっているんですよ。

伊藤貫
はい。

西部邁
ところが両陣営ともね、アメリカという国がどういう国なのかについてはね、

伊藤貫
えぇ、

西部邁
何も知らないか、少なくとも何も議論していない。一体それで戦争だの同盟だのってなんという沙汰だというねぇ・・・吾輩一人で頑張っていたんですけどね、

[*アメリカという国がどういう国なのか“左翼”も“右翼”も何も知らないか議論せず ]

伊藤貫
はい、

西部邁
そこに(伊藤が)来てくださったと。

伊藤貫
はい(笑)

今村有希
(笑)

西部邁
アメリカ人以上のアメリカ人が来てくれた。

西部邁
イギリスがEUから離脱してね、

今村有希
はい、

西部邁
僕はもちろんね、(離脱に)大賛成で、というのは昔あのサッチャーさんが引退した直後にイギリスが(EUに)参加するかどうかの時に、サッチャーさんたった一人はね、反対してたんですよね。

伊藤貫
(うん)

西部邁
それで僕はその時に自分の雑誌で「サッチャー弁護」をやって、日本で弁護しても何の効果も無いんですけどね(笑)、あの当時からね、もう由々しいことになるだろうと。いわんやあれは4、5年前になりますかね、ギリシャの経済危機だなんだって。もうEUの崩壊、亀裂というのはもう何年も前から殆ど自明のことなんですね。

[*ギリシャ経済危機2010年、EU崩壊は自明のこと ]

伊藤貫
はい。

西部邁
それがとうとう表沙汰になったというだけで僕は驚きはないのだけど、

今村有希
はい。

西部邁
その辺りのことを、話してもらうところから始めましょうか。

伊藤貫
はい。1989年にだのベルリンの壁が壊れて東西の冷戦というのが終わりまして、1991年にソ連帝国が崩壊したわけですね。そうすると1991年から93年にかけて、実は世界の経済システムと政治システムは二つのoption(オプション)があったわけです。

[*1991年ソ連崩壊後の世界政治経済二つのoption ]

伊藤貫
で一つのoptionは、アメリカが1945年以降のリーダーシップを維持して、アメリカの基準とアメリカの経済システムをスタンダードとするglobalism(グローバリズム)、それから世界の経済的統合と。でアメリカにとってEuropean Union(EU)というのは、その一つの道具として都合が良かったわけですね。

西部邁
うん。

伊藤貫
で日米同盟もそのまま堅持したいと。アメリカがユーラシア大陸の周辺部であるヨーロッパとか中東とか東アジアを全部支配すると。それがoption No.1と。

[*欧州、中東、東アジアをアメリカが支配するoption ]

西部邁
うん。

伊藤貫
でoption No.2が、当時ハーバードのハンティントン(サミュエル・P・ハンティントン)とか、それから当時まだ生きてたジョージ・ケナンとか、ジョージ・ケナンというのは冷戦の封じ込め理論を作った人なんですけど。それとかあとはキッシンジャーヘンリー・アルフレッド・キッシンジャー)とか。

そういう人たちが議論したのが、それは無理だと。

西部邁
うん。

伊藤貫
要するに、アメリカのやり方・経済システム・軍事覇権・政治システムを世界中に押し付けて統一しようとするのは無理だから、今後の世界はUnipolar(ユニポラール)要するに一極構造ではなくて、Multipolar(マルタイ〔マルチ〕ポラール)、多極構造になっていくと。

[*【一極構造】Unipolarから 【多極構造】Multipolarへ 「封じ込め政策」提唱のケナン(米外交官)等が主張 ]

伊藤貫
で多極構造になっていくと、18世紀とか19世紀のヨーロッパには、例えば5つか6つの大国があったわけですけれども、その5つか6つの大国が Balance of power(バランス・オブ・パワー)をやって、そしてそれぞれ別の経済システムと政治体制を持ちながら均衡していくと。でそれが、option No.2なわけですね。

[*【勢力均衡】Balance of power 19世紀以降の欧州、それぞれの経済システム政治体制を持ち均衡してゆく ]

伊藤貫
アメリカでは、もちろんoption No.1が勝ったわけです。

西部邁
うん、うん、うん。

伊藤貫
で当時のアメリカは要するに、日本に独立させるつもりはないし、それからEuropean Union=EUに対しても本音レベルでは独立させないと。

西部邁
うん。

伊藤貫
90年から91年に非常に面白い事件があって、それは何かと言うと、European UnionがEuropean military policyというのを持ちたいと。ヨーロッパ、西欧共同体が独自の軍事政策を持ちたいと。そしたらブッシュ政権パパ・ブッシュ政権)の国務省の次官補が、日本で言えば局長なんですけど、(※身を乗り出して熱弁調で)ヨーロッパに乗り込んで「そんなことはさせない!!」と、「独自の軍事政策など何事だ!!」と、「独自の軍事政策を持とうとするんだったら、アメリカとヨーロッパの軍事協力関係は即座に切るぞ!!」と。

[*欧州独自の軍事政策に米国務省の次官補が圧力 ]

西部邁
あぁ〜。

伊藤貫
ヨーロッパ諸国は軍事情報とか軍事技術でやっぱりアメリカに依存していますから、即座に切るぞ!!と言われると困るわけですよ。

西部邁
うん。

伊藤貫
そこまでやってヨーロッパの独立を阻止しようとしたわけですね。何でかと言うと、アメリカのスタンダード、アメリカのglobal hegemony(世界覇権)を維持したいからで、その時に常にアメリカの言いなりになって動いていたのがイギリスなんですね。

西部邁
うん。

伊藤貫
要するに、European UnionとNATOで一番アメリカの言うことを聞くのがイギリスで、いつもアメリカの手先だったわけですね。

[*EUとNATOの中で米国の手先だったのが英国 ]

西部邁
うん。

伊藤貫
でアメリカから見ると、こんなに便利な国はないと。でイギリスの政治家たちも得しているんですね。イギリスの金持ちのトップ1%も得しているわけです。

西部邁
うんうん。

伊藤貫
それで要するに、イギリスのエスタブリッシュメントもそれでいい、それでいいと言うんですけども、イギリスの庶民は(それが)なんとなくおかしいなと。なんで自分たちの利益とは関係無く、いつも自分たちの政策がアメリカのワシントンか、それともヨーロッパ、ベルギーのブリュッセルで決められるのかちゃうんだろうと。何か分からないけど、自分たちにとって一番大切な外交政策と経済政策がいつも誰か別の奴に決められていると。

[*重要な政策を他人が決める、英国庶民の不満が広がる ]

伊藤貫
でそういう不満が広がっていて、しかも過去25年間、貧富の差がどんどんどんどん広がっていくわけです。で、先進産業諸国で貧富の差が一番酷いのがアメリカなんですけども、ヨーロッパではイギリスが一番酷いんですよ。

[*欧州における貧富の差、一番大きいイギリス ]

西部邁
あぁ〜。

伊藤貫
そうすると、自分たちが外交政策と軍事政策、経済政策を自分たちで決めていないということに対する不満があって、そこに貧富の差がどんどんどんどん広がっていくというので、イギリスのエスタブリッシュメントはもうほぼ unanimous(ユナニマス=満場一致、全員一致)、全員のコンセンサスとしてEuropean Unionに留まるべきだと言ってたのに、イギリスの国民が反発して出て行く(Brexit)ことになったと。

[*EU残留のestablishment EU離脱の英国民 ]

伊藤貫
でそれも1991年から93年にかけて多極状態を選ぶか、それともアメリカを中心とする一極状態を選ぶかという2つのoptionがあった時に、日本にもヨーロッパにも相談なく“一極状態”で、American Standardを世界中に押し付けるということを選んだわけですね。

[*1991年から1993年、多極か一極かの選択肢 ]

伊藤貫
でそこらへんでちょっと無理があったというのが(冷戦終結後の1991年から)25年経って、こういう結果になってきたと。

[*アメリカン・スタンダードを世界に押付けた25年後 ]

西部邁
まぁ僕も同じ意見ですね。

伊藤貫
はい。

西部邁
相談なくと言ったって、日本人は相談もされていないのに御自ら「大賛成!!」と。

伊藤貫
えぇ。

西部邁
American Standardによるglobalism大賛成と!!

今村有希
(笑)

西部邁
・・・言ってるような国でね、僕はその頃からずーっとたった独りでいろんなこと書いた。

伊藤貫
えぇ。

西部邁
いつも孤立してて・・・不愉快極まりないんで、その逆で最近ね、

今村有希
はい、

西部邁
老人でありながら愉快でねぇ・・・

伊藤貫
えぇ。

西部邁
ようやっとイギリスが(EUを)脱退してくれるし(笑)そういえばギリシャの経済危機の時に、僕らの雑誌(※表現者)で「EUの没落」というテーマでね、頑張ったりいろいろやってきたんですけど、

伊藤貫
えぇ、

西部邁
ようやっとイギリス人がね、一般庶民でしょう、本音でもって。

[*一般庶民の本音が表れたイギリスのEU離脱

伊藤貫
(頷く)

西部邁
ところがね、日本という国は酷い国で、テレビに出演している学者・評論家・ジャーナリストがね、昨日まで民主主義万歳で、何についてでも民意を問え!民意を問え!と叫んでた奴らがね、

今村有希
ウフフフフ(笑)

西部邁
急にですよ、

伊藤貫
はい、

西部邁
こんな大事なことを国民投票にかけていいのかと。

伊藤貫
うん、うん、うん。

西部邁
もう日本人相手にしたくないの(呆)

今村有希
うん。

西部邁
だって昨日までですよ、民主主義、民主主義、民意に問え、民意に問えと、国会で何が決まろうが、そらぁ自民党が多数で決めたことじゃないかと、民意は反対しているなんて言ってた連中たちが、ヨーロッパの状態を見てね・・・国民投票を疑えと!!

[*民意に問えと叫んでいたが、EU離脱国民投票を疑えと ]

伊藤貫
うんうんうん。

今村有希
(笑)

西部邁
自分の言ってることすら何一つ自信・確信という以上に本気じゃないんですね。

伊藤貫
えぇ。

西部邁
もう「YesはNoであり、NoはYesである」というね、これ昔、ジョージ・オーウェルの『Big Brother』という全体主義を表す時に使った皮肉な言葉なんだけど、国民投票?民意?それに従うのか従わないのか、昨日までYes!!と言ってた人が、今日はNo!No!!と言ってる、そういう国ですからね。

[*ジョージ・オーウェル小説に登場するBig Brother

伊藤貫
(頷く)

西部邁
僕は本当に最近嬉しいのはね、ようやっとイギリスが脱退してくれた、で、その大西洋の向こう側にはアメリカという国があって、

今村有希
ウフフフフ(笑)

西部邁
これは数週間前から事情は詳しくないのでありますが、あの乱暴な顔をした、乱暴な言葉をしたトランプさんが、

今村有希
トランプさん(笑)

伊藤貫
えぇ。

西部邁
これは本当に嬉しかったのはね、まぁ最近は言っていないらしいけど、いろんなこと言ってる人なんでしょうけども・・・日本?韓国?何でそんな奴らのために俺達が金を使ったり犠牲になったりしなきゃいけねぇんだと。自分の国は自分で守りやがれと。核武装したけりゃじぶんでせい!!・・・僕が言ってきたことなんだけど、日本はそれを言っただけでパージされる。

[*日本、韓国のために何で俺達が金を使い犠牲に、自分たちの国は自分で守れ、核武装は自分たちでやれ ]

伊藤貫
(頷く)

西部邁
だけど、よくぞ言ってくださいましたね、トランプさん。貴方が何者かよく存じ上げませんが、日本のことなんか知らねーと。俺達は俺達のことで精一杯だと言ってくれてただけでね、こんなありがたい御方はいないと(笑)

伊藤貫
えぇ。

西部邁
それでもう嬉しくてさ(笑)と思ってたら(※日本よ核武装せよ!の)伊藤さんが来てくれた。

伊藤貫
はい(笑)

今村有希
(笑)

西部邁
(どうぞ)

伊藤貫
アメリカが世界中の経済システムと軍事システムを支配するというのに必要なアメリカのGDPというのは、アメリカの軍事学者とか国際政治学者に言わせると、世界の経済の少なくとも4分の1(世界の総GDPの25%)は支配していないと、そういう一極体制は出来ないと。

[*アメリカによる一極支配、世界支配に必要なGDP

伊藤貫
それでアメリカという国は非常に変わった国で、世界大戦の直後は世界のGDPの50%を支配していたんですよ。

西部邁
すごいねぇ。

伊藤貫
だが、それはもうその当時のアメリカにとっては一極体制をつくるのは簡単だったのですけども、ニクソン政権の時にもう既に(世界のGDPの)30%まで下がっていたんですね。でそれが冷戦が終わった頃には25%ぐらいにまで下がってきて、もうその時にかなり危なかったんですよ、25%にできるかどうかと。

それから、最近はインドなり中国なりがどんどんどんどん大きくなってきましたから、いわゆる経済学で言う Purchasing power(パーチェーシング・パワー)=購買力で見ると、今のアメリカのGDPというのは世界全体の経済規模の16%か17%ぐらいしかないんですよ。

[*第二次大戦後のアメリカは世界のGDP50%を占める→ ニクソン政権時30%→ 冷戦後25% →現在16% ]

西部邁
あーあーあー。

伊藤貫
そうするとやっぱりね、本気で一極体制をつくろうとするんだったら30%はないと、世界中を支配するんだという能力が無いのに、「まだ俺たちだけが世界を支配するんだ!!」ってね、これ無理があるんですね。

で、トランプが出てきた理由は僕はよく分かってて、要するに、1945年から47年にかけてアメリカがつくったシステムというのは、アメリカがヨーロッパと中東と東アジアを全部支配するということで、それに対して、陸軍と海兵隊がやっぱり100万人ぐらい必要なんですね。

[*欧州、中東、東アジア支配、陸軍海兵隊100万人必要 ]

伊藤貫
ところが、今のアメリカというのは50数万人ぐらいしか持っていないんですよ。同じコンセプトで世界を支配するというのは無理なんですけど、そこが面白いところで、アメリカの外交政策エスタブリッシュメントと、それから軍事政策エスタブリッシュメントという奴らはやっぱり“支配欲が強い”んですよ。

[*米国の外交・軍事 establishmentの支配欲 ]

西部邁
冷戦構造の余韻ですか?

伊藤貫
というか、僕が思うに人間の性(さが)ですよ!

西部邁
性か(笑)

伊藤貫
うん、性!(笑)要するに、「人を押さえつけて、他の国を押さえつけて俺達だけが支配したい!!」と。でね、やっぱり人間というのは他の人を支配すること、それから他の国を支配すること自体が生きる喜びというか、生き甲斐なわけですよ。

西部邁
悪く言えば、childish(幼稚)でviolent(暴力的)な、

伊藤貫
うん、えぇ。

西部邁
それがアメリカ人の本性の全てとは言わないまでも、奥深くにあるなと。

伊藤貫
えぇ。ラテン語で言うと、アニムス・ドミナンディ(animus dominandi)という言葉になりますね。

西部邁
あぁそうか。支配本能ね。

伊藤貫
えぇ、支配本能。

[*ハンス・モーゲンソーの著書の中で、権力というものがどれほどに大切な重要なものかという政治学説を展開した時に「アニムス・ドミナンディ(animus dominandi)」というラテン語を用いた。animus(アニムス)とは、アニマル(animal)と関係あり「衝動」「活力」、dominandi(ドミナンディ)はドミネーション(domination)、「支配」。つまり『「支配しようとする衝動」こそが、少なくとも政治学における根本前提である』とモーゲンソーはつづった。

【Animus Dominandi】"優越せんとする悪意を伴わずにはいない意思"と訳され、ハンス・モーゲンソーが唱えた。これにより、"教会は政治団体へ、革命は独裁へ、郷土愛は帝国主義へ形を変える"という。人間は勢力拡大(power)を求めるという前提。*1 Morgenthau,Scientific Man, pp. 194-195( http://www.geocities.jp/vivelejapon1945/vocabulaire.html )]

伊藤貫
でね、トランプが出てきて突然人気が出たのは、トランプは、「俺達は借金国じゃないか!」と。

西部邁
うん(笑)

伊藤貫
「世界一の借金国だろうが!!」と。

今村有希
笑(伊藤のオーバーアクションな熱弁に思わず笑う)

伊藤貫
「毎年の貿易赤字を見てみろ!」と。「こんなに貿易赤字があって、例えば何でイスラム教諸国でこんなに長く戦争を続けるてるのか?」と。

[*世界一の借金国がなぜ戦争を続けている(トランプ) ]

伊藤貫
今のアメリカはアフガニスタンパキスタンイラク、シリア、リビア、イエメン、ソマリアと、7つのイスラム教諸国で戦争をやってて全部失敗しているんですね!!

[*アフガニスタンパキスタンイラク、シリア、リビア、イエメン、ソマリアで戦争し全て失敗の米国 ]

西部邁
大失敗(笑)

伊藤貫
そう!全部大失敗しているわけ。でね、アメリカ国民は(それを)おかしいなと思っているわけ。

西部邁
オバマさんが大統領になった時に、こんなことが書いたんですよ。

伊藤貫
えぇ、はい。

西部邁
僕の直感だったんですけどね、どうしてそのオバマという・・・簡単に人種的に言うとね、白と黒のハーフの人がね、突如プレジデントになるかと。これはアメリカ人の潜在意識における、ある種の「自己不安」ね。これ人種葛藤だけじゃないんですけど、所得格差の葛藤その他、いろんな葛藤が我が国には渦巻いていると。その代表的には人種間葛藤ね。その時に、その不安を治める為にはですよ、これは昔ヨーロッパでは、Bonapartism(ボナパルティズム)と言ってたんですけどもね、両勢力と直接関係の無い、中間勢力ね。で、ある種の権威のある、それでナポレオン3世で、それがナポレオン・ボナパルトという奴だったんだけど(笑)

[*【Bonapartism】:両勢力と直接関係のない勢力、ある程度の権威、ナポレオン・ボナパルト

伊藤貫
(うんうん)

西部邁
それがね、不意にそれまで政治に関係無かったのに、不意にそれをトップに持ってくることによって両陣営をなだめるというね。

今村有希
へぇー。

西部邁
それでそれをBonapartism(ボナパルティズム)と言われてたんだけど、

今村有希
はい、

西部邁
まぁそれに引っ掛けてね、オバマさんが出てきたこと自体が、アメリカ人が人種葛藤をはじめとする様々なる内部矛盾をね、たとえ潜在意識にせよ直感していて、

伊藤貫
はい、

西部邁
そういうものの一時凌ぎとしてオバマを出したんじゃないかということを、あろうことか8年前ですか、書いた覚えがあるんだけど、

[*人種間葛藤の内部矛盾、一時凌ぎでオバマを選出か ]

西部邁
僕が言ったことが正しいかどうかはともかく、今のアメリカのあれでしょう、先ほど言った、GDPの問題もあるけども、

伊藤貫
えぇ、

西部邁
国内的なそういう所得格差・人種格差、葛藤の問題というのは、日本人に知らされている以上に遥かに深刻なんでしょう?

伊藤貫
僕は実は、オバマが2008年の大統領に出てきた時から、この人はインチキだなぁと思ってたんですよ(笑)

西部邁
あぁ(笑)

伊藤貫
本当のことを言うと、僕は意地悪だからインチキだなぁと思った理由は2つあって、アメリカ人というのはある意味で、支配欲が強い一方、ものすごく単純なんですよ。

西部邁
うん。

伊藤貫
でアメリカの政治家というのは、マスコミ人もそうなんですけど、もう決まりきったレトリックのパターンというのがあるんですね。

西部邁
あぁ〜、あるね。

今村有希
えぇ〜?!

伊藤貫
すごく優等生的に聞こえる、politically collect(ポリティカリー・コレクト政治的に正しい)に聞こえる。しかも、morally sensitive(モラリー・センシティブ)とかいう感じでね、道徳的な感受性がすごく強くてとかね、でそういうのは僕はワシントンに長く住んでいるからもう飽き飽きしているわけ。そういうレトリックを。

[*オバマは道徳的感受性や巧みなレトリック演説 ]

伊藤貫
だけど、オバマはしらーとしてそういうレトリックをペラペラペラペラ喋りまくるわけ。この前の広島で言ったのなんて、あんなのウソ!ウソばっかりなわけ!!(笑)

西部邁
うん。

伊藤貫
だけど、僕はcynical(シニカル)だからウンザリしているんですけども、そういう白々しいレトリックをペラペラペラペラ喋るのが(オバマは)上手いと。

でもう一つは、(西部)先生の仰ったように、アメリカ人、特にアメリカの白人は実は人種問題が今後どうなるんだろうと。

西部邁
うん・・・

伊藤貫
1950年代、60年代までは、アメリカ人口の8割ぐらいまでは白人だったわけですよ。それが今はもう6割台になってきているわけですね。そして、あと20年ぐらいすると5割を切るんですよ。

[*1950、60年代までは人口の8割以上が白人、現在は6割ほどで、20年後には5割を切る ]

西部邁
すごいねぇ〜。

伊藤貫
そうすると、人種問題は今後のアメリカでどんどんどんどん悪くなっていくというね、人種問題を解決してくれるのだったら、それはもうオバマに任せたいと。

西部邁
途中で悪いけどさ、

伊藤貫
えぇ、

西部邁
今村さんね、アファーマティブアクション(affirmative action)ってご存知?

今村有希
知らないです、何ですか?

西部邁
ちょっと教えてやって。

今村有希
(照笑)

伊藤貫
はい、あの、1965年にあの公民権法案とか、あの投票権のcivil-rights registration(シビルライツ・レジストレーション)とか決まった時に、要するに、黒人と白人を平等化しなければならないという時に、

今村有希
はい、

伊藤貫
それじゃ学校でテストしたりする時に、言っちゃ悪いんですけど、やっぱり黒人が白人と競争レベルが競争できるところまでいっていないわけですよ。そうすると、非常に人為的に、人工的に、黒人の成績とか持ち上げてやって、それで例えば、いい大学に入れるのにも白人と露骨に競争させると上手くいかないような黒人もどんどんどんどん、ヒスパニックもそうなんですけど、黒人の方がその恩恵を受けているわけですね。

[*【affirmative action】:黒人,少数民族、女性など歴史的,構造的に差別されてきた集団に対し,雇用,教育などを保障する特別優遇政策。雇用や昇進、試験などで優遇することで社会的差別を是正する。アメリカにおいては、リンドン・B・ジョンソン大統領(在任 1963~69)の時代に導入 ]

今村有希
はい。

伊藤貫
で(affirmative actionの)問題は、今から6年か7年経つと、20歳以下の人口の半分以上が、「非白人」になるわけですよ。

西部邁
スゴいでしょう?

今村有希
はい。

伊藤貫
そうそう。そうすると、最近の半世紀間にaffirmative actionというのをやって、それほど学校の勉強なり、仕事ができない白人とかヒスパニックの人たちもこう(黒人を)無理やり持ち上げてきたわけですね。

今村有希
はい。

伊藤貫
だけど今から6、7年経って・・・

西部邁
(今まで持ち上げられてきた)そういう人たちが多数派になる!!

[*6、7年後には、20歳以下の人口で非白人が5割以上に、affirmative action 受けた少数者が多数派に ]

伊藤貫
そう、多数派になったら!!

今村有希
ウフフフフ(笑)

伊藤貫
多数派をaffirmative actionして持ち上げたら、これはもう持たないわけですよ!

西部邁
持たない。

伊藤貫
そうすると、今から6年から7年経つと必ずね、つまり白人が少数、白人の子供が少数派になったのに、それでも「非白人」を優遇するのか?という問題が出てくるわけでしょう。

今村有希
(うん)

伊藤貫
でこれね、ここで本当のことを言っちゃいますけど、これって解決不可能な問題なんですよ。

西部邁
そうですね

伊藤貫
えぇ。だから、アメリカ人はみんなそのことを予感していて、不安感があるんですよ。

西部邁
うん。

伊藤貫
それで、オバマがなんとかしてくれるんだったら、オバマに投票して任せようと。で実際にはオバマは何もしなかったというのが現実なんです。

西部邁
うん。

西部邁
いずれ colored people(カラード・ピープル)、Hispanic(ヒスパニック)も入れてね、

伊藤貫
はい、

西部邁
これまでの minority(マイノリティ)がいずれ majority(マジョリティ)になると。ところがその人達は affirmative(アファーマティブ=肯定的)、その人達を肯定するような、弁護するようなね、そういう政策・国家体系になっている。

今村有希
(頷く)

西部邁
白人は反発するだろうが、その反発に迎合したら多数派が怒るに決まっているわけで、

今村有希
(笑)

西部邁
収拾がつかない。

伊藤貫
えぇ。

西部邁
伊藤さんのご意見はともかく、我がJAPの1人として言うと・・・

伊藤貫
はい(笑)

西部邁
(小さい声で?)ざまぁみやがれ!!

一同
(笑)

西部邁
というので1週目は終わることにして、2週目に入りましょうか。

今村有希
はい、ありがとうございました(笑)

伊藤貫
ありがとうございました(笑)

【次回】今週の続編です。

 

公共活動のほかに道はなし③  ゲスト:藤井聡(内閣官房参与・京都大学教授)青木泰樹(東海大学非常勤講師・京都大学特任教授)〜西部邁ゼミナール〜

公共活動のほかに道はなし③  ゲスト:藤井聡内閣官房参与京都大学教授)青木泰樹(東海大学非常勤講師・京都大学特任教授)〜西部邁ゼミナール〜

ゲスト
藤井聡内閣官房参与京都大学大学院教授、レジリエンス研究ユニット長、近著『スーパー新幹線が日本を救う』(文春新書)

青木泰樹:東海大学非常勤講師、京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授、近著『経済学者はなぜ嘘をつくのか』(アスペクト

【ニコ動】公共活動のほかに道はなし③ 2016.08.06

http://sp.nicovideo.jp/watch/sm29389813

今村有希
世界的に広がる経済危機の中で、今後の日本のあるべき姿は、公共投資の時代に備えるしかないというテーマでお送りしている連続企画の最終回です。

ゲストは東海大学非常勤講師で京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授の青木泰樹先生と、京都大学大学院教授でレジリエンス研究ユニット長の藤井聡先生です。

民間需要が見出せない国内では政府主導の公共事業の必要性がクローズアップされています。それでは先生方どうぞよろしくお願い致します。

西部邁
あぁ、3週目もどうぞ宜しく。

藤井・青木
宜しくお願いします。

西部邁
「国土強靭化」・・・国土・・・National Landとしましょうか。

藤井聡
はい。

西部邁
Nationalってラテン語でnatio(ナティオ)と言うんですけどね、もともとの意味は「自分たちの生まれたところ(場所)」、つまり我々で言えば「日本」ですよね。

[*【国土】National Land:natio(ラテン語)自分達が生まれた場所 ]

今村有希
はい。

西部邁
あるいは、mother landともいいますよね、母国のことね。

今村有希
はい。

西部邁
或いは、愛国心のことを、日本人は愛国心のことを簡単にPatriot(パトリオット愛国者)というけども、あの(Patri-otの)Patri(パトリ=父の、男性の〜)というのはもともとはお父さんという意味なんです。

一同
うん。

西部邁
ということは、祖父たちが生まれ育って生きてきた土地、それが National Land、お父さんでもお母さんでもいいんですけどね。

[*【Patriot】愛国心:語源は「父」pater(ラテン語:パーテル:天なる父→神父)父祖たちが生まれ育って生きてきた土地 ]

西部邁
やっぱり人間というのは、そう簡単にお月さんに行ったり、火星に行ったりもできないですよね。少なくとも圧倒的大多数の人は、生まれた土地・時間、そういうものに制約されて一生を50年・80年送る、その土台をresilient(レジリエント)にしようというね、

藤井聡
うんうんうん、

西部邁
まぁ当たり前のこと・・・といっちゃ失礼かもしれないが、言っているお二人なわけですよ。

[*生誕地、時間的制約の人生、その土台である国土強靭化 ]

今村有希
はい。

西部邁
ところが日本はだんだんと resilient(レジリエント)じゃなくなってくると、

藤井聡
うん。(深く頷く)

西部邁
脆い。脆弱なの。

藤井聡
Vulnerable(ヴァルネラブル=脆弱な)とかって言いますよね。

西部邁
あぁそうか、Vulnerableね。脆いという意味。

藤井聡
国土強靭化というのは日本国政府の基本方針になっていますし、国会でも「国土強靭化基本法」がつくられて、それで国土強靭化をやっていきましょうということになっているわけですけども、そこで政府のお手伝いをしているのが一つの仕事ですけれど、もともとのきっかけはやはり『東日本大震災』、あの時に大きな被害を受けてすぐにその地域が元に戻らない・・・これに対して、すぐに戻れるような力をこの国家全体が持つべきじゃないかと。この折しも首都直下地震、或いは、南海トラフ地震、或いは、富士山の噴火というようなものすごい危機に、われわれ日本国家は直面しているわけで、そういうものが起こったとしても、被害をゼロにすることはできなくても、必ず元に戻る、或いは、もっと強い国になるようにですね、跳ね返るように、下に落としたボールが上に跳ね返ってくるように『元通りになるような力』、『回復力』を身に付けようと、それがまぁ強靭化ということですね。

[*国土強靭化:東日本大震災など過去の災害を教訓に平時から備え、被害を速やかに回復する力 ]

藤井聡
ものすごく話を柔軟に考えますと、田舎のすごくキレイな風土の町がありまして、そこに共同体なり、昔からの伝統があったと。そこに例えば、一つの大きな道路ができたり、一つの大きなショッピングセンターができたりすると、全く昔のようなものが無くなって、どこにでもあるような金太郎飴のような町になりましたと。これもまたレジリエント(resilient)ではない。

西部邁
うん。

藤井聡
やはり状況ですから、『やはりどのような環境変化があっても昔の良いものを残していく、これがレジリエンスの別の言い方』ということもできるかと。

西部邁
そうでしょうねぇ。もう30何年も前にイギリスのケンブリッジ(大学)の近くの田舎に暮らしてたことがあった。昔で言えば、人口3万の小さな都市ですけど、非常に古い大学街ですから、何もかも悪く言えば古色蒼然、良く言えば非常にクラシカルな古典的な街なんだけど、それには相応しくない黄色と赤の・・・うん!?あれは何ですか?と聞いたら、イギリス人が笑って、マクドナルドなんですけど(照笑)

[*30年前の古色蒼然な街、ケンブリッジでの出来事 ]

今村有希
ウフフフフ(笑)

藤井聡
ンフフフフ。

西部邁
あれがマックの看板ですと。実はケンブリッジ市議会は3年間議論して、その会社をこの由緒ある街に入れるべきか否かと3年間議論して、で、観光客もいるし、外国人の留学生もいるしね、通り過ぎる者たちもいるんで、まぁ1件ぐらいは仕方がないだろうという結論になったのだが、条件付きであると。

[*街に看板の提出めぐり、ケンブリッジ議会で3年議論 ]

藤井・青木
うん・・・

西部邁
看板は30cm四方ね。以上まかりならんと・・・(条件は)1個だけ。

今村有希
はい。

藤井聡
極めてレジリエントな地域ですね。

西部邁
うん。歴史を守らないと街というのはすぐ崩れるものだと。新しいものを入れるのはやむを得ないけども、それに悦び勇んで舞い上がって飛び付くってのは、人間なり街として恥ずかしいことだという、そういう常識がね、ヨーロッパは随分変わったでしょうけど、EUになってから。僕が居たのはまだEUになる前ですからね。

[*歴史を守らねば街は崩壊、街の人たちの常識と廉恥心 ]

今村有希
はい。

西部邁
それでもまだ残ってるんでしょうね。今のEUの、僕は必ず崩壊すると思いますけど、自慢じゃないけどね、EUが出来た時に、「これは大間違いである!!」と書いたのは(胸を張って)・・・

今村有希
ウフフフフ(笑)

西部邁
日本人の多しといえども私だけで、誰からも相手にされなかったけど(笑)

一同
(笑)

西部邁
ようやっとね、あれ(EU)は23年ですか?ようやっと滅び始めてね、

藤井聡
はい、

西部邁
我が意を得たりと。

[*各国各様の歴史性を無視、EU崩壊、英国の離脱 ]

藤井聡
滅びの始まりですね。

西部邁
始まりだね。

藤井聡
そういう意味で、EUは全くレジリエントではなかった。

西部邁
そういうことになるね。

藤井聡
Vulnerable(ヴァルネラブル)な存在、脆弱。

西部邁
一種のcosmopolis(コスモポリス)というのかな、なんかみんなを包み込む、実に調和的で麗しい社会が、それは誰だって考えたくなりますよ。でもそれはね、簡単に実現可能だって飛び付いたら、これね、ウィンストン・チャーチルの台詞かな・・・チャーチルというのはは不良ですから、あんまりあいつのセリフは引用したくないけどね、

『地獄への道は、善意で敷き詰められている。』

[*地獄への道は、善意で敷き詰められている(英・政治家 ウィンストン・チャーチル) ]

藤井聡
あぁ〜。

西部邁
つまりね、

今村有希
はい、

西部邁
コスモポリス、みんなで仲良く暮らせる、そういう麗しげな善意ね、

今村有希
(うん)

西部邁
善意をあんまり振りまいていると、次第にみんな地獄に誘い込まれるというね。

藤井聡
そうですね。

西部邁
本当は日本でもそれが起こっている。

藤井聡
そうですね。

青木泰樹
丁度この、(西部)先生がケンブリッジにいらした時のその街の議会かそういう人たちの見識の高さ、

西部邁
うん、

青木泰樹
即ち、街の見識がこの経済効率だけを求めて、制度をつくりルールを変えた結果として、そうした脆弱性がいま出てきたんじゃないでしょうかねぇ。

西部邁
そう。

藤井聡
そういう意味で、強靭化という言葉は通常、その堤防とか・・・地震が来る時に堤防をつくって、

西部邁
うん、

藤井聡
建物を強くして耐震性を高めたらいい、というような話で理解されたちなのですが、実はこれは分かりやすいところですけど、本当は、その建物を建てたのは誰やねん、その堤防をつくろうと言うたのは誰やねんというと、そこにはやっぱりそこの議会とか市長とか町長の思いがあって、

西部邁
そうね、うん。

藤井聡
じゃあ無理をして堤防をつくっておこうか、ということでそれが出来てその地域が強靭化できるということを考えますと、先ほど仰ったケンブリッジの議会の議論で、

青木泰樹
うん、

藤井聡
そのマクドナルドという脅威に対してはそういう議論をして看板を小さくするし、そういうガバナンス、議会があれば大きな地震というリスクがあるのならば、こういう堤防をつくろうということを考えるでしょうから結局、今ある状況に対して何某かの外的な破壊というか、刺激があると、それに対して、危機に対して、対応しようとするのは結局は『人間のレジリエンス』であって、

西部邁
うん。

藤井聡
人間の議論であって、それがレジリエンスの根幹。だけれども、そんなものは経済政策・経済理論の中で全く汲み取られていない・・・

[*経済政策・理論で欠落する議論や人間のレジリエンス

青木泰樹
(苦笑)

藤井聡
・・・ので、経済理論なるものに基づいて制度をつくると、レジリエンスがどんどん無くなっていってEUみたいなるものが出来上がっちゃう。

西部邁
そうそう。そして滅びると。

藤井聡
滅びるということで(笑)

西部邁
モノも情報も資本も人もね、自由自在に動ける、これが理想だと。コスモポリスのね、理想は僕は否定はしないけどもね、それが主義(cosmopolitanism)になってしまうとね・・・

藤井聡
(頷く)

西部邁
もう現実が逆転してしまうという。

[*“物・情報・人・資本も自由に移動する” cosmopolitanism コスモポリスの理想 ]

西部邁
特に資本と人間ですからね、

青木泰樹
そうですね。

西部邁
ね?これはあんまり自由に移動するとね、大変なことになるんですよ。

青木泰樹
資本がどんどん移動しますとね、結局のところ、まぁ最も効率的な生産システムも世界規模で作るという話になってきます。そうすると、先進国の高い賃金を得ている方と、後発国・後進国の低賃金の労働者と、その賃金が(低い方へ)どんどん収斂していきます。

西部邁
そうですよ。

青木泰樹
ただ、そういうようなことを以ってして、低開発国・後進国の国民の経済がよくなるからいいんだというようなですね、まぁこれはただの皮をかぶっているだけなんですけども、

西部邁
うん、

青木泰樹
裏はですね、資本の収益率を最大化する、それで儲ける、それだけしか考えていないわけでありますから、まぁ資本は飼い馴らせればいいのですが、飼い馴らせない状況においては、われわれ社会にとっては最も危険なものになるんじゃないでしょうか。

[*先進国と後進国の賃金が収斂、後進国豊かにというが、その裏で “資本の収益率を最大にして儲け” 危険 ]

西部邁
そうそう。

藤井聡
いちばん本質的な問題というのは、グローバリズムが進むとそれぞれの土地、ローカル、地理の固有性というものが忘れ去られていって、僕たち人間がご飯食べたり、寝たり、喋ったりとかしたりしている僕たちの人間って必ずどこかの地理空間にこのカラダを置いて、そこで活動しているという生のリアルな生活というのが必ず土地に拘束されているのに、グローバリズムの世界では、その中、そういう我々の生活全部を縛る土地というものが無いことになってしまっている。そうすると、そんな仕組みが我々の人生を豊かにするハズが無い!!

[*“土地” “地理” それぞれの固有性が忘れ去られる、グローバリズムが進む本質的な問題点 ]

西部邁
これね、資本家が悪いとかなんかとなるとね、マルクス主義者になるけど(笑)、本当は消費者というか一般国民も悪いんですよ。簡単に言うとですよ・・・ちょっくら目立つからだとか、ちょっくら安いからといって飛び付いていく大量の消費者ね、その情けない、落ち着きのなさね。

[*“目立つ” “安い” と新しいものに飛びつく大量の消費者、情けない、落ち着きのない振る舞い ]

今村有希
(うんうん)

西部邁
昔ね、我々の時代は「新しもの好き」というのは7、8割の割合で軽蔑語だったんですよ。

今村有希
(うん)

西部邁
奴は新しもの好きだからねぇ〜、というのはね、新しものに飛び付く、でも人間の傾向に(それが)無いわけじゃないのね。やっぱり僕もね、認めますよ。

今村有希
(微笑む)

西部邁
人間というのはね、やっぱり古いものに飽きるんですよね。新しいものにフッと目を見開く。それは確かなんだけど、かと言ってね、我勝ちにそれに飛び付いてですよ、それで古いものを次々と忘れていくというね、でそれは innovation(イノヴェーション)でしょう。

新しいものの中にね、やっぱり堕落も軽薄もいろいろあるからゆっくり行こうぜと構えるか、というその違いなんですよね。

[*innovationとは novel=“新しいもの” に飛び込む事、“堕落・軽簿” も含まれ『漸進的な構え』が必要 ]

藤井聡
新しいものの最大の欠点は、我々がリアルな生活に馴染んでる保証が全く無い。

西部邁
そう。

藤井聡
要するにその新しいものというのは、空間性と身体性が剥奪されたものであって、従って、我々を不幸にする可能性が極めて大きい。ところが古いものというのは、少なくともこの僕の身体と空気に馴染んでいるのでそれほどリスクは高くない。従って、変えるとしてもgradualism(グラデュアリズム=漸進主義)でちょっとずつしか変えていかないと危ないなと。

西部邁
僕むかし福澤諭吉

藤井聡
はい、

西部邁
彼が書いたのは『西洋事情』という最初の本、幕末ですけどもバカ売れしてね、ベストセラーになった。

[*「西洋事情」福澤諭吉 幕末にベストセラー ]

青木泰樹
(頷く)

西部邁
福澤諭吉というと、(巷では)日本の西洋化・近代化の最初のリーダーとか言っているんですけど、彼が明治11、2年かな、これ驚駭(きょうがい)、狼狽(ろうばい)と言ってるんですけど、

今村有希
はい、

西部邁
これは実は、蒸気機関ね、それから電信ね、それから郵便ね、いま西洋を支配しているのは蒸気機関、電信、郵便、出版という新しい今風の情報ハイウェイ、

今村有希
はい、

西部邁
それに舞い上がっているが、驚駭、狼狽せしものなり。驚き慌てて周章狼狽、慌てふためいている。

藤井聡
あぁ〜。

西部邁
このね、猿真似をしたら我が日本の近代化は大変なことになると、明治のまぁ簡単に言えば10年ですよ・・・と言ってるのにね、福澤諭吉はそういう人だったということすら、それ以後は伝承されてないんですよ。

[*“蒸気機関・電信・郵便・出版” 「驚駭、狼狽せしもの」猿真似をしたら我が日本の近代化は大変なことになる ]

藤井聡
今だに狼狽してますね、日本のこと。驚駭し狼狽してるわけ。

西部邁
そう。

藤井聡
ITだ、なんだかんだと、金融工学だ言うところで。

西部邁
そう、そうなの。ですからね、別にこの平成に入ってから、みんな頭狂ったんじゃなくてね、

藤井聡
ンフフフフ(笑)

西部邁
元をただせば随分前からね、

藤井聡
19世紀から。

西部邁
で、昔の人はエラいのはね、やっぱり自分たちが近代化せざるべからず、西洋化せざるべからずと思いながら(でも)「気をつけようぜ!!」という意図をね、(福澤を指しながら)ある一定割合でいたんですよね。(現代は)その割合がどんどん減っちゃって。

藤井聡
新しいものが入ってこざるを得ないとしても、諸外国との競争の中で、こざるを得ないとしても我々の国土に馴染むように、それを徐々に徐々に計画的に合理的に理性的にダメなものは修正しながら入れてくしかない。

西部邁
そう。

藤井聡
それをするのがいちばん最善の方法は、やはりあの例えば、この国家という住処を国土計画でもって、きちんと我々の文化と歴史と伝統と新しいものを馴染ませながらものをつくってく。

西部邁
そう、うん。

藤井聡
或いは、都市計画をやっていく。或いは、地域計画をやっていく。で、それを見直しながら、徐々に徐々にその国土というものを少しずつ変えていく。

[*国土計画で文化・歴史・伝統と新しいものを馴染ませ、都市計画、地域計画を見直しながら徐々に変えてゆく ]

西部邁
そうね。state(ステート)ね。stateの元々の意味は「状態」という意味ですけども、

藤井聡
状態。

西部邁
歴史がもたらした状態ね。

今村有希
(うん)

西部邁
それを確認するのが、この場合は政府ですけども、まぁ国家と言ってもいいけど、その国の統治状態、「秩序」ですね、これをステート(state)。で、普通、キャピタリズム(capitalism)、キャピタリズムと言うけども、資本主義だってね、その土台をしっかりしなければ、特にね、人間一般がそうですが、資本もそうですけど、「未来」を見越して、

藤井聡
うん、

西部邁
未来を予想し、想像して行動するでしょう?

今村有希
(うん)

西部邁
そうすると、それが暴走する可能性があるわけさ。失敗して沈没する可能性もあるわけ。そうするとね、ある程度、全体を見渡す立場にいるステート(state)、この場合は政府ですけども、具体的に言えば役人ですね。役人の工事をなさっている(藤井と青木を指して)こういう方々。

藤井・青木
(苦笑)

今村有希
(うんうん)

西部邁
こういう方々ね、どうも上から見てると、諸外国と比べるとこういうふうになりそうですよと。東西南北ね、だいたい東南東方面に進むのが、しかもその進み方の速度がね、これぐらいの速さで行くのが良さそうですよという一つの仮説でもいいけどね、それを示さないとね、要するに、資本主義なんて四方八方に暴走し始めるという可能性があると。

[*state capitalism 歴史がもたらした状態を確認する政府(国家)の統治による指針・方向性 ]

藤井聡
そうですね。

西部邁
それをみんなしてね・・・「ステートが出てくるのは社会主義だ!」と。頭イデオロギーですね。

藤井聡
うん。

西部邁
社会主義反対!!自由主義で行きます!!というね。

藤井聡
(頷く)

西部邁
社会主義ヒドいことになったんですよ、

今村有希
はい。

西部邁
ソ連もね、共産党の中国も。

今村有希
(うん)

西部邁
社会主義の弁護なんか一切しませんけれども、しかしね、これから恐らくね、ある種のsoft socialism(ソフト・ソーシャリズム)と言っていいようなね、

藤井聡
うん、

西部邁
柔らかい社会的な統制、方向付けね、それが無いと、個人の自由も資本の競争もあったもんじゃないというね。

[*soft socialism 柔らかい社会的統制・方向付けを示さなければ、個人の自由、資本の競争もない ]

西部邁
実は、1930年代はそれが行き過ぎちゃってね、全体主義が出てきちゃって、ファッショだナチズムだスターリニズムだですごい国家体制になったのだけど、その轍を踏んじゃいけないけれどもね。

青木泰樹
今回の英国のEU離脱に対する国民投票

西部邁
うん、

青木泰樹
離脱が決まったわけなんですけども、英国には『ウィンブルドン憲章』と言いましてね、結局のところ、テニスのウィンブルドン大会で外国人ばっかりが優勝するという話なんですけれども、

西部邁
あーあー。

青木泰樹
何を意味しているかというと、あの「金融ビッグバン」で(ロンドンの)シティが金融を解放して、自由自由ということでですね、まぁ外資系の企業が国内の企業を駆逐する。で、ほとんど外資にとられてしまった。

西部邁
うん。

青木泰樹
そういうような状態を受け入れたわけなんです。ぜんぶ自由にしよう、効率的に行こうと。しかしさすがに、さすがに我慢強いジョンブル(John Bull=典型的なイギリス人)もですね、余りにもヒドいこのグローバリズムにはちょっと抵抗してみようかなというその保護主義の一環として、今回のそういうの(EU離脱への動き)があったんじゃないでしょうかね。

[*シティ(金融中心地)の金融解放で外資が国内企業を駆逐、John Bull(イギリス人)は保護主義の一環でEU離脱

西部邁
そうでしょう。

藤井聡
保護主義という言葉はに関していろんな解釈があるかもしれないですけど、

西部邁
うん、

藤井聡
それぞれの地域には地域の事情がある。それをこう無視して、過剰に他と共通にしたら問題が起こるのは当たり前で、

青木泰樹
うん。

藤井聡
それこそ僕の身体に他の人の血を入れるとエラい病気になると思うんです。

今村有希
(笑)

藤井聡
エラいどうしょもなくなったりとかするのと同じで、やはりその生命体のアイデンティティというのが生命の基本であるとすると、それも地域や国家のアイデンティティというものも過剰に(他と)交換し過ぎないというのは当たり前ですよね。

青木泰樹
そうですね。

西部邁
あのホセ・オルテガ(ホセ・オルテガ・イ・ガセット)というね、1955年ぐらいに亡くなったスペインの哲学者、彼がこの場合にはstate(ステート)=政府、国家と言ってもいいのだけど、これのことを指してね、

今村有希
(うん)

西部邁
skin(スキン=皮膚)・・・国家・政府はskin=皮膚のようなものである、と。

[*「政府(国家)はskin 皮膚のようなものである」(スペイン・哲学者 ホセ・オルテガ) ]

今村有希
はい。

西部邁
今村さんになぞらえましょうか。

今村有希
はい(笑)

西部邁
いまお笑いになったでしょう?

今村有希
はい(汗笑)

西部邁
ここの頬が緩む。或いは、瞼が閉じる・開く、なんでもいいんですよ。

今村有希
(うん)

西部邁
この皮膚のお陰でね、ここ(皮膚)にはなんか一兆個の細胞があるんでしょう?

藤井聡
うんうん。

西部邁
細胞全体として皮膚がまとめ上げて身体ができていて、身体は完全に自由じゃないけど、皮膚を通じて外部と呼吸をしているわけ、皮膚呼吸ね。そうでしょう。

今村有希
はい。

西部邁
つまり、皮膚は全体をまとめると同時に人間の外部との、環境との総合反応。だって、ここ(皮膚)から炭酸ガスが排出されているんですよ、自分の口から。何かを吸収したり排出したり、外部との接触を可能にしているのは皮膚。

恐らくね、政府ってのは人間になぞらえると広い意味での「スキンのようなもの」であって、日本なら日本としてまとめながら、でも日本も中国だアメリカとある種の関係の中にあるんだと。時々ね、なんか中国方面からなんかすごい炭酸ガスが来ますけどもねぇ・・・

一同
(大笑い)

西部邁
アメリカからもメタンガスが来ますから、摂取すればいいとは必ずしも言わないけども、でもそういう意味での伸縮性のある保護主義ね。

藤井聡
そうですね。

西部邁
Protection(プロテクション=保護)ね。雁字搦めの鎧で保護したら、それはねダメだと思う。

今村有希
うん。

西部邁
強靭性ってそういう意味でしょう?

藤井聡
そうです。

西部邁
伸縮性があると同時に保護をし、保護すると同時に相手との関係も保たせるというね。

[*伸縮性のある保護主義、相手との関係を保つ強靭性 ]

藤井聡
しかもこの身体を上手く維持していくためには、様々な部位を全部共通する血管で繋いで、

西部邁
そう、そう。

藤井聡
そこでこういろんなものを輸送しながら、そして骨格がありそして身体が成り立っているわけですから、この身体ひとつあるんだと思った瞬間に、スキン(skin)、皮の必要性と基本的なインフラストラクチャ、あの道路や鉄道やら堤防、そういったものの必要性を当然ながら理解するハズ。

西部邁
そう、そういうこと。最後の僕のメッセージ。

今村有希
(うん)

西部邁
藤井聡よ。さっさと副首相になれ!!

藤井聡
(大苦笑)

青木泰樹
ワッハッハッハッハ

西部邁
首相までとは言わないが(笑)安倍首相のまわりにいる有象無象たちを蹴散らかしてくれと!!

今村有希
(笑)

西部邁
でもまぁ多分・・・不可能でしょうねぇ(笑)

藤井聡
ンフッフッフッフー(笑)

西部邁
だから、めげずに頑張って下さい!!

藤井聡
はい、ありがとうございます(笑)

西部邁
ということで、お終いにさせていただきます。

今村有希
はい。

西部邁
3週間ありがとうございました。

一同
ありがとうございました。

【次回】「アメリカ帝国大混乱!!!」 ゲスト:伊藤貫(評論家)

 

公共活動のほかに道はなし②  ゲスト:藤井聡(内閣官房参与・京都大学教授)青木泰樹(東海大学非常勤講師・京都大学特任教授)〜西部邁ゼミナール〜

公共活動のほかに道はなし②  ゲスト:藤井聡内閣官房参与京都大学教授)青木泰樹(東海大学非常勤講師・京都大学特任教授)〜西部邁ゼミナール〜

ゲスト
藤井聡内閣官房参与京都大学大学院教授、レジリエンス研究ユニット長、近著『スーパー新幹線が日本を救う』(文春新書)

青木泰樹:東海大学非常勤講師、京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授、近著『経済学者はなぜ嘘をつくのか』(アスペクト

【ニコ動】公共活動のほかに道はなし② 2016.07.30

http://sp.nicovideo.jp/watch/sm29345189

今村有希
今後の日本のあるべき姿を問う、「公共活動のほかに道はなし」と題した連続企画の2回目です。ゲストは東海大学非常勤講師で京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授の青木泰樹先生と、京都大学大学院教授でレジリエンス研究ユニット長の藤井聡先生です。

 

f:id:sakurajimaoyuwari:20160731100225j:image


今村有希
公共事業をめぐっては、「コンクリートから人へ」というような聞こえのようさそうな言葉で、公共事業悪玉論へと傾いた世論ですが、公共事業は市場を安定させる言わば、国家を支える大きな基盤です。日本における公共事業の現状から、今後の投資、そしてその財源の問題まで広い視野で捉えた理論が繰り広げられるかと存じます。それでは先生方、宜しくお願い致します。

西部邁
今週も宜しくお願い致します。

藤井・青木
宜しくお願いします。

西部邁
先週ね、青木先生からご説明あったように、経済とは『経世済民』なんですけど、国家を活性化させる活動なんですけども、

[*【経済】:世を經め(おさめ)民を濟う(すくう)「経世済民」 国家を活性化させる活動である ]

今村有希
はい。

西部邁
国家ってね、みんないいますけど、「国家」っての具体的何かと言ったら、北海道、関東、東北転々として、九州、沖縄に至る「地域」ね。これ inter-regional(インター・リージョナル)、日本語で「域際」と訳すことが多いけど、地域の関係ですね、inter-regionalな関係が安定している、堅実であってはじめて国家。

[*【国家】:域際 inter-regional の関係が安定し堅実なものが国家である ]

今村有希
(頷く)

西部邁
ところが、もう一極集中でね、東京は不気味にネオンサインで朝から朝まで輝いているぐらい。

藤井聡
朝から朝まで(笑)

西部邁
地方に行くと、僕の出身地 北海道でこの前ね、女房の三回忌ということもあって帰ってみて、まぁ言ってみれば閑古鳥が鳴くというよりかは、北海道の人には悪いけど、僕個人もそうだけども、僕はこれはもう『死に体』だなぁと・・・死んでおるなと。

藤井聡
うん・・・

西部邁
たぶんね、いろんなそんな地域が多いんですよね。

青木泰樹
あぁ〜。

西部邁
という意味じゃ、域際関係が脆弱になっている・・・ということは、公共活動が歪んでいるということでしょう?

[*域際関係が脆弱になる、公共活動の歪み ]

藤井聡
はい、そうですよね。

西部邁
ちょっとその他、説明してくださいよ。

藤井聡
はい。要するに、いま「東京一極集中の問題」・・・これは「地方の衰弱の裏側の問題」ですけど、それが明らかになっているグラフがこちらなんですけど9、

[*東京に一極集中の問題 “地方の衰弱” ]

西部邁
あぁ〜。

 

f:id:sakurajimaoyuwari:20160731100310j:image


藤井聡
これはいわゆる先進国の主要都市のパリ、ニューヨーク、ローマ、ロンドン、ベルリンと東京のそれぞれの国の総人口に対するその都市圏人口の割合、推移なんですけど、

西部邁
うん、

藤井聡
1952年、今から60年以上前、だいたいどの国もまぁ12%前後以下ぐらい(で推移している)でまぁ似たり寄ったりだったんですけど、

西部邁
うん。

藤井聡
である特殊な一国(※日本)を除くと、それ以後どうなったかのかって、だいたい横ばい。

西部邁
横ばいか。

藤井聡
或いは、微減しているぐらいです。

西部邁
うん。

 

f:id:sakurajimaoyuwari:20160731100417j:image


藤井聡
意外と一極集中って起こっていないのですが、この赤い線(※日本)だけがずーっと伸びている。

西部邁
どこですか、これは?

藤井聡
これは、この赤いのは日の丸・・・あぁ〜日本だ!!

一同
(笑)

藤井聡
東京の集中率というのが2倍に膨らんでしまっているわけですね。

西部邁
すごいねぇ〜。

藤井聡
ところで、なんでこういうことになるのかと言うとですね、あの通常考えますとですね、東京というのは一番大きな街、首都というのは一番大きな街ですから、『自由に競争させると、どんどんどんどん勝っていって一極集中が当然起こるわけですね。』

西部邁
そうだよね。

藤井聡
『従って、日本はかなり市場原理主義的な都市間競争をやって、東京がどんどん勝ち続けている。ところが、諸外国でそれが起こっていないということは、競争を過剰にさせていないんですね。』

[*なぜ?東京一極集中、諸外国では起きていない ]

西部邁
そういうことだね。

藤井聡
で、なぜそれほど競争が起こらないのかというと、政府が投資を地域に満遍なく行っていくと。

西部邁
うん、

藤井聡
経済規模を度外視してですね、いろんな地域に、人口が少ないところも多いところも、それなりに新幹線・鉄道、道路、港湾をつくっていくということをやっていくんですが、日本の場合は、やはり人口が多い、経済規模が大きいところに集中投資をやる。東京に集中投資をやるからこういう状況になっていくと。

[*日本では人口の多いところへインフラ投資、だから東京に一極集中してきた ]

西部邁
うん・・・

 

f:id:sakurajimaoyuwari:20160731100440j:image


藤井聡
例えば、一例だけお示しすますと、これは先週お示しした新幹線の地図ですけど、これ元々、田中角栄が列島改造論を書いた時には、全国に満遍なく新幹線のインフラをつくり、そして『域際を活性化させていく、地域の交際を活性化していくということを考えていた』んですけど、それから50年間、日本人は何をしてたのかというと、東京には4つの新幹線が接続しているのですが、全国に関しては1本通しただけと。それで通っていない地域もいっぱい残っていると。

西部邁
うん、

藤井聡
で、第2の都市であった大阪ですら1本しか(新幹線が)通っていない。第3の都市の名古屋ですら1本しか通っていない。東京だけに新幹線をつくって、大阪との新幹線投資格差は4倍の差に開いていると。で、もう他のところは全然つくっていないということです。

[*東京中心に新幹線整備、大阪との投資差は4倍 ]

西部邁
うん。

藤井聡
で、新幹線が通っていない日本の(人口)20万以上の都市というのはだいたい25ほどあります。フランスとかドイツにはですね、20万都市であるにも関わらず新幹線が無い町は1つ、ないし2つしかないです。

[*フランスやドイツでは20万人都市に新幹線整備 ]

西部邁
うん。

藤井聡
ですから、ほとんどの20万都市には新幹線は通してあげるという政府方針がヨーロッパにはあって、従って、その結果としてヨーロッパ並びにアメリカの町々というのは人口集中が起きなかった。けれども、『東京だけに一極集中公共投資を行ったので、東京だけ人口集中が起こって、それでこの裏側で地方が疲弊していったという事実がある』ということなんです。

[*日本では人口多いところへインフラ投資、東京に一極集中し、その裏で地方が疲弊 ]

西部邁
(うん)

藤井聡
『ですから、日本において政府の活動、公共活動というものが諸外国に比べて極めて脆弱であったという事実があるんですね。』

西部邁
数年前に示してくれた、あの道路の話でしたっけ?これ面白い地図でねぇ・・・

藤井聡
あっ、これ実は5年前に(西部)先生も私も5つずつ若かった頃に、

西部邁
ワハハハハ(笑)

今村有希
(笑)

藤井聡
この同じスタジオに来てお示しして、(西部)先生も「えっ?こんなになってるの?どうなってんのこれ!?」と先生もビックリされた。

 

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藤井聡
これは、60km/hで走れる高速道路ネットワークの地図です。

[*60キロで走れる道路のネットワーク国際比較 ]

 

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藤井聡
で、日本はこう「東京」が一番多いんですが、他にもこうポロポロポロっと(高速道路が)できていている状況なんですが。(上画像右側の)これもうイギリスではかなりの密度で(高速道路が)出来ている。

西部邁
スゴいねぇ・・・

 

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藤井聡
更にこちらはイタリア。日本よりずいぶん経済が小さい。でもイタリアはかなりの密度で(高速道路網が)出来ている。

今村有希
はい。

 

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藤井聡
そして、これがいちばん見ていて悲しくなるんですが・・・

西部邁
ワハハハハ(笑)

今村有希
(ドイツの高速道路網を見て驚く)

藤井聡
アウトバーンのドイツはですね、もうメロンの皮よりも密度が濃いぐらいのグチャグチャグチャ〜と(高速)道路が出来て、

今村有希
(笑)

藤井聡
それで(対照的に上図左側の)日本はこんな状況です。「道路王国」なんかいう言い方がかつてありましたけども、道路王国はヨーロッパの国々であって、

西部邁
(失笑)

藤井聡
『日本は道路後進国なんだと』・・・いう、これだけの格差が(欧米と)ある。

西部邁
それなんだよ。民主党政権ね、顕著だけども、「事業仕分け」と称して「無駄な道路がつくられてる!!」とか嘘ばっかり。全部嘘なの。

今村有希
(笑)

 

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藤井聡
しかも、これうちの研究所で分析しますと、(上図:グラフ)横軸が道路の整備率、縦軸にGDP成長量をとると、キレイな相関関係ができる。

西部邁
あぁ〜。

藤井聡
しっかりと道路をつくった国というのは成長しているということが分かっている。

西部邁
(頷く)

藤井聡
日本では東京一極集中で、地方には全然インフラが無い。そういう状況なのに、国全体のインフラの水準もヨーロッパと格差があるので、ヨーロッパに追いつくためには相当な投資をしていかないといけないですが。

[*日本は東京に一極集中、国のインフラ投資に格差 ]

 

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藤井聡
これは実は横軸は年代で、平成8年を100に基準化した場合のインフラ投資額の推移です。

西部邁
うん。

藤井聡
ご覧のように、一番増やしているカナダは(基点の平成8年水準の)3倍ぐらいにしてるんですね、この間の過去18年の間に。イギリスも3倍ぐらい。で、ドイツ(下から2番目)が一番公共投資を拡大してないんですが、それでもまぁ微増しているんですが、『1個だけ(平成8年水準の)半分に減らしている馬鹿がいる。』

今村有希
フフフフフ(笑)

西部邁
どこだっ!!!

藤井聡
やっぱり日の丸 日本なんです(笑)

西部邁
(頭を押さえてうな垂れる)

今村有希
(笑)

藤井聡
インフラの整備水準は彼ら(欧米諸国)の方が(遥かに)高い。地方にも(欧米の)彼らの方が公共投資をたくさんやっている。

『しかも、彼らには巨大な地震津波も大きな洪水もそれほど無い。日本では地震津波も大雨も台風もいっぱい来ている。しょっちゅう洪水しているのにこの状況ですから・・・これは国力として日本が諸外国にこれから数十年の間に勝つ見込がこのままだったら無い。』

西部邁
よく市場・・・経済学者はさ「市場理論」という。市場理論っての簡単に言うと、みんなが自由に交換するシステムという意味ね。例えば、この2人が取引するために、例えば物を運ぶ道路があるとかですよ、他にもいろんな条件があるのね。

[*「市場理論」:自由に物資が交換できるシステム、取引成立のための道路や教育水準 ]

藤井・青木
(頷く)

西部邁
仮に今村さん、

今村有希
はい、

西部邁
今村さんも病気なさるでしょう、えぇ?

今村有希
はい(笑)

西部邁
あんまり相手が健康状態が悪いとね、取引にならないわけでしょう。

今村有希
うん。

西部邁
こっちがこんなに強くてね、貴女が(病気で)下に倒れるという・・・今は本当は逆だけど、僕の方が倒れるんだけど(笑)

今村有希
(笑)

西部邁
それから今度は、教育水準もありますよね。

青木泰樹
そうですね。

西部邁
僕はさなんてーの、新聞もテレビも本も読まないとか、無知悶々の輩である・・・取引が成り立たないんですよね。取引どころか2人で一緒に働くこともできないわけでしょう。

今村有希
(うん)

西部邁
ですからね、いろんな意味で僕は公共投資だけじゃなくて、『公共活動』というものがあって、

藤井・青木
そうですね。

西部邁
みんなの関係性というものを、何も完全平等じゃなくてもいいんですよ、『取引可能な、或いは、協力可能な関係をつくるというその土台があってはじめてマーケットは機能するわけ。』

[*取引可能な協力関係の土台があって機能する市場 ]

青木泰樹
主流派経済学というのは、国民も国家も国土も宗教も文化も伝統も全く考えてないんです。当たり前の経済活動をするには、必要な人間関係・社会関係があるじゃないか。

西部邁
ねぇ。

青木泰樹
当然のことなんですけど、一切考えてないんですね。で、そこにあるのは、市場メカニズムと合理的経済人と、幾許かの資源と、そして所用の技術と4つの要素しかない。それを持ったものを「市場システム」といって、まぁそれの中で経済効率だけを考えましょうと、そういうふうなレベルの話がもうほとんどの経済学者が考えているわけで。

[*国民・国家・国土・宗教・文化・伝統を全く考えず、公共活動から価値は生まれないという主流派経済学 ]

西部邁
そうですね。本当にそこには人間とかね、集団とかあぁいうもの全部を度外視して、一種の空中楼閣、砂上楼閣。

[*人間や集団を度外視した空中楼閣、砂上楼閣 ]

西部邁
(天井を指して)ここに合理的な人間がいるとしてね、自由に取引できるシステムがあるとして、空中楼閣に関する緻密な少々の下等数学を・・・本当は僕むかしそれやってた(笑)

今村有希
ウフフフフ(笑)

西部邁
20代の後半。

今村有希
ハイ(笑)

西部邁
だから結構詳しいんですけどね(笑)

青木泰樹
(笑)

西部邁
こんな砂上楼閣、空中楼閣に付き合いきれねぇわと・・・思って、30過ぎでそういうものからオサラバサラバしたから、まだその延長線上でやって、

青木泰樹
そうなんです。

西部邁
結果としてはね、そこで競争だ何だという虚しい掛け声だけがあるわけでしょう、イノヴェーション競争だなんだと。それでその結果、いま(藤井に)仰っていただいたような、惨憺たる状況をもたらしていると。

藤井聡
ハイ。しかも、さらに経済学の先生方の滑稽なところはですね、そもそも彼らが一生懸命勉強している教祖と呼んでいいところの【アダム・スミス】は、やっぱり彼らは『国富論』の中で交通インフラのことを論じているわけですね。で、『生産というものは交通のaccessibility(アクセシビリティー=交通利便性)に依存している。』従って、インフラは重要であるということが(スミスによって)示唆される。

アダム・スミスの真逆にいる【カール・マルクス】も、元々その上部経済の経済というものを下部構造のその計算システムに依存してて、で、生産システムの根幹にあるのが物理的交通システムだということを、論じているんですよね。

西部邁
そうですねぇ。

藤井聡
ですから、右であろうが左であろうが経済を論じていた昔の賢人たちは、インフラのことを軸に、或いは、インフラのことをベースに経済理論というものを組み立てて、経済政策を論じていたのに、タコツボ化して、なんかこの辺のことを勉強するのを忘れたのか、何の勉強をしたのかちょっと分からないんですけど、そっくり忘れてしまっているんですね。

[*インフラを軸やベースに経済理論を組み立て、経済政策を論じていた昔の賢人たち ]

西部邁
そういうことをしなくて済む領域があるとしたら、いわゆる純粋金融、或いは、純粋証券世界ね。

[*純粋金融証券の世界は賭け事のような瞬間損益 ]

藤井聡
あぁ〜。

西部邁
あれだけはね、インターネットのボタン押せばさ、まぁ1億だ100億だ、一瞬にして動かせると。一瞬にして利益が損失もあるんだけども、そういう世界だけね・・・それならば、いま言ったような土台も枠組みも法制も、それこそ取引が速いでしょう、明日どうなるかなんてったってさ、1秒後にはまた別の取引をやればいいんだから、明日明後日の事を考えなくて、瞬間瞬間の賭け事の世界、そういう世界を国家全体に拡大しようという・・・

藤井聡
そうですね・・・

西部邁
妄想の中に(平成の)28年間も生きてるわけであります。

藤井・青木
フッフッフッフ(大苦笑)

青木泰樹
(西部)先生ね、ちょうど2008年のリーマンショックの時に、いわゆるまぁ「効率的市場理論」というんですけども、金融市場には世界中の知恵と知識と情報の全て集まっている。で、金融市場というのは将来の予測から成り立っていますから、一番効率的なんだ、というふうに言ってたんですけど、リーマンショックでそれが吹っ飛んでしまったんですね。

西部邁
うん、そうですよねぇ。

青木泰樹
即ち、もう完全に合理的な市場であるにも関わらず、もしもその市場であれば、この暴落が予測できるハズですから、誰も取引はできない。

西部邁
えぇ。

青木泰樹
そうした合理性に対する疑問というものが、経済学の方でも少しずつ芽生えていると。

[*金融市場は将来予測から成り立つ“効率的市場理論” 、リーマンショックで合理性への疑問が経済学に広がる ]

西部邁
そりゃそうなんですよね。経済だけじゃなくて、あの東北大地震なんかも、東電のある責任者が・・・実は清水社長さん(※原発事故当時)でありますけども、「想定」ね、英語でpresumption(プリザンプション)と言いますが、東電の間違いでした。で、新聞記者どもがですね、「(想定は)どこまでだったんだ!!」と(声を荒げて)言うでしょう?「想定できないことも想定しておくべきでした」って・・・僕それテレビで聞いた時に、

藤井聡
えぇ、

西部邁
言葉は悪いけど、おれ狂気の世界にいるのかなって。

藤井・青木
(頷く)

西部邁
想定できないことを想定できないでしょうよ。

[*“想定” presumption 東日本大震災対応めぐり ]

藤井聡
ンフッフッフッフッフッフ(苦笑)

西部邁
それをね、「想定できないことをも想定しておくべきでした。それをしなかったのは、我が東電の間違いです」と言って、新聞記者・テレビ記者が頷いているのを見た時に、僕は本当に呆然とした。

「将来」というものを想定する、これね、実はまぁ簡単に言うと三段階あってね、一つは日本語で⑴『予測』と言いますけども、これを英語で prediction(プレディクション)といいますけどもね、これはね、「平均でこんな儲けがあがるな」と、いわゆる確率分布ね、予測できると。

[*「予測」prediction 将来の想定(三段階) ]

藤井聡
(うん)

西部邁
数字でね、確率的に。

今村有希
はい。

西部邁
ところがね、こういう確率分布なんか想定できない、でもなんとなく日本経済調子良さそうだなぁ、悪そうだなぁと、これ英語でanticipation(アンティシペーション)といいますけども、⑵『予想』ね。予想できること。

[*「予想」 anticipation 将来の想定(三段階) ]

西部邁
ところがね、これも更に超えた不確実なね、なんとなく⑶『想像』できる。例えば、今で言えば、なんか世界中きな臭くて第3次世界大戦が起こるとか言ってる人もいるなぁと、

藤井聡
うん・・・

西部邁
世界は危ないなという程度のimagination(イマジネーション)ね。

[*「想像」 imagination 将来の想定(三段階) ]

今村有希
はい。

西部邁
つまりね、⑴prediction(予測)、⑵anticipation(予想)、⑶imagination(想像)とまぁ一応、三段階にある。ところが、経済学者たちがやってるのはヒドい話でしょう?

青木泰樹
(頷く)

西部邁
もう「全部予測できる!!」と。

[*prediction(予測)、anticipation(予想)、imagination(想像)“全ては予測できる” という経済学者による嘘話 ]

藤井聡
うん。

西部邁
予測できるというのはね、我々4人が毎日同じようなことをやっている時。

今村有希
(笑)

西部邁
ね?今村さん今晩あれ食べるぜとかさ(笑)、明日はこう言うだろうなぁとか、

今村有希
ウフフ(笑)

西部邁
ところが一方でイノヴェーションと言っているわけでしょう?毎日新しいことを起こそうと言っているわけですよ。

今村有希
(うん)

西部邁
新しいことということはね、初めての経験ですから予測できない。難しいのね。

青木泰樹
そうですね。

西部邁
でもね、想像(imagination)とかですよ、或いは、予想(anticipation)ならばなんとかできる。

今村有希
はい。

青木泰樹
経済学者というのは完全に予測できるというふうに考えていますけども、それは過去に起こった事が、将来に必ず繰り返して起こるんだという前提条件に立ってるわけで、

西部邁
そうでしょう。

青木泰樹
それで(西部)先生がいま仰った通りに「革新・innovation」そうしたものは「過去にないもの」が起こる。これが将来ですから、「不確実」ですから。

[*革新とは過去にないもの、将来の不確実性 ]

西部邁
そうでしょう。もう毎日毎日(innovation=革新=過去にないもの)起こせと言うわけですよ。

青木泰樹
(頷く)

西部邁
そしたらね、未来なんて予測できるわけないでしょう。

今村有希
はい。

西部邁
それでリーマン事件の時にどういうデタラメやったかと言うと、簡単に言うと、昨日起こったことね、一昨日、つい最近起こったことが未来も続くと(笑)

青木泰樹
(苦笑)

西部邁
それで予測できると言って、(サブプライムローンに関する)証券をつくって、「この儲けはこんだけです!」と売り捌いて、蓋を開けてみたら全部嘘でしたってね。それで、世界は金融パニックに陥ったわけですよ。

[*最近のことは未来まで続く、予測可能と金融パニックへ ]

西部邁
つまり、過去のことはみんな切り捨ててね、(つい最近の)昨日一昨日起こったことは、今後ともこう(将来まで)行きますと、そういう『歴史観の喪失』ね。

青木泰樹
そうですね。

西部邁
要するに、『国家というものを忘れてしまった』という。国家というのは歴史の上に成り立ちますからね。

[*歴史の上に成り立つ国家を忘れた歴史観の喪失 ]

青木泰樹
そうですね。

藤井聡
並びに、未来の不確実性に対して人間のできることの最高の形が『政治』であるとすると、

西部邁
うん、

藤井聡
『経済学が世の中を支配してしまって予測できるという嘘話に基づいて国が運営されると、政治がどんどん小さくなって、最後は政治がなくなってしまう。』

[*“未来は予測できる” という嘘話に基づいた国家運営をすれば “政治がなくなってしまう” ]

西部邁
そうなんですよね。

藤井聡
『全部 algorithm(アルゴリズム)だけで、計算機だけで世の中が動いていってしまう。』

西部邁
そう、そういうことなの。いまalgorithm(アルゴリズム)って計算法(算法)って意味なんだけど、

今村有希
はい、

西部邁
ITね、information technologyでボタンを押して、ところがね、こっちの方(→予想、想像)に入ってくるとですよ、確率分布の何もないんだからね、

今村有希
うん、

西部邁
そうすると予測できないでしょう。アルゴリズムが成り立たない。

藤井・青木
(頷く)

西部邁
それでもなんとかしなきゃいけないでしょう、人間は。そこでね、これも英語で言って『HO』これ Human Organization(ヒューマン・オーガニゼーション)、人間の組織ね、

今村有希
はい。

西部邁
集団でもいいんですけどね、経済だけじゃなくて政治だ文化だも絡んだ人間、ヒューマン(human)ね。機械ではない、人間ね。

今村有希
うん。

西部邁
『人間の関係でもってなんとか支える以外に未来の不確実性に耐えられないという。』

[*【HO】:Human Organization 人間の組織、人間の関係性で支えねば未来の不確実性に耐えられず ]

西部邁
こんなことは経済学者にわかるわけもないのにわかったフリをしてね、未来がこうなりますって・・・

青木泰樹
そうです(笑)そうするともう「不確実性が無い」わけですから、国土強靭化も無い、

西部邁
無い。

青木泰樹
(未来の不確実に)もう備える必要が無いという、

西部邁
無い。

青木泰樹
愚かな結論に行くしかないんですね。

藤井聡
そしたら、この国で地震津波が起こることは確実で、起こること自体は確実であるという国であるにも関わらず、国土強靭化、即ち、防災対策ができないとすると、それは文字通り、政治の蒸発を意味してて、

西部邁
そうね。

藤井聡
来たるべく大災害に我々が備えるかどうかというのは、我々は政治をできる民なのかどうなのかというのを問われてて、

[*きたるべく大災害に備えるのが国土強靭化、政治ができる民なのか問われている ]

西部邁
そうだね。

藤井聡
例えば、あのヨーロッパですと、今回の財政政策に対して比較的批判的だったドイツとイギリスという国がありますけども、彼らは(英独両首相の)2人ともどんなことを言っているかというと、キャメロンはですね、『もし我々のインフラが二流になれば、我々の国も二流になる』ということを断定していますし、あのメルケルさんですら、『個人の自由、社会参加の豊かさと経済成長のためには、質の高い交通インフラが必要である』ということをやはり言ってて、緊縮的で全部マーケットを中心でやっているかのように見える彼らですら、やっぱり未来のための交通インフラは必要であるということを言っているということを、考えるならば、これだけ不確実性の高い、地震津波等々の多い日本でインフラをやらないというのはあり得ない選択だと思いますね。

[*もし、我々のインフラが二流になれば我々の国も二流になる(キャメロン首相) / 個人の自由、社会参加及び豊かさと経済成長のため必要な基盤が質の高い交通インフラ(メルケル首相) ]

西部邁
そうですよね。何か外国から来たアイデアね、この場合は、市場競争でもイノヴェーションでもいいけど、或いは、ITでもいいのだけど、

今村有希
はい、

西部邁
そういうアイデアが一つのイデオロギーとなってね、(こちらが)受け身で受けいれますから、自分で考えた意見じゃないんですよね、どうもこういう新しいアイデアがあるそうだぜと、それに飛び込めば勝つことができるようだぜと言う。

でもヨーロッパもね、アメリカも含めてそうだけど、まず自分たちから始めていますからね、自分たちで考えるわけ。そしたら、『普通の常識』に辿り着くんですよね。

藤井聡
(頷く)

今村有希
(うんうん)

西部邁
こっちも整備しないと国家は穴ボコだらけだなぁと。普通の常識。わかるんですね。何かこう自分で考えない、しかも自分たちで議論した上での自分達の結論じゃないという。

[*欧米も自分達で考えて常識へとたどり着く、自ら考え、議論した上での結論 ]

西部邁
どこかから、まぁ日本の場合はアメリカなんですけどね、アメリカ戦争に負けて以来ね、僕はもう時々乱暴に言うんだ・・・敗戦、属国、従属、奴隷民族と・・・精神がよ、向こうから来るアイデアに飛び付いて、それを振り撒いてね、それで構造改革と称した(平成の)28年間・・・

藤井聡
(大きく頷く)

西部邁
小さい声で言う。滅びやがれ!!!!!

藤井・青木
(爆笑)

藤井聡
今の確かに小さいお声でした(笑)

今村有希
(笑)

西部邁
では次の週に入ります。

今村有希
はい(笑)ありがとうございました。

藤井・青木
ありがとうございました(笑)

【次回】今週の続編です。

公共活動のほかに道はなし①  ゲスト:藤井聡(内閣官房参与・京都大学教授)青木泰樹(東海大学非常勤講師・京都大学特任教授)〜西部邁ゼミナール〜

公共活動のほかに道はなし①  ゲスト:藤井聡内閣官房参与京都大学教授)青木泰樹(東海大学非常勤講師・京都大学特任教授)〜西部邁ゼミナール〜

ゲスト
藤井聡内閣官房参与京都大学大学院教授、レジリエンス研究ユニット長、近著『スーパー新幹線が日本を救う』(文春新書)

青木泰樹:東海大学非常勤講師、京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授、近著『経済学者はなぜ嘘をつくのか』(アスペクト

【ニコ動】公共活動のほかに道はなし① 2016.07.23

http://sp.nicovideo.jp/watch/sm29302266

今村有希
今回から3回に渡り「公共活動のほかに道はなし」と題しまして論じて頂きます。

ゲストをご紹介します。東海大学非常勤講師で京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授の青木泰樹先生です。青木先生は『経済学者はなぜ嘘をつくのか』を上梓されており、経済の語源が世を治め(=経世)民を(困窮から)救う(=済民)「経世済民」であることすら知らない経済学者に騙されるな!!と警鐘を鳴らしています。

もう一方は、このほど『スーパー新幹線が日本を救う』を上梓された、内閣官房参与京都大学大学院教授でレジリエンス研究ユニット長を務めている藤井聡先生です。

世界的に広がる経済危機は、Long-run stagnation(ロングラン・スタグネーション)、つまり「長期停滞」に入っています。資本主義は断末魔的な状況を迎えており、長期的な視野でみると、公共的な枠組みの構築が今後の日本のあるべき姿ではないか、ということで、公共投資の時代に何を備えるべきか本質的な議論が展開されると存じます。それでは先生方宜しくお願いします。

藤井・青木
宜しくお願いします。

西部邁
あぁ今日はありがとうございます。

藤井・青木
ありがとうございます。

西部邁
藤井先生、

藤井聡
はい。

西部邁
何か安倍内閣は三本の矢で、

藤井聡
はい、

西部邁
一本目の矢が「インフレターゲット論」ですが、イギリスのEU離脱のこともあってね、円安がストップしたのみならず、円高傾向に入って、どうも一本目の矢は折れた。

藤井聡
はい。

西部邁
それどころか、なんかねぇ・・・「マイナス利子率」などというね、資本主義が、将来投資をしても収益が見込めないと。

藤井聡
うん。

西部邁
それで今、資本主義の断末魔的状況です。

[*民間需要がなく投資をしても収益が見込めない、日本初導入のマイナス金利は資本主義の断末魔 ]

藤井聡
そうですね。

西部邁
たぶん、一本目の矢を言ってた人は、安倍内閣の周辺から姿を消したんじゃないかと、僕は予想していて、

藤井聡
うん。

西部邁
第三の矢は「規制緩和でイノヴェーションで成長戦略」と。仮にそれが上手くいっていても、実はイノヴェーションの結果、どんどん独占体ができてですね、アメリカで言えば「0.1%の人間」がですね、その年に上がる収益の半分以上も持っていくという(*因みに、統計によればアメリカの上位1%が国民所得の25%、上位10%で半分を占めると言われる)、国内の労働分配率が減りますので、購買力が減っている。

[*“規制緩和” “イノヴェーション” の成長路線、資本の独占・寡占化が進み労働分配率は落ち購買力減 ]

藤井聡
うん。

西部邁
故に、第三本目の矢を推してる人たちも、もう安倍内閣から姿を消しているのではないかと・・・で、残っているのは

藤井聡
はい、

西部邁
公共投資、インフラ投資、国土強靭化を言っている貴方(藤井)だけじゃないのか?・・・と勝手に想像しているんですけど、どうなっています?

青木・今村
(笑)

藤井聡
はい、まさにそのように私も感じてはおるんですけども。

一同
(笑)

藤井聡
アベノミクスをこれから展開していくにあたって、金融緩和をさらに追加緩和やらないといけないという声も出てまいりまして、

西部邁
本当?

藤井聡
国債が(日銀買いオペで)どんどん(市中から)無くなっていますから、あと2年ぐらいで国債が全部無くなるハズなんですけど、これ以上、追加緩和するっていうのもね、どっかで限界が来るってことがあるんじゃないかと思う。

西部邁
うん。(吹き出し笑い)

藤井聡
景気が良くならないのは「構造改革が足りないからだ!」という声も非常に多くて、

[*長期停滞で金融政策の限界、“構造改革” が足りないのか ]

西部邁
(呆れ笑い)

藤井聡
一方で、財政政策をしっかり進めようという、(西部)先生がいま仰った『この道しかない!!』んじゃないかと思われる方向で行こうとすると、「緊縮財政をやらないと財政破綻するんじゃないか!?」ということで、なかなか(西部)先生が仰ったような方向かどうかというのは、うん・・・。

西部邁
あぁ、そうか。じゃあ貴方はまだ、安倍さんの周辺で孤立してるんだ?

藤井聡
えぇ・・・いかがでしょうか(汗笑)

西部邁
情けないねぇ。

藤井聡
ただですね、この状況の中でもやはり、第一の矢の金融緩和にも限界が(来ていることに)なんとなくみんなが気付いていますし、

西部邁
そうでしょうねぇ。

藤井聡
構造改革も確かに必要だろうけども、それだけやっててもやっぱり難しいんじゃないかという、

西部邁
うん、

藤井聡
財政政策を求める声がどんどん強くなっているのは間違いないです。

西部邁
まぁそりゃそうでしょうねぇ。

藤井聡
ただ、他の方々(※一本目の矢、三本の目の矢の主張派)がいなくなった・・・というわけではないという。

西部邁
この間の「伊勢志摩サミット」でもあれでしょう、もっとも重要なテーマは、この財政出動、具体的に言うと『公共投資』ですけどね、

藤井聡
はい。

西部邁
それに各国が精力を傾注、注いでいかなきゃいけないというのがまぁ、唯一の積極的な同意点ですよね。

[*公共投資への精力傾注、G7伊勢志摩サミット ]

藤井聡
そうなんです。そこで、こういう共同宣言が出されまして、『質の高いインフラ投資の推進のためのG7伊勢志摩原則』と。これを軸にですね、世界中で投資を拡大していき、縮小しつつある需要というものを拡大していこう、といくことは、G7でもかなり重要な案件として議論され、共同宣言が出されているんですね。

[*質の高いインフラ投資の推進のためG7伊勢志摩原則、投資を拡大し縮小する需要の拡大に取り組む ]

西部邁
うん。

藤井聡
ただ、それでも報道はほとんどされていない!!

西部邁
そういうふうにして、自分の言ったことをアレですか・・・実行する気はないというのはやっぱり日本政府がいちばん目立っていますか?

藤井聡
安倍総理もG7の前にヨーロッパに行かれて、各国と財政政策の国際協調をやろうというんで調整をされるぐらい安倍総理は非常にそこは積極的なご発言をされていると。

西部邁
うん。

藤井聡
一方で、実際の国債発行額というものを、赤字額というものを見ますと年々縮小してきていると。

西部邁
うん・・・

藤井聡
これは、(青木)先生やっぱりこれは、痛烈なな緊縮状況にあると解釈できると思うんですけども?

青木泰樹
そうですね、そうですね。「マイナス金利」などということを資本主義の主義などというふうに捉えられるわけなんですが、金融政策の限界が露わになったにも関わらずですね、

西部邁
うん、

青木泰樹
スンナリと、このアベノミクスの第二の矢である『財政出動』にみんな人が向かわないのは何故かと言いますと、第三の矢の「成長戦略」がですね、まだ残っているんですね。


西部邁
あぁ、嘘話の。(呆れ顔)

青木泰樹
えぇ。グローバリズムを進行させようという勢力が残っておりまして、そのグローバリズムを推進する人たちは、『反財政主義』なんですね。

[*財政政策に向かわない原因、グローバリズム “成長戦略” ]

西部邁
あぁ、そうでしょうねぇ。

青木泰樹
えぇ、そういうような人たちです。

西部邁
規制緩和で民間の主体的活力に任せよと。小さい方がいいと。

青木泰樹
そうですね、そうですね。

西部邁
財政出動は役に立たないと、まぁこれは10年前の話ですけどもね、その余韻がまだ濃く残っていて、

青木泰樹
はい、

西部邁
ここまで『嘘話』が平成に入ってからで言うと28年間も嘘話を聞かされているとね、もう生きるのが嫌になってくるという・・・

[*“規制緩和” で “民間活力” “小さな政府” という嘘話 ]

藤井・青木
(大苦笑)

今村有希
(笑)

西部邁
経済学では利子率のことを「i」で表すことが多いでしょう、これ金銭投資する。で、実物資産に投資するとね「r」というreturn(リターン)が見込まれると、これは「期待収益」ですけどね。

青木泰樹
そうですね。

西部邁
それから、実物はインフレ(π)があるとしたら、今は2%目標ですよね、

藤井聡
はい。

西部邁
π これは2%儲かると。

左辺:i(金融資産への投資利子率)
右辺:r(実物投資への期待収益)+π (インフレ率 )

これね、市場、マーケット・メカニズムの働きで言えば、金銭投資(i)するか、実物資産に投資(r)するかで、これはこうする(i=r+ π)だろうと。

[*i(利子率)=r+ π (実物投資の期待収益 + 物財のインフレ率) ]

藤井聡
うん。

西部邁
ところがね、これ(左辺の「i」)をマイナス(利子率)にするってわけね。ですから、これ(右辺の「π」)をこっちに持って来れば(左辺に移項する)、「-2」でしょう。(iー π =r)

ということは、この(π 移項後、右辺に残された「r」である)期待収益が、これが-2だか4だか知らないけど、-4(r)ぐらいにしときましょうか、平均でね。

藤井聡
ンフッフッフッフッ。

西部邁
経済の(実物)投資をしても、収益(r)は「マイナス」であると。

藤井・青木
はい。

西部邁
ところがそう簡単に言えなくて、平均でそうなんですよね。独占体はイノヴェーションに先行して勝利した藤井君は独占利潤を貪るわけですよ。それで巨大独占体を形成して、最終的には購買力がないでしょう、つまり先ほど言ったように、民間の購買力は賃金が増えませんからね。

[*経済に投資して期待収益がマイナスなら投資は増えない。独占体は独占利潤を貪り、賃金は上がらず購買力は落ちる ]

藤井・青木
(頷く)

西部邁
まず外国にいくんだけど、外国も限界があるでしょう、そうすると、最終的にはね、結局は政府を動かしてね、

藤井聡
はい。

西部邁
もっと言うと、『戦争をやる』と、仕掛ける。

[*巨大独占体は戦争仕掛け、血生臭さが世界に広がる ]

藤井・青木
(苦笑)

西部邁
いい?本当にそうなっている、世界中が血生臭い状況で至る所で。それに反発するテロも起こっていますけどもね。そんなふうにして、成長戦略の2本の矢は。

しかもね、このマイナス利子率で言うとね、だから民間は平均で言えばね、期待収益があれですから、マイナスにしても、期待収益はもっと低いんですから『借りない』わけですよ。

[*期待収益低いマイナス金利、民間は金を借りない ]

藤井聡
そうですね。

西部邁
借りたってどこに?・・・パナマに持ってくの?

藤井・青木
ワハハハハ(笑)

西部邁
ねっ(笑)

青木泰樹
特に、マイナス金利というのは、まぁ金の貸し借りというのは「現在の金と将来の金との交換」ですからね、当然のことながら、例えば、現在の1万円と1年後の1万円をまぁ交換しましょうと言った時に、誰も貸しません。何故かといったら『不確実がある』からです。

西部邁
そうですよ。

青木泰樹
ですから、『今の1万円の方が1年後の1万円より高い』んですね。

西部邁
そうでしょう。

青木泰樹
ところが、マイナス金利となりますとね、今の1万円とですね、まぁ将来の1万円「以下」、これを交換するとかそういうような話になってくると、金を貸す人がいなくなるということで、それがまぁ資本主義ですと言われてることだと思いますけどね。

[*現在の1万円が将来下がれば、金を貸す人もいなくなる ]

西部邁
明日、来年持つ1万円は何が起こっているかわからない。インフレが起こっているかもしれないし、パニックが起こっているかもしれない。

今村有希
はい。

西部邁
その『不確実性がプラス利子で表されている』ハズなの。

今村有希
(頷く)

西部邁
それがマイナスにしてしまうということは、世の中でんぐり返っちゃっている証拠なんですね。

[*将来の不確実性がプラス利子、でんぐり返しの “マイナス利子” ]

今村有希
はい(笑)

藤井聡
そういう意味では、政府内、或いは、マスコミの中での空気が日本においては緊縮的な空気がまだ強いかもしれないですけど、『日本だけが低金利でなくて、世界中がヨーロッパを中心に低金利になっている状況ではもう、公共の投資以外に道はない』ということはもうコンセンサスは得られつつあって。

[*世界中が低金利の時代で、公共投資のほかに道はなし ]

西部邁
そうでしょうね。ですから平均で言うとね、今やマイナス利子率、それでもいいんだけどね、それをね、政府が借りてですよ・・・ということは国債を発行して、それをいわゆる公共投資、若しくは、もっと広く『公共活動』ね、

今村有希
はい。

西部邁
それで、ちょうど1930年代がそうだったんですけどね・・・

藤井聡
そうですね。

西部邁
それと似たような、そっくりな状況が生まれてきているのにね、今みんなして時代錯誤の中でね、昨日一昨日まで言ってたようなことをピーヒャラピーヒャラ言っているんですよ。

[*1930年代に似た状況で、時代錯誤の中で同じことを言う ]

一同
(苦笑)

西部邁
もう僕がISだったら・・・(銃を構えて撃つポーズで。笑)

藤井聡
ワハハハハ(爆笑)

西部邁
ISじゃあありませんが(笑)

今村有希
(笑)

藤井聡
ISとは少し違いますが(笑)、民主主義とはかなり距離のある、例えば中国では、今みたいな議論に基づいて、中国の執行部の首脳が「それはそうだ!」ということであればスグ投資を始めると。というのは、彼らが今やっているのは「34兆円の交通インフラ投資」を、年間34兆円の交通インフラ投資を5年間やるということを公表しています。それと共に、中国を中心としたアジア各国、アフリカも含めてAIIB・・・

西部邁
あぁ〜。

藤井聡
アジアインフラ投資銀行(AIIB)を創って投資を加速しようということを、今この世界状況の中では普通に考えれば、公共投資を拡大していく。しかも低金利ですから、いま借りた1兆円が将来も1兆円、あるいは9千億円になっているかも。これやらないの?どうなの?いつやるの?今でしょう!?みたいな。(←例の林先生のマネをしながら。笑)

[*中国はインフラに年34兆円、アジア各国はAIIBで投資加速 / 1兆円借りても返済額が減る、いまが公共投資の好機 ]

西部邁
(うんうん)

藤井聡
それが成功してインフレ率が(将来的に)3%4%になってきますと、1兆円借りると10年後には(返済額が)1兆5千億とか2兆円とかになってしまうわけですから、これいま(公共投資を)やらないというのはあり得ないですよね。

西部邁
そうだね。

藤井聡
従って、中国はいま投資を拡大していますし、あのサンダース、アメリカで社会主義といっているサンダースも100兆円規模の・・・

西部邁
民主党の第2候補だった人。

藤井聡
はいアメリカの。と言ってますし、その対抗のトランプも、「これまで大統領選に出馬した誰よりもインフラ投資のことを誰よりも理解している」と、自らインフラ投資をやると言っているので、

西部邁
ワハハ(笑)

藤井聡
これは中国、アメリカは投資をガンガンやると、両方とも仰っているわけですよね。ここで(日本が)やらないというのは確かにあり得ない選択だと。

西部邁
僕ね、新聞も雑誌もロクに読んでないんだけど、僕の大雑把なアレでは、政府のいわゆる「財政赤字」ね、

藤井・青木
(頷く)

西部邁
(※苦虫を噛み潰したような表情で)本当に役人どもが、財政赤字のことばっかり言っているでしょう? でもね、だいたい1000兆円だと言われているでしょう?ねぇ、財政赤字さ。でもね、これが全てじゃないけど、これはあれでしょう、現在世帯が未来世帯からの借金ですよね。このうちのどれくらいか誰も言わないけれども、【未来世代のための公共投資】に使っている分が、

藤井聡
全くその通りです!!

西部邁
もろ低めに見積もっても半分にしましょうか。もう半分は本当に低いんですけどね、そしたら実質ね、現在世帯が未来世代のにツケを回して、要するに飲み喰いして使っちゃったってのはね、どう大目にみたってですよ、半分なんですよね。

[*1000兆円といわれる財政赤字、未来世代から借金であるが、未来世代のための公共投資

西部邁
ところが、いま個人の金融資産? 個人の金融資産って、個人は株式会社も結局、株主という個人のものでありますから、

今村有希
はい。

西部邁
要するに、民間の持っている資産ですよね。それがどこに預けられているか詳しいことはわかりませんが、(民間資産の総額は)1700兆円だと言われているわけですよ。

青木泰樹
(うん)

西部邁
今村さんを個人になぞらえると、

今村有希
はい、

西部邁
今村さんはね、1700万円の貯金を持っている。ね?

今村有希
ハハハハ(苦笑)

西部邁
どういうわけかね、僕に500万円の借金をしてるわけさ。

今村有希
はい(笑)

西部邁
それでね、大変だ!大変だ!と騒いで、はい、私の家は崩壊ですと騒いだらさ、

今村有希
ウフフ(笑)

西部邁
イかれてるな?と誰だって思うでしょう?(笑)

[* 日本の個人金融資産は約1700兆円といわれる (例)今村さんの貯金が1700万円で借金が500万円 ]

今村有希
思いますね(笑)

西部邁
思うでしょう。

今村有希
はい。

西部邁
結構、余裕があるじゃんねぇ。

今村有希
うん。

西部邁
そしてね、今の公共投資の話に戻るけども、僕はいつまでもこれが続くとかそんなことは言わないですよ。経済状態でいろいろ変わるかもしれませんけども、それならね、今こそこういう経済状態の中で、

藤井聡
ハイ、

西部邁
況してやマイナス金利だとか言われている中で、断固としてかなり大規模なね、要するに国債を発行して財源をつくって、それで公共投資、公共活動をやって、国家の基盤を、もっというと、マーケットの基盤・枠組みね、それを安定化させると。

[*大規模な国債発行で財源をつくり公共投資、公共活動へ国家の基盤、マーケットの枠組みを安定化させる ]

藤井・青木
(頷く)

西部邁
世界各国はそんなことをは直感的に分かりますから。

藤井聡
ハイ。

西部邁
(自分を指して)小学生だって分かるますから。ところが、どういうわけかですね、我が政府からそんな声が聞こえてこない。

藤井聡
はい。

西部邁
藤井さん個人から聞こえてくるぐらいで(笑)

一同
(大笑い)

西部邁
貴方どうなってんの?(笑)

藤井聡
後はですね、カナダの首相(ジャスティン・トルドー首相)がですね、インフラ投資をGDP比1%拡大するということを言ってると同時にですね、こういうセリフを言うんです。『財政赤字を拡大する』と。

[*“財政赤字を拡大する” カナダのトルドー首相 ]

西部邁
おぉ〜。

藤井聡
非常に立派な、

西部邁
立派!

藤井聡
はい、ことを言ってて、どういうことかと言うと、財政赤字を拡大するということは、この不況状況の中では民間が借金をして経済活動をしないというところを、政府が肩代わりしてあげると

西部邁
うん。

藤井聡
借金という辛いことを政府がやってあげるということを意味しているわけで、

西部邁
うん、

藤井聡
且つ、財政赤字を拡大するイコール、政府を本当にサイズを大きくする(※大きな政府)ということを言っているわけですから、そうやってカナダ経済を支えるんだと。カナダ政府の収支は置いといて、カナダ国民がみんな暮らせるひとつの家としてのカナダ経済を支えるんだと、

西部邁
そうだね。

藤井聡
という宣言を言っていると。こうい宣言をぜひ日本でもできるといいのにと。

西部邁
しかも、今のお聞きしたカナダの首相の宣言の中にはね、かつて30年代においてケインズが、大きな政府、財政が動いた時には単なるあの景気対策だったんですよ。

藤井・青木
うん、

西部邁
いわゆる「呼び水」というんですけどね、

今村有希
はい。

西部邁
ポンプね、Pumping Water(パンピング・ウォーター)といって、 まずちょこっと財政投資をすると、それがキッカケに、呼び水になって波及効果で民間活動も活発化するという、まぁ言ってみれば、単なる景気対策としてのことがまぁ少なくとも強調されるようになった。

でも、今のカナダの首相が言ってることは、単に景気対策に留まらずね、

藤井聡
ハイ、

西部邁
マーケットそのものがマイナス金利に見られるように非常に「不安定化」し「衰弱」していくと。でも、マーケットというものをどう安定化させるか、特にその長期展望をね、安定化させ、マーケットに入ってくる人たちの活動力をね如何に高めるかという、もうそういう意味も含めてのあれなんですね、財政出動というね。

青木泰樹
まさにそうですね。

西部邁
国家対策としての財政出動という・・・みんなそちらに頭が切り替わっているのにね、まぁ日本人も切り替えている人いるんでしょうけどねぇ・・・藤井さんの他にもね、へへへ(笑)

[*長期展望安定化、マーケットに入る人々の活動力を高める、国家対策としての財政出動へ頭を切り替えている世界 ]

藤井聡
いやぁ、あの政府の中でもやはり財政政策しかもう残されていないと。その中で、インフラが重要だということで、例えば、安倍総理の6月1日の増税延期の記者会見でも、あの『地方創生回廊』をつくるんだと。

西部邁
おぉ〜。

藤井聡
地方創生回廊、これは地方を創生していくためのまぁ「都市間の廊下(回廊)」をこう、corridor(コリドー=回廊)をつくっていくという、

西部邁
あぁ〜そういう意味か。

藤井聡
ハイ。新幹線ですとか、高速道路をつくっていくと。

[*地方創生回廊:都市間を新幹線などの交通網でつなぐコリドー廊下 ]

西部邁
うん、うん。

藤井聡
地方創生回廊のイメージなんですけど、これはあの決して安倍内閣でつくった地図ではなくて、あの田中角栄さんが『日本列島改造論』の中で書いた地図をベースにしたもので、実はこのゼブラのところしか出来ていないと。(※動画を再生されてぜひその地図を見てください)

 

f:id:sakurajimaoyuwari:20160724093630j:image

 

西部邁
あぁ〜。

 

藤井聡
(S47年代当時に練られた新幹線整備計画の)全体の30%しかできていないと。従って、東京を中心にしていろんなところへは行けるのですけど、地方と地方の間というものはぜんぜん行くことが出来ない、corridor(回廊)として繋げていくというのは絶対に必要であると。

西部邁
うん。

藤井聡
それは、公共事業をやっていく時に内需を拡大し、デフレを脱却するということにもなりますし、デフレを脱却した後はこの出来上がったインフラが、国家を支えていく、地方を支えていく、というダブルの意味で、そういうのを【ストック効果】といいますけども、フローのみならずストックの効果もどちらもある、という意味で、投資先としてはやはりこういう『都市間インフラ』というのは重要であるのではないかと。

[*公共事業をやってゆき内需拡大でデフレ脱却後、地方、国家を支える公共インフラ投資のストック効果 ]

西部邁
うん。エコノミスト、経済学者・・・『経世済民』の意味も知らない。あれ英語でもそうなんですよね?

青木泰樹
はい。

西部邁
economy(エコノミー)というけど、oikos nomos(オイコス・ノモス)だから、oikosって「家」という意味なんですよ。もちろんギリシャですからね、奴隷制ですから、奴隷10人 50人を含めての家なんですけど、日本語で言うところの『家政』ね、家の状態をどうするかというのが oikos nomosで、それが economyになった。

[*経済 economy の語源:古代ギリシャ oikos “家” nomos “秩序” =家政 ]

今村有希
はい。

西部邁
ところが今の家はね、簡単に言うと『“国家”という家』になったわけさ。

今村有希
うん。

西部邁
ね?国家全体をどうするか、というのが本当のoikos nomos,economyの意味なんですけども、

[*国家全体をどうするかが oikos nomos,economy 「経済」の本来の意味 ]

藤井・青木
(頷く)

西部邁
その国家の中のマーケットの、しかもその中でのイノヴェーション競争という・・・(渋い表情で)だから、エコノミストの責任って重いですねぇ・・・。

青木泰樹
そうですね。世界的に公共事業、これをみなさんやっていこうという雰囲気になっているにも関わらず、なぜ日本はしていないのか?というふうな雰囲気にならないのかと言いますとね、やはり、日本のエリート層と言いますか、まぁ政治家、官僚、マスコミ、知識人を含めまして、いわゆる「主流派経済学」というこの経済学の悪影響下にあるということなんですね。

[*世界的に公共事業へ向かう中で日本は、政治家、官僚、マスコミ、知識人は主流派経済学の悪影響 ]

青木泰樹
先ほど(西部)先生が仰った通りでですね、主流派経済学は基本的に「みんな同じ力の人が同じレベルで戦わす(競争する)」、

西部邁
うん、

青木泰樹
それを前提としているんですけど、現実経済というのは力のある人もいれば、無い人もいる。

西部邁
そうだね。

青木泰樹
同じルールでやったらどうなるかという、そこがですね、分かっていないということなんじゃないでしょうかね。

西部邁
仰る通りなんですよね。「競争」というでしょう、マーケットの。

今村有希
はい。

西部邁
この(競争の)「競」という字、これ同じ字が二つ並んでいるでしょう?

今村有希
はい。

西部邁
これは簡単に言うと、「人が2人並んでいる」という意味なんですよ。

今村有希
(人が)競っているんですね、はい。

西部邁
大凡、同等の力を持った者が、競争。当たり前で、相撲でなぞらえるとね、

今村有希
はい(笑)

西部邁
横綱はせいぜいね、幕内の上位としか相撲は取らないわけ。(「競」の字の片側を指して)こっちがバカデカい、で、こっちが小さいでしょう?相撲にならない、競争にならないんですね。

[*競争の【競】:大凡同等の力を持ったもの、相撲で言えば、横綱は幕内上位との取り組み ]

西部邁
市場競争、市場競争と一口で言うが、その競争の全体がね、あんまり大きな格差があっちゃいけないと、「競争が成り立たない」んでね。

今村有希
うん。

西部邁
それに全く反するね、競争論をエコノミストの・・・小さい声で言うが、馬鹿野郎たちはですね・・・

一同
(笑)

藤井聡
先生、ぜんぜん小さくなってないです(笑)

西部邁
えっ?なってない?(笑)

藤井聡
いや、大丈夫です(笑)

西部邁
新聞でもTVでもね、経済局その他にいるね、もうTV局も同じですよ、もうともかく馬鹿の一つ覚えのように、競争の意味も知らずにね、競争競争と言っているという、

一同
うん。

西部邁
もうその毒が回っているというのかな、ツケを払わされているというか大変な状態になっている中で、(藤井・青木を指して)この方々だけが、

今村有希
ハイ、

西部邁
ほんとうに今も大勝利の祝宴を張りたいってぐらいに・・・えっ?ただひとり頑張っている(笑)

藤井・青木
(笑)

西部邁
孤独に頑張っているというね(笑)、そういう状態なの。

今村有希
はい(笑)

西部邁
ということで、次の週になだれ込んでいきましょう。

一同
はい。

西部邁
今週はありがとうございました。

一同
ありがとうございました。

【次回】今週の続編です。

 

参院選 ー あれは一体何だったのか ー(西部邁 特別講義)〜西部邁ゼミナール〜

参院選 ー あれは一体何だったのか ー(西部邁 特別講義)〜西部邁ゼミナール〜

西部邁:評論家 隔月雑誌「表現者」顧問 著書「生と死、その非凡なる平凡」(新潮社)ほか多数、雑誌「正論」へ『ファシスタたらんとした者』を連載中

【ニコ動】
参院選 ー あれは一体何だったのか ー 2016.07.16
http://sp.nicovideo.jp/watch/sm29256452

今村有希
今回は急遽予定を変更しまして、当ゼミナール塾長の西部先生に特別講義をして頂きます。先日行われた参院選では、与党の自民・公明が過半数を取る大勝をおさめました。ようやく改憲への道筋の緒につきましたが、巷では不安視する声が少なくないようです。

今回の選挙結果が何を示すのかお話頂きましょう。宜しくお願い致します

西部邁
あぁどうも。ところであんたは選挙には行かれた?

今村有希
はい、行きました(笑)

西部邁
あぁ〜・・・僕はまぁ行ったかどうかは言いません。

今村有希
はい(笑)

西部邁
それでね、選挙のことを election(エレクション)ということはご存知と思うんだが、élite(エリート)という言葉がありますでしょう?

今村有希
はい。

西部邁
選良。

今村有希
はい。

西部邁
もともとこの、elect(エレクト=選ぶ)、élite(エリート=選良)というのは宗教用語に近くて、「神に選ばれし人々」という意味ね。それがエリートという。

[*「選挙」election、élite 神に選ばれし人々 ]

今村有希
へぇー、はい。

西部邁
昔はやっぱり、良いか悪いかというのは神様の判断だったの。

今村有希
はい。

西部邁
それが「民主主義」になって、民衆が主権者だと。誇張すると、神の如きすごいもんだと、俺たちが選ぶんだと!!

[*「民主主義」 民衆は主権者で、神の如きすごい、俺たちが選ぶ ]

今村有希
フフフ(笑)

西部邁
ん?!

今村有希
スゴイんですね、はい(笑)

西部邁
ね。なかなかこういうね、選挙そのものを冷やかしはじめたら、番組関係者に迷惑を掛けるからこれ以上いいませんけどね。

今村有希
はい(笑)

西部邁
何で今度ね、自公与党は過半数をとったかと。

今村有希
はい。

西部邁
変なんですよね、いま貴女の(冒頭の)説明で憲法・・・改憲のことを言いましたけども、え〜とね、今度与党は憲法のことを表に出さなかったんですよ。

今村有希
あぁ〜。

西部邁
そうでしょう?憲法論議はまだ煮詰まっていないと。どころか、改憲の発議は野党も含めてしっかりと議論して、まぁある程度の了解をとり、国民各位にもいろんな議論をしてもらって状況が煮詰まった段階でなければ改憲には持ち込まないと。

今村有希
(うん)

西部邁
ということを、与党の全てとは言いませんが、首相がそういうふうに言って改憲をかざさなかったんですよ。

[*参院選自民党憲法のことを表に出さず、改憲発議は野党・国民の議論で煮詰めてゆく ]

今村有希
はい。

西部邁
ね?じゃあいったい今度の選挙は何を issue(イシュー)、issueというのは争点という意味ですね、

今村有希
はい。

西部邁
何を争点として(選挙が)行われたのか・・・ということになるのね。

[*今回の参院選は何を争点に・・・]

今村有希
はい。

西部邁
(争点は)憲法じゃなかったんですよ・・・

今村有希
憲法じゃなかった?

西部邁
うん。

今村有希
じゃあ何ですか?

西部邁
それでね、結局は雰囲気的にね、この前に「安保法案改定」ってあったでしょう?

今村有希
はい。

西部邁
それを野党側はね、『戦争法』と呼んでね、けしからん!!と。

今村有希
(うん)

西部邁
でも(参院選の選挙結果は)この野党の喧伝が上手くいかなかったということなんでしょうね。それも当たり前でさ、戦争と言ったって、「侵略戦争」とね、それから「自衛戦争」があるわけでしょう?

今村有希
自衛、はい。

 西部邁
普通、ちょっと頭があるとね、侵略戦争法?・・・そんなことはヤメろよ!!と言う。それで圧倒的支持を得たでしょう。

今村有希
はい(笑)

西部邁
でもね、自衛戦争?・・・それはね、(他国から)攻められたら自衛のために攻め返すのは、

今村有希
守らなきゃいけないですね。

西部邁
仕方ないだろうなぁ〜と思うぐらいのオツムはね、一般選挙民は持っているわけさ。

[*野党側は「戦争法」でけしからんと喧伝も、“侵略” “自衛” 区別する庶民の知恵 ]

今村有希
はい。

西部邁
ところがね、野党は高を括って、「戦争法反対!!」と言えば、みんな戦争は嫌だなと、

今村有希
(うん)

西部邁
もうちょい嫌だなと思った人はいるんでしょうけども、そんなに多数はいなかったということなんですね。ですからこの『戦争法』という野党の宣伝文句がね、だめだったと。

今村有希
はい。

西部邁
日米安全保障条約でしょう?そしたらね、日米同盟の相手はアメリカなわけですよ。アメリカとの同盟強化のために安保法制改定といって、武力も使うこともあるかもしれませんと。前線に行くことがあるかもしれません。地球の反対側に行くこともあるかもしれませんと、こういうふうに言うわけね。

今村有希
はい。

西部邁
で、一般選挙民の多数派はね、一応ね、(安保法制に)大賛成はしなかったんでしょうけど、まぁそうかもなぁ〜と。

今村有希
うん。

西部邁
これだけ(世界が)複雑になれば、(自衛隊は)包帯と赤チンキだけ運んでるわけにはいかないんだろうなと。

今村有希
はい。

西部邁
或いは、みんなが前線でね、この場合はアメリカですけども、前線で同盟国が戦って死んでるのにね、僕らは後ろに控えていますじゃね、これは卑怯者、臆病者扱いされるだろうなぁと。それから、グローバル、グローバル言っているでしょう?

今村有希
はい。

西部邁
ねぇ、だって日本の石油ってのはアラブから来ますから、地球の反対側から来るわけですよ。あっちゃこっちゃでドンパチ起こったら日本もヤバいと。それは地球の反対側まで行くことも・・・そりゃあ急いで行けとは言わないまでも、行くこともあるだろうなぁ〜ぐらいのことは普通の人は考えるもんだから、

今村有希
はい、

西部邁
野党側の戦争法反対というキャンペーンが必ずしも奏功せずと。

[*日米同盟強化のための安全保障改正、複雑なグローバル世界で必要性を認識 ]

今村有希
(うんうん)

西部邁
問題は、どこまで明確か分からないけども、この『アメリカ』ね。日米同盟、その安全保障の相手のアメリカがそんなに立派な国なの?と。

今村有希
(うん)

西部邁
前々はね、結構立派な国だと思ってた。今でも若者たちは海外旅行で一番多いのはカリフォルニアなんですってね?

[*なぜ3分の1は野党に投票、“アメリカ”は立派な国か ]

今村有希
へぇ〜。

西部邁
日本人は長い間、アメリカという国は素晴らしい国だと思ってた。戦争に負けて腰抜かしましたんでね。これね日本人に限らず人類に有りがちなことなんですけど、「勝った者が偉くて、負けた者がダメ」というね。

今村有希
(うん)

西部邁
多数派はそうなんですよ。

今村有希
はい。

西部邁
アメリカはどんなにスゴイ国だろうと、ずーっと思って、まだその残影は残っている。でもいよいよね、この10年、15年、(そうではないことが)バレはじめたんですよ。

今村有希
はい。

西部邁
だってアナタ、イラクだろうがアフガニスタンだろうがウクライナだろうがシリアだろうがね、その前はベトナムか・・・うん、アメリカは外国にいろいろと戦争を仕掛けて次々と失敗、敗れ傷付き、しかも後で調べてみたら、今度はとうとうイギリスが随分時間が遅れて、正式な報告でトニー・ブレア首相(※イラク戦争参戦時)が、『イラク攻撃に参加したのは間違いだった』と。

[*イラク、アフガン、ウクライナ、シリア、ベトナム、外国に戦争を仕掛けて次々と失敗した“アメリカ” ]

今村有希
(うん)

西部邁
アメリカも既に調査委員会の報告があるんですよ。

今村有希
はい。

西部邁
・・・日本だけなの、(それについて)ほとんど無いのが。なんか初めて知ったけど、4頁の(日本の)外務省発表があるんですってね、アメリカは200頁、300頁、イギリスは何千頁というね、

今村有希
はぁー(驚)

西部邁
もう克明に調べまくって、あのバクダッド攻撃は自分たちの間違いであったと。フセイン大量破壊兵器を持っている証拠など握らずに攻め込んでいったと。でもそれだけじゃなくて、その他諸々ね、アメリカは大失敗だと。でもそれは外国が言っているんじゃなくて、アメリカ人自身が、

今村有希
言ってるんですね(笑)

西部邁
大失敗だと、俺たちがやっていることは。で、とうとう今はヒラリーだ、或いはトランプだと言ってね、もう大変なことになっているわけですよ。なんていう国なんだ、俺たちは!と。

安保改定法案で、アメリカと一緒に行動して、アメリカとリスクを共有する、なんて言うけど、共有する相手のアメリカが「?」(クエスチョンマーク)じゃあねぇというね。で、やっぱり「戦争法か!?」と(笑)反与党の票も3分の1は・・・というふうに、一応理論的に解釈するとね、

今村有希
はい。

西部邁
そういうふうに思われてくるんですね。

[*参院選の3分の1の投票は“戦争法か” 米国への懐疑 ]

今村有希
(うん)

西部邁
でもね、実はそういうふうに思う野党側にも大問題があるんですよ!

今村有希
えぇ。

西部邁
それはね、今の野党も次々と党名を変えますんでね、平成もう20何年?

今村有希
8年です。

西部邁
28年か。平成に入る頃からですよ、構造改革だ!!と、抜本改革だ!!と。あれは何だったかと言うとね、『日本をアメリカ風の社会にしよう!!!』と。一言でいうと、グローバリズムというが、グローバル・スタンダード?何をスタンダードにするの?と言うとね、どうもアメリカはこう言っているから、アメリカ式でやろうと、言ってた人が野党にゴッソリいるんですよ。

[*日本をアメリカ風の社会にしようと野党、“構造改革” “抜本改革” “グローバリズム” ]

西部邁
特にいま「民進党」と言ってますけども、主体は(当時)民主党と言われてたもんでしょう。民主党こそはまさにそれを地で行くようにして構造改革だと。で、とうとうね、マニフェスト選挙だと。

今村有希
(うん)

西部邁
あれだけね、3年から4、5年間か・・・マニフェストマニフェストマニフェストと右も左も上も下も、マニュフェストと言わざる人は人に非ずと言う調子で、ふと気付いたら(マニフェストという)言葉は消えて無くなりましたと。

今村有希
はい。

西部邁
あれは恐ろしいもんでね、政策の数値と期限と工程、processね、これを選挙民に選んでもらうと。

今村有希
(うん)

西部邁
僕はその時、大笑いしたんですよ。

今村有希
はい。

西部邁
選挙で政策の具体策まで決めてもらおうというわけ。そしたら国会いらないでしょう?ねぇ。

[*「manifesto」 政策の数値・期限・工程を選挙民に選んでもらう=国会、政治家はいらない ]

今村有希
(笑)

西部邁
国会が要らないのに、どうして議員を選ぶの?と。

今村有希
(うんうん)

西部邁
ねっ?議員を選ぶために選挙をしている。選挙で政策が決まる・・・一般の皆様方が何を考えてらっしゃるのかでござんすかと(笑)繰り返し言ったけどね、同時に僕の意見はどこにも届かなかったけど、そういうことを言った人たちは野党側にゴッソリいるわけさ。自民党側にもいるんですけどね、まぁ野党側に多いことは多いんですよね。

今村有希
はい。

西部邁
だからね、「アメリカを疑え!!」とそう大声で言えない犯罪歴とまでは言いませんが、自分たちがアメリカ万歳!万歳!!みたいなマニフェスト論、構造改革論を・・・まぁただ、自民党だって小泉さんがそれをやっていましたからねぇ、自民党の『小泉改革』というのはそれですからね。

今村有希
はい。

西部邁
うん・・・「もう全部マーケットに任せろ、政府なんか要らねぇ!」という調子でしたから、まぁ、(民主党も小泉も)両方とも同罪なんだけど、ただね、それを売り物にして政治をやってたのは、今の野党側に多いことは多いんですよ。

というのはね、既存の体制というのはなかなか変えられないでしょう、役人もいるし、法律もあるし。それを変えろ!変えろ!変えろ!!と騒ぐのは野党側で、むかし民進党の人たちは(政権交代前は)野党でしたからね、

今村有希
はい。

西部邁
うん、で、蓋を開ければ、「アメリカ流に世の中を変えろ」と言った人たちだから、アメリカを疑えと、アメリカなんかと同盟組んでどうするんだと、リスクを共有して、前線に行き武力を使う
地球の反対側まで行くと侵略戦争に加担することになるぜ、ということを大声で言えないどころか、どうも自分たちの頭も整理つかないというんで、何かさ、この野党側は最初から腰砕けというね。

[*米国流に世を変えると傾き、侵略戦争に加担と言えない ]

今村有希
(うん)

西部邁
もちろん、与党側もデタラメなんですよ。でも野党側はもっとデタラメだということ。そういうことがね、解釈ですけども、やっぱり選挙民には何か、自ずと伝わるのかなぁ。うん、そういう意味で、ぼく「選挙」というのはバカにできないね。最初さ、神様だけに選挙させよ、electionだなんてからかってたけど、そうでもなくてね、

今村有希
ハイ(笑)

西部邁
やっぱり一般民衆は言葉とか概念がはっきりしていなくても、なんとなくね、このグループは口先だけだなとかさ、どうもこれまで言ってきたことと辻褄合わんな、みたいなことを漠然と感じる力はそれは確かにあるんですよね。

[*参議院選挙の投票率54.70%(選挙区) 舌先三寸、辻褄合わない話を感ずる一般民衆 ]

今村有希
はい。

西部邁
投票率は50%を超えたらしいけども、まぁ他の人は何しているか・・・選挙へ行かなかった奴は何を考えているか・・・それはともかくですね(笑)

今村有希
はい(笑)

西部邁
(投票へ)行った人たちは、なんとなくそういうことを感じてまぁこういう結果になったと。

今村有希
うん。

西部邁
それ以上に問題なのはね、本当はね、先ほどの(番組冒頭の)貴女の解説で、『改憲』の道筋がついたと言うけど、ハッキリ言いますが、何もついておりま〜〜せん!!

今村有希
(笑)

西部邁
3分の2を与党側がとったと。まぁ、与党側ったって、大阪維新の会とかね、あぁいうのも改憲派ですからそういうのも入れてね。

[*与党過半数で3分の2改憲勢力、“改憲”の道筋はついていない ]

西部邁
ところがね、自公連合政権の公明党はね・・・すごく公明は(改憲に)控え目なんですよ。

今村有希
はい。

西部邁
公明党は全体として流れについていきますんで、明日明後日どうなるか私の知ったこっちゃありませんけどね、ただあんまり詳しい事をいうとね、公の政党を侮辱することになるから、今あるのは自民党改憲案があってそれを叩き台にして、国会でしっかりと議論しましょうよと。で、どこをどう変えるか相当に丹念に議論して、それも国民各位に知らせて、それで機運が高まったらね、まぁ“改憲の旗印”を掲げる。

でも、僕に言わすと、多分そんなのは10年後じゃないんですか?

[*自民党日本国憲法改正草案の叩き台を議論、“改憲の旗印” を掲げるのは10年後か ]

今村有希
うん(笑)

西部邁
憲法9条の第ニ項ね。つまり陸海空その他の戦力はこれを保持せず、国の交戦権はこれを認めない。・・・誰がどう見たってね、自衛隊は戦力なんですよね。

今村有希
はい。

西部邁
もう自衛隊があることによって、憲法9条第二項はありますけどね、あの自衛隊ができたのは54年(1954年)なんだけど、もうその時から既に『死文』ですと。死んだ文章ですと。

[*憲法9条第二項(死文) 前項の目的を達するため、陸海空その他の戦力はこれを保持しない。国の交戦権は、これを認めない ]

西部邁
江戸時代、明治から続いている古い商家の家訓があるんですよ。

今村有希
はい。

西部邁
「借りた金は返せ」とか、「真面目に働け」とか、「家族は大事にせい」とか、でもみんなだいたいそういうのは埃にまみれてね、年にいっぺん埃を払うぐらいでね(笑)、そりゃあ平凡な事しか(家訓に)書いてませんからね、いちいち読みもしないと。

[*江戸・明治から続く家訓:“借金は返す” “真面目に働く” “家族は大事に” ]

西部邁
まぁ憲法9条第二項はね、文章通り読むと、とんでもないバカげた文章なんだけども、でも、強力な武器を持っているからといってそれを振り回したらダメよとかね、ちょっくらチョッカイかけたからってスグ喧嘩好きよろしく人様に頭突きかましたり、蹴飛ばしたりね、

今村有希
(笑)

西部邁
そういうことやったらダメよというね、まぁ「気をつけなさい」というぐらいの意味ではね、「戦力と交戦には重々気をつけなさい」というぐらいのごく漠然とした意味だというふうに思えばね、まだ9条第二項は生きているとも言えるんですけどね。

今村有希
はい。

西部邁
字義通りに解釈すれば、自衛隊が毎年GNP(GDP)の1%ということは、5兆円使っているんですよ。

今村有希
はー。

西部邁
えぇ、60何年間。

今村有希
はい。

西部邁
これどうすんの?今さら全部使った金はダメでしたと(笑)えぇ?そんな話ね。「違憲だから自衛隊をヤメろ!」ってもうズルくってね、本当にそう思うならさ、自衛隊解体運動を始めなきゃいけないわけでしょう。そしたら、自衛隊を批判している方も本気じゃないんですよね。

[*「自衛隊違憲だ」というが、解体運動は一度も起きていない ]

今村有希
(うん)

西部邁
まぁそんな調子の何もかにもが確たる誤魔化しのなかで進んでいて、そこで今度の参院選もいま言ったように「戦争法」と言いながら、戦争が何であるか、日米安保が何であるか、肝心なアメリカが何であるか。しかも全世界を見渡した時にですよ、イギリスはEUから脱退してヨーロッパ合衆国は崩壊寸前、

今村有希
はい。

西部邁
アメリカには共和党からトランプ(大統領)候補が出てきて、「日本のことなんか知るか!」と言う。「自分の事は自分でやれ!!」と。

[*“戦争” “日米安保” “アメリカは” 何であるか、世界の動乱ははじまる(英国EU離脱、トランプ台頭) ]

今村有希
(苦笑)

西部邁
僕が言ってるんじゃないんですよ、トランプ君が言っている。

今村有希
はい。

西部邁
核武装したけりゃ勝手に自分で核武装して自分で頑張れ!」

今村有希
うん・・・

西部邁
・・・と言って下さってるわけさ(笑)

今村有希
はい。

西部邁
まぁそのうち知らぬの顔の半兵衛で(笑)、だってCIAもペンタゴンもそれからウォール街も全部ヒラリー・クリントンの味方ですから、そう簡単にトランプ君が大統領になるとは思いませんが、その他諸々の全世界、世界動乱の兆しどころかもう現に始まっているわけですよ。

今村有希
はい。

西部邁
そんな中で、さすが日本だけがね、あんなZipangu(ジパング)・・・知ってる?黄金の国ジパング

今村有希
いえ(首を左右に振る)

西部邁
もう黄金なんか無いのにね、黄金の国ジパング。無風地帯の中にいるかのようにして、戦争の何であるかも知らずにして戦争法をめぐって、アメリの何であるかも知らずにアメリカをめぐって、ぼや〜んとした雰囲気の中で選挙が行われ、かくなる結果になりました。

今村有希
はい。

西部邁
それ故に、改憲の道筋は・・・

今村有希
・・・・・(首を左右に振る)

西部邁
まず憲法を、憲法をちゃんと読んだ人が・・・僕は昔読んだんですよ。

今村有希
ハイ(笑)

西部邁
幾つの時に読んだと思う憲法を?

今村有希
・・・・・(笑)

西部邁
正直に言います、48歳になるまでただの1行も真面目には読みませんでした。で、48の時にちょっと事情があって全文克明に読んで、

今村有希
はい。

西部邁
一般選挙民は忙しいんですよ。

今村有希
うん(笑)

西部邁
憲法なんか読んでる暇あったらね、そりゃあ奥さん大事にしたり子供の相手したりね、それが国民の実相ですからね。

[*一般選挙民は忙しく、憲法を読む暇ない国民の実相

西部邁
改憲?・・・いくつも本当はもう棄てたいところがあるし、改正したほうがいいところもあるんですけども、

今村有希
はい。

西部邁
それでもね、改憲の道筋は立ちません。

今村有希
(うん)

西部邁
『それ故、僕の結論は、憲法如きについて、字も知らんことについて口角泡飛ばして賛成反対言ってる暇があったら、もうちょっと自分の身の回りのことについて、異性とはいかに付き合うか、対異性との間にできた子供は如何に育てるか、自分の友人・知人に如何に優しく親切に協力するか、そういうことをしっかり見つめていれば、それがもう憲法よりはずっと大事である!!』

今村有希
うん(笑)

西部邁
憲法憲法、戦争、戦争とよく考えてもいない知りもしないついて、口角泡飛ばす元気も無いクセしてさも泡を飛ばしたようなニセ話は、そろそろジャップの皆様ぜひおやめ下さい。

【次回】
「公共活動のほかに道はなし」 藤井聡内閣官房参与京都大学教授)× 青木泰樹(東海大学非常勤講師・京都大学特任教授)× 西部邁 (評論家・雑誌「表現者」顧問)〜西部邁ゼミナール〜

 

マイナス金利は資本主義の断末魔③ (ゲスト:京都大学大学院准教授 柴山桂太)〜西部邁ゼミナール〜

マイナス金利は資本主義の断末魔③ (ゲスト:京都大学大学院准教授 柴山桂太)〜西部邁ゼミナール〜

ゲスト:
柴山桂太 京都大学大学院准教授、「表現者編集委員、近著「静かなる大恐慌」「TPPの黒い条約」〔共著〕(集英社新書)ほか

youtube
マイナス金利は資本主義の断末魔③ 2016.06.25
https://m.youtube.com/watch?v=jBSTUgDiYscvia&feature=youtu.be

今村有希
3回連続でお送りしています。マイナス金利は資本主義の断末魔の最終回です。引き続きまして、ゲストには京都大学大学院 人間・環境学研究科 准教授の柴山桂太先生にお越し頂いています。

日本で初めて導入された「マイナス金利」ですが、柴山先生は、「有望なフロンティアは、もう生み出せない」という資本主義の最後の叫びと捉えるべきではないか、と主張しています。

グローバリズムイノベーション構造改革規制緩和から脱却して、むしろ長期的視野で公共的枠組みを構築するのが今後の日本のあるべき姿ではないか、示唆に富む議論になるかと存じます。それでは先生方、今回も宜しくお願い致します。

西部邁
あっ、今日も宜しくお願いします。

柴山桂太
宜しくお願いします。

西部邁
本当に貴方の言う通りで、あれは民主党時代ですけどもね、

今村有希
はい、

西部邁
今の自民党にもそういうの残っていますけども、「事業仕分け」って言葉を覚えていらっしゃいます?

[*民主党政権時の事業仕分け、背後に公共事業悪玉論 ]

今村有希
はい、覚えてます(笑)

柴山桂太
ありましたねぇ。

西部邁
つまり、公共事業には無駄なモノが多いと。それで厳密に仕分けして無駄なモノを削れと。それ自体はまぁそれはそれで結構だけども、その背後には『公共事業悪玉論』みたいなものがあるし、しかもそれに経済学者がね、「財政支出は大した効果が無い!」という、僕に言わせれば“嘘話”ですけどね。

[*“財政支出は効果なし” という経済学者による嘘話 ]

今村有希
(うん)

西部邁
なぜ嘘話と言いたくなるかというと、今のアベノミクスの中で、若干なりとも成長というか、それに寄与したものがあるとしたら、公共事業ぐらいなもんなんですよ。

柴山桂太
(うん)

西部邁
「数ある言葉だけの政策」の中でね。

今村有希
はい、

西部邁
こういう資本主義のバブルとか、それの破裂・burst(バースト)、その浮沈に耐えるにはね、人間が個人及びコミュニティですね、

今村有希
はい。

西部邁
ドイツ語で言うと、Gemeinschaft(ゲマインシャフト)=共同体か。そういうものをしっかりと保ってね、カネの次元の浮き沈みにあまり左右されない人間関係、生活形態、或いは、集団の形というものをつくっていればね、まぁなんとか持つだろうと。

[*膨張と破裂の浮沈に耐える Gemeinschaft 共同体 /⇄ Gesellschaft  利益社会 / 金の浮沈に左右されない人間関係・生活形態・集団 ]

今村有希
うん。

西部邁
未開民族は放っといても大丈夫とこの間は言ったんだけど(笑)

今村有希
はい(笑)

西部邁
ここまで近代化、複雑化されるとそうもいかないと。やっぱりその公共的な支援というかね、助力があって初めて共同体が維持される。

[*公共的な支援、助力があり、はじめて共同体が維持される ]

柴山桂太
(うんうん)金利が下がってきたわけですよね。

今村有希
はい。

柴山桂太
金利が下がったということは、お金を借り易くなってる。

今村有希
はい。

柴山桂太
そうすると、民間もお金を借りないわけですよね。本当は民間が借りて(お金を)使うというのが本来の資本主義の姿なんですけど、それが無いからいま困っているわけです。

今村有希
はい。

柴山桂太
あと、そのお金を借りるところはどこかと言えば、政府になってくるわけですよね。しかも、今や長期金利というのはマイナスになっているので、政府はお金を借りて、且つ利子まで貰えるというような、借金まで減らせるという(笑)

西部邁
ハハハ(笑)

今村有希
(笑)

柴山桂太
もちろん長く続くか分かりませんけども、市場のそれこそシグナルとしては、政府がお金を借りてくれ、とそういう状態になっているわけです。

[*マイナス金利が施行されるが民間に資金需要がない今は政府支出を拡大『公共投資』の好機といえる ]

柴山桂太
これは日本だけではなくて世界的にそうなんですが、まぁこの「資本主義の停滞」ですよね、これを乗り越えるために、もっと政府が積極的な役割を果たすべきじゃないか、というふうに議論が変わってきたんですよね。

今村有希
はい。

柴山桂太
この2、30年間、むしろ「政府は小さくあるべきだ」と。事業仕分けもそうですけど、無駄使いを減らすべきだ、という考え方が変わってきて、これはヨーロッパでもアメリカでも日本でも、段階的に変わっていく。多分、今年の伊勢志摩サミットというのは、そういうものの一つの転換になるんじゃないか。積極的財政出動しましょうということを、まぁドイツはなかなか飲んでくれないですけど、多くの国がそれを確認するという流れになっているんです。

[*資本主義の停滞の中で、政府による積極的財政出動

今村有希
うん。

柴山桂太
問題は、これを何に使うのか? 或いは、政府がそれをどういう方針でお金を使っていくのか? ということなんですよね。アメリカ、イギリスはそういう思考的な実験をするのが好きな人がいっぱいいて、

西部邁
(ニヤリ)

柴山桂太
「ヘリコプター・マネー」という考え方があるんです(笑)

今村有希
はい。

柴山桂太
これは、ミルトン・フリードマンという経済学者が言った、「みんなカネを使わないんだったら、政府が上からカネをばら撒けばいいじゃないか!」といった考え方があって(笑)

[*「ヘリコプター・マネー」 ミルトン・フリードマン(経済学者) ]

今村有希
アハハハハ(笑)

柴山桂太
これは簡単に言うと、消費を増やす。つまり商品券のようなものですよね。

今村有希
はい。

柴山桂太
ひとり10万円ずつ国民の口座に入れていって、日本銀行が発行したそのお金を政府が受け取って、それをばら撒いていく。消費が増えれば経済が活性化するでしょう、というこういうアイデアもある。だけど、前回の話ですけども、『消費は使ったら終わり』ですよね。

今村有希
(うん)

柴山桂太
商品券を貰っても、その分、また貯金しちゃうかもしれないですから。

今村有希
はい(笑)

柴山桂太
まぁやはり、いろんな意味で効果は必ずしもあるとは思えない。そうすると、やはりその政府がせっかく使うんであれば、国民のしかも今いる世代だけじゃなくて、長期の世代のために役に立つ何かをつくっていく、そういう生産的なことにお金を使うべきだという方が、やはりいちばんオーソドックスというか、正しいんだろうと思いますね。

西部邁
そうですよね。僕ね、いま仰ったことを英語で言うと、state capital、この場合のstate(ステート)だけど、政府という意味、government(ガバメント)という意味ですけどね、政府によってサポートされる。

今村有希
うん。

西部邁
もちろん、命令までくると社会主義計画経済で大失敗になったんだけど、大まかな方向ね、東西南北のおおよそ東の方向に、速度はおおよそね、こんな速度で歩むのがいいでしょうといった種類のね、これは indication(インディケーション=指示)というんですけどね・・・indicationというよりsuggestion(サジェスチョン=示唆)に近いかな?

柴山桂太
うん。

西部邁
大まかに示唆する(=suggestion)というね、実物の公共的なコミュニティの土台を作るということとかも含めて、stateが、政府が、経済の土台、及び先程言った、経済の方向付けね、

[*state capitalism 政府によってサポート、suggestion に近い indication 大まかな方向を示す ]

今村有希
はい、

西部邁
それを大まかにせよね、やっていかないと、もう capitalism(キャピタリズム)、資本主義は保たないと、

柴山桂太
うん。

西部邁
・・・ということをね、僕は15年ぐらい前からある雑誌に・・・僕のことはどうでもいいんだけど、

今村有希
フフッ(笑)

西部邁
だから、ノーベル賞をよこせとは言わないけども、ノーベルというのはダイナマイトを作った、発明した人でしょう。

今村有希
(あ〜あ)

西部邁
世界でダイナマイトで大金儲けちゃって、反省の気持ちもあってね、ノーベル・プライド。

[*ダイナマイトの開発で富を築いたアルフレッド・ノーベル

今村有希
うん・・・(笑)

西部邁
ノーベル賞おれによこせとは言わないけども、せめて「ダイナマイト賞」ぐらいわさ、よこせ!と(笑)

柴山桂太
ダイナマイト賞・・・(笑)

今村有希
(大笑い)

西部邁
state capitalism以外にもう抜け道はないんだと。どんなのでもいいとは言わないけども、結論を言うと、日本社会、及び各コミュニティの長期的な安定、存続を計り得るような、そういう教育も何もかも含めて、老人問題も子供問題も全部含めて、そういうことを着実にやっていくという支えが、方向付けが無いともたないんだと。

[*日本社会・各コミュニティの長期的安定、存続を計る、教育・高齢者・子供問題を含む着実に支える方向付け ]

柴山・今村
(うん)

西部邁
これ実は、既に1930年代にそうなってたわけですよ。

柴山桂太
うん。

西部邁
ただ、そこらは世界大戦の時期だから話はグチャグチャになっちゃったけども、戦争のことを除いて言うと、僕はNazism(ナチズム)もfascism(ファシズム)も大政翼賛会軍国主義、統制主義もそのものとして拍手喝采するわけじゃないけども、あぁいうものが出てきたのはね、少なくとも当時の止むを得ぬね、1929年の世界恐慌の後でマーケットがブッ潰れていくなかで、それでもなんとか生き延びようとするとね、state(ステート)=政府の(それを)やらざるを得ないという、そういうものとして出てきたわけさ。

[*1929年 世界大恐慌ファシズム、ナチズムが台頭 ]

柴山桂太
うん。

西部邁
それを戦後になったらね、まぁ〜ナチズム、ファシズム軍国主義批判がどんどん続いて何十年か経ったら、個人の自由に任せよ!市場の競争だ!!個人の自由に新しいイノヴェーションをやらせろ!!・・・といってこんな顛末。

[*個人の自由、市場競争に任せるといった戦後の顛末 ]

柴山桂太
うん・・・。これ、今のお話は非常に大事で、というのは、こういう公共事業とか公共投資が必要だと言うとね、すぐ、じゃあ何兆円出すんだ? とい話になるわけですよ、10兆なのか、20兆なのか。

今村有希
はい。

柴山桂太
で、実際日本は1990年代のバブル崩壊後の不況から、まぁ(公共投資を)結構やってきたんですよ。ご存知の通り、この20年間、大して経済は浮揚しなかった。

今村有希
はい。

柴山桂太
ところが、1930年代のさっき(西部が)仰った『ニューディール』と言われますけど、一気に政府がその高速道路をつくるとかですね、ダムをつくる、電力網をつくる、まぁinfrastructure(インフラストラクチャ)ですよね、つくった。これは非常に大きな効果があった

[*1930年代のニューディール政策、政府によるinfrastructure整備(高速・ダム・電力網) ]

今村有希
うん。

柴山桂太
でも、(30年代と90年代バブル崩壊後と)何が違うのかということをやはり考える必要があって、これはいろんなことがあるんですけど、まず1930年代はグローバル化をやめたんですよね。

今村有希
へぇー。

柴山桂太
その保護貿易といって、貿易の自由化をやめて国内でお金が回るような仕組みをつくった。なので、お金の回りが(国内で)回った。それが1つ。

[1930年代はグローバル化をやめ、保護貿易により国内にお金が回るように仕組みをつくる ]

今村有希
はい。

柴山桂太
もうひとつは、1930年代はやっぱり戦争の予感があったということもありますし、今よりも国民がもっと精神的にも若かったというのもあるんでしょうけども、国家をもう一度建設しようとするですね、国民の参加意志といいますかね、みんなツルハシを持ってこう道路のところへ行って雇ってくれと言ったというような。

今村有希
はい。

柴山桂太
或いは、ルーズベルトなんかはアメリカの偉大なる大創造を行うんだという演説を行って、国民を感動させるように。

[*国家建設の国民の参加意志、ルーズベルトの再創造演説 ]

今村有希
(うん)

柴山桂太
グローバル化、或いは、人々の自由な活動を放置しておいて、お金だけ撒きますというんじゃなくて、政府が司令塔の役割を果たしながらも国民がある方向に団結していくというふうな、そういう運動が無いとですね・・・

西部邁
そう。

柴山桂太
まぁ、お金だけ10兆20兆ですと言っても、それは瞬間に雪みたいに消えていく、そういうことになるんじゃないかと。

[*自由放置のバラ撒きではなく、政府司令塔による国民団結 ]

今村有希
はい。

西部邁
戦後、僕らの時代からそうだけど、例えばね、fascism(ファシズム)というと、全くの否定語、批難語でしょう。

今村有希
(うん)

西部邁
fashion(ファッション)のもともとの意味はご存知?

今村有希
もともと意味は・・・(首を振る)

西部邁
これね、最近タクシーでもそうか。fasten your seat belt(シートベルトを締めてください)というアナウンスあるでしょう。

柴山桂太
うん。

西部邁
fasten、締めるね。

今村有希
締める、はい。(シートベルトを締めるジェスチャーをしながら)

西部邁
語源的にはそれと同じなんですよ、fàscio(ファッショ:伊語 → 複数形 fàsci ファッシ)は。「束ねる」という意味ね。fàscioというのは「国民を束ねる」或いは「国民が団結する」ね。

[*fàscio「国民を束ねる」「団結する」 語源は “束ね” fasten your seat belt(タクシーの自動音声)と同じ ]

今村有希
へぇー。

西部邁
勿論、あんまり勝手に団結させられたちゃ、アタシは嫌いですけどね(笑)

今村有希
はい(笑)

西部邁
あんまりバラけちゃうとね、ダメだから。

今村有希
うん。

西部邁
という程度にはですよ、そういう意味じゃファッショ(fàscio)という言葉の考え方それ自体は、況してや資本主義の末期状態の中で当然のことだ、それ自体は。

ひょっとしたらユダヤ人の方が(この番組を)観たら怒るかもしれないけども、Nazism(ナチズム)だってね、あの発生は実は第一次大戦で勝利したアングロ・サクソン、イギリス・アメリカがつくった、フランスも含めてかな、

今村有希
はい。

西部邁
なぜかといったら、賠償金をドイツの戦前のGNPの20倍要求した。

[*第一次大戦でドイツにGNP20倍の賠償金を要求 ]

柴山桂太
うん。

西部邁
賠償金で10000兆ということは、1京、京都の「京」と書いてね、「京」という単位があるんだけど、

今村有希
はい。

西部邁
それ要求されてごらん? それは干上がるわけですよ。

柴山桂太
うん・・・。

西部邁
そしたらね、俺たちで何とかしようと言ってね、元々の意味はNationale(独語:ナチオナーレ)国民のでしょう。sozialistische(ゾツィアリシュティッシェ)社会主義的、この場合は、社会がまとめるという意味でね。sozialistische Deutsche(ドイッチェ)ドイツね、Arbeiter(アルバイテン)、普通に言えば、労働者よ、社会的に集まって国民として頑張れ!!と。

[*Nationalsozialistische Deutsche Arbeiter(国民〔国家〕社会主義 ドイツ 労働者) ]

柴山・今村
うん。

西部邁
その考え方自体はね、何の問題も無いのね。

柴山桂太
うん。

西部邁
ただ、あぁいう狂暴な時代ですから、ゴロツキたちが、確かにNazi(ナチ)及びfàscio(ファッショ)に集まって。みんなそれにケチをつけてるけどね、僕はこれもね、「ダイナマイト賞」貰いたいんだけども、state capitalism(ステート・キャピタリズム)のね、敢えて挑発的な意味でね、Nazi-Fàscio(ナチ-ファッショ)と呼んだこともある。

柴山桂太
うん。

西部邁
今そういう意味で、考え方から言うとね、

今村有希
はい、

西部邁
Nazi-Fàscio Statecapitalism(ナチ-ファッショ ステート・キャピタリズム)のような方向しか無いってことをね。

[*Nazi-Fàscio Statecapitalism のような考え方の方向しかない ]

柴山桂太
う〜ん・・・。

西部邁
トランプ君が、

今村有希
はい(笑)

西部邁
大統領共和党候補が言ってるのはそういうことなの。

今村有希
うん。

西部邁
じゃあ、日本もそろそろ「花札」という苗字の人でも首相にして、

柴山・今村
(笑)

西部邁
トランプvs花札でさ、Nationalsozialistische fascismoか、やろうじゃないかぐらいのね、冗談を飛ばす人間がね、必要なんですから(笑)

(*伊語:fascismo→ 英語:fascism)

柴山桂太
いま日本の抱えている問題、特にこうした「国家全体の公共計画」を考える上で一番大きな問題は、やっぱり東京とか大都市に人やお金が集まり過ぎてしまっていることなんですよね。様々な弊害が、地方の衰退をもたらすであるとか、或いは、東京とか大都市に地震が来た時に国全体の機能が麻痺してしまう。

今村有希
(うん)

柴山桂太
地方がもっとその活力を取り戻すというか、そういう方向で公共計画を考えていく必要があると思うんです。

[*国家全体の公共計画の課題、東京大都市へ人・カネが集中 ]

今村有希
はい。

柴山桂太
地方のほうでそれこそ団結といいますかね、何か新しいプロジェクトみたいなものが始まっていく、そういうのが(地方のほうから)次々に起こってこないと、いま言った形での「束ねる」というのが生まれないわけで。

今村有希
はい。

西部邁
地方、地方というでしょう。

今村有希
はい、

西部邁
英語でそれを訳すと local(ローカル)になっちゃう。

今村有希
はい。

西部邁
localというのは、中央=central(セントラル)の、中央 対 地方という意味だよね。新幹線の枝分れしたのを在来線、ローカル線と言うでしょう。

今村有希
はい。

西部邁
でもね、たぶん柴山さんが言いたいことは、英語で言うとね、local(ローカル)なんていうんじゃなくて、region(リージョン)という言葉があって、日本語ではそれを「地域」と訳すのね。

今村有希
はい。

西部邁
なぜ「地域」の方がいいかと思うと、「域」というのは範囲でしょう。

今村有希
はい。

西部邁
北海道でも九州でもいいんですけどね、何かその地域としてあるまとまりね、

今村有希
はい、

西部邁
まとまるためにはその地域がね、あんまり特別のものに特化しているとですよ、あっという間に崩れるわけさ。

今村有希
はい。

西部邁
例えばだけども、農業だけしかやってませんとなったらですよ、本当は人間の生活には食い物の他に衣類も家もいろんなものが必要なわけでしょう。

柴山桂太
うん。

西部邁
そしたらね、地域が安定して成り立つためにはある程度ね、いろんな多様なものについて、ある程度その地域で「自給」できるというね。

柴山桂太
うん。

西部邁
そういうまとまりをもったのが region(リージョン=地域)なんですよね。

[*region「地域」 域=範囲のまとまりのこと、衣食住など地域が安定成立するための自給ができる事 ]

今村有希
はい。

西部邁
勿論それで閉じられていたらダメなんですよ。ある程度、開かれていて北海道は東北と、東北は関東と、もっとこう少しは開かれているけど、まぁまぁまとまりを持っているというね。そういうのをずっとまとめたのが「国家」なわけですよね。

[*開かれながらもまとまりを持つ地域がまとめたのが国家 ]

柴山桂太
うん。

西部邁
英語で言うと、interregionalism(インターリージョナリズム)、地域と地域の関係性、Inter(インター)ね、それをしっかりと保つということが大事なんだと。

[*interregionalism 地域と地域との関係性をしっかりと保つこと大事 ]

西部邁
それを考えなきゃいけないのだけど、全く逆に進んだんですよね。「攻めの農業」とか言ってさ。

柴山桂太
うん、うん。

西部邁
そりゃあスゲーうまい米だか果物だか作れば、それは中国人の金持ちが食うでしょう。でも、その考え方自体が賤しいと思わない? 「農業の本筋は中国の金持ちのモノを売る事だ!」って・・・

今村有希
フフフフフ(苦笑)

西部邁
そういう発想ね。その前にね、その地域が近辺の地域も含めて、しっかりと生きていくための安定した産業の一環としての農業をprotect(プロテクト)=保護するというね。

今村有希
うん。

西部邁
雁字搦めの保護じゃ息が詰まるでしょうから、枠組みぐらいは保護すると。

柴山桂太
農協・・・いまJAという組織がありますよね。

西部邁
あぁ〜。

柴山桂太
あれ元々はルーツが社会主義だってご存知でした?

今村有希
あー知らないです(笑)

柴山桂太
あのー、一見するとすごく頑迷で古い、なんというか悪い意味で保守的な組織で、戦前に農村がバラバラになってお金の回りも悪いって時に、協同組合というのを作っていこうとする組合運動から始まって、それが戦時中に国家と結びついて今の農協になっていくんですけども。19世紀に終わりに【ロバート・オウエン】(1771-1858年)というまぁ社会主義者なんですけども、

今村有希
はい、

柴山桂太
いま(西部)先生が仰ったような、地域が産業革命が起こったことでバラバラになってコミュニティが壊れてしまったという時に、もう一辺、それを新しく作り直そうと、仕事を作って、生活する空間を作って、それでいろんな地域の発展をみんなの協力でやっていこうというのが、もともとの社会主義というモデルのルーツなんですよね。

[*農協のルーツは社会主義:戦前、農村がバラバラに協同組合つくる運動から戦時中に国家と結びつく / ロバート・オウエン(19世紀)協同組合の基礎をつくる ]

今村有希
はい。

柴山桂太
そういうのが派生して、今の農業組織だとか生活協同組合だとかいろな組合が出来ていると言われているのですけども、僕の考えるイメージというのは、社会主義という言葉に語弊があれば、何か、バラバラになったものをもう一辺、こう繋ぎ合わせていくようなそういうその運動、そういうのがあちこちの地域のそれぞれの個性に応じて起こって来るということなんだろうと思うんです。

[*バラバラになったものを繋ぎ合わせるような運動、あちこちの地域のそれぞれの個性にあわせ起こってくる ]

今村有希
はい。

西部邁
地域の共同体、他の共同体との連関も保ち、そういうものを守るためにはどうしても英語で public goods(パブリック・グッズ)という「公共財」が必要なわけね。

今村有希
はい。

西部邁
公共財ってみんなで共同で使うでしょう。だからマーケットの競争には適さないわけさ。

今村有希
うん。

西部邁
それをね、market failure(マーケット・フェイリアー)失敗という意味ね、公共財があるとマーケットの競争システムが失敗し、うまくいきませんと。でも逆なんですね。

今村有希
(うんうん)

西部邁
マーケットというものが成り立つためには、マーケットの土台も悪意も必要で、それをどうにかするのが公共財及び(柴山の言った)公共運動、公共活動だけども。

[*public goods 公共財 地域の共同体守るために必要、market failure ではなくマーケットの競争に適さない ]

柴山桂太
うん。

西部邁
マーケット成立の条件として、public goods があるんだという常識すらも通じなくなっているのね。公共事業悪玉論も、あの新聞とかテレビが悪かったじゃなくて、もう学者連中が悪いわけですよ。「公共財はマーケットに合わない!」なんてそういう馬鹿げた話を・・・

[*マーケット成立条件のために公共財がある常識すら通じず ]

柴山桂太
(深く頷く)

えぇ? 緻密に証明してみせて・・・僕に言わせれば、もうほとんど悪魔の証明みたいなことをやって、本当なんですよ。

今村有希
(笑)

柴山桂太
でも、この種の公共運動ってやっぱりリーダーがいるんでしょうね。よく地方に行くと銅像って立っていますよね。

今村有希
はい。

西部邁
あぁ、そうか(笑)

柴山桂太
なんで銅像が立ってるのかなぁと思ったら、そういうかつてその種の公共運動を行って、何か成功した人の多分その栄誉を称えているんじゃないかって勝手に思ったりして(笑)、あぁいう銅像が日本全国にいっぱい立っているということは、まぁ多分、日本社会の各地でもう何度も何度も行われてきて、

今村有希
はい、

柴山桂太
今またそういう局面に入ってきているという事なんじゃないかっていうふうに思いますけどね。

西部邁
公共的なるもの一般でいいんですけどね、人々が思っている以上に遥かにそのpublicnes(パブリックネス)というのは大事なもので、例えば、いま我々がね、大した背広じゃないところにきて背広を着ていますけども、private goods(プライベート・グッズ)=私的財、俺のモノ。確かにね、僕が着てたら柴山君が着れない。

今村有希
(うん)

西部邁
でもね、こういうもの(※背広)にはある種の「公共イメージ」があるわけですよ。MXをからかうわけじゃないが、テレビでしょう?

今村有希
(苦笑)

西部邁
ここで僕が普段着のままでね、パジャマ姿で出てきたら公共イメージに反するわけ、あいつは何をやっているんだって。

今村有希
(笑)

西部邁
この服装もね、頭はプライベート、自分の私有物だと、専有物だと思っているけど、これの醸し出す、その服装の醸し出す「あるイメージ世界」はね、お互いに共有しているわけですよ。これは全てそうなんですよ。

[*公共イメージのある 私的財 private goods ]

今村有希
(頷く)

西部邁
だから、食品だろうが衣料だろうが何でもみんなね、私的財だと思い込んでいるけども、少なくとも半分はね、全てが公共的な、それを確認し合うことによって共同体が安定するわけですよ。

柴山桂太
公共性というのは、我々の誰しもがその半分は、まさに公共世界の中でいろんなイメージをやり取りしているということですよね。

西部邁
あぁそういうことか。ということでですね、3回に渡って続きましたが、これは雑誌『表現者』にも載る予定でありますけども、

[*マイナス金利資本主義の断末魔 表現者9月号に掲載 8月16日発売 ]

今村有希
はい。

西部邁
柴山先生、3回に渡ってありがとうございました。

柴山桂太
どうもありがとうございました。

今村有希
ありがとうございました。

マイナス金利は資本主義の断末魔② (ゲスト:京都大学大学院准教授 柴山桂太)〜西部邁ゼミナール〜

マイナス金利は資本主義の断末魔② (ゲスト:京都大学大学院准教授 柴山桂太)〜西部邁ゼミナール〜

ゲスト:
柴山桂太 京都大学大学院准教授、「表現者編集委員、近著「静かなる大恐慌」「TPPの黒い条約」〔共著〕(集英社新書)ほか

【ニコ動】
マイナス金利は資本主義の断末魔② 2016.06.18
http://sp.nicovideo.jp/watch/sm29071800

今村有希
三回連続の特別企画として、マイナス金利は資本主義の断末魔というテーマで論じて頂いています。ゲストは京都大学大学院の人間環境学研究科の准教授 柴山桂太先生です。

グローバル時代の中で、世界的な需要の衰退と競争の激化で、グローバル資本の独占・寡占化は進んでいます。マイナス金利政策によって借入れが容易くなると言われていますが、実物投資の収益が見込めない限りその金融政策は無効に終わるという、根本的な問題も横たわっています。

世界全体に広がる経済危機の問題を深く穿つ(*うがつ)本質的な議論が展開されるかと存じます。柴山先生、今回も宜しくお願いします。

柴山桂太
宜しくお願いします。

西部邁
前回ね、僕ちょっと乱暴言ってて、本当に馬鹿な話が続いていると。実物資本に投資しても、経済全体でas a whole、全体としてか・・・未来の期待収益がマイナスなのにね、そこにカネをバラ撒いたってさ、どうなるんだと・・・という話で、馬鹿は死んでも治らないという、僕がつくった格言じゃないんですが、昔からある。それで(前回は)締めくくったんですが。

[*未来の期待収益がマイナスで金をバラ撒いても効果はない ]

西部邁
ところがね、今日はちょっと枝葉に入りますがね、「カネは一体どこに行くのか?!」というね。

柴山桂太
(うん、うん)

今村有希
(笑)

西部邁
今なんか・・・パナマ文書っての?!ぼく読んでないけど、暴露されてるらしいが、

今村有希
はい。

西部邁
その辺りのことをめぐって。

柴山桂太
いや、今まさにこの問題で。ただ今に始まったことでは無いんですよね、もうだいぶ前から。まぁ貯蓄と投資とあるとしますよね、投資というのは企業が使うお金で、貯蓄は我々が貯めていくお金と考えた時に、

今村有希
はい、

柴山桂太
金利が下がっているというのは、要するに、貯蓄の方が増えている。つまり、使いたい人より貯める人の方が多いから、金利が下がっているわけですよね。それで言うと、圧倒的にたくさん貯蓄は持っている。いま日本はだいたい個人の金融資産は1700兆円あるわけですね。で、ところが、それが貸出しになると、その中のほんの僅かしか向かっていないという、そういう状況なわけですね。

[*金利が下がり貯蓄が増加、個人金融資産は1700兆円 ]

柴山桂太
そんな中で企業は生産活動しろと言っても、企業は企業でただでさえ競争が激しい上にグローバル化の時代ですからね、物凄いそういう生き馬の目を抜く競争をやって。

[*激しい競争とグローバル化、生き馬の目を抜く ]

今村有希
はい。

柴山桂太
で、収益もですね、もちろん全体の経済が成長している時というのは、競争をしてもお互いの利益が増えるのですけども、全体が成長しない中で競争すると、だんだんこう歪な競争というか、英語で、cut throat competitionという言葉があって、

今村有希
はい、

西部邁
cut throatって、スロートというのは「喉(ノド)」ね。相手の喉を切っちゃうという。

柴山桂太
喉笛を切るといいますね。

今村有希
はい。

柴山桂太
競争というと、われわれ牧歌的なイメージがありますよね。ヨーイドンで走って1位2位を決めるという、そういう競争だったらいいんですけども、実際に生き馬の目を抜くような競争になってくると、もう不法といいますか、法律スレスレの方法を使って相手を倒すとかっていうようなことにどうしてもなりますよね。

[*全体が成長しない中での競争は歪になってゆく、cut throat competition:喉をかき切るような競争(死物狂いの競争、激烈な競争) ]

今村有希
はい。

柴山桂太
19世紀の終わりにアメリカの経済学者のヴェブレン(*ソースティン・ヴェブレン)という人が、

西部邁
僕が大好きなの。会ったことは無いけど(笑)

今村有希
フフフフフ(笑)

柴山桂太
えぇ(笑)当時のアメリカは今と同じですごい格差社会で(*通称「金ぴか時代:Gilded Age」)それこそロックフェラーですとかね、もう人類史上最大のお金持ちだと言われていますけどイノヴェーションに成功した実業家。(ヴェブレンは)彼らを指してですね、要するに、あれは半分ドロボウみたいなものだ、という。

西部邁
うん(笑)

柴山桂太
かなり不法な行為を行って富を蓄積していったような人たちなんだ、というふうに言ったことがあったんですね。

今村有希
はい。

[*不法行為で富を蓄積した実業家たちは泥棒みたいなもの:
Thorstein Bunde Veblen(1857-1929年、ノルウェー出身のアメリカ人、経済学者、社会学者、文明批評家)/ 経済学の世界では制度派の創始者、私的所有よりも「社会資本」を考慮、社会資本は決して利潤追求の対象として、市場の条件によって左右されてはならないとした / cultureという言葉聞くと鉄砲で撃ちたくなる(ヴェブレン)]

柴山桂太

で、今もそれに近いところがあって、確かにいま沢山の成功企業と言いますかね、そのアメリカを含め日本でも成功した企業がいっぱいある。勿論、中にはしっかりと着実に事業して成功したというのもいるかもしれないけども、大多数はたまたまギャンブルやって当たったと言いますかねぇ、まぁそういうことを言っちゃ失礼かもしれないけども(笑)

今村有希
(笑)

西部邁
captain of finance、金融のキャプテン、

今村有希
はい。

西部邁
captainと言ったら船長さんだけれども、要するに、総帥、頭領ですよね。

今村有希
(うん)

西部邁
capital(キャピタル)というと資本でしょう。

今村有希
はい。

西部邁
これもともとcap(キャップ)というと分かると思うんだけど、

今村有希
(頭部を指して)これですよね?

西部邁
帽子のことなんですよ。

[*captain=船長、頭領、総帥、cap=帽子 ]

今村有希
はい、はい。

西部邁
普通の日本人ね、capitalというと「資本」とかって簡単に言うけどもね、言葉というのは面白くてね、capital(資本)を持ってる者が社会の頂、キャップ、帽子になる。

今村有希
はい。

西部邁
それでcaptain(キャプテン=頭領)としてですよ、全体を差配するという、そういうimplication(インプリケーション=含蓄、裏の意味)、意味合いを裏に秘めながら、実はcapitalism(キャピタリズム=資本主義)と言っているわけですよ。

[*資本主義=capitalism に含まれる意味、capital(資本)を持つ者が社会の頂に立ち全体を差配

今村有希
(うん)

西部邁
もう既に、capitalismと言ったことの中に、人によりますけどもね、あの人これヤバいぜ、おかしいぜ、という意味を込めて資本主義をする。日本人はその点、翻訳文化から始まりますから、この言葉の裏の意味とか隠れた意味(implication)を一切感じずに、資本主義の繁栄ェェェ〜とかさ、

今村有希
(笑)

柴山桂太
(頷く)

西部邁
僕らに言わすと、泥棒の繁栄かって、

柴山・今村
(笑)

西部邁
まぁ(柴山がヴェブレンを引き合いに出して)いま仰ったことはそういうことなんですよね。

今村有希
はい(笑)

柴山桂太
うん。

西部邁
ですから、リーマンショックってあったでしょう。あれ詐欺のことをfraud(フロード=詐欺、詐欺行為)というのかな、あんなものは明らかに詐欺なんですよ。

[*リーマンショック(2008年) fraud「詐欺」話 ]

西部邁
どういう詐欺をやったかというとね、A社、B社、C社、3社の企業の株の将来収益は確率的に平均何%と。そんなのわかるわけ・・・だってイノヴェーションやっているんだから、新しい出来事でしょう?

今村有希
はい。

西部邁
経験が繰り返されればそれは確率も計算できるよ。

今村有希
はい。

西部邁
極端に言えば、新商品だ、新資源だ、新技術だってなものを巡ってね、経験が無いのだから、そんな確率的な予測ができないのに出来ると称して、それでこの3社の株をこういうふうに組み合わせてデリバティブ、派生証券を・・・

[*経験のないイノヴェーションを確率的に予測可能とした嘘 ]

西部邁
あそこにクボタというプロデューサーが居ますけどね、

今村有希
はい(笑)

西部邁
クボタというこの派生商品を作ればいちばん儲けが多いですよと、リーマン(リーマン・ブラザーズ)その他の証券会社が、もう明らかにこれ僕に言わせればね、bull sit!!(ブル・シット)という言葉をご存知?

今村有希
・・・知らないです。

西部邁
映画見てご覧なさいよ!

今村有希
はい〜す、すいません。。。

柴山桂太
(笑)

西部邁
アメリカ人はだいたい下品な言葉、F・U・C・Kも連発してるけど、それと同じくらい、bull sit!!bull sit!!って。bull(ブル)というのはもともと「雄牛」ですよ。

今村有希
はい。

西部邁
sit(シット)というのは「糞尿」ですけどね。bull sitというのは、牛の糞尿じゃなくて、「嘘話」「デタラメ話」ね。

[*bull sit ブルシット「でたらめ」「嘘話」]

今村有希
へぇー。

西部邁
だから、日本語で言えば、デタラメこきやがって!?と言うでしょう、乱暴に。

今村有希
はい。

西部邁
明らかに、リーマンショックその他はね、bull sit(嘘話)として予測をして新商品を作って、さぁどうぞ!!と世界中にばら撒いて、勝った奴らが全部潰れるというね。そういう金融ショックだったの。

今村有希
はー。

柴山桂太
うん。それで儲かった人達が、そのお金をですね、パナマに置いて(笑)

今村有希
(笑)

西部邁
そうなんだ、タックスヘイブン(笑)

柴山桂太
まぁー(笑)税を節約してるという話なんですね。でも、今の話は本当に示唆的だなぁと思うのは、資本主義ってそれを繰り返すんでしょうね。

西部邁
まぁそうだね。

柴山桂太
そうやって、まぁ喉切り競争(cut throat competition)をやってひどい事になった挙句に、やっぱり規制は必要ですね(笑)と言って規制を作る。で、規制を作ってしばらくはそれで社会はちょっと落ち着くのだけども、やっぱりこれじゃ儲からないから、規制を緩和してくれとか、新しくアイデアを見つけたからやるわ、というのが出てきて、これがまた(グルグルと巡り)こうやっていくうちに、だんだんだんだんと緩くなってきてですね、ワァーっとこう大騒ぎになって、最後はまたポシャッてということ。それを繰り返すんだろうなぁと思いますよね。

西部邁
それ本当に繰り返している。チューリップ事件って、

柴山桂太
チューリップ・バブルですね。

西部邁
チューリップ・バブル、あれ17世紀でしたっけ?

柴山桂太
17世紀ですね。

[*チューリップ・バブル:1637年 世界最初のバブル、球根に人気が集まり人々は投資に熱狂し価格高騰 ]

西部邁
大雑把に言うとこういう出来事。

今村有希
はい。

西部邁
チューリップの球根ね、やっぱりチューリップというのは新しい花だったのね。この球根からあの美しいチューリップが。僕はね、チューリップってあんまり平凡過ぎて好かなかったけど(笑)

今村有希
アハハハハ(笑)

西部邁
まぁ死んだカミさんが好きだったから、それは僕の偏見なんだけど、チューリップには恨みは無いんですよ。

今村有希
はい(笑)

西部邁
で、球根を持ってるとね、みんなチューリップを目指すから大儲けになると。今のあれで言うと、1株100万円みたいなところまで上がってしまってね、ハッと気がついたらそれほどの話じゃなかったと(笑)

柴山・今村
(笑)

西部邁
なんだかそれが資本主義の必然と仰ったけど、何かそういう「嘘話に熱狂する」というね、それが周期的に繰り返されると、確かにあるんですよね。

[*嘘話に熱狂し、周期的に繰り返される ]

柴山桂太
ローマどころか、人類の最初からそうかもしれないですねぇ・・・

西部邁
旧石器の時代から?(笑)

柴山桂太
えぇ、NHKの番組で観ましたけども、もう旧石器時代から「石器」ってどんどんイノヴェーションが起こるんですよ。

西部邁
そうなんですよねぇ。

柴山桂太
より使いやすいように進化して、

今村有希
あぁ〜はい。

柴山桂太
人間が高度の脳を持ったというのは、やっぱりある意味「イノヴェーションする能力」と言いますかね、工夫していかないと。まぁそれはある意味で良い部分もあるんでしょうけど、当然ながら、それが様々なアクシデントを当然起こしたりするし、とりあえずそれが戦争に使われたりするわけですし、そういってこう常に新しいものを試していくというのは、人間の中にあるんだろうと。

以前、(西部)先生に伺ったんですけど、「未開社会」ってありますよね?

今村有希
はい。

柴山桂太
一見すると、すごく原始的な暮らしをしていて、新しいことを知らない人達だという考え方があるけども、そうじゃなくて、『彼らはそういうことを一切しないというふうに決めた人達なんだ』という?

[*新しきを知らないのではなく、しないと決めた未開民族 ]

西部邁
うん・・・本当に怖いのは、なんか人間、特に多数いる社会の宿命みたいなところがあって、例えば、我々みたいなインテリに、いったい何の役割があるかと・・・ね?

柴山桂太
(うん・・・)

西部邁
もっと言うと、この番組におけるこのくっちゃべりにね、何か意味があるのかと・・・あるとしたら、これしかないんですよね、旧石器時代から始まる(笑)、人間の新しいものへの熱狂ね、

今村有希
はい。

西部邁
それに少々なりとも、この熱狂の行く末にはバブル、そしてバブルの崩壊のことをburst(バースト)と言いますけどね、膨張と破裂、それで全員が傷付くという未来が待ち構えているのだから、止むを得ない人間の宿命としても、「悪しき宿命に喜び勇んで飛び込むな!」と。「少しはゆっくり歩け!」とかさ、ね。

柴山桂太
(うん)

西部邁
そういうことを言うのが、実際には何にもやってないインテリの唯一の役割だよ。

[*皆が傷付く膨張と破裂へ警鐘鳴らす知識人の役目 ]

柴山桂太
(深く頷く)

西部邁
そのインテリがね、そういうこと(人間の宿痾である新しいものへの熱狂)を煽るわけ。エコノミストはじめそして。この場合、「インテリ」って広い意味で役人も含めて、政治家も、公の場で発言することをもしもintellectual(インテレクチュアル=知的である)といえば、そういう人達が一斉に、そういう人間の悲劇的宿命を礼賛するように、確かに根深い問題がある、今に始まった事じゃないんですよねぇ。

[*人間の悲劇的宿命を礼賛するような根深い問題 ]

柴山桂太
うん・・・。

西部邁
でもね、昔はまだそれに警鐘を鳴らす人ね、或いは、そういうものから諦めて遠ざかる人がもうちょっと多い割合で居たと思う。その今、その割合がもうどこに居るんだい?というぐらい少なくなった。

柴山桂太
うん・・・。例えばね、

今村有希
はい、

柴山桂太
TPPが出てくると、農業がいちばん分かりやすいので農業の話をすると、農業の関税が下がる。そうすると、国内の農家は外国と競争をするのでコスト競争に勝てなくなって、苦しい目に遭う、それで自給率が下がると、こういう話があるわけですよね。

今村有希
はい。

柴山桂太
確かにそれは問題は問題なのだけども、でも何故そういうことが起こるのかというと、都会に住む消費者が、今の話でいうと、まぁ新しいものを食べたいし、

今村有希
うん、うん(笑)

柴山桂太
まぁちょっと変わったもの食べたいし、

今村有希
はい。

柴山桂太
まぁ、いつも買ってる近くの農家じゃなくて、もっと遠いところから来る食材を集めてもっと新しい料理を食べてみたいという、そういう趣向性があるから、そういう自給率が下がるとかね、そういうことが起こるわけですよね。

[*新しいものを受け入れる、消費者の趣向性 ]

今村有希
うん。

柴山桂太
で、イノヴェーションというのは、もちろん作り手の側が一生懸命に新しい商品を作ろうとか、新しいアイデアを形にしようとこういうことですけども、それは消費する人がですね、そういう新しいものをどんどんどんどん受け入れてくれるから、イノヴェーションも起こって、

今村有希
はい。

柴山桂太
いま(西部が)仰ったように、経済が活性化するとも言えるし、大混乱にも陥るというわけで。

[*イノヴェーションによる利益を大歓迎してきた消費者 ]

西部邁
そんなものに飛びついたり、礼賛したりしている一般国民・・・で、一般国民というのは経済で言えば一般消費者であると。

柴山桂太
うん。

西部邁
今村さんの時代はどうかなぁ・・・「新しもの好き」という言葉には複雑な意味があってね、

今村有希
はい。

西部邁
6〜7割のウェイトで軽蔑語ね。

柴山桂太
うん。

西部邁
あいつは新しい物となったらなんでも飛び付く「軽薄才子」という意味が6〜7割、

[*「新し物好き」 に含まれる意味の6〜7割は軽薄才子 ]

今村有希
(うん)

西部邁
でも10割じゃなかったことは確かだね。3〜4割はやっぱりそういう舶来、その船で運ばれてくる外国の商品は新しい物で、それは舶来ね、

今村有希
はい。

西部邁
舶来の物に対する憧れもあるわけさ。僕の親父もそうだったねぇ・・・

[*「新し物好き」の複雑さ、舶来品に対する憧れ ]

今村有希
へぇー。

西部邁
我が家は貧乏人だったのに、急にサイフォンというの?

今村有希
はい!?(コーヒーを抽出するジェスチャーをする)

西部邁
入ってきたの。お袋が怒ってましたけどね、

今村有希
はい(笑)

西部邁
子供達はまだ小学生でコーヒーなんか飲まない。でも、親父は余りの下級サラリーマンとしての生活に耐えかねてさ、やっぱりコーヒー・サイフォンぐらい買って、自分でコーヒーを淹れてグツグツ沸かしてと思ったんでしょうね。

今村有希
フフフフフ(笑)はい。

西部邁
でも親父、それで1回か2回飲んだきりで、たぶん飽きちゃって(笑)

柴山・今村
(笑)

西部邁
複雑なところだけど、いま酷いのは、みんなしてそれを礼賛するわけですよ、新し物好きをね。消費者までもが、これはほんと食い物から衣装の果てまでそうでしょう。

[*食物から衣料まで、新し物好き礼賛の消費者 ]

柴山・今村
うん。

柴山桂太
それでその経済が成長してみんなにお金が回っているうちはね、まだいいのかもしれないけども、まぁ前回の話ですけども、

今村有希
はい、

柴山桂太
マイナス金利になり、成長もほぼゼロになり、物価もほぼゼロになりという形で、資本主義がだんだんこう冷たくなっていっている中で、まぁ〜そうワァーっと騒いでるというのがいつまで続いていくのかなぁ・・・という印象がありますけどね。

[*マイナス金利、物価・成長ゼロ、資本主義が冷たくなっている ]

西部邁
そうなんですよね。消費者論で言えば、いわゆるユーロに統一される前の話ですけど、

今村有希
はい。

西部邁
イタリア人はスゴイなぁと思ったのは、あの頃ね、スペインのワインが(イタリア国内に)どんどん入ってくるんですよ。値段はイタリアのワインよりかは1/2、1/3で安いんですよ。

今村有希
うん。

西部邁
それなのに、イタリアのある村人達のパブね、地元の酒飲んでるんですよ。

[*スペイン産の安い商品入るが、地元のワイン飲むイタリア ]

今村有希
はい。

西部邁
飲んでみたってね、スペインワインもなかなかのものなんですよ(笑)

今村有希
(笑)

西部邁
品質は甲乙つけがたし。にも関わらず、実は隣村で作られているワインを、高いワインを飲んでいる。

今村有希
へぇー。

柴山桂太
うん。

西部邁
どうして?と聞いたら、向こうの返事は、「何を質問されているかわからん。我が家は昔から隣村のナントカ原料で作ったワインを飲むって決めてるんだ!」と。

今村有希
うん(笑)

西部邁
でも、もう変わったでしょうね、さすがにイタリアなんかとうに(経済状況が)ヤバいですから、やっぱり安いものを買いましょうといってね、それで(今は)変わっていると思うけどね。

柴山桂太
うん。

西部邁
どこかね、未開民族だけじゃない、高みの見物しているインテリだけじゃなくて、一般庶民の中にはね、何かせっかくこういう生活を、隣村との何の誰べえが作ったものを飲むことにしてたんだから・・・

今村有希
うん。

西部邁
爺さんも、曾祖父さんもね、だから、俺も子供も孫もそうするわい!、という感じがあったの。それが全面崩壊したのね。だから、マイナス金利は同時にそういう社会の関係性の崩壊みたいになっている。

[*マイナス金利による庶民生活、社会の関係性の崩壊 ]

柴山桂太
うん・・・そうですね。まぁだから考えてみれば、自分の生活がしっかりしてれば、まぁマクロ経済というか、世界経済がどうなろうが、まぁ知ったこっちゃない、というふうなことも言えるわけですよね。

今村有希
うん、はい。

柴山桂太
私もイタリアで、南イタリアをちょっと旅行したことがあって、

西部邁
あぁそう!?

柴山桂太
数字はGDPで見ると貧しいし、一人当たりGDPで言えば途上国並みに(イタリアの)南の方って貧しいんですよね。

今村有希
はい。

柴山桂太
で、実際に見た感じで物質的に豊かそうに見えないけれども、夜になると広場に集まってワインを飲んで、

西部邁
あぁ〜。

柴山桂太
それでもうずーっと喋っているというね。

今村有希
うん。

柴山桂太
えぇ、なんか生活がそこにあるというのが旅行者の目からもよく分かる感じがあって。それでよくイタリアはやっぱり強いと言われますよね、そういう何度も経済崩壊に直面しているのだけれども、でも生活は壊れないという。それが大事なんじゃないかというふうに思いますねぇ。

今村有希
うん。

西部邁
そうね。イタリアの強さって、一つはそれね。

今村有希
はい。

西部邁
南の方で言えば、人種すらね、あれは普通のイタリア人が持ってる「カラブレーゼ」というんですけど、アフリカの血が強いね、で、背丈も低くてずんぐりむっくりでね。その代わり、生活を楽しむね、ずっとやってるでしょう?

今村有希
うん(笑)

西部邁
人間関係も友達のためならお互いにね、日本で言う義理人情の世界ですよ。親友のためなら我が身を粉にしてでも・・・って調子のね。

[*イタリアの人間関係の強さ、日本の義理人情に似ている ]

今村有希
へぇ〜。

西部邁
友情のあれはお芝居でしょうね。ほとんど演劇をやっている(笑)

今村有希
そうなんですか(笑)

西部邁
あれをね、道端でワインを飲みながらやってるね。

今村有希
(うん)

西部邁
そういう関係性がもしもね、日本社会でもまぁある程度保てれば、キャピタリスト?巨大なキャピタリストがどうしようが、そんな派手派手しいイノヴェーションがどうなろうが、えっ?!そんなもんあったの?ぐらいで。

柴山桂太
うん。

西部邁
そういう構えがあれば、本当は狼狽えなくていいんだよ。

今村有希
(うんうん)

柴山桂太
うん・・・格差も是正すべきだという声もあるし、まぁ実際にあまりにヒドい格差は是正すべきだと思うんですけど、

今村有希
はい。

柴山桂太
でも、自分の生活がしっかりして、そこにこう基盤があれば、お金持ちが雲の上の方で何しようが、パナマに税金を送ろうが、なんかヨット持って遊ぼうが、

西部邁
そうね。

柴山桂太
あぁ〜なんか楽しそうでいいねぇ〜と言ってればそれでいいとも言えますよね。

[*酷い格差は是正すべきだが、生活基盤のバランスがあれば ]

今村有希
うん(笑)

柴山桂太
それで、やれも税金を隠さず暴き出せ、1円たりともとってやれ、というのは、まぁそういう気持ちも無くはないですけどね・・・みんな余裕が無くなってきて、もう少しでも成功している人や何かをしている人をこう引きずり下ろしてって、もう本当にどんどんどんどん社会が底が抜けていくような、そういうような時代になっちゃったという。

今村有希
うん。

西部邁
それでね、もちろん失業者とか、不定期雇用とかさ、そういう人達の年収150万とか200万とかさ、

今村有希
うん、

西部邁
そのためにね、法人税を高めて大企業から金を取れってのはそれはその通りなんですけど、

柴山・今村
うん、

西部邁
ぼく賛成するよ。でもね、あんまりそこにのめり込むとね、結局のところは、mammonism(マモニズム=拝金主義、金銭至上主義)・・・mammon(マモン)というのは元々は原始的な言葉なですけど、「富の神様」というんですよ、マモン。富の神様ということは、「カネの神様」ね。

今村有希
はい。

 西部邁
カネの神様に、こう拝跪(*はいき)する、跪いて拝むことをマモニズム(mammonism)と言って、拝金主義というんですけどね。

[*mammonism:mammon「富の神」に拝跪する、金銭を崇拝する拝金主義のこと ]

今村有希
はい。

西部邁
「もっと俺の生活を楽にしてくれ!」と泣き叫ぶということは、下手するとね、自分もmammonist(マモニスト=拝金主義者、守銭奴)、(拝金教の)教徒になっちゃうんだと。

今村有希
うん。

西部邁
「ほっとけ!!」という気持ちをどっかで持ってないとね。

柴山桂太
うん。

西部邁
例えば、1兆円、何兆円持ってる奴が日本でもゴロゴロいて、タックスヘイブン?節税というか脱税のために。でもそれだってね、ほんと考えようによれば、1兆円にしようか・・・その時、大変だろうなと、だってヨット何台買ったって自分が乗れるのは1台だし、

柴山桂太
(笑)

今村有希
そうですね、持ってても使わない(笑)

西部邁
えっ?持っててもでしょう、何をするんだと。

柴山桂太
うん・・・

西部邁
本当は(大金持ちに対して)同情してやることも出来る、憐れだねと。それでいつか死ぬんですよ、

今村有希
はい。

西部邁
最後はさ、薬と医療道具に繋がれて、それで1兆円持って死んでくわけさ。そういうのはどっかで嘲るというぐらいの度胸がないとね。

柴山桂太
そうですよね、えぇ。

西部邁
貧乏人の、われわれ貧しい人間の誇りが、自負心がプライドが、持たないと。という面を5割ぐらい持っててもいいんですけどね。

今村有希
はい。

柴山桂太
うん・・・まぁそういうふうな生活がしっかりあった上で、その上で政府が何をすべきかというふうな議論に進むべきだと思うんですよね。

西部邁
そうだね。3回目は、じゃあどうするか?ということについて、いささかなりともね、

今村有希
はい、

西部邁
考えようではないかと。今週はありがとうございました。

柴山・今村
ありがとうございました。

【次回予告】「マイナス金利は資本主義の断末魔」③ ゲスト:柴山桂太(京都大学准教授)