マイナス金利は資本主義の断末魔① (ゲスト:京都大学大学院准教授 柴山桂太)〜西部邁ゼミナール〜

マイナス金利は資本主義の断末魔① (ゲスト:京都大学大学院准教授 柴山桂太)〜西部邁ゼミナール〜

ゲスト:
柴山桂太 京都大学大学院准教授、「表現者編集委員、近著「静かなる大恐慌」「TPPの黒い条約」〔共著〕(集英社新書)ほか

【ニコ動】
マイナス金利は資本主義の断末魔① 2016.06.11
sp.nicovideo.jp/watch/sm290273…

今村有希
今回から3回に渡りまして、マイナス金利は資本主義の断末魔というテーマで論じて頂きます。ゲストには、京都大学大学院 人間環境学研究科の准教授の柴山桂太先生にお越し願いました。

「マイナス金利」とはアベノミクスの金融政策の一環として、日銀が金融機関から預かる預金の金利をマイナスにしたものです。これにより、市場にお金が回り、企業が設備投資を増やし、所得が上がることで物価上昇率を2%にする、という目標を掲げています。

ところが、既に超低金利が長期的に続いている上、企業が投資しても収益が見込めなければ投資のリスクを負うことは出来ません。根本的な問題は、『資本主義が末期的な行き詰まりである』ということを柴山先生以外、エコノミストすら誰一人として指摘していません。

世界に経済危機が広がる中で、これから日本人がどう構えるべきか、柴山先生教えて下さい。宜しくお願い致します。

西部邁
あぁ、今日は有難う。教えてくれ(笑)

柴山桂太
(恐縮しながら)あっ、ハイ(笑)

今村有希
(笑)

西部邁
「断末魔」って何のことかわかる?よく使われる言葉だけど。

今村有希
死に際の叫び声とかですか?

西部邁
悪魔にいろんなランクのやつがいて、

今村有希
はい。

西部邁
一番下っ端のやつが「末魔」(まつま)という。

柴山桂太
ふ〜ん。

今村有希
末魔?

西部邁
「末魔までもが断たれる」というかね、断末魔ということは、最後の、結論はそれ(※今村の回答)なんだけど、

今村有希
はい。

西部邁
悪魔の最下層にいる末魔。

[*『断末魔』一番下っ端の悪魔、その末魔まで断たれること ]

西部邁
本当にキミ(柴山)と同じ意見なんだけども、よくまぁこのね・・・なんか英語では、negative interest rateというらしいけど、まぁまぁマイナス利子率の問題、あれは何ヶ月前ぐらい?

[*マイナス金利 negative interest rate:日銀が金融機関からから預かる預金金利をマイナスにする ]

柴山桂太
1月に決定されて2月からだと思いますね、はい。

西部邁
あぁそう。それなのにね、ほんのちょっと言われたきりでさ、エコノミストはじめとして、テレビでも・・・僕は、新聞は読んでないの最近・・・ゴメンなさい。誰に謝ってるんだ(笑)

柴山・今村
(笑)

西部邁
でも、誰一人それを取り上げないの。多分、雑誌では送られてくるから、誰も取り上げていない。もうそれ自体が断末魔だね。

柴山桂太
うん。アベノミクスが金融政策で、金融をこう(ばら)撒いてですね、デフレを脱却するということをやってきたのだけども、

今村有希
はい。

柴山桂太
まぁそれが段々と効果が切れてきてしまって、その次の手として打ったのがこの『マイナス金利』という政策で、国債金利が史上初のマイナス、長期金利がマイナスになるという。

[*マイナス金利の導入は史上初、国債長期金利がマイナスに ]

今村有希
はい。

柴山桂太
で、金利がマイナスになる世界というのはちょっと普通の常識ではあり得ない話なんですよね。

今村有希
(頷く)

柴山桂太
普通、お金を預けたら利息が貰える。

今村有希
はい。

柴山桂太
お金を貸したら、その利息をですね。そういうふうな関係になるのだけども、マイナス金利ということは、その逆の事が起こるということです。

今村有希
はい。

柴山桂太
お金を借りて利息(分)が貰えるという、簡単に言っちゃうとそういう話なんですけどね。どうして導入されたのかというと、そこまでしないとお金の貸出が増えないだろうと、そういう考え方に基づくわけですね。

今村有希
はい。

柴山桂太
ところが、金利を幾らマイナスにしても、お金を借りても儲かる見込みが無ければ、当然その投資といいますか、企業が工場とかつくったりはしないわけで。

いまマイナス金利が導入されて、実際それで効果が出ているかというと、まぁほとんど今のところ出ていないし、これからも出る見込みはかなり低いんですよね。

[*マイナス金利を導入しても、投資は増えない ]

今村有希
はい。

柴山桂太
幾ら金利を下げてもですね、もうどうにも反応しないぐらい将来的なその投資収益と言いますか、企業が投資をしても儲かる見込みというのが無くなってきているという・・・それが現状だというのがまぁ、差し当りの説明になると思うんです。

西部邁
僕ね、経済学の授業はする気は無いから、

今村有希
はい。

▷板書
i(利子)=r(収益)+π(インフレ)

西部邁
ちょっと恥ずかしいんだけどね、利子率のことを符合「i」(interest rate)で表すことが多いんですよ。rate of interestですけどね。interestの「i」、これは「貨幣利子率」ね。

今村有希
はい。

西部邁
これ例えば、貴女が1億円・・・持ってる?

今村有希
持ってないです(笑)

西部邁
1千万でもいいんだけど、

今村有希
いやいや持ってない(笑)

柴山桂太
(ニヤニヤ)

西部邁
持ってたとして、いわゆる金融資産に公明に投資すると、まぁ平均の話ですけど、「i」の利子率が得られると。

今村有希
はい。

西部邁
この1千万、1億円を(金融と実物の)どっちに投資するか?

▷板書の等式:i(利子)=r(収益)+π(インフレ)

こっち(右辺:r+π )は「実物」ね。実物に投資するとするとね、その実物を利用して「r」、これどうして「r」かというと、rate of return 「収益」ね。

今村有希
はい。

西部邁
収益率(r)が、これは見込みですけどね、「期待」ね。将来これだけ貰えるだろうな、という。この「π」は「インフレ」ね。物を持っていると、物の値が上がるでしょう、インフレ率ね。

今村有希
はい。

西部邁
これが大体「P」はPrice、これは「π」だから、(経済学は)これで表すことが多いんですよ。

[*i =r+π / 利子率=実物投資の収益率+物財のインフレ率 ]

今村有希
(うん)

西部邁
そうするとね、経済全体で金融資産に投資するか、或いは、実物資産に投資するかという、その均衡として公式(i =r+π )が成り立つんですよ。

[*金融資産か実物資産に投資、経済全体の均衡としての式 ]

今村有希
はい。

柴山桂太
うん。

西部邁
それで、いま(左辺の)これ(i)がマイナスだというわけ。マイナス利子率というわけさ。それからね、(右辺の)「π」が+1%ですが、まぁこれを(インフレ誘導で)+2%にするというわけさ。

今村有希
はい。

▷i(マイナス利子率)=r+π(2%目標)

西部邁
それでね、これをこっちに移項(※πを左辺に移項)するとね、「r=i−π」になるのだけど、πは2%だから、(移項後は)−2%、それでこれ(i)もマイナス(マイナス金利)にするというわけ。(すると⇒投資収益率r=マイナス金利−2%)

するともう単純なね、こんなことは小学校4、5年でやるのかな?子供にだってね、あぁ〜この期待収益率は実物資本に投資してもマイナスにしかならん、投資はしません、と。

[*実物投資収益率が“マイナス”にしかならない ]

柴山桂太
うん。

西部邁
あとはそれをね、箪笥に置いておくかどうかは、それは柴山君の自由だけどね。

柴山桂太
うん・・・。

西部邁
大変なことでしょう?

今村有希
はい。

西部邁
1930年代にね、long-run stagnation。何だ、stagnationって?

今村有希
うー、分からないです(困)

西部邁
停滞(stagnation)ね。

柴山桂太
停滞ですね。

西部邁
本当にまたその(スタグネーションの)繰り返しね。まぁそういうことを言ってるのはスティグリッツ

柴山桂太
スティグリッツです。

西部邁
スティグリッツあたりが、『資本主義は長期停滞に入った』と言ってるらしいがね、そんなこといちいちノーベル賞学者から言われなくたってね、

今村有希
(笑)

西部邁
小学生か中学1年生程度の知識があれば、(r=i−π から)へぇ〜と。

柴山桂太
うん。

西部邁
ロングラン・スタグネーション、長期停滞ですねと。

[*long-run stagnation=長期停滞、1930年代「セキュラー・スタグネーション論」 ]

西部邁
で、これは安倍さんには文句は言わないけども、これで日本では規制緩和してイノベーションで経済成長だ!!と言ってる。

[*規制緩和でイノヴェーション、“経済成長”だという日本 ]

柴山桂太
うん・・・

西部邁
ずっと言い続けている。

柴山桂太
これまでは、だから「不況」という言葉では言ってたんですよね。

今村有希
はい。

柴山桂太
日本は不況だ、というふうに。「不況」というのは、まぁ好況があって不況があるわけですから、今は一時的に調子が悪い、というそういう捉え方だった。

今村有希
(うん)

柴山桂太
一時的に調子が悪いんであれば、金融政策を行うことによって、政府が一生懸命に刺激してあげると民間がお金を使い始めると、こういうことが期待できたんです。

今村有希
はい。

柴山桂太
で、日本は(過去)20年間いろんな政策を打ってきたわけですけどね、アベノミクスになってからは、とりわけ金融(金融政策)で経済刺激策をやってきた。で、これが効かないというのは、有り体に言うと、「不況ではない」ということなんですよね。これは『停滞』、つまり、そもそも、その今の収益(r)ということで言うと、

今村有希
はい。

柴山桂太
経済が成長する力というものが、あまり無くなってきたというふうに、いまは考えるべきなんだろうということだと思うんです。

[*不況ではなく停滞、経済成長する力がないこと ]

柴山桂太
金利の歴史を調べたという、むかし学者が居まして、

西部邁
あぁそう?

柴山桂太
400年ぐらいのこう、とは言っても比較はいい加減なものだとは思いますけど、「金利が2%を切ったということはほとんど無い」そうですね。

ケインズが書いているんですけど、「イギリス人はどんなことにも我慢出来るが、2%の金利には我慢出来ない!」という言葉があるらしくって(笑)

[*「イギリス人はどんなことにも我慢できるが、2%の金利には我慢できない」ケインズ

西部・今村
(笑)

柴山桂太
金利)2%割り込むだけで、その過去何百年も無かったような異常事態。

西部邁
しかもマイナスだぜ。ネガティヴ。

今村有希
はい。

柴山桂太
それもマイナス(金利)ですからね。資本主義の長い歴史の中で、度もさっき仰ったような『停滞』(stagnation)ということは繰り返しているんですよね。だけど、今回の停滞は、ちょっと過去は簡単に比較出来ないような、相当その深刻なと言ってもいいし、もっと言えば、かなりこう歴史の転換になるようなそういう停滞なんじゃ無いかって気がしますね

[*今回の経済停滞は深刻で歴史の転換になるのでは ]

西部邁
要するに、投資のフロンティアね、が無くなったなんだと、そういう言い方している。それでいいんですけどね、もうちょっと噛み砕いていうとね、みんなこうイノベーションイノベーションと言ってるでしょう?

[*有望なフロンティアがなく、マイナス金利は最期の叫び ]

今村有希
はい。

西部邁
innovationというのは「技術の革新」のことなんですけどね・・・あなた新幹線で来た?

柴山桂太
はい。

西部邁
新幹線であれ何て言うの?あの(企業広告や案内などの)テロップが流れるでしょう。

今村有希
はい。

西部邁
企業の広告。「わが社のイノヴェーション」・・・技術の革新ね、それの連続なんですよ。ところがね、このinnovationのね、大雑把に言うとですよ、この3人で革新を競い合うでしょう?

今村有希
はい。

西部邁
ねっ。貴女(今村)が勝つわけさ。

今村有希
ウフフ(笑)

柴山桂太
うん。

西部邁
例えば、同じ種類のものについてね、そしたら我々は負けるわけですよ。簡単に言うとね、我々はそれまでの研究開発人件費も含めてその他、全部ドブに捨てることになる、大きく言えば。

今村有希
はい。

西部邁
で、貴女ひとりの、イノヴェーションというのはそういうことなんですね。

[*“イノヴェーション” 技術革新に含まれる大いなる矛盾 ]

西部邁
ということは、革新を通じて「独占」というのは言い過ぎだとしても、「寡占」というのはね、

今村有希
はい。

西部邁
ごく少ない企業の、まぁ言ってみれば大企業しか生き残らないと意味になるわけです。

[*革新競争で独占寡占化し、大企業しか生き残らない ]

西部邁
ところが、日本のエコノミストはもう、マーケットの競争、マーケットの競争ってもう25年ぐらい言ってるんですよ、経産省も、大蔵省も、自民党も。

柴山桂太
うん。

今村有希
はい。

西部邁
ねっ。ところが何の競争かと言えば、「革新競争」なわけ。で、その結果が独占(もしくは寡占)になるわけでしょう。僕別にね、独占体に恨みなんか無いんだけど、問題はここでこれが出てくるんですよ。「革新」というのは普通ね、何だっけ、capital using、或いは、labor saving、革新は現代は、不器用な言葉なんだけど、capital usingというのは「資本使用的」ね、逆に言うと「労働節約的」。

[*現代におけるイノヴェーションとは:「資本使用的」capital using、「労働節約的」labor saving ]

西部邁
革新の結果は、何とかピケティ・・・トマ・ピケティ?

柴山桂太
ピケティですね。

西部邁
延々こんな、あんな厚い本(「21世紀の資本」)を読む気力も俺は何も無かったけど、彼(柴山)はまだ若いから全部読んだらしいけどね。

柴山桂太
うん、まぁ一応・・・(笑)

今村有希
はい、ウフフフフ(笑)

西部邁
結果ですよ、いい?

今村有希
はい。

西部邁
革新は労働節約的なんだから、労働分配率は下がるわけですよ。ねっ?労働者の取り分がどんどん下がってくる。せっかく今村さんが独占体を築いたにも関わらず、この商品(独占体の商品)を買うのは一般に労働者でしょう?

今村有希
はい。

柴山桂太
うん。

西部邁
ところが、労働分配率が減ってますから、ということは、国内の購買力は減っていますから、なかなか売れないわけ、思ったように。

[*労働分配率が減少し、国内の購買力は低くなる ]

今村有希
はい。

西部邁
当然最初は、海外に売るとか何か言うけど、海外ったって地球は限られているんだから、

今村有希
ウフフフフ(笑)

西部邁
僕は向こうでやっていますから、限界あるでしょう。

今村有希
はい。

西部邁
その結果として、イノヴェーションをやっても、独占体を形成しても、さっき言ったように儲けがあがり難い。そして、中小企業は大いなる苦境に放り込まれ、倒れる、とこうなっているわけ。

今村有希
はい。

西部邁
そこまではまだいいのよ。今村さんも去るもので、独占体をね、そうすると何処に活路を求めるかと言うかというと『政府』に求めるわけさ。

[*利潤獲得した独占体は“活路”を政府に求める ]

西部邁
だって、労働者が(商品を)買わないのだから、大雑把に言えば。

今村有希
はい。

西部邁
じゃあ(独占体は)「政府」を動かそうかと。一番いい方法は何だと思う?

今村有希
・・・わ、わからない(笑)

西部邁
わからないの?(笑)

今村有希
フフフフフ(照笑)

西部邁
戦争。

柴山桂太
戦争でしょうねぇ。

今村有希
あぁ〜!!

西部邁
戦争をやればね、あれは別に武器だけじゃなくて、包帯だろうが何だろうが食糧だろうが、いろんなまず在庫を吐き出すことができるでしょう?

今村有希
はい、はい。

柴山桂太
1930年代の長期停滞(long-run stagnation)は、結局は政府が出てきて、政府は最終的にどうやって解消したかと言うと、最初はもちろん、道路を作ったりいろいろやるんですけど、最後は結局、「戦争」という形になって。

今村有希
はい。

柴山桂太
それでも、前回の長期停滞は1930年に始まって、本当に終わったのは、1952年ぐらいって言われていますよね。

[*1930年代の停滞20年続き、政府は戦争含む金を使う ]

西部邁
あぁそう?!

柴山桂太
えぇ。だから20年ぐらいかかっているんですよね。20年間、戦争を含めて政府がひたすらお金を使って、ようやく(停滞から)脱せられたというぐらいですから。

今村有希
へぇ〜。

西部邁
いま本当にこれ僕ね、左翼を20歳の頃やっていて、あまりに馬鹿らしいから22の誕生日にやめたんだけど、

柴山桂太
(うん)

西部邁
僕はね、(世の中が)こんな馬鹿なことになるなら、やめなきゃよかったなって。これは冗談だけどね、やめてスッキリしたんだけど(笑)

柴山・今村
(笑)

西部邁
レーニンというのがいてさ、

今村有希
はい。

西部邁
帝国主義論」(※レーニン著の経済学書)あまりにも馬鹿らしくて、ゴミ箱に捨てたけど、言ってることはこういうことを言っている。

[*独占資本と国家が手を結ぶ帝国主義論(レーニン)〔だから、社会主義革命の前夜であると〕 ]

柴山桂太
そうなんですよねぇ。

今村有希
へぇ〜。

西部邁
ただ、イノヴェーションという言葉は無いんですけどね、まぁ、あんなことも言ってはいないんだけど、要するに、そのあとマルクス主義も僕あんまり馬鹿らしいから捨てたけど、捨てなきゃよかったのかなって、これ冗談で言っているのよ(笑)

柴山桂太
うん。

西部邁
国家独占資本、この場合の国家って「政府」のことですけどね、政府と独占体が癒着して、政府独占資本主義の時代が来たと。で、それがあの戦争をやらかしたと。

[*「国家独占資本主義」(マルクス) 政府と独占資本が癒着して戦争をやらかしたと主張 ]

西部邁
なんかね、馬鹿げたほど単純な、えぇ?あの理論通りに動いているわけさ。理論が正しいというよりも、人間がどんどんみんなが馬鹿になったということなんだけどね。

柴山桂太
うん。

西部邁
馬鹿になったから馬鹿な理論が合うようになったというね(笑)

柴山桂太
いや、そういう理論が出てるんだけど、忘れてまた発見してくるというそういう感じなんですよね、こういう経済とか経済学の世界というのは(笑)

いま実際、アメリカで何が起こっているかというと、段々と「独占」とか「寡占」の動きが出て来てるって言われているんですよね。

[*いまアメリカで起きていること、独占・寡占の動き ]

今村有希
はい。

柴山桂太
で、日本に先駆けて、10年以上前からアメリカでは、「規制緩和だ!競争だ!!」ってやってるわけです。で、規制緩和だ、競争だ、とやれば経済が活性化してイノヴェーションも起こるだろうという話だった。実際はまぁある程度、活性化してイノヴェーションは起きたんですね。

今村有希
はい。

柴山桂太
ところが、競争って当たり前ですけど、何も補正しなければ、勝つ人がどんどん勝っていくわけですよね。

今村有希
はい。

柴山桂太
そういうことを繰り返していけば、最初は市場に複数メンバーがいても、やはり次第にだんだんと1人、2人と・・・

西部邁
まぁ要するに弱肉強食。

柴山桂太
弱肉強食ですね、そうなっていく。まぁ独占・寡占になっていくわけです。そうすると、今度(市場競争に)勝ったやつはどうするかというと、これはアメリカで実際に起こっていることですけども、政治に献金を行って、

西部邁
そうそう。

柴山桂太
「競争を制限」したりするわけです。

今村有希
へぇ〜。

柴山桂太
或いは、ライバル会社を買収したりとかして、「市場支配を安定化」させようとするですよね。

[*独占に勝った企業は市場支配、政治献金、ライバル社買収 ]

今村有希
はい、はい。

柴山桂太
これが、レーニンたちが言っていた、『国家独占資本主義』と言われるもので。で、レーニンは、19世紀の終わりぐらいの資本主義を見て、そういうことを言ったんだけども、

西部邁
うん。

柴山桂太
100年以上経った現在も、まぁアメリカで実際それに近いことが起こっていると。

[*レーニンの国家独占資本主義、100年以上経て同じ様なこと ]

西部邁
レーニンの時代と違うとしたら、一方で情報社会だ、或いは、イノヴェーションだってね、さも新しげなことが言われているけども、その結果は、実は、100何十年前と同じね、結末になりつつあるわけ。

柴山桂太
うん。

西部邁
先ほどの話の続きをやると、戦争・・・戦争ったってさ、やっぱり実はこれもおかしいんですけどね、主要大国は核兵器を持っているでしょう。

今村有希
はい。

西部邁
だから、第三次世界大戦は、お互い共倒れですから、核兵器はね。やり辛いでしょう。

[*主要大国は核兵器保有で第三次大戦なら共倒れ ]

柴山桂太
(頷く)

西部邁
それで代理戦争なり何なり、例えば、シリアとか、ウクライナとか、そういうところをつついてね、そうすると色んな売れ残った在庫をまず政府の金で買い取らせて吐き出すことが出来るでしょう。

柴山桂太
(うん)

西部邁
やっぱり戦争というのは総力戦ですからね、単にみんな戦争というとweaponのことしか考えないけれども、それは食糧だろうが包帯だろうがトラックだろうが、全部関係してくるわけ。

[*戦争は総力戦であり、武器だけでなく全て関係する ]

柴山桂太
うん。

西部邁
もうそこに活路を見出す。けど、大戦、Great Warは起こせない。そういう言わば
第三次世界大戦の前哨戦というのかな。前哨戦というのは普通、短期間で終わるんだけどね、いつまでも終わらない前哨戦を、たぶん今村さんが死ぬ頃までやっています。

[*第三次世界大戦の前哨戦ともいえる状態が長期化 ]

今村有希
フフフ(笑)

西部邁
本当ですよ。

今村有希
(うんうん。笑)

柴山桂太
まぁ戦争に行く前にさっきのレーニンの話ってのは、独占資本主義になると、今度は海外市場を獲りに行く。当時はそれを『帝国主義』といって、強い国が弱い国を支配して、市場を囲ってしまう。他の国は入ってこないようにする。

今村有希
はい。

柴山桂太
今もまぁまぁその段階なのかもしれないですよね。TPPがありますよね?

今村有希
はい。

柴山桂太
まぁあれは、アメリカを中心に新しい貿易ルールをつくる。まぁでも実際にはいろんな面があるんですけど、その本質というのは、まさに巨大企業が、その国外により新しい販路を求めて、特に日本なんかは市場が大きいですから(アメリカからみて)狙い目なんですけども、そういうところにうまくルールを設定してより売りやすい状況をつくる、そういうところがありますよね。

[*独占資本主義で海外市場へ、TPPによる貿易ルールを変更 ]

柴山桂太
まぁ、昔の帝国主義とはちょっと違いますけども、段々とやっぱり緩やかに昔と同じようなことを繰り返していくモードに入っているのかもしれないと思いますね。

西部邁
馬渕睦夫さんというね、元外交官、元モルドバウクライナの大使かな。1年ぐらい前にちょっと聞いてアッと、なんか目から鱗が落ちるというよりも全くその通りと思ったことがある。

その当時ね、ウクライナ問題があって、大雑把に彼の結論を言うと、アメリカに本籍を持つ巨大なfinancial-capitalistたちが、プーチンのロシアの持っている天然資源ね、あれを世界マーケットに引きずり出すために、プーチン政権をぶっ潰しちまおうじゃないかとね。

[*米国本籍financial-capitalist、ロシア資源を狙いプーチン標的 ]

今村有希
(頷く)

西部邁
といって、モスクワに爆弾落とすわけにもいかないので、クリミア問題で紛争になってたウクライナ、あのウクライナあたりに恐らくCIAその他のいろんな手を加えてね、それをね、プーチンも頑張るからうまくいかないわけです。

今村有希
(うん)

西部邁
ロシアの裏玄関とも言うべき、協力関係にあるシリアね、

今村有希
はい。

柴山桂太
う〜ん。

西部邁
正面から出来ないならば、ロシアの裏玄関とも言うべきシリアを突こうじゃないかと。それで、シリア自由連合というのをつくってやったけど、あれこそね、藪を突いて蛇でさ(笑)いわゆる「IS」ね、Islāmic State、イラクを中心にしてスンニ派のテロリスト集団が出てきたわけさ。

[*ウクライナ危機で暗躍後、シリアを突くシリア自由連合 / 藪を突いて出てきた蛇はISテロリスト集団 ]

西部邁
ねっ。先ほどさ、さも恐ろしげに言ったけども、そのアメリカの企てがね(笑)

柴山桂太
うん・・・。

西部邁
第三次世界大戦の前哨戦の企てすらが、次々と失敗してね、もう何をやっていいか、もう戦争すらどうやっていいかわからんというね。本当に断末魔ね。

[*第三次大戦の前哨戦の企てすら次々と失敗 ]

柴山桂太
うん、うん・・・。構造的にそっちの方に向かっちゃっているということなんですよねぇ。

今村有希
はい。

柴山桂太
もうアメリカもある意味ではそうせざるを得ないというねぇ・・・

西部邁
せざるを得ない(笑)

西部邁
そういう状況になっているという意味では、本当に出口がない状況にハマりつつある。

西部邁
うん、そこでね、規制緩和、イノヴェーション、成長戦略・・・これね、安倍さんと言うよりも、安倍さんを取り巻くね、

今村有希
はい。

西部邁
学者、及び役人ですけどね。経済学の教科書しか読んだことのないようなオツムでね、そんなことを言ってさ、蓋を開けたら・・・

[*規制緩和、イノヴェーション、成長戦略をいう学者役人 ]

西部邁
いまご存知?いまの段階で言うとね、アメリカのトランプ、

今村有希
はい。

西部邁
断固TPP反対と!!

[*TPPは酷い協定だと、トランプ氏が断固反対 ]

今村有希
(笑)

西部邁
それでね、民主党の彼は第2候補ですけども、サンダースは中小企業、農民の保護を訴えている。それで(TPP)反対!!それを受けて、ヒラリー・クリントン

今村有希
はい。

西部邁
私も反対と言わされる(笑)

今村有希
(笑)

西部邁
いいですか?アメリカと自由貿易を遂行させるために、TPPTPPと・・・

柴山桂太
うん。

西部邁
・・・やってる日本がね、2年間ぐらい大騒ぎして、肝心の巨大な相手のアメリカが(TPPは)イヤよ、と言ってるわけ。

柴山・今村
(笑)

西部邁
一体この・・・何なんですか、この日本は?

柴山桂太
ねぇ、この数年間の大騒ぎは何だったのかという話ですよね。

西部邁
表現は乱暴ですけどね、ここまで来たらね・・・馬鹿につける薬は無い。

今村有希
(苦笑)

西部邁
馬鹿は死なねば治らない、いや、死んでも治らない・・・という乱暴な言葉ぐらい吐かせてもらせてくれ、

柴山・今村
(大笑い)

西部邁
・・・という切なるお願いで、第2週に入りますんで、宜しくお願いします。

柴山・今村
宜しくお願いします(笑)

【次回予告】「マイナス金利は資本主義の断末魔」② ゲスト:柴山桂太(京都大学准教授)

 

米中露外交の鍵を握る日露関係(ゲスト:一水会代表 木村三浩)〜西部邁ゼミナール〜

米中露外交の鍵を握る日露関係(ゲスト:一水会代表 木村三浩)〜西部邁ゼミナール〜

ゲスト:木村三浩 一水会代表 【著書】「ウクライナ危機の実相と日露関係」(共著、花伝社)、「東アジアに平和の海を 〜立場のちがいを乗り越えて」(共著、彩流社

【ニコ動】
米中露外交の鍵を握る日露関係  2016.06.04

今村有希
今回のゲストは、クリミアに6回に及んで訪問しておられます、一水会代表の木村三浩先生です。5月には安倍総理プーチン大統領と会談致しました。日本が提案した経済協力が評価され、年内にもプーチン大統領が来日する可能性が高いということです。

日本独自の外交のあり方を主張し、活力溢れる行動力を発揮してこられた木村先生に、この日露関係のあり方について論じて頂きたいと思います。それでは先生方、宜しくお願いします。

宜しくお願い致します。

あぁ〜ご苦労さん。宜しくお願いします。僕ね、いいタイミングだと思ったのは、いまアメリカの大統領選でもうムチャクチャなことが起こっていますが、トランプがね、簡単に言うと、「日本のことなんか面倒見ていられるか!自分(のこと)は自分らでやれ!!」と。で、世論調査ではトランプが若干ながらクリントンをリードしていると。

[*トランプ支持がクリントンを逆転、米大統領選の世論調査

えぇ。

で、僕の意見は、実はアメリカに1年ちょっとしか暮らしたことしかないけど、実はトランプが表しているのは、あれはアメリカ人の本質というか本心というか。

うん。

もっと具体的に言うとね、middle-west、中西部ね、及び Poor-Whiteと言いますが、いま中間層が市場競争でどんどん没落するでしょう、それでpoorになりつつある中間層の本音がそれなんです。(=ヨソの国の面倒までなぜ自分たちが見なければならない?)

[*市場競争で中間層が没落、アメリカ人の本質と本心 ]

今村有希
はい。

昔、【モンロー主義】と言ってね、大昔よ。あれね、南米大陸、アメリカはヨーロッパ(※当時の欧州はウィーン体制下)のことには構わない。アメリカ、この場合は(欧州諸国が当時干渉してきた)南米大陸なんだけど、これは俺たち(アメリカ合衆国)の縄張りだ!他は知らん!!

[*モンロー主義(Monroe doctrine):1823年、モンロー大統領(第5代)による宣言(モンロー教書):アメリカ大陸など自国の権益以外の地域には不干渉 ]

今村有希
(頷く)

アメリカって時々、大きく揺れ戻してね、簡単に言うと【孤立主義】に入るんですよね。

今村有希
へぇー。

それはそうでしょうね、ベトナム(戦争)以来、アメリカのやっていることはもう全て失敗ですから。

うん。

いよいよもってね、isolationism(アイソレーショニズム)というか、アメリカはアメリカで勝手にやるんだと。そんなジャップだのコリアだの俺らの知ったことか!勝手にやれ!!あれが本心なんですよ。

[*ベトナム戦争以降の失敗、孤立主義 isolationism ]

今村有希
(うんうん)

となってくると、これから非常に複雑な外交ね、順不同ですが、アメリカ、中国、日本、韓国、北朝鮮は当然入りますけど、それプラスのロシアね、ここで誰がどういうふうに仲良くなるかということは、他のヤツとどう喧嘩が始まるか、またそれがどうなるかという『複雑なPower of Balance(外交)』をやらない限り、日本はもたないと。

いろんな経済的な協力関係をしっかりもった上でロシアとある程度ね、連携すると中国・アメリカを牽制するのに大いに役立つ。

[*アメリカ・中国・韓国・北朝鮮・ロシアと複雑な外交へ ]

(木村を見つめて)もう早く外務大臣に貴方がなりなさい!!

今村有希
(笑)

そんなことあり得ないでしょう(笑)

(笑)

いや、ロシアとですね、基本的に日本は歴史的にそんなに悪くないんですよね、実は。

そうでしょう。

日露戦争を戦いましたけど、日本は勝利しました。で、この日露戦争を戦ったのもですね、逆に言うと、(当時、同盟関係にあった)イギリスから結構いろいろ乗せられて、戦いをおこなってたところもあるんですね。

[*日露戦争 1904-1905年 イギリスはロシアに敵対的外交

日露戦争を戦った後には、日本とロシアとの協商時代、協力関係が10数年続いて、実はその大阪の造幣局でね、帝政ロシア第一次世界大戦を前にして銀不足になって喘いでた時に、国家の主権の一つである通貨を、日本に委譲してですね、製作してたってことがあるんですよ、コペイカ(※カペイカ)という(ロシアの)銀貨を。

[*日露協商時代:1907年に日露協商を締結、1916年にはコペイカ貨幣を大阪造幣局で製造 ]

あぁ〜すごいねぇ。

こういう歴史もあるぐらいですから、かなり(当時の日露は)仲が良かったということも言えるんですけど、その後やっぱりソヴィエトができてからですね、共産主義政権ができてから、日本も第一次世界大戦を勝って、国際連盟の中で常任理事国になって、そして国際協調でソヴィエトを封殺するようになってからよくなくなった。

[*共産主義政権の樹立後、国際協調でソ連を封殺 ]

しかし、戦後も北方領土の地図がここ(黒板)にありますけどね、日本は日本の独自の外交をやってロシア・ソヴィエトとですね、関係をつくろうとした時に、特に56年の『日ソ国交回復』の時に・・・

あぁ〜そうでした。

その時にやっぱりその二島返還でどうだと、果たして引き渡しはどうかと(ソ連側が)言ってきた時に、アメリカの国務長官のダレスがね、日本はそんなんでいいのか?!と。

[*日ソ共同宣言 1956年:国交回復で歯舞と色丹を返還と約束したが、ダレス米国務長官が日本を恫喝(「ダレスの恫喝」) ]

ゴロツキみたいに脅かしたんですよ。

今村有希
「オイ、てめえら!!ソ連と仲良くするんなら、俺たちは沖縄を獲るぞ!!!」という脅かしをかけてね、

今村有希
えぇっ!!(驚)

それでね、鳩山内閣、鳩山さん(鳩山由紀夫)のお祖父ちゃん(鳩山一郎)だね、一郎内閣が慌てふためいて、それで日ソ漁業交渉その他が頓挫していくんですけどね。完全にアメリカにやられてきたんですよ。

(大きく頷く)

今村有希
はい。

これ(※動画の北方四島の地図参照)説明しますとね、こちら根室ね、こちら例の知床なんだけど、これ歯舞ね、ちっちゃな島がたくさんあるんですよ(歯舞群島)、これ色丹、それで国後、択捉、だいたい四島。

今村有希
はい。

ビックリしたのは、色丹を調べたら、この(北方四島)全体の2%(程度)なんだって、面積が。この(歯舞群島の)いろんなの入れたって3~4%。

[*四島のうち歯舞、色丹の面積は数パーセント程度 ]

今村有希
はい。

1875年だから、明治維新の7年後か・・・樺太と千島を交換するという正式な条約を結んで、それが国際法として定着していますからね、これは法律的な領土権から言えば、ぜんぶ日本のものなんだけれども、もう既に戦後70・・・

[*樺太・千島交換条約:1875年(明治8年)日本とロシア帝国との間で国境を確定する ]

1年経ちましたね。

1年(戦後71年)か・・・つまりそのソ連が、いやロシアか・・・「実効支配」しているわけね。人が住んでいて、しかも軍事基地までできているわけね、択捉辺りにはね。それで(外相当時の)麻生さんが提案したのは、取りあえず領土権のことは棚上げにしてね、

今村有希
はい。

統治権としてね、面積の半々。というとね、歯舞、色丹、国後、それから新たな説によると択捉の・・・

択捉島の)6分の1。

1/6、(択捉島の突端を指して)これぐらいかな(笑)これぐらいを日本にして、というふうなね。

[*四島全体の面積を半々に:麻生太郎外相(2006年) ]

うん。

まぁそれで惜しくも可能性は無きにしも非ずというね。

そうなんですよね、プーチン大統領は、あの「引き分け」論というのを言ってですね、この領土問題の解決をどうしようかと言った時に、お互いが引き分け・痛み分けみたいなことで落ち着かせようということを仰ってて。

[*「引き分け」論を提唱するプーチン大統領

で、そこで麻生さんが、まぁ面積の半分で割ったらどうなのか、

ンフッフッフッフー(含笑)

というアプローチをかけて、日ソ国交回復(1956年)の時は二島引き渡しですから、色丹島歯舞諸島で、択捉と国後を入れて四島の中で二島ずつとなるとですね、それは島の数では引き分けにはなるけど、面積で考えたら圧倒的ですよ(笑)

せーぜー4%程度ですよね(笑)

今村有希
(笑)

そうですよね。そうなると、安倍さんが新しいアプローチと言ってますけども、基本的にはこの(2006年当時の)麻生さんのこの面積等分論と変わらない形でね、二島プラスα、国後と何なのか・・・というのがね、解決方法の一つとしてあるんじゃないかな、という気はします。(西部)先生はよく仰ってましたけども、

うん、

その千島列島が18島あって、

択捉島の先を指して)この辺にずーっとある。

得撫島(ウルップ)から占守島(シムシュ)までね、18島で。で、こちら側に樺太があって、南樺太。それはね、戦争(日露戦争)で日本になりましたけども、あとは獲られちゃったでしょう、全部。で、この南樺太と千島列島を一応、サンフランシスコの講和条約の時に日本は放棄したんですよね?

[*サンフランシスコ講和条約:1951年、樺太の一部と千島列島に対する権限を放棄、ソ連は署名せず ]

そうそう。

でもソヴィエト・ロシアに放棄したんじゃなくて、とりあえずアメリカを含んだ国際連合信託統治者に放棄をすると。

そう。

でも、(歯舞、色丹、国後、択捉の)四島はそこ(サンフランシスコ講和条約における放棄)に含まれていないと、いうのが日本の立場。

今村有希
はい。

(択捉の先の千島列島は)この辺ずーっと続いているんですよ。

続いている、アラスカのそばまで、カムチャツカのね。

今村有希
はい。

それを一応、日本は放棄したんですけど、ソヴィエトやその(今の)ロシアに放棄していないんですよ。

今村有希
はい。

ですから、そのじゃあ放棄したけども、国際連合信託統治者は誰なのか?!というふうに言えばね、向こうでちゃんと議論して貰わなきゃいけないことも出てくるんですよね。とりあえず、北方領土問題というと、この四島ということを政府が言っているんですけどね。

だから、この四島の問題を解決すると同時に、『千島列島と南樺太信託統治者は誰なんだ?』ということを明らかにしてくれというと、一番困るのはアメリカなんです。

今村有希
はい。

こんな字を知ってる・・・(「拿捕」と板書して)これは分かるよね?

あぁ〜、だほ(拿捕)ねぇ・・・。

僕ら子供のとき北海道でしょう、

今村有希
はい。

北海道新聞にね、「今日は何隻ソ連に日本の漁船が拿捕」・・・

今村有希
はい。

それ以外のこの「拿」という字を、ぼく何処かで見たことがないけど(笑)この辺り(※歯舞近辺の根室半島沖)で魚を獲ると、ソ連に次々と捕まるわけね。ヒドイ人になると10年、15年、漁師が帰してもらえないのね。だから、僕は「拿捕」という字だけは子供の時から知っている。

[*「拿捕」:他国の船舶などをその支配下におく ]

でも、これにしか利用価値が無い(笑)

ワハハハハ(笑)

北島三郎のデビュー曲でさ、

今村有希
(うんうん)

暁の千島を忍び立ち〜♪というセリフがあるの。

[*『なみだ船』北島三郎

今村有希
はい。

誰も知らないで歌ってるけど、北島三郎のデビュー曲ですから『なみだ船』というね。

うん。

どうして(千島沖へ向けて)忍び立ちするかといえば、要するに明け方(=暁)に静かに立たないとソ連船に拿捕されるわけさ。

今村有希
あぁー。

この辺り(根室や知床沖と北方四島周辺)のスレスレをね、日本の船が網を引いて、「明け(=暁)の千島を忍び立ち」というね、そういう歌もあるぐらい緊張に富んだところだった。

(うんうん)

今はどんどん緊張が解けて、もうこの根室あたりはロシア人だらけなんだってね。

今村有希
へぇー。

実際にはここ(北方四島)に住んでいるのはウクライナ人が多いと聞いたけどねぇ。

ウクライナから来た人が多い。まぁ3000人ぐらいいるらしいですね。北方四島ぜんぶで2万人ぐらい今ロシア人がいるらしいですよ。

[*北方領土(国後、択捉、色丹)に暮らすロシア人約2万人 ]

あぁ〜そう?

国後と択捉と色丹で、全部で2万人と言われてますね。

なるほどね。

となると、5月6日の安倍総理がソチに行ってプーチンさんと非公式ながら会談したことはですね、非常によかったと思います。

[*ロシアが産業振興に期待、安倍首相×プーチン大統領

あぁそうだね。

私はすごく評価していますが、ロシア側の反応と評価が高いんですよ。

あぁ〜。

で、安倍さんが(ロシアに)よく来てくれたということと同時に、9月の初旬にウラジオストクで経済フォーラムが行われるんですけど、安倍さんもそこにも行かれるということで、プーチンさんといろんな合意と言いますか、気心が知れてますし、既に10回か10何回いろいろやってますから。

[*9月にウラジオストクへ安倍首相がロシアを訪問 ]

でしょうね。

それでこの間、ソチで3時間10分、メシ食いながら話して、そのうちの35分は、まぁ2人で話したと。まぁ、新しいアプローチでやるということなんですが、安倍さんの外交を見ていると、この間のソチの訪問と会談はですね、地球儀を俯瞰しながら独立自尊の外交をね、なさっているなと。

[*地球儀を俯瞰するような独立自尊の外交を展開 ]

うん。

既にこの間、医療の問題の8項目をですね、経済協力をやると言って、ロシア側に提案したんですね。で、北方領土問題はもちろんあるけども、その隣人として、プーチン大統領はですね、まぁ安倍総理もそうですけども、パートナーであると。『重要なパートナーである』と。

うん。

(ロシアは重要パートナー)の一つであると、(西部)先生もよく仰ってましたけどもね、そして医療の問題でも提案して色々やっていきますよ、協力しますよと言ったことを言葉だけで済まさないで、実際に5月の23日から、北方領土に住む人々に対する支援事業として、心疾患の子供とか、神経痛の子供をこの北海道の病院で受け入れて治療にあたっています。

[*8項目の協力計画を示し、心疾患医療を北海道で開始 ]

なるほどね

もう子供だけじゃなっくて、早速やってます。

プライベートなことだからあまりオープンにしちゃいけないんでしょうけど、2年ほど前かな、僕だけじゃないんだけど、何人かの老人がね、安倍さんと会うチャンスがあった時に、

あぁ〜・・・

僕はたった一言だけ最後にね、ともかく、いったん安倍・プーチン会談はお流れになったと聞いたから、あれは2年前でしたね、

えぇ、流れましたね。

あの時に、お願いだからプーチン外交だけは手放さないでくれと。ただついでにね、

今村有希
えぇ、

アメリカのチェックが厳しいでしょうけど、と言ったの。

[*『プーチン外交だけは手放さないでくれ。アメリカのチェックが厳しいでしょうけ・・・』 ]

今村有希
へぇ〜。

政治家ってスゴイね、するともしないとも言わずに、言ったことは、ニコッというかニヤッと笑って、「チェックが厳しいんですよ」と。恐らくアメリカのCIAだって何だってともかく(プーチンと会うのは)やめろやめろってね。ともかく自分の手下にしておきたいわけさ、アメリカがね。

今村有希
うん。

独自外交でロシアとやるということは、アメリカにとって不愉快なことなんですよ。

今村有希
はい。

そうですね。

すごいチェックが厳しいんですよと言いながら、僕はその時に安倍さんの顔を見ていて、「やる気だなこの人は」というふうに思ってね、

おぉ〜。

あれから2年ですよ・・・ちょうどね、あの人(安倍総理)はついているというか、アメリカもゴチャゴチャでしょう、大統領選でね。

うん、フッフッフッフー(笑)

トランプが(日本は)勝手にせいと、

ワッハッハッハッハー(爆笑)

言うんだから、じゃあ(日本は)勝手にやらせてもらいますと、いうぐらいのもんでね、

うん(笑)

良いタイミングで(日露外交を)始めているわけですよ。

うん。

冷静に評価しないとね、最近なんか、安倍には困ったもんだ、みたいなね、時候の挨拶みたいにして言っているみんなね、右も左もね。

今村有希
うん、はい。

まぁそれに一理か二理かはあるんでしょうけど、でもそれ以上にね、全体状況を見渡した時に、今のロシアと特に経済関係を中心にある堅い関係を持つということは、尖閣だろうが何だろうが、アメリカが日本のために何かやってくれると思うのは本当にお馬鹿さんの考え。アメリカは何もしませんよ、(アメリカにとっての)対中国関係もありますからね。

[*全体状況を見渡した、ロシアとの堅実な経済関係 ]

うん。まぁ、安倍さんの基本的スタンスは、『日露平和条約』をね、

そうだよね。

えぇ、締結しなければ、戦後体制がそのまま継続されてしまう、と思っていますからね。

[*日露平和条約締結せねば、戦後体制がそのまま続く ]

だって、1951年のサンフランシスコ講和条約か、あれには当時のソ連は調印していないんですからね。

[*サンフランシスコ講和条約ソ連は調印せず(1951年) ]

そうですよね。

ということは法律的に言うとね、第二次世界大戦のまぁ末期に、(日ソ中立条約[相互不可侵]を一方的にソ連側が破棄して)ソ連が参戦してくるんだけど、その状態は法律的には終わっていないわけよ。

そうです。

だから、どうしても(ロシアとの)平和条約が必要なんですよ。

今村有希
はい。

それを安倍さんがやろうとしている。

そうですね。それはかなり本気でやろうとしていますから、ある意味でそういう安倍さんのスタンスはね、

うん、

ちゃんと見て支持したり、またね、いろいろ足りないよというところは、また(西部)先生なんかが言っていただければいいんですけど。

しかもね、僕は行ったことはないんだけども、この辺りは実質的にね、根室なんてのはロシア人だらけですって。

うん、

もう街の人の10人のうち7、8人はロシアでみんな大きな買い物してさ、

今村有希
はい(笑)

もう始まっちゃっているのね、この辺り(北方四島に移住してきたロシア人と北海道東端部)の交流は。

平和条約を締結すると共に、やっぱり四島問題をどうするか。後は、ここ(四島)が返ってきた時に、(そこに)日本人が住む覚悟があるのか。ということとですね、次はこの北方四島の中で安倍総理にはプーチン大統領と日露首脳会談をここでやっていただくということがね(笑)、できれば面白いのかなと思いますけどね。

[*日露平和条約締結と領土問題と日本人の覚悟 ]

「住む」ということは、国後・・・

国後ですね。国後で(日露首脳会談を)やるべきでしょうね、是非ね。

まぁ小さい声で言うけど、日本人なんかもう(北方四島に)住む気なんかないんじゃない?

今村有希
ンフフッ(笑)

日本人が?!

寒いからとか言って。

うん、寒いからとかね。でまた、自然がまた不動産屋さんとかいろいろいって開発されて、自然が損なわれちゃう可能性もあるし(笑)

(笑)

まぁ、いずれ日本になってもらわないと困るところで、早く平和条約を締結して。

子供の時に、やっぱり北海道が若干緊張があったのは、樺太もこっち(千島)もそうだけど、グーッとソ連(軍)が来るでしょう、

今村有希
はい。

ソ連は、北海道の半分をよこせ!と言ってたんですよね。それでね、留萌から釧路にかけての北海道の斜め横に切ってね。で、アメリカはそれに断固反対して、僕は札幌近郊でしたが、アメリカ軍が来るのはすごい早かった。僕の家の前の国道何号線はアメリカのジープ、トラック、戦車がバンバン走って、まぁ旭川、北海道の北方に行くんですけども、それはね、実はソ連が来ると、それをアメリカが北海道を(ソ連に)渡さないというので、北海道なんか大東亜戦争の時になんも関係無いんですけどね、もう戦争が終わった直後から、北海道では一種の米ソ冷戦構造が始まってた。

[*ソ連は米国に対して北海道の半分を要求(1946年) ]

うん。

でもね、ようやくあれからもう70年ですからね、いわんやアメリカが日本のそんなこと知らんよ、と言ってくれてるんだから(笑)

今村有希
(笑)

チャンス!!(笑)

今こそいいチャンスでね(笑)

チャンスですね。

しかもシベリアね、僕はあんまり経済のことは関心が無いけど、ロシアは経済制裁も受けているし、シベリア開発その他も必ずしも順調に行っていないしでしょう。

今村有希
はい。

どうしても日本の技術力その他が(ロシアは)必要なんですよね。

[*経済制裁を受け開発進まず、日本の技術を必要としている ]

毎日、日本だってね、イノベーションイノベーション言ってるけど、(それで)一向に日本の景気なんか良くなるわけなんかないんですよ。

(うん)

僕はね、日本の景気がどうなろうと大して関心はありませんけど、もしも日本の経済のことを論じるのならば、ロシアのね、樺太もそうだけど、シベリアもそうだけども、

今村有希
はい。

それに対して堅実な協力をしていくということは、日本の経済にとっても非常に有利な条件なんですよね。

[*ロシアとの堅実な経済協力は日本の経済にとっても有利 ]

そうです。

そういうことが何にも出てない。新聞の片隅にちょこっとあるぐらいでしょう。

そうですね。シベリアにもいま中国人がドンドン流入していって、

そうだよね。

シベリア地域はロシアの1千万人ぐらいの人口があったんですけど、いま減っちゃったらしいんですよ。

本当?

えぇ。それでそれに変わるのが中国の人が来ているのだけど、ロシア人は(それを)怖がっているんですよ。

[*シベリアの人口は減り続け、国境を越え中国人が流入 ]

そうでしょうねぇ。

えぇ。もう何でも(中国人に)盗られちゃうんじゃないかってね。怖がっているから、こういうところにね、ちゃんと日本が協力してね、行ってあげて、関係を強化するというのも国際政治の中でのね。で、ロシア人自身も中国ばっかりに我々が加担しちゃうのも良くないと。やはり日本ともやりたいということも言っていますからね。

そうでしょう。Balance of Power Politics ってあるんだけども、

今村有希
はい。

19世紀のナポレオン戦争の後のようなそういう口先三寸のあれでは上手くいかないでしょうけど、これからね、Super Powerと言っていたアメリカが凋落していく、(かつての)ソ連も崩壊したと、その後ではね、やはりある種のBalance of Powerということは、幾つかの国と巧みに、中国語で「合従連衡」というんですけどね、

うん。

今村有希
はい。

これと付く、あれと離れるという調子のそれの微妙な外交術をこれから展開される必要があって、面白いといえば面白い時期なんですね。

[*Balance of Power:19世紀欧州の国際秩序の維持、ナポレオン戦争で瓦解するが勢力均衡の枠組みは残る / ソ連崩壊、米国凋落で巧みな外交展開が必要な時 ]

その先頭に立って彼(木村三浩)は・・・

今村有希
はい。

行ってるわけですよ。(木村)先生!!

はい!

今後とも頑張って下さい!!

どうもありがとうございます!!

今村有希
(笑)

翌週から3回に渡りまして、マイナス金利、ネガティブ金利は資本主義の断末魔であると。これについて日本のマスメディアはほとんど一切気付いていない。この馬鹿げた状況について警鐘を鳴らせて頂きます。ご期待ください。

【次回予告】「マイナス金利は資本主義の断末魔」 ゲスト:柴山桂太(京都大学准教授)

刺激・便利・流行めぐり「現代若者論」 ② ゲスト:中森明夫(作家、アイドル評論家)〜西部邁ゼミナール〜

刺激・便利・流行めぐり「現代若者論」 ② ゲスト:中森明夫(作家、アイドル評論家)〜西部邁ゼミナール〜

ゲスト:中森明夫(作家・評論家)、1959(昭和34)年 三重県出身、著書には小説「アナーキー・イン・ザ・JP」三島由紀夫賞候補、「アイドルにっぽん」、「午前32時の能年玲奈」、【近著】「寂しさの力」(新潮新書

【ニコ動】
西部邁ゼミナール)現代若者論【2】2016.05.14


今村有希
前回に引き続きまして、作家で評論家の中森明夫先生にお越し頂いています。テーマは「現代若者論」です。

これまでの理論では、若者が恋愛をしなくなった理由について、危険を超えた危機に身を投じなくなったから、女性にとって男が魅力的に映らなくなった。つまり、『戦争をしなくなったからじゃないか?』という大胆な発言も飛び出しましたが、今回は中森先生と西部先生から一体どんなお話がお伺いできるかとても楽しみです。それでは先生方、宜しくお願い致します。

宜しくお願いします。

今週もお願い致します。僕は若者の知識がゼロなんだけど、

今村有希
はい。

何ヶ月か前にある酒場でね、ちょっとショック受けたことがあるの。

今村有希
はい。

話したこともない若者からね、向こうは僕の顔と名前を知ってるかもしらん。突如、この距離(西部と中森の距離)でしたね。

はい。

先生はまだセックスしてるんですか?と聞かれたの。
[*初対面の若者との出来事、「言葉」「会話」のチカラとは ]

今村有希
え、えぇ〜!!(驚)

最初の会話よ。

今村有希
はい。

僕もっと昔で元気でしたらね、あんた1日に何回マスターベーションしてるの?とね、

うんうんうん。

今村有希
はい(笑)

聞き返すところだったけど、もうそんなケンカやる元気も無いから、とんとご無沙汰ですなぁ〜と言って、数分後にその場を離れたんですけど。

今村有希
私も劇団の仲間とよく(酒場に)行くんですけど、

あぁ、行く?

今村有希
はい(笑)なんか会社員の、ビジネスマンの方々が、ワリと会社の噂話とかをされているのを見てちょっとウンザリしちゃうなってことはあるんですけど、はい。

という次第で、中森さんね、今日は若者・・・若者に限らないんだけどね、

今村有希
うん。

日本人も含めて、「言葉」とか「会話」とかね、そういう力が五月蝿いワリにはね、なにか「力ない言葉」・・・噂話みたいなね、会社話みたいなさ、

今村有希
はい。

そういうのが増えすぎているということについて、中森先生にも教えを乞うと。

ぼく物書く仕事しているでしょう。

今村有希
はい。

そうすると、出版社というところへ行くわけですよね。で出版社、あるアイドルかなんかの写真を作っているようなその編集部なんですけど、こうパッと見たらですね、なんか変なね、中に置いてあるような資料とか何とかが、入り口のところにこう山積みになっている。それでそこの編集長に、これ一体何なの?と聞いたんですよ。「あぁ〜これね、新入社員の青年に、こっちにあるものをちょっとそっちに片付けといてくれよ、適当にやっといてくれよ、と言ったら、全部こうね・・・」(※元から山積みされた状態のものを、そのままの形で整理することもなくただ場所移動しただけ)

ブワッハハハー(笑)

今村有希
(笑)

分かるでしょう?片付けろというのに、全部これをこう・・・(頼んだ編集長が)くいっと見たらギョッとするようなことになっていた。それは何を言いたいかというと、彼はこう言ってました。ある時から新入社員が、まぁ適当にやっといてくれとか、うまくやってくれ、という言葉が通じなくなった。

あぁ〜。

もしこれ移動するんだったら、これぐらいのをこれぐらいにってそれこそね・・・。

西部・今村
(笑)

先週の(西部が名付けた)「スマホ人」じゃないですけど、全部マニュアルとして打ち込まなければならない。

西部・今村
あぁ〜。

つまり、適当にやっといてくれ、その辺うまくやっといてくれ、という言葉が、若い社員にはもう通じなくなったと言ってたことを思い出しました。

[*「“適当”片付け」と指示、若者に通じない言葉の意味 ]

なるほどねぇ・・・。全体状況が見えなくなったということなんでしょうね。

今村有希
うん。

例えば、このゴミみたいになったものを適当に、という意味は、やっぱり全体を住み心地の良い
オフィスにしてくれってことを含んでいるのにそれが分からないのね。

あの言葉それ自体ではなくて、

今村有希
はい。

つまりは「関係性」とかね、

そうだね。

或いは、その「場」の何かとか、そういうのというのは実は、学校で定期的に、況してやスマホで情報的には伝わらないじゃないですか。

そうですよね。

知識は得ても、人間関係で初めて出会った人に対してどう対応するかという「経験値」だとか、

今村有希
うん。

あと「世間値」とか、どういうとこで育っただとか、

そうだねぇ〜。

或いは、その社会全体が成り立ってなければ、それを適当にやっておいてくれの「適当」が伝わらなくなりますよね。

今村有希
はい。

それは若者だけの問題ではなくて、

そうそう。

そういう社会で育った、覿面にそれは「言葉」とか、普段喋っている言葉とか「対応」に出てくるもんだなぁというふうに思いましたけどね。

[* 人間関係における初対面で、経験が言葉や対応に出る ]

あるところでカウンターで飯を食べてたの。隣の客がひとり客でした。突如ね、目の前で働いているコックに(目を合わさず)スマホ見ながら、

今村有希
はい。

「ロンドンマーケット荒れてるぞ!」と。まぁこう株の乱高下があったんでしょう。

今村有希
はい。

そしたら立ち働いているコックが、あぁそうですか、と。・・・一体この会話に何の意味があるのかねぇ(呆)

[*スマホ見ながら店員に意味のない客の会話 ]

今村有希
ウフフフフ(笑)

う〜ん。

どう見たってね、その客も貧しそうで、コックも貧しそうで、(見た目に)どんな株の一枚も持っていない。

今村有希
(吹き出す。笑)

けどしかし、他に会話が無いから、

今村有希
無いからあぁ〜。

ロンドンマーケット荒れてるぞ、とこう言ってしまうというね。

う〜ん。なんでビジネスマンの会話が空疎に聞こえるかというと、

今村有希
うん。

自分と何の関係も無い話を、テレビで聞いたことをパッと(他人に)言うとか、

今村有希
あ〜あ!ハイハイ。

だから、言葉に何か切実さとか、そういうものが何にも無いんですよね。

[*言葉に何の切実さもない、ビジネスマンの空疎な会話 ]

そう。

でもう一点、僕のさっきの「適当にやっといてくれ」が通じなかったり、(西部)先生がある違和感を感じることの一つとして、「空気を読む」ということがあるわけですよね。

今村有希
はい。

で、「空気を読む」のはワリと若い人の方が読んでいるんですよね、すごく仲間ハズレにならないように。

うん。

今村有希
(うん)

僕は別に空気を読むことはいいのだけれど、前々から言っているんですけど、その空気と日本人にとって大事なのは、その「程(ほど)」というのがあると思うんですよね。程々(ほどほど)にしておくと。

[*「空気を読む」若者多いが、ほとほどが大切である ]

そう。

イジメだって程々にすると。

今村有希
はい。

だから、何か今ね、若い人ほど何かイジメが発生すると、昔だってイジメとか何とかありましたよ。でも死ぬまでやらなかった。

今村有希
うん。

(今は相手が死ぬまで)イジメをやっちゃう。或いは、社会がね・・・僕はメディアってスゴイなと思うのは、最近、インターネットなんか見ているとネットの世界ではとにかく誰かがスケープゴートを挙げてワァーと(集中砲火)・・・炎上と言うんですけど、イジめるんですね。

[*誰かがスケープゴートにされネット上で炎上する ]

あぁ〜。

今村有希
はい、一気に。

それと、最近のまぁ自分が関わってて言うのもなんですけど、週刊誌のね、

あぁ〜。

まぁ名前は出しませんけど、『週刊文春』ってありますよね。

ワハハハハ、そんなものがあったっけね(笑)

今村有希
(笑)

週刊文春がスゴイ大好調ですよ。「文春“砲”」、大砲の「砲」(の字)で。

おぉ。

文春砲という言葉がいま流行語になろうとしている。

今村有希
へぇ〜。

何かというと、文春が出たお陰で、不倫事件で議員を辞めるね。

(※余談ですが、金子恵美議員は丸川現大臣とこのゼミに過去に登場されましたね。笑)

今村有希
はい。

タレントは引退寸前まで追い込まれる。何するって“文春砲”がこう炸裂すると。

[*議員やタレントの不倫 “文春砲”が炸裂する ]

炸裂(笑)

僕はもう週刊誌が売れてくれないと食えないんですけど、余りにもね、最近のその一つの言説が週刊誌で出て、それがネットから世間までワァーとなって、で「不倫」というのは読んで言葉の如し「倫を不」だからダメなんですよ。でも、こんなにね、桂文枝師匠までね、

今村有希
ンフフフフ(笑)

そうなの?(笑)

落語家の桂文枝師匠までもう不倫でどうだ?って。

何とかって議員の話、それは(妻である金子恵美議員が)産休とったことも知らなかったから娘に聞いて、何でこんなに騒いでるんだ?と言ったら、その産休を要請して、その間(夫側の)その議員は不倫をしていたと(笑)これはバカな奴だなと思ったけどね、

若い自民党の議員でしょう?

そう自民(笑)

結構イケメンのね。

うん。ある野球選手がね、なんか覚醒剤をやっている。それを何も僕は認めないよ。僕もね、大昔に、昔だけど実験的にやってみたことがあるけど。

でも、僕のどっかの原則はね、それで人を刺したとかね、それで何か起こらない限り、咎めるのもいいし、お止めなさいと、おバカさんねと表現してもいいけど、みんなして拠ってこぞって、

そうそうそうそう。

何?何とか砲?

文春砲炸裂で(笑)

砲弾が炸裂してさ、で、ある一定期間経ったら、ハッとあっという間に終わっちゃうのね。誰も覚えていないという。

[*よってこぞって騒ぐ砲弾炸裂も、誰も覚えていない ]

今村有希
はい。

そうそうそう。兵どもが、みたいな感じで(笑)

何なんだと(笑)ところでさ、étiquette(仏語:エチケット)の語源知ってる?

今村有希
知らないです。

これわかるでしょう?ticket(é-「tiquette」)って。

今村有希
あぁ〜ticketって、切符?(切符のジェスチャー)

切符、うん。

今村有希
はい。

それ(ticket)から来ているというんですよね。人付き合いの、この3人で言えば、やっぱり「場」があってさ、その中に入るためには「切符」が必要でしょう?

う〜ん(唸る)

今村有希
はい。

それと同じように、人間関係、集団でもいいけど、そこに入る時に何かこう出さないといけない切符。(ticket→が、é-tiquette)

[*étiquette 語源は「切符(ticket)」 人間関係に入る時の「ticket」 ]

う〜ん。

ただこれが難しくてね、

今村有希
はい。

中森さんが言った「状況」ということなんだけど、ある場では、あんまりやりすぎると慇懃無礼徒となるでしょう。

あぁ〜そうですねぇ。

例えばね、ある場合では、僕が先ほど出したような例では、俺が若けりゃ、うるせぇこの野郎!!と言ってもいいわけね。

今村有希
うんうんうん。

この切符(ticket)の具体的な姿はね、

難しいですねぇ・・・

今村有希
難しいですね。

状況何れかでね、ひょっとしたらなんぼ言うとね、殴っちゃうのがticketって場合だってね、あり得るんですから(笑)

[*人間関係の「切符」出し方、その状況いかんで決まる ]

あっ!乱暴な言葉が一つのそこの礼儀みたいな。

そうそう。そこは難しいからね、俺なんもそれ以上のことは言わないけども、そのためには何か「経験」ってものが必要なんでしょうねぇ。

経験とか、最近、若い人たちがインターネットとかメールで、手紙で文章を書かないから、

今村有希
あ〜書かないですね、えぇ。

それでたまに僕なんかが、ある女子大生なんかが、是非こういう講演をして下さい、取材をさせて下さいと手紙で来たことがあって、

今村有希
はい。

あぁ〜感心だなぁと思ってね。ちゃんと手紙の何とかを見て書いたんでしょうね、前略なんとか・・・とか、何とかかんとか。

今村有希
はい。

それでね、最後そのね、「中森先生の御活躍を草葉の陰からお祈りします」と、ワハハハハハ(笑)

ワハハハハ(爆笑)

そうなっちゃうんですよね(笑)下手にこのチケットを知らないと。

チケット、草葉の陰で?(大笑い)

今村有希
(笑)

まぁ男性・女性と分けるわけじゃないのよ。(黒板に直線を真一文字、左右に一本引いて)まぁ、横軸は事実的な繋がりだと思ってください。

今村有希
はい。

女性の特徴はね、なんかこの「事実」にこだわってね、あの人はさー、とか、あの人の髪の毛はさーとか、あの人の旦つくはとか、まぁ旦那(=旦つく)ね。事実についてはものすごい表現能力が、男よりかは優れてるのね。

[*“事実”に関する事柄について、表現能力に優れる女性 ]

今村有希
はい。

この両軸はいろんな事実を「同一化」する、細化というかいろいろと区別するのね。これが揺れてるのは事実ね。

うん。

ところが、男が比較的優れているのは、こちらの垂直軸(縦横に直線を横軸の線と垂直になるようXYグラフのように引く)でね、これは上の方は宗教とか何かと「理念」的なことね。抽象的なこと。あいつの言ってる哲学はさーとかね。

うん。

今村有希
はい。

それからもう一つはね、この反対側は「身体性」というか、男は結構ね、女性は自分たちの身体に敏感だという自信があるから、あんまり自分の身体はお化粧以外にしないのだろうけど、

今村有希
はい。

男たちはね、身体的におかしいでしょう、この二人(西部と中森)見てたって?

今村有希
フフッ(笑)

髭があったりさ、いろいろとね。

今村有希
はい(笑)

自分の身体に何か問題を感じているから、この感覚は何処から来るのだろうというね、この縦軸に発達しているんですよ。

[*“理念”(哲学)と“身体性” 縦軸方向で発達している男 ]

今村有希
へぇ〜。

[*横軸(X方向)と縦軸(Y方向)があって、女性は横軸(X軸)方向で、女性の特徴として「事実」にこだわるが、その様々な事実を「同一化」するので、事実と同一化を横軸方向の両軸に置く。それに対して男性は女性の横軸に垂直に交わるような縦軸(Y軸)方向で、上下両軸の上方向は「理念」(若しくは抽象)をとり、下方向には「身体性」をとる。くわしくは動画を参照ください。]

やっぱり、酒場で変なのはね、僕の好きな集まりはこうだな・・・5人の集まりだとしたら、そのうちの一人か二人は女性がいて欲しいの。

うん。

今村有希
へぇ〜。

少数派でいい。まぁ2.5人でもいいですけどね(笑)

いや、先生のまわり女性ばっかりですよ。

今村有希
(笑)

でも酒場行くとね、

今村有希
はい。

男だけの集まりとかさ、女だけの集まりとかってのも結構目立ちますよねぇ?

[*男女がどちらかだけの集まり酒場で目立つ ]

女子会とか、

女子会!?(笑)

今村有希
アハハハハ(笑)

いや本当に分かれて、女子だけでしかなかなか話せないあれがあってという。

僕の場合で言うとね、男って得てしてこっち(縦軸方向の「理念」と「身体」)に行っちゃうでしょう。

今村有希
はい。

なんかわけのわからない抽象的なとこまで来ちゃったなという時にね、ふと周りを見るとですよ、女ってのは、「何なのその難し気な屁理屈は?!」って顔があるから、

今村有希
はい(笑)

何か女性の目付きとか反応で、自分自身を修正出来るのね。

[*抽象的な話題も女性の反応で方向修正 ]

今村有希
へぇ〜。

フェミニンなんですよね。ある時ね(西部を指差して)「フェミニズムの敵として」、

西部・今村
(笑)

荒らされてたけど、実は実際はものすごく優しいしあれだと思う。

今村有希
うん(深く頷く)

むしろ僕は若い人の方が全然ホモソーシャルで、

ワッハッハ(笑)

男ばっかで、あのオタク世代の連中たちって見てますけども、男ばっかりで飲んでるんです、これが。

今村有希
ふう〜ん。

ほんとこれ昔話ですけどね、外国に2年居て、イギリスから帰ってきて行ったのがビアホールでした、大手町方面の。夕方5時か5時半か忘れましたが、大きなビアホールで収容人員500名でしょう。本当に恐怖を感じたのは、大手町ですからサラリーマン街ですね、その500人ぐらいが満杯になって全員男なの。

おぉ〜!スゴイですねぇ(笑)

全員(男)。まぁあの辺りは高給(取りの)サラリーマンなんでしょう、何処を探しても女性の姿が1匹も見つからないというね。

今村有希
へぇ〜。

あの時は何か、スゴイところに帰ってきてしまったなぁ、という。

う〜ん。この話(女性男性を横軸縦軸に準えた話)ってすごく面白いなぁと思ったんですけど、

今村有希
うん、

なぜ女性が「事実」で、男が「観念」なのかというと、やっぱりどう考えても、それは(女性は)子供を産むからだろうなぁと。

うん。

今村有希
(頷く)

むかし三島由紀夫寺山修司が対談してね、こういうことを言ってましたね。『女性は時間に遅れてくる権利があるんだ』と。これは三島さんだったと思いますけど。

[*「女性は時間に遅れてくる権利がある」三島由紀夫

うん。

何故ならば、自分が生理の時間を持っているわけだから、時間感覚というのは外部に求めなくても自分の身体の時間に合わせればいいんだと。

今村有希
へぇ〜。

で、男はそれ(自分自身の生理の時間)が無いから高い時計を買いたがるとかね。

今村有希
はー。

で、高い時計というのは、これは「観念」みたいなものだから、

まぁそうだね。

ということは何かというと、やっぱり男性は弱いわけですよ。というのは、生物的に言えば女性と精子さえあればいいわけですね。

うん。

そうでしょう?人工授精出来るんだから。

今村有希
はい。

精子的価値しかない男性」が、何とか自分たちの存在意義をもう社会としてあれしなければいけないから、(グラフを指して)「観念」とか、

戦争しよう!

「戦争」してみたりとか。僕その(男性故の)弱さをね、特に日本の男性ってのはレディファーストも無いし、もう奥さんをお母ちゃんってなっちゃうわけですよ。

今村有希
はい。

弱さに対して、もっとちょっと(男性自身が)自覚すれば、男性も女性も(西部)先生が言うように対等に。

今村有希
(うん)

そうねぇ。ですからね、男女が関係無くしてしまうと、例えば、分かりやすく言うと、女性たちがこういう言語社会(縦軸の無い、横軸の「事実」だけの言語社会)作っちゃうでしょう。

今村有希
はい。

そのうちにね、人間には記憶力の限界がありますから、昔に言ったこの辺りのことを忘れてね、あの人たち嫌ね〜、或いは、あのケーキとこのケーキのどこが違うの?、みたいなこういうなんか宙に浮いた話になってくる。

[*女性だけだと断片的事実の宙に浮いた話になりがち ]

今村有希
(笑)

男も同じでね、男だけに任せておくとこれだけ(縦軸だけ)が残ってね、やってることは急に酒場でね、ポストモダンがどうとかね、ジャック・デリダがどうだとか、うるせーよと。あるいはまだこっちもあるんだけど。

[*男だけに任せると、理念や身体性の断片に偏る ]

今村有希
フフフ(笑)

うん。あの僕はやはりね、日本の男というのは高尚のような事を語っているように見えて子供っぽいと思っていて、

今村有希
はい。

で・・・僕はアイドル評論家の身だからあんまり言えないんですけど、グラビアアイドルってあるじゃないですか?

今村有希
はい。

よくひと頃あれした。で、みんな見ると大体パターンが同じなんですよね。ものすごい童顔でものすごい巨乳なんです。

ほぉーあぁそう(笑)

今村有希
はい(頷く)

だいたい日本の男が好きなのは、子供顔で胸が大きい人。これは何かというと、典型的に何かって言うとね、日本の男性はだいたい『ロリコンでマザコン』なんですよ。

 西部・今村
あぁ〜。

分かります?顔が子供でオッパイがママなんです。

[*日本の男はロリコンでマザコン、女性との対等関係が苦手 ]

あぁ〜。すごい説明だね、分かりやすいねぇ(笑)

今村有希
(爆笑)

対等な女性関係が苦手なんですよ。だから、西欧のいわゆるカッコイイ女性、あぁいう人、キャリアウーマンで何でも出来て。

今村有希
強さに押されちゃうんですか?

ここにいますでしょう、西部先生は珍しいなぁと思っていて、例えば、僕ら酒場に行くじゃないですか。そうすると、今村さんとかに「今村さん」とこう言うんですね。対等なんですよ。

今村有希
はい。

(笑)

こういうタイプの人って、だいたいお酒飲むと、どんな年下の女性にももうオネーチャンなんて言い出す。

いや、僕はお嬢さんと言うよ。

一同
(大笑い)

本当のことを言うと、「会話」ってね、(ちょっと黒板が)汚くなっちゃったけど、男女が付き合ってると、この辺りのことがなんかね、まぁ「円形」(X軸とY軸が交わるところを中心点として円状のものができる)ほど上手くいかないけれども、

中森・今村
うん。

水平(女性の横軸)も長さを持つし、垂直(男性の縦軸)もある高さを持っていて、この範囲になんとなく“落ち着き”とか“面白さ”というのはこういうことなんですね。

[*会話の落ち着き面白さは、男女の垂直と水平のバランス ]

えぇ。

今村有希
はー。

あんまり(中心点から離れた)端っこまで行ってさ。

今村有希
えぇ。

あの、いま仰るようにその女子会なら女子会、オタク趣味の青年ならオタク趣味の青年、『タコツボ化』って言うんですか?

あぁ〜。

こう混ざらなくなっちゃいましたね。混ざらなくてもいいような感じになっちゃって、つまりは趣味のサークルをネットで探して、それで上司なんかと呑むと、まぁ上司ったってロクな上司じゃないんでしょうけど、すぐねパワハラみたいなことに持っていかれちゃうし、

うん。

こういうふうに(横軸と縦軸が)混ざり合って、それこそコミュニケーションで「中庸」を求めるみたいな感覚が極端に失われているかもしれませんね。

あぁ〜そうだね。ただ時々ね、そうは言うものの、あれイギリスでさ、紳士クラブとか淑女の、男女こう分かれる時があるでしょう?

中森・今村
はい。

あれもまた必要な時があるのよ。男と女の間には、亡くなった・・・野坂さん?

野坂さん、野坂さん!

「男と女の間には深くて暗い川がある」(※野坂昭如「黒の舟歌」)みたいなね・・・


今村有希
はい。

(男と女は、野坂の歌の如く)やっぱり通じないところがあるの。時々ね・・・(渋い表情で)男と付き合いたいと。

今村有希
アッハハハ(笑)

う〜ん(頷く)

ジェントルマン・クラブでさ(笑)

うん、あります。

女性もさ、そういう時あるだろうとは思う。

今村有希
はい(笑)

だから、のべつ幕無しに男女が交流すればいいとも思わないから、そこらへんが難しいか。まぁ兼合いですけどね。

今村有希
はい。

まぁでもそういうふうに違うから、コミュニケーション出来るって面白さがあって

そうそう。sociabilities(ソーシャビリティーズ:社交)、どういうわけか複数(形)で使うらしいけどね、

今村有希
はい。『社交の場が我々を有り余る魅力で惹きつけるのは、我々を益々激しく苛もうとしてそうするのである』(ホセ・オルテガ)というね。

う〜ん。

これオルテガって人なんだけどね。

なるほど。

今村有希
はい。

やっぱりその「社交」というのはね、単に楽しむ場じゃないんですよね。

うん。

やっぱりそこで、ある苦しみ、不愉快、なんかそういう快楽と苦痛ね、

今村有希
はい。

快苦微妙にバランスをとらなきゃいけない場所で、『人間性の訓練の場』なんですよね。

[*社交の場は快苦のバランス、人間性を訓練する場 ]

うん、放っとくとね、ドンドン楽な方に行くわけじゃないですか、さっき言ったようにスマホひとつ持っていればなんでも出来る、便利だ。でもそれが、便利であることが豊かなことかと言えば、違いますよね。

[*スマホひとつで何でも出来る、便利さと豊かなこととは違う ]

そうですよね。

苦も受け入れることによって。

そうなんですよね。だから、スマホってのは何か、あそこに全て世界の情報が入っていると、自分で世界を弄んでいるつもりだけど、結果として言えばね、これ(=スマホ)が世界だとしたら、世界に弄ばれてさ、自分が(横軸縦軸の)あっち端こっち端、上にも下にもぶっ飛ばされてしまって何もかも忘れましたとみたいな。

[*スマホで世界を弄んでいるつもりが、自分が弄ばれている ]

今村有希
はい。

でも、それは誰が悪いんでも無いね。

うん。

思う。何か人間というものの奥底にそいういうね、何かやっぱり“便利なものに群がる”とか、“刺激的なものを求める”とかさ、もっというと“簡単なものに飛びつく”とか、何かこう旧石器時代から人間の背中にそれが埋め込まれていて、

[*“便利さに群がり” “刺激を求め” “簡単なものに飛びつく” (旧石器時代から人間の背中に埋め込まれている) ]

今村有希
はい。

それを自覚するのはどういうわけか、旧石器時代から中森先生のような、・

いやいや、

少数派だけ。僕もそうなんだけど(笑)

今村有希
(笑)

僕はそれは、そういういものに対して当たり前のことに対して真に疑う知性というか、そういうのが僕は「若さ」だと思っていて、

[*当たり前なものに対して真に疑う知性が若さ ]

今村有希
うんうんうん。

それで、西部先生なんかを聞いてると「永遠の若者」だなぁと。

今村有希
へぇ〜(笑)

若者と言ってるよ(笑)

真の意味での若者だなぁというふうにして聞かせて頂きましたけども、今日は本当に。

僕は左翼運動をやっていた、もう60年も前よ。

今村有希
はい。

「若者よ〜♫」という歌を聞いたときに、僕ね、まだ19、20歳だった。


今村有希
はい。

どうみても僕の耳には「馬鹿者よ〜」と聞こえてきてさ(笑)

中森・今村
(笑)

後は「身体を鍛えておけ」と言うんだけどね、馬鹿者が身体を鍛えたらロクなことが起こらないなというふうに、(当時の)若者の僕は思ってた。

うん。

なんかそういうこう自己批評って必要ですよね。

うん。

ということで・・・

中森・今村
はい。

2回目、いろいろ面白いことをありがとうございました。

はい、ありがとうございました。

今村有希
ありがとうございました。


「現代若者論」選挙権・スマホ・会話 ① ゲスト:中森明夫(作家、アイドル評論家)〜西部邁ゼミナール〜

「現代若者論」選挙権・スマホ・会話 ① ゲスト:中森明夫(作家、アイドル評論家)〜西部邁ゼミナール〜

ゲスト:中森明夫(作家・評論家)、1959(昭和34)年 三重県出身、著書には小説「アナーキー・イン・ザ・JP」三島由紀夫賞候補、「アイドルにっぽん」、「午前32時の能年玲奈」、【近著】「寂しさの力」(新潮新書

【ニコ動】
西部邁ゼミナール)現代若者論【1】2016.05.07


今村有希
今回のゲストは作家で評論家の中森明夫先生です。前回お越し頂いた際には中森先生が上梓された『寂しさの力』(新潮新書)を紐解きながら、人間に付いて回る運命や宿命的なモノとは何か?それを知ろうとする努力不足に陥っている現代人の問題点から若者たちの恋愛事情まで語って頂きました。

サブカルチャーと言われる若者文化にも明るい中森先生が世の中の変化が目まぐるしい中で、非常に面白い「現代若者論」を繰り広げてくれることと存じます。それでは先生方宜しくお願い致します。

宜しくお願いします。

宜しく。何か、中森さんに質問がある?

今村有希
ハイ(笑)先生方は、あの選挙には真面目に行かれてますか?

あっ、僕も入ってるの?

今村有希
は、入ってます(笑)

僕はほとんど行きませんね。

今村有希
あら?

一回、ちょっと行ったことがあるかな、魔が差して・・・行ったことがあるかぐらいで。

今村有希
そうですか(笑)

事情があって、最初に投票用紙が来た時にね、

今村有希
はい。

独房に入れられてたんですよ。

うん。

独房から投票するのは屈辱と感じて、拒否したの。

今村有希
はい。

その後、住所不定になって投票用紙が来なかったの、10年ぐらい。不定というか移動し過ぎてね。

ほぉ〜。

今村有希
はい。

そのうちに(投票に行かないのが)習慣性になっちゃってね・・・小さい声で言う、投票したことがない(笑)

おぉ〜。

今村有希
一度もですか・・・。

問題児ですけどね。皆さん僕のマネはしないように、国家が放火しますから(笑)

今村有希
ウフフ(笑)

18歳に投票年齢を下げたんですってね。あなたの『寂しさの力』(※中森明夫著)ってのは本当にいい本で、18(歳)ぐらいの寂しい若者たちが寂しいの力で、力強い投票してくれるんですかねぇ(笑)

[*選挙権「18歳以上」へ 年齢引き下げをめぐり ]

今村有希
(笑)

うん、あの実際いまでもね、投票率ってのは20代とか若者が低いんですよ。

今村有希
へぇ〜。

あぁそう。

(投票権が)18歳になったということで、盛んにニュース番組なんかで「18歳選挙、若者たち」という特集番組をしているんですけども、

今村有希
はい。

僕はどこか【疑問】を感じますよね。僕だってね、選挙へ行かないことがぜんぜん良いこととは思わないんですよ。

うん。

ま、たまたま行かなかっただけなんですけど、

今村有希
はい。

それである時、90年代かな、それこそ雑誌のサブカルチャー的な企画でこういう企画をやったんですね。僕はもう政治的信条は無いのだけど、よく考えてみたらずっと選挙へ行ってないから、あぁ自分はもうこれね、「日本棄権党」の党員だと。

(笑)

日本棄権党という(投票を)棄権する人たちの党があるわけですね。

今村有希
はい。

そうすると、まぁだいたい投票率50%、60%ぐらい、40%ぐらいが棄権党ですよ。で、残りを既成政党が分けているから、一番最大与党なんですよ、棄権党が。

今村有希
(うんうん)

僕の持論なの、ずいぶん前に出来た。普通、投票「権」、「権利」と言うでしょう?

うん。

今村有希
はい。

では「権利」とは何かと言ったら、まぁ自由にやってもいいよ、ということなの。ということは、(投票を)棄権してもいいよということなのね。

うん。

権利に対して「義務」、だから「務」と(黒板に)書くよ。つまり、投票「務」でしたらね、義務ですから、

うん。

今村有希
はい。

義務を果たさない人間にはね、僕のような不埒な奴には罰金を徴るとか、それをさらに繰り返す奴には牢獄に入れるとか、実は法律上、オーストラリアとかイタリアは僕の古い知識ですけども・・・

あ〜あ!

憲法で、投票は国民の義務であると。

今村有希
はい。

[*イタリアは投票を国民の義務、オーストラリアでは罰則も ]

うん、これ義務だったらね、まぁ行くんじゃないかなと思うところもある。

今村有希
(うん)

それから、憲法の第何条でしたっけね?投票した人間がその責任を問われないという条項があるんですよ。

[*憲法第十五条 第4項:全ての選挙における一選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問われない ]

うん。

今村有希
へぇ〜。

何条か忘れたけど、僕は憲法ってすごいなと思いましたよ。普通よくね、ある政権が何かしでかした時に、それは投票した奴がどうだ、と言うじゃないですか?

うん。

ところがそれは「免責」されてたりするんですよね。

あぁ〜。それだけじゃなくてね、本当に投票はね、18歳とか20歳の人をガッカリさせるわけじゃないけども、小さな会社の投票でしたらね、

今村有希
はい。

自分の一票で誰かがね、係長から部長になったり(笑)

今村有希
(笑)

でもね、大規模投票でしょう?千単位はおろか、万、何十万単位でしょう、自分の一票で候補者のどっちかが受かって、どっちかが落ちるなんて可能性はゼロではないけど、確率・統計的に言って投票場に足を運ぶ確率よりかは小さいですよ。

うん。

結論はこうなんですよ、投票権・・・正直言うと、そんなものは枯葉のもの程も無いのだが、ところが大規模投票のあれで塵も積もれば山となって重さが出て、あなたが受かり、こちらが落ちると、こうなるもんだと。別に憲法で書かなくてもいいんですよ、解釈としてね。

今村有希
はい。

うん。

というふうに考えるから、「枯葉でも枯葉なりの義務がある」んだと。枯葉の自分自身を投票場に運んで、でも実際上、ほんとそれ難しいのね、オーストラリアもイタリアもそう言っているけど、実際の罰則はね、科し得ると書いてあるけど、実行出来ない。

[*義務投票制で罰則科す、理由調査難しく実行困難 ]

というのは、貴女(今村)は時々、お腹が痛くなるでしょう?

今村有希
はい、ウフフフフ(照笑)

棄務した人がどのような理由で棄務したか調べなきゃならないのね。

今村有希
そうですね。

そんなこと莫大な費用がかかって(笑)だから、一応こう書いといて、何も罰則は実行していないのね。

今村有希
へぇ〜。

もう一つ思うのは、18歳という年齢ですよね。先進国がほぼ(参政権が)18歳なんで、じゃあ日本も合わせていくということでしょう。

うん。

まぁ今の18歳というと、下手すると高校生もいるわけですから、こう20歳でもね・・・

今村有希
はい。

昔の大人に比べていかにも幼いのに、さて、その18歳なんかに政治的決定出来るんだろうか?という話ですよね。

[*世界に合わせ選挙権18歳、政治的決定できるのか ]

今村有希
(うん)

とはいえ、これ最近の僕らのたかだか20世紀以降の人間の考え方で、本当に人生50年なんて言われてた時代ですよね?

今村有希
はい。

或いは、昔の人の何の本でしたか・・・見たら、古代の最古のお墓を調べて、死因を調べたらですね、だいたい最古の人たちというのは平均寿命が25歳だと。

ほう〜。

今村有希
へぇ〜。

だからもう15(歳)で大人で、40(歳)で老人だっていう(時期な)のが長いんですよ。

[*古代の平均寿命25歳、15歳で大人、40歳は老人 ]

あぁ〜そうか。

(ですから)18歳ではぜんぜん実は大人でなければならない年齢。

あぁそうねぇ・・・。総選挙そのものがね、一応、各政党「公約」は出しますよ。

うん。

でもね、あれ公約ってけっこう綺麗事が多いでしょう?大筋を言うとね、選挙というのは、候補者の『人柄』ね、どうもこっちの人柄よりは向こうの人柄の方が良さそうだと。

そして、実際の政策はね、『議会で議論して多数決で決める』。

[*選挙は候補者の人柄、政策は議会で議論し決める ]

そしたらね、人格を選ぶために18歳でね、そんなね、こいつはなかなかの人物だとかさ、

あぁ〜。

今村有希
(笑)

これはどうも綺麗事ばかりで怪しいとかさ、そんなことを見分けるには年月が必要なの。

[*候補者の人格を見極める年月が必要である ]

今村有希
うん。

というのが一方であるのと同時に、他方でね、逆なんだけど、現代社会で大人たちが20歳以上の、

今村有希
はい。

30(歳)になっても、40になっても、70になっても・・・ほとんど子供同然のね、何の成熟もしていないね、そういうのがいるから、(投票権)18歳でどこが悪い?!という意見も成り立つのね。

[*大人が子供っぽい、未成熟な現代社会 ]

あぁ〜思います思います。ぼくこの本の中(『寂しさの力』)でも書かせてもらいましたけども、【エリック・ホッファー】という「沖仲仕の哲学者」と言われた方がね、

あぁ〜そうそうそう。

面白い『現代という時代の気質』という本を書いていて、その中のちょうど1960年代アメリカで若者の政治運動が盛んだった頃にハーパーズ・マガジンという雑誌の中で書いた論文ですけどね、

[*『現代という時代の気質』沖仲仕の哲学者ホッファー:Eric Hoffer(1902年7月25日 - 1983年5月20日)は、アメリカの独学の社会哲学者。]

うん。

『未成年の時代』という本を書いていて、その骨子は何かというと、まぁ少年性ですよね・・・「若さというのは、年齢の問題じゃないんじゃないか」と。

まぁそうでしょうね。

つまり「精神の問題」で、「どの年齢層にもteenagerはいる」って書いてあるんです。

[*「未成年の時代」ホッファー:teenagerはどの年齢層にも ]

今村有希
(うん)

(西部を指して)もしかしたら70代のティーンエイジャーですけども。

今村有希
ウフフフフ(笑)

酒場で元気だって意味ではね(笑)

今村有希
(笑)

そう、朝までこうオールですよオール(笑)

今村有希
(大笑い)

ホッファーはなかなか面白い人で、それでその「20世紀が未成年の時代だ」と彼は言ってるんですね。

うん、そうか。

それで、20世紀という時代はなぜ「未成年の時代」かというと、

今村有希
はい。

彼曰く、『ファシズムであれ共産主義であれ、あるいは人種政権であれ、これは少年性、若者が持っている資質が作り上げたものだ。』

うん。

それは何故かというと、社会がより大きく変化する時に、その(変化に)さらされた人間が少年性を発揮する。つまり少年性・若者とは、子供から大人に至る移行期でしょう?

あぁ、そうねぇ。

『変化の状態の精神が若さなのであって、時代全体が変化する時には、年齢層に関係なく、良くも悪くも若者的な行動になりがちであると。』

[*時代全体が変化する時には年齢に関係なく若者的行動 ]

いやそうですそうです。差し障りある発言をやるのは僕の仕事の一部ではあるのだけど、

今村有希
はい。

えぇ。

僕ね、タクシーの中でときどき外を見て、バカヤロー!!という時あるの。

うん。

どういう場合かというと、いい歳した壮年、老人が若者風にリュックを背負ったりね。

今村有希
うん。

僕ね、言いたいですよ、その老人に。お前のそのリュックには何が入ってるんだと!?

中森・今村
(笑)

健康保険所となんとかかんとかしか入っていないだろうと。そういうふうな人間を見ると、これね英語で2つの言葉があって、

はい。

infant(インファント)って「幼稚」って意味なんですけど、ただこれはあんまり使わない方がいいのね。infantというのは生理的な発達、そういうことを指す。

[*infant「幼稚症」 生理的な意味合い ]

あぁ〜。

それに対して、精神的なことの場合にpueril(ピュエリル)という言葉があって、

ピュエリル。

Puerilisme(ピュエリリズム)と言うんですけど、これはね、文化的に人間が大人になっても小児病的な行動をとるというね。これホイジンガという人が言ったんですけどね。

[*Puerilisme (蘭 歴史学ヨハン・ホイジンガ)文化的に大人になっても小児病的な行動をとる ]


いま中森さんが言ったのは、その後者のね、ピュエリル(pueril)。

ただね、こうも思うんですよね、その僕なんかは今日、リュックを持ってきましたからね、先生に怒られるんじゃないかと。

一同
(笑)

つまりどういうことかと言うと、人生50年という時代がありましたよね?

今村有希
はい。

そのさっきの(投票権)18歳の場合も(成人は)20歳。今でも成人は20歳じゃないですか?成人式は20歳。

今村有希
はい。

ただ人生が50歳の時代に、20歳が成人だというのが決められたんですね。これは山根一眞(ジャーナリスト、ノンフィクション作家)さんだったかな?50cmのゴム紐を、今は80(年)ですから、先生の年齢。

今村有希
はい。

(50cmのゴム紐を)80cmまでビローンと伸ばす。

うん、そうそう。

そうすると(伸ばす前が)20のところの(目印の)線が、ちょうど30ぐらいに伸びるんです。

今村有希
(うん)

どういうことかって言うと、人生50年なので20歳で大人になってしまえば、もう老後が長いだけだから、

うん、そうか。

寿命が延びたに従って、まぁ『30歳成人説』って言い方がありますけどね、そしたら選挙権は18(歳)じゃなくて30歳からでいいんじゃないかと。

[*人生80年時代で成人30歳、山根一眞式人生ゴムバンド説 ]

今村有希
うんうん。

(挙手して)さんせーい!!

今村有希
ウフフフフ、賛成です(笑)

むしろね、本当に人生のmoratorium(モラトリアム=猶予期間)が延びちゃってね、

えぇ。

まぁそもそも大学生自体がモラトリアムですよ。

今村有希
うん。

もう普通はね、10歳の頃から例えば、農民で言えばね、畑を起こしたり草をむしったりね、家族の仕事の手伝いをしてたもんだけど、そういう執行猶予というか、行動不決定なモラトリアムが長いですからね。

[*成人30歳なら選挙権も人生の猶予期間も長期化 / かつての農民10歳で手伝い、現在はモラトリアム長期化 ]

だからほら、成人式でよく荒れてるじゃないですか?

今村有希
はい。

ねぇ、物凄い。あれもう小学生だと思えば、フフッ(笑)だから暴れてるのは。

フフフフフ(笑)

今村有希
(笑)

でも、この裏(18歳選挙権)にはね、

えぇ。

多分これもあるんですよ。「少年法」というのがあってさ、

今村有希
はい。

それで少年が保護されているでしょう。ところが、少年犯罪がどんどん増える、或いは、凶悪になってくるわけ。

今村有希
はい。

そしたらね、やっぱり18歳の奴らにも責任を持たせると。それで少年法をいずれ改正してもっと厳しくすると。その代わりに投票権を・・・何かその辺りの張り合わせになっているんでしょうね。

[*選挙権の18歳引き下げと、少年法の見直しとの関係 ]

あぁ〜。少年法に関して言うと、確かに特異な事件、わけの分からないのが増えている。

今村有希
はい。

初回にもう2人も3人も殺した酒鬼薔薇(神戸児童連続殺傷事件の元少年A)じゃないですけど、そういうのとか平気で出てきて遺族感情を考えたらどうか?いろいろ考える側面はあります。

今村有希
(うん)

ただ、僕はそこは(西部)先生に異論があって、いちおう少年犯罪って一貫して減っているんですよ。

あぁ〜そうなの?!

戦後ずっと減ってます。犯罪自体は減ってますし、少年犯罪が減っています。

ふう〜ん。

で!ずっと一貫して多いのは、団塊の世代。あの世代が少年だった時に少年犯罪が多かった。

[*少年犯罪は統計上減少、団塊世代の少年期が高い ]

今村有希
(驚いた顔で頷く)

じゃあ60代後半ね(笑)

いま60代は暴走老人が多いんで、あの団塊の世代60代に限ってね、『老人法』って作ってね、もうちょっと罪を重くしないとね。

ワッハッハッハッハ(笑)

今村有希
(笑)

これどれくらい団塊の方が聴いてるかわかりませんけど。

選挙をめぐっていろんな問題・矛盾があって、あの「一票の重み」って言うでしょう?

今村有希
はい。

それで、最高裁もね、いちおう形の上で一票の重み・格差?東京だか島根県と比べたら3倍・・・うん?東京の方が(一票の重みが)軽いと。でもね、先ほど言ったように、もしも(投票)棄権率が増えれば増えるほど、実は投票する人の一票の重みは増えるわけです(笑)

[*有権者1人あたりの票の重み・一票の格差めぐる問題 ]

今村有希
はい(笑)

そうですそうです。

そうでしょう?投票者数が少なくなるからね。

今村有希
はい。

みんなが投票すればするほど、一票は枯葉どころか空気みたいに軽くなっちゃう。

うん、逆説がありますね、投票のメカニズムの原理って。

僕は別にそれでどうせいと言っているんじゃなくて、そういうことをみんな了解した上でね、まぁ、しゃーないと・・・うん、なるべく(投票に)行くようにしましょうと、その程度の話なんだけどね。

こういうこと言うと怒られるんでしょうけど、そもそもが政治ってのがね、

今村有希
はい。

誰が言ったか、政治ってのは、ある意味で便所掃除みたいなもんだとね。

うん。

やりたくないけど必要なんですよ。

あぁ〜。

便所掃除が無かったらダメじゃないですか。だから、便所掃除をする人って尊い仕事をしているしね。大変な汚い仕事をやらなきゃならない。でも誰かがやらなきゃいけない仕事ですよ。やらないでいいんだったらやりたくない、みたいなところがあるのが政治ですよ。

今村有希
(うんうん)

political(ポリティカル)と言うでしょう。あいつはpoliticalな奴だねと言うと、やっぱり欧米でも「政治的」というと悪い意味でですよ。

今村有希
はい。

権謀術数を逞しゅうする。人を誑かす。

今村有希
はい。

ところがね、(語尾の)「-al」をとって「politic(ポリティック)」というとね、「あいつは賢明な奴だ」という意味になるんですよ(笑)

[*権謀術数 politicalな奴・・・欧米でも悪い意味で使用 ]

おぉ〜、面白いですね。

やっぱりね、これ(politic)は「polis(ポリス)」から来ていますからね。ギリシャのpolis、都市国家。『このギリシャのpolis(ポリス)に貢献できる立派な奴って意味がpolitic(ポリティック)』ね。

[*politic「賢明」:ギリシャ都市国家polisに貢献できる立派な奴 ]

今村有希
(深く頷く)

ところが、それにpolitical(ポリティカル)になるとね、まぁ自分の知恵を巧く利用してどうの〜、という怪しげなものになるんですよね。

だから「政治」というのは、一方から言えば「便所掃除」、

うん。

他方から言えばね、「国家の名誉をかけて」のどうのこうのという議論も可能になる。なんかこの(両者の)境界線上の怪しい話なんですよね。そういうことは、まぁあんまり若い人には分からないけど、(選挙権引き下げで)18(歳)になると教えなきゃないよね。

そうですよ。それでこれが問題じゃないですか?学校でね、つまりは高校生ですよ18歳って。それで先生が割合、政治的な発言をするのって批判がありますよ。

えぇ。

ですよねぇ。それでいて投票はしろ!という感じだったらねぇ。

[*先生の政治的発言には批判、18歳で高校生の投票は ]

今村有希
(うんうん)

日教組問題云々もあって、教師が左傾、左(翼)側になっている。じゃあ右傾してていいのか?でも、ある程度、政治的判断するには教師がですよ、政治の主体になる発言をしなければならない。それ抜きでニュートラルであれして、じゃあ(学生に)政治的決定しろ!というのは僕はちょっと難しいかな思いますけどね。

今や教師も含めてね、僕の印象よ、もうじき墓場に逝く人間の印象。

今村有希
はい。

ぼーっと街を見ていると、それこそ老若男女みんなして「スマホ」。

[*老若男女問わずスマホを弄る風景 ]

中森・今村
あぁ〜。

冗談言うとね、これはテレビですけどね、僕が昔から嫌いなのは、テレ「ビ」ね。

今村有希
はい。

あれは(テレ)「ビ」が何の略かといったら、(tele-)vision(-ビジョン)ね。

あぁ、tele-vision(テレビジョン)ですね。

今村有希
あぁ、ビジョン。

tele(テレ)というのは「遠くから」ね。

今村有希
はい。

でもね、vision(ビジョン)を「ビ」と略すこの言語感覚が嫌いなのね。

[*television:「テレ」遠くからの意味、visionを「ビ」と訳す言語感覚 ]

あぁ〜、ビジョンが「ビ」になっちゃったわけですね。

それと同じようにね、(smart-phoneが)スマ「ホ」。

あぁ(phoneが)「ホ」ですね。

smart(スマート)は「スマ」でいいかもしれないけどね、phone(フォン)、音でしょう?

今村有希
はい。

それを「ホ」と言ってるこの言語感覚も嫌いなんだけど、それはさておいて(笑)

[*smartを「スマ」、phoneを「ホ」という言語感覚 ]

今村有希
ウフフフフ(笑)

なにかみんなしてもう横断歩道までスマホでしょう。多分、学校先生だって、ひょっとしたらもうねぇ・・・(スマホを弄るジェスチャーをして。笑)

[*老若男女問わず横断歩道までスマホを弄る街の風景 ]

今村有希
(笑)

うん、例えば、授業やってる生徒が逆に私語をしないんですね。静かになったスマホのお陰で。

今村有希
あぁ〜(驚)

(授業中に仲間同士で)スマホでやり取りしているから。

はぁー(驚)

授業が静かにはなりました、スマホのお陰で(笑)

静かにはなるのか(笑)

今村有希
はぁー(笑)

便利さは分かるよ。携帯電話といい、スマホといいねぇ。でもそれに群がるね、なんか老若男女を見るとねぇ・・・なんかあんまりねぇ、人を軽蔑するのはね、それでこういう言葉を作ったの、『スマホ人』というね。

今村有希
えへへ(笑)

ほぉ〜。

そういう人種(「スマホ人」)が登場したのであると。私の出る幕はもう無いという原稿を書いた覚えがあるという(笑)

[*便利さ分かるがそれに群がる『スマホ人』人種の登場 ]

中森・今村
う〜ん・・・。(揃って唸る)

そういうんでスマホ人の社会であると。もっと言うと、情報なるものね・・・スマホにいろんな情報入ってるんでしょう。

今村有希
(うんうん)

でも、情報なんてものは最初からパターン化されたあれで、それを次々とボタンを押して、ふ〜んと言って、次々と(その情報を)忘れていくんでしょう。

今村有希
はい。

そういう人たちの選挙って、いったい何じゃいねってね。

うん。あの今のお子たちって、スマホが無くなったりすると泣きそうになっちゃったりするんですね。本当に。ちょっとでも(スマホを)忘れたりとかすると。

泣きそうに(笑)

今村有希
へぇ〜(ビックリした表情を浮かべて)

僕ね、若い人たちに、是非、よく「断食」って言いかたありますよね?

今村有希
はい。

だから、『断スマホ』っていうかね、つまり、『ネット断ち』というのをこの1週間やるとか、

今村有希
うん。

断食というのは、ものを美味しく食べる為に、やることがある。

あぁ〜。

今村有希
はい。

だから、1週間スマホ断ちを年に一回でも二回でもやれば、情報との付き合い方ってより良くなると思う。

それね、ものすごい大事なことなの。それを理屈っぽく言うとね、例えば、スマホでも何でもいい、情報をこうボタンを押して10週類の情報をバッバッバっと得たとするでしょう?

今村有希
はい。

何がいちばん大事だったかなぁとかね、何がいちばんつまらなかったな、何ていうことをやる為にはね、一旦「断食」をしてね、自分でやっぱり考えないといけないんですよ。

[*何が大事で何がつまらないか、スマホを遮断し自分で考える ]

うん。

今村有希
はい。

ところが、自分らが努力しないと、ここ(オツム) に詰まった情報を思い出せないんです。出すためには、そういう断食して考えるという(笑)

今村有希
ウフフフフ(笑)

だから、僕は若者にはね、そういうスマホとか、あと情報過多とかね、便利さに対してね、抵抗してもらいたいですね、若さで。

[*スマホによる情報過多や便利さには若さで抵抗を ]

うん、そうですね。

それが当たり前だと思わないでもらいたい。

いま(中森が)「便利さ」と仰ったけど、それに頼るなと。

今村有希
はい。

convenience store(コンビニエンス・ストア)の「convenience」というのは「便利」という意味でしょう。

今村有希
はい。

convenienceのもともとの言葉の意味はご存知ないでしょう。

今村有希
・・・。

convene(コンビーン)というのは「みんなが集まる」という意味なんですよ。

ほぉ〜。

今村有希
へぇ〜。

ねっ。だから、便利さに向かってみんなが集まるわけ。

[*convenience「便利」、convene「集まる」 ≒ 便利なものに群がっている状態のこと ]

kombinat(コンビナート:露語→英語ではcomplex)とかもそうですか?

そうそう。それと同じなの。それでね、言いたいのは、馬鹿な奴ほど高く登るって言うじゃない。

うん。

乱暴に言うと、『アホな奴ほど便利さに群がる』というね、そんな100%そうだとは言わないけども、僕らは結構、便利なところへ傾いているから(笑)

竹中労さん(故人)というルポライターが、「弱いから燃えるんじゃない。燃えるから弱いんだ」って。

あぁ、ほんと。それだよ。

今村有希
へぇ〜。

それはあらゆる事に言えますよね。まぁ「衆愚」という言葉がありますけども。

うん。それで言いたい。convene(コンビーン)=群がる、convenience・・・storeまでやると商売の邪魔になるから(笑)

今村有希
ウフフフフ(笑)

便利なスマホその他に群がるというのは、どっか『弱さ』があると。

[*便利なものに convenience 群がるのはどこかに弱さがある ]

投票なさる以上ね、

今村有希
はい。

この本(『寂しさの力』)を読んで、みなさん寂しいだろうが、自分の力があるんだってことを確認して、余り群がらないで(笑)

今村有希
(笑)

投票場に僕のマネをしないで、

今村有希
ウッフフフフ(笑)

(吹き出す)

棄権はしないで行ってください!(笑)

今村有希
(笑)

・・・というんで終わっていいですか?(笑)

はい(笑)

今村有希
ありがとうございました(笑)

【次回】刺激・便利・流行めぐり「現代若者論」 ② ゲスト:中森明夫(作家、アイドル評論家)〜西部邁ゼミナール〜

「なぜいま『武蔵無常』を論じるのか」③ ゲスト:藤沢周、黒鉄ヒロシ 〜西部邁ゼミナール〜

「なぜいま『武蔵無常』を論じるのか」③ ゲスト:藤沢周黒鉄ヒロシ西部邁ゼミナール〜

ゲスト:
藤沢周 作家 法政大学教授 、図書新聞の編集者などを経て作家デビュー「ブエノスアイレス午前零時」で芥川賞受賞、【近著】『武蔵無常』(河出書房新社

黒鉄ヒロシ 漫画家、隔月刊誌「表現者」の表紙を手がける、【著書】『刀譚剣記』(PHP研究所)ほか多数

西部邁ゼミナール)「なぜいま『武蔵無常』を論じるのか」【3】2016.04.30


今村有希
今回は「なぜいま『武蔵無常』を論じるのか」の最終回です。ゲストは漫画家の黒鉄ヒロシ先生と作家で法政大学教授の藤沢周先生にお越し頂いています。藤沢先生の上梓された『武蔵無常』を題材にしつつ論じて頂いております。それでは早速お話を伺いたく、宜しくお願い致します。

三週目宜しくお願いします。

宜しくお願いします。

今村さんに質問するのは仏教の用語ですが、

今村有希
(驚きながら)はい。

仏教用語大乗仏教の方だと思うんだけどね、『阿頼耶識』(あらやしき)って言葉、聴いたことある?

[*「阿頼耶識大乗仏教を支える根本思想、眼識・耳識・鼻識・舌識・身識・未那識の奥にある根本心 ]

今村有希
あらやしき・・・(口あんぐりで)無いです。

サンスクリット語、インド人のね。あれヨーロッパ語とおんなじで、「耶識」がよく分からないんだけど、これ「阿頼」というのは“場所”って意味ですよね?

(うん)

だから、英語で言えば、あのサンスクリットとヨーロッパ語というのは語源の語源は同じですから、たぶん「area(エリア)」とおんなじなんでしょうね、「場」っての。

今村有希
エリア・・・。

こちら(耶識)の方は「意識」という意味ですけども、『意識の発生する根源的な場』・・・それを見極めようという。

[*阿頼=場所、耶識=意識、「阿頼耶識」(=心の深層部) ]

今村有希
はい。

武蔵は「剣」を通じてそういう哲学を演じていたのだという、そんな性格もちょっと言えますよね、御本はね。

[*意識の発生する根源的な場、見極めようとする武蔵の哲学 ]

はい。『無の場所』に辿り着こうとしたと言うんですかね。

うん。

だから、「空を道とする」と、空無の「空」ですね、空を道とする・・・すごいフレーズだなぁと思って。

うん。

いわゆる「悟り」ですよね。だから、彼は晩年その境地に辿り着いたわけですけども、それまでの足掻きとか七転八倒とかもがき、まぁそこが僕は魅力的だなぁと思うんですけども、うん。

と同時にね、そんなものに突き進むとですよ、「悟り」に行く場合もあるけどね、そんな人間なんか簡単に悟れませんから、「滅亡」・・・まぁ「滅」にしておきますけど、滅亡に至る場合もあるわけですね。

[*人間は簡単に悟りを得られず「滅亡」に至ることも ]

あると思います。

理由無き殺人。家庭内でも街角でもいいけどね、そういうのは滅亡の方ですよね。「阿頼耶識」に達したいと思って、しかし、滅亡してしまったと。

黒鉄・今村
うん。

悟りなんていうものはなかなか難しいと。

難しいですねぇ・・・

黒鉄先生、どうします、このままでは?(笑)

「悟る」ってのは無理なんじゃないですか?(笑)

今村有希
(笑)

ワハハハハ(笑)

言語で考えている限りは絶対に無理ですよね、言語を棄てないと。で棄てた途端に人でなくなると。武蔵もえらい苦労したんだろうなぁと。行っては戻り、行っては戻り、円環運動ですかね。

うん。

1ヶ月前の「武蔵の手紙」というのがあって、

はい。

でこれ、私は兵法の狂気のようなものであったと、後年は手もちょっと動かなくなってなんだったんだ・・・みたいな。いやまぁ、本物だとすればですよ。

[*武蔵が亡くなる一ヶ月前に遺したという手紙 ]

亡くなる前ですね、はい。

はい。一ヶ月ぐらい前の手紙とされてるんですけどね。そんなことやらなくても分かってるじゃないかというね(笑)でもその「武蔵の道程」こそが正解であって、結末はどうでもいいことですね。

あぁ〜道程ね。

武蔵ほどセンスが良くて頭が良ければ、それぐらいのこと分かってたハズなんで、自己確認なのか、やはりあの阿頼耶識なるものには到達出来ないよ、という遺言なのか、後は頼むと言ったのか、そこのところは分からないですけどね。

[*武蔵の結末より「道程」 手紙は自己確認か遺言か ]

はい。あの「矛盾を抱え込む」というんですかね、そのあり方は僕は魅力を覚えてまして、彼はその「空を道とする」というようなそういうフレーズ、あぁ〜なんか仏教臭いなぁとか思って(笑)、いわゆる悟りかとか思うんですけど、その手前でもがいている武蔵の方が僕はまぁ魅力的だと思うし、そこでひょっとしたら武蔵って、そこで自分で自分の命を無くすというんですか、自殺してもおかしくないくらいのところに居たと思うんですよ。

[*空を道とし、道を空と見る、矛盾を抱え込む武蔵 ]

うん。

そんなことをやったら武士(モノノフ)というか、侍としてはいかんので、とにかく言葉によって自分を保つというんですかね。だからあの『獨行道』とかわりとキレイなフレーズというんですか、

うん。

ちょっと道徳的な言葉が並んでいて、あれこれ武蔵なのかなぁ・・・なんて思うことがありましたけど、うん。

「獨行道」のその最後に、「神仏は貴し、しかし神仏は頼まず」という、

[*神仏は貴し、神仏は頼まず「獨行道」(宮本武蔵) ]

頼まず、はい。

じゃあ、あなたの「貴い」と思うその気分はどこから出るのだと、

あぁ〜。

で、「頼まん」というんだったら神仏なんか触れなきゃいいじゃないかという(笑)

そういうことですよね。

という「矛盾」を含みながら、これはしょうがないんですけどね。あの〜そこがチャーミングなんですよ。

うん。

武蔵の全部ストリップしているところが永遠に人気のある所以だろうと思いますけどね。

(大きく頷く)

僕ね、もう次に発する言葉に窮したんで・・・ルール違反ですけど、ちょっと煙草を吸いたいんですけど・・・

煙草ですか、どうぞ(笑)

ちょっとライターを貸していただけませんか?言葉に窮したんで(笑)

今村有希
アハハハハ(笑)

(ライターを貸す。笑)先生だけに罪を負わせるわけにはいかないので、じゃあ共犯ということで。(自分も吸いだす)

(煙を燻らせながら)お二人の気持ちは全部分かるんだけども、先ほど黒鉄さんがそこに至る道程、道筋のことを言いましたよね。

はい。

普通そこで、人生という「時間」がありますでしょう。したら、その「道程」の中で「経験」と言われるものがありますよね。経験というのは繰り返しを中心にしますよね。その辺りのことをね、藤沢先生の場合は「緊張のギリギリのところで生きた人」というけども、本当はこの“ギリギリ”に行く道筋で経験が蓄積されちゃいますでしょう?

[*人生という時間がある、「道程」の中で生まれる経験 ]

はい。

でぼく前回はなんか乱暴に「日常性」か、ポンっと言っちゃったけども、人間一般論として、どうなるんでしょうね、そういう「滅亡」に至るか、或いはね、「悟り」なんて不可能なんだけども、近づくかというね、道筋が分かれる時に、左を選ばずに右を選ぶと。

今村有希
はい。

[*滅亡に至るか悟りに近づくか、道筋が分かれる時の選択 ]

左を選んだら、何かとんでもないことが起こるというのは、まぁいろんなことがありますけどね、『阿頼耶識』を支えるもの、ここで言ってる「阿頼」=「場」ですね。

これは言葉を変えれば、経験の蓄積と言っちゃダメなんですか?

経験を積んで、自分なりに獲得していくんでしょうけど、究極的には僕は『死』に対するスタンスをどういうふうに獲得するか、

それか、うん。

ということだと思うんですけど、特に現代はもう『死』を忘れさせるようにというふうに動いているじゃないですか。

今村有希
はい。

ということは、結局、モノの価値とか幸福とか、幸せとは何かというふうな、もうそういう思考が鈍麻してくというんですかね、鈍くなってくという。やっぱり、ここで騙されちゃいかんだろうと思うんですね。

[*価値や幸福への思考が鈍麻、死に対するスタンスの獲得 ]

あぁ〜それですね。僕ね、分かった。

今村有希
はい。

うん・・・55歳の時だから今から22年も前か・・・ちゃちな本なんですけどね、死について、どういう死に方を自分は選ぶかと、それは結論はどうでもいいんですけどね、それについてある程度、自分として考えが限界まで来た時にね、すごい落ち着きを感じたんですよ。

[*どういう死に方を選ぶか「死生論」西部邁 1994年 ]

(頷く)

随分、長い間にいろんな事情があって忘れてたんですけどね、最近また考えたり、実行の準備もしていましてね・・・これ言うと法律に引っかかりますんで公開はしませんけどね。

一同
(笑)

やっぱりね、何かこの場合は簡単に言うと『死に方』ですか、それと『経験論』とくっ付けて言うと、死に方について繰り返し繰り返しね、見たり聞いたりでもいいんですよ、自分の感覚・思考も含めてね。僕はあんまり「道」なんて言葉は嫌いだけども、道といえば道と言えるようなもんかなぁ・・・。

葉隠』って山本常朝の、

えぇ。

『武士道と云うは死ぬことと見つけたり』というふうな言葉がありますけども、あれは究極の武士としての言葉だと思うんですけど、

[*「葉隠」江戸中期 山本常朝(佐賀藩士) ]

うん。

あぁいう言葉が生まれるってことは、もう非常に死に対する恐怖感とか、様々な矛盾を引きつけながらどうやって生きていくかとか、いろいろ悩んだ末に出てきた一行だと思うんですよね。きっと斬られるみたいな時代ですから、余計に死が身近にあったのかもしれませんけど。

三島由紀夫にあの『葉隠入門』というカッパ・ブックス(※現在は休刊)かなんかな、

あ〜あ、ありますね。

ただ、あれ読んだ時に、もちろん三島が死ぬ前に読んだんですけどね、ちょっと引用の回で打たれたのは、そこをまず引用するんですよ、『武士道とは云うは死ぬ事と見つけたり』

[*「武士道とは云うは死ぬ事と見つけたり」『葉隠』山本常朝 ]

それから随分ページをめくるんですけど、三島がめくった後ね、急に常朝が、『人生誠にわずかの事なり』短いと。『好いた事をして暮らすべきなり』と(笑)

[*「人生は誠にわずかの事なり、好いた事をして暮らすべきなり」 ]

あぁ、えぇ(笑)

黒鉄・今村
(笑)

好きな事をやって暮らせばいいんだと。明晰と言われてる三島もね、はたと戸惑って、「矛盾である」と。「葉隠はこの矛盾があるから面白い!!」で終わっちゃうんですよ(笑)

[*矛盾がありうから面白いと葉隠に戸惑う三島由紀夫

ハハハハハ(笑)

黒鉄・今村
(笑)

僕ね、偉大な支持者に失礼なんだけどね、矛盾があるから面白いで終わられたんじゃねぇ、読者としては困ると。

ハイ(笑)

好きな事って沢山ありますでしょう、タバコを吸うのが好きだとか、酒とか、でもね、もしも最も好きな事がどういう状況で、どういう理由で死ぬかというね。それこそ『道筋』を自分がこうかなり明確にすること最も面白くて、それが一番好きな事だと考えるとね、

今村有希
はい。

「好いた事をして暮らすべきなり」というのと、「死ぬべきなり」というのは矛盾が少なくとも縮まるわけさ。

[*死の道筋を明確する事が最も面白く一番好きだと考える 「好いた事を・・・」「死ぬ事と・・・」との矛盾が縮まる ]

うん。

ところが、厄介なことが起こるのは、その死に方で、俺にあった死に方、それを見つけるのに時間が掛かる。

[*自分にあった死に方を見つけるには時間がかかる ]

そうですねぇ。

宮本武蔵は何歳で死んだんでしたっけ?

え〜50幾つですかねぇ・・・6か7・・・

[*生まれ年は定かではないが、一応1584年?から1645年に死んだと言われている ]

そうですよね?

あぁそうか、今で言えばもう70ですよね。今風で言えば、僕はもう70は越えちゃったからもうダメなんだけど、黒鉄さんはちょうど70。

(軽く頷きつつ)もうダメなんです(笑)

今村有希
(笑)

ダメなんだ(笑)

いやいやいや(笑)

要するにね、70年が床ですよ。あれやこれや思いを巡らさないとね、自分で「うん、これでいいんだ」と、うん・・・という死に方ね。見つかったような気が・・・まぁ時間がかかるということ。

一同
うん。

武蔵の場合はどうだったんですか、その辺は?

(黒鉄を見て)どうだったんですかねぇ?

(笑)

ただ(死ぬ)1ヶ月前に書かれたその手紙のお話を伺うと、あぁどうだったんだろうなぁと(笑)

どうだったんだろうと(笑)

「我ことにおいて後悔せず」なんて言いつつ後悔ばっかりしてたと(笑)

後悔ばっかりね(笑)

だいたい、実際に後悔しない人だと、あぁいう文章遺しませんよね。「我ことにおいて後悔せず」なんてまず出て来ないでしょうね、きっと。

正直な人ですよね。

えぇ。

堂々と弱音も吐いてるという気配だし。

はい。

(西部)先生がさっき仰った「狂気」にも2つあって、「武蔵はその正常な精神状態でその狂気のところに入った」んですよね。ところが、先週言いました、(秋葉原無差別事件の)加藤何某みたいな狂気の方、あれはなんかよく酔っ払いが暴力振るったりする時に、(オツムを指して)だいぶ記憶喪失が出て、「気が付いたらこんなことやってました、どうもすいません」という、あれ発作に近いですよね。

あぁ〜

あれはチャーミングじゃないわけで、確信の上に確信犯が死を選ぶ物語の時に、僕らは感動するというか、感情移入して楽しめるエンターテイメントになるんですけど、

[*確信の上に死を選ぶ物語に感情移入し感動を楽しめる ]

(頷く)

武蔵もそっちのラインで行こうとして、その1ヶ月前の手紙が本物だとすると、「ちょっと失敗したなぁ、もっとあっちもしたかった、これもしたかった」という。

藤沢さんが仰ったように、要するに『死を見つめた人』と、『どういうふうに死んで見せるかについて深く感じ考えた人』とこう考えた時にね、ある納得に行くためには、武蔵は剣豪ということで有名になってますけども、恐らくね、そういう非常に総合的な、それこそ耶識(やしき)が無いとですね。

[*どういう風に死んで見せるか、深く感じ考えた武蔵 ]

つまり分かりやすく言うと、ご飯のこと、メシのことはどうしよう、友人はどうしよう、子供がいるとしたらだけど、子供に遺す財産はどうしよう、女はどうしようとか、まぁいろんなことを総合してようやっと(阿頼耶識に)なんか近く感じがありますでしょう。

(うん)

(黒鉄を見て)ゴメンなさい、僕はどうしても言葉で、言語でやっちゃうんでね(笑)

いやいやいや(笑)

武蔵の画についてはよく分からないけども、画を遺したり、五輪書もむかし読んでよく分からなかったけど言葉を遺す、そういうのは何か武蔵なりにいろんな事をね、単に剣だけじゃなくてね、剣に関わるいろんな人間のそれこそ『生=Life(ライフ)』ですよね。

一同
(頷く)

生そのものをなんかこう総合的に掴みたいというね、そういうことが半ば無意識にせよあったと解釈すると、僕は落ち着くという。

[*剣だけでなく五輪書水墨画、生そのものを掴もうとした武蔵 ]

一同
(大きく頷く)

うん、全くそう思います。

あぁそう?

はい。五輪書を読んでいて、まぁ確かにマニアックにその勝ち方、斬り方って書いてありますけども、メシを喰う事とか、まぁ人を愛する事・・・まぁ彼は愛を否定していますけども、邪魔なものだって否定していますけども、徹底的に合理的にと言いますけど、結構、そんなことはないんじゃないか、かなり感受性の襞(ひだ)というか、細かいなと文章から感じますよね、うん。

あぁ。なんでそんなね、自分の人生という時間をね、かけちゃうかとなると、やっぱりその感情の襞ね、しかも襞は(体内で)動きますからねぇ。

えぇ。

そんなものを見極めようとすると結構、時間がかかっちゃうというね。

[*人生という時間をかけた感受性の襞が繊細 ]

でも、この場合は「闘いの時代」ですからね、戦国時代の末期ですから、いま僕が言うような、時間がかかりますよ〜みたいな呑気な話じゃない。もう日々、(剣を構えるジェスチャーをして)こうですからね。今だって戦争の時代はそうでしょうね。

えぇ。

僕は別にイスラム教徒じゃないけど、ISのテロリストだってそんなゆっくり考えて時間がかかりますよなんて言ってたらねぇ(笑)・・・自爆なんか出来ないわけでさ。それは状況によるんですけどね。だから、武蔵らの時代は、あぁいうやり方しか無かったでしょうけども、そういうものを仄めかされているなって気がする。

だから、五輪書はもちろん武道をやってらっしゃる方はお読みになるとおもいますけども、僕は人生論、生き方としてやっぱりこう読めるわけじゃないですか。

あぁ。

いろんなことに応用が利くというか、

そういうことね。

はい。これちょっと弱さも覗いたりして、(黒鉄の方を向いて)ちょっとチャーミングである部分だとか、

(笑む)

なんか面白い書物だなと思いますね、五輪書は、はい。

[*人生論として応用が利く面白さがある五輪書

あぁ〜。英語でintegrity(インテグリティー)という好きな言葉があって、積分のことをインテグラル(integral)と言って、高校の時の(数学の)ね。あれ「総合する(動:integrate)」という意味なんだよね。ところが字引を引きましたら、第一義は「総合性」と書いてある。それで第ニ義が「一貫性」って書いてあるね。

[*integrity ①「総合性」 ②「一貫性」 ]

女の問題、酒の問題、剣の問題、全部ある種の「一貫性」、生き方としてね。

はい。

それで次の三番目に「持続性」と書いてあるんですよ。つまり、総合的なものを一貫させようとすると、何かこう持続、他の言葉で言えば「反復」でもいいんですけどね、いろんなものが出てくるでしょう。

[*総合的なものを一貫させようとすると持続が出てくる ]

それでね、僕のような勝手に「俺は保守だ」と名乗る人間にとっては非常に便利な言葉がその『インテグリティー(integrity)』なんですけどね。

でも、武蔵は戦国時代の末期だから、そんな簡単にインテグラル(integral)だなんてやってらんない時代だってことは分かるけども、やはりそういうふうに解釈することも出来ますよね。

はい。武蔵のインテグリティー(integrity)といったらもう「朝鍛夕練」という、朝鍛え夕方に寝るという、

[*武蔵のintegrityは「朝鍛夕練」 ]

あぁ〜。

これもう絶対なんですね。一貫性があったと思いますし、どんなことがあっても。

なるほど。

時代がちょっと、彼らの時代には適わなかったですよね。本当は戦国時代に生まれたかったんだろうと。

あぁ〜。

ちょいと遅れて。それで島原の乱まで生きますよね。

[*時代が適わず島原の乱。戦国に生まれたかったのでは ]

えぇ、そうですね。

時は1対1の闘いじゃないんで、総合になる。それでピストルまで出てくるんですよ、銃まで。

あぁ。

そうすると彼は、やっぱり(西部)先生のお嫌いですけどね、僕も嫌いですけど「道(どう)」というものに頼って。だから、彼はもし数学者でもいけたと思うんですよ。

なるほどね。

数学の世界って物理もそうですけど途轍もないところまで行きますでしょう。それで言語学者もそうですね、だいたいアナグラム行ったり、

はいはい。

戻ってこれないようなピーポーピーポーとなるんですが(笑)、武蔵も剣とその周辺を引き寄せて、そのラインを進んでったという。で後悔したというのが本当だとするなら、まぁそれも含めて武蔵の物語ですから、

えぇ。

鍛錬ったって、歳取ったらもはや筋肉が衰えるって分かりそうなもんなんで、武蔵は恐らく分かっていたと思うんですよね。だから、これは万人向きですねぇ、みんな後悔しますし、結論は、やってもやらなくても同じというのがいつの頃から分かるんですが、

そうか。

でもやらなきゃしょうがないというね。

今村さんために言うとね、

今村有希
(拝みながら)ハイッ(笑)

黒鉄先生が仰ったanagram(アナグラム)というのね、この場合のア(a)というのは「否定」ね。

今村有希
はい。

グラム(gram)というのは「グラマー(grammar)=文法」でしょう。anagramというのはその「文法を外れること」だから、言葉弄りですね。言葉を壊しちゃうんです。

[*anagram 言葉を弄り、言葉を壊す ]

今村有希
(頷く)

多くの言語学者がね、自分はgrammar(グラマー:文法)を発見したと。もっと深いグラマーを発見したと。もっともっと・・・と行くと、奥の奥にアナグラム(anagram)で(笑)

今村有希
(笑)

グラマーが崩壊する、それを待っているということを感じている。それがね、現代言語学の走りのソシュール(【フェルディナン・ド・ソシュール】 1857-1913、スイスの言語学者)という人がですね・・・小さい声で言いますがねぇ、

今村有希
ウフフフフ(笑)

やっぱり狂気の世界に入ったという感じがしましたね。

黒鉄・藤沢
(深く頷く)

こういうお話をお二人はしているんです。二人は相当にそれに近いところに行ってる。

(笑)

黒鉄
(苦笑)

僕は臆病だから、かなりその前で(笑)

今村有希
(笑)

視聴者の皆様、いろいろなグラマー、法則だの技術だのルールだのあると思って安穏にビジネスマン、サラリーマン、学者、評論家をやってるらしいが、この御本(『武蔵無常』)を読んで、生きるも死ぬも空恐ろしく分からぬもの・ことに対して、畏怖の念を払い給えと。

[*色々な法則、技術、ルールがあると安穏に、ビジネスマン、学者、評論家を務めるが・・・ ]

「矛盾」とか「停滞」って、僕ら焦ってどうしようとか思うんですけど、やっぱり武蔵は本当に矛盾を引き受けるし、停滞している時しか見えない風景というのがちゃんとこうキャッチしているという。いま現在生きている上でも、すごくこうヒントになる人だなぁと思いますね。

なるほど。分かりました、僕も・・・でも僕もなんか最近、本を読むことが出来なくなったから、じゃあ僕ももう一度読みますとも言えないのだけど、読んでみたいなぁ〜という強い願望を表現して(笑)

(笑)

ありがとうございました。

一同
ありがとうございました。

【次回】「現代若者論」選挙権・スマホ・会話 ① ゲスト:中森明夫(作家、評論家)


「なぜいま『武蔵無常』を論じるのか」② ゲスト:藤沢周、黒鉄ヒロシ 〜西部邁ゼミナール〜

「なぜいま『武蔵無常』を論じるのか」② ゲスト:藤沢周黒鉄ヒロシ西部邁ゼミナール〜

ゲスト:
藤沢周 作家 法政大学教授 、図書新聞の編集者などを経て作家デビュー「ブエノスアイレス午前零時」で芥川賞受賞、【近著】『武蔵無常』(河出書房新社

黒鉄ヒロシ 漫画家、隔月刊誌「表現者」の表紙を手がける、【著書】『刀譚剣記』(PHP研究所)ほか多数

西部邁ゼミナール)「なぜいま『武蔵無常』を論じるのか」【2】2016.04.23


今村有希
前回に引き続きまして、作家で法政大学教授の藤沢周先生と漫画家の黒鉄ヒロシ先生にお越しいただいています。今回は藤沢先生が上梓された『武蔵無常』を題材に、「なぜいま『武蔵無常』を論じるのか」を語っていただきます。人生と時代の矛盾に踏み込むはずの文学が逃れているリアリティ、そして戦後日本における死生観、さらに文学における言葉と表現者の人格との関わりについて話が及ぶものと思われます。

それでは早速お話を伺いたく、宜しくお願いします。

宜しくお願いします。

今週も宜しくお願いします。ところで今村さんね?

今村有希
はい。

お遍路さんたちがね、六根清浄、六根清浄と唱えながら、こう山を登ったりなんだりしているというね。

今村有希
はい。

映画で見ているのかな、なんで見てるのか・・・なんか人生で10回ぐらい映画でなんか見たような気がするんだけど・・・

今村有希
はい(笑)

「六根」ってお分かり?

[*御遍路さんが唱える『六根清浄』(ろっこんしょうじょう)の意味 ]

今村有希
目と鼻と耳、口、身体・・・

視覚、嗅覚、聴覚、味覚、触覚、

今村有希
え〜と、あと一個は何ですか?アハハ(笑)

第六感でいいんだけど(笑)

まぁ〜意志の「意」ですよね。

そうですね、「意」ですね。

えぇ、はい。

第六番目はね、要するに意志の「意」ですよね、認識( の「識」)もちょっと含んでいるのが「意」(=意識)なんですね。それを清めましょうというね。(=六根清浄)

[*『六根清浄』:私欲、煩悩、迷いを起こす六根 (=「視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚・意〈識〉」)を清める 」

今村有希
はい。

これはあれですか、普通の言葉で言えば、「心(こころ)」だと言ってもいいの?心だと日本人は言っているの?

そうですよね・・・つまり、自分がこう世界を知覚したり認識したりする器官の動きだということだと思うんですけど、それが濁っているからダメなんだ、清浄(しょうじょう)しなきゃダメだということだと思うんですけど、それはもう武蔵(宮本武蔵)は五感なんてのはもう鋭敏だと思いますけども、

そうでしょう。

さらにその“六根の底”にある、いわゆる仏教で言う『唯識』という『阿頼耶識』(あらやしき)ですね。

[*『阿頼耶識』(=唯識)は六根のさらに底にある ]

この(六根)前にあるものか。

そうですね。

なるほどね。心の前?(笑)

いちばん「底」というんですかね。

底ね、底でしょう。

えぇ。表層意識があって、無意識があって・・・まぁ深層意識とも言うんでしょうが、で、その「底」にもゼロポイントみたいなものがって、

そうでしょう、

ここは本当に言葉なるもの、言葉ならざるもの、まぁ唯識(ゆいしき)ではなんか『種子』(しゅうじ)、タネ(種)、

あぁ〜。

種子と言いますけども、それがこう浮かんで「言葉」と結びついて、我々は、あぁコップだとか、紙だ、とか分かるんですけど、それが言葉にならないものもあって蠢いている。

[*阿頼耶識(あらやしき)から種子(しゅうじ)が浮かび、言葉へと結びつく ]

「言語以前」なんだけども、やっぱり言語をもたらす意志、俺はこれをやる、という言葉。意識で言えば、これはこれである、という言葉。それをもたらす種(タネ)はあることはあるでしょう?

[*言語をもたらす意志、これはこれであるという識 ]

(無言で頷く)

無い?(笑)

いや僕は否定はしていないんだけど(笑)

(笑)

如何ともし難いというね。

なるほどね。

前に申し上げたことある、「春の小川はさらさらいくよ」という、これはぜんぶ「春」と名付けたのも人で、「小川」も人で、「さらさら」に至っては誰が聞いたのかと!?

そうね。

でもそこから物語を始めないことには、人類の文化も何も出来なかったですからね。だから、そこが皮肉でもある・・・。

まぁそうですね。種(タネ)というけども、なんかこう目に見える、触れるようなものじゃなくて、その種自体が意識の方からいえば、非常に恣意的なね、いったいどうして「春」と言うんだろう?というところから始まって、どうして「タネ」と言うんだろうとかね、そういう摩訶不思議な種(=種子:しゅうじ)なんですよね。そういうところまで武蔵は感じようとしたと。

その六根の底にある阿頼耶識(あらやしき)みたいなものですけども、この小説(「武蔵無常」)の中では「獨行這入」と。

あぁ〜。

獨行道の「獨行」を取って、「這入」(這入り=はいり:入り)というのは扉という意味なんですけど、無意識の、阿頼耶識の扉がパーっと開く、これはもう自分が危機的状態に陥って、自分を抹殺したい状態になると開きやすいんじゃないかなと、僕の経験からすると思うんですけど、その(危機的状態に陥ったことで扉が)開いている時はむしろチャンスなんじゃないかと。

[*危機に陥った時に開く『獨行這入』阿頼耶識への扉 ]

「言語以前の深み」に入っていくという。

言語以前のものをすごいキャッチしやすい状態になって、例えば、芸術家とか表現者は、まぁ武蔵の言葉で言えば、獨行這入がいつも開けるというんですかね、

[*言語以前のものをキャッチ『獨行這入』を開く表現者

うん。

武蔵がワンシーンで、すごい積乱雲を目の前にして言葉を失う、で嗚咽する、というところがあるんですが、あれは多分、世界の無限性に打たれてしまい、疲れてしまって、たじろいでいる状態だと思うんですけど、まぁそのつもりで書いたのですけど・・・武蔵は剣でなくてもよかったんだろうと、あの絵筆を持っても良かったのではないかと思いながら、そのシーンをちょっと書いたのですけど・・・はい。

[*武蔵は剣でなく絵筆を持っても良かったのでは・・・ ]

うん。

ただ、武蔵の性格では、あの絵筆だけではアクビが出ちゃうんだろうと思うんですよね。

今村有希
(笑)

より緊張の高まるものに吸い寄せられるというか、いま仰ったのは「五輪書」に、「敵の『う』の頭を叩く」ってあるでしょう?

はい、はい。

あの『う』って何だって・・・「うごくの“う”」なのか、「気配のその前」なのか、だからすごい微妙に言葉にならないことを、彼は言語でも記そうとしてるし、体現しようとしている、あそこがチャーミングなんですよね。

[*敵の『う』の字の頭を・・・「五輪書」火之巻 ]

はい。そこ面白いですよね。

面白い!

こういう表現があるのかと思って・・・現代剣道の場合、『起こり』って表現を使いますね。あの技を出す前のちょっとした動き(のこと)ですね。

[*剣道の「起こり」技が動きはじめる瞬間 ]

あぁ〜。

こう(動きを)察知して、先に入るという・・・それを『う』でしたっけ?

『う』ですね。

相手が「うっ」と言う時に打つんだと。「打つ」で「う(打)」の時に(先に相手に)打っていくという。

こういうふうに言ったら、お二人は怒りますかね?「う」ね。話をひっくり返すようだけど、夫婦の「うごき」ね、相手の連れ合いの「うごき」か、本当は酒呑み友達でもいいんですけどもね、呑んでいる時に、相手が退屈しているなぁ〜と、怒ってるなぁ〜みたいな、そういうものをね、まぁそれは世間の日常生活ですね、日常生活ではそれを互いにこの「うごき」の「う」の段階で察知して、言葉を微妙に変化させたりさ、表情変えたりしているという。

[*連れ合いの動きを「う」の段階で察知する ]


宮本武蔵のようになると、その殺人剣ですからね、さもおどろおどろしいようなことになるけれども、案外それと同じ言葉を生活で警戒されている、というと怒りますか?

[*「う」の段階で察知して言葉や表情を変える日常 ]

『日常』って言うじゃないですか、日常、なんかこう出来てるようで、実は、すごく怖いんじゃないかと思って・・・

あぁ〜そういうこと。

稜線と言うんですか、現実の稜線、尾根ですね・・・

うん。


(日常は尾根)を歩いているようなところがあって、なんかこっちに何かのタイミングで倒れて、(稜線から滑落して)死んじゃうかもしれないし、これは分からないわけですよ、ギリギリのところ。

うん。

単に『日常』というのはそれが未遂の状態だから穏やかに見えるかもしれませんけども、決してそうではなくて、その先ほどのもういろんなことを察知して、バランスをとって、あぁなんとかここにあるんだな、というふうに。

[*一歩間違えば尾根のような危うさが日常 ]

日常生活の場合はそれを意識化しないで、ほとんど『慣習』になっちゃって(笑)

そうですね(笑)

今村有希
(笑)

特に夫婦なんてそうですよ。大体、ふつう何十年も暮らしてますからね・・・朝に目を合わせた途端にね、相手のご機嫌が麗しいかどうかが分かって(笑)

[*日常生活は慣習化、夫婦は瞬時に機嫌がわかる ]

一同
(笑)

まぁ〜ちょっとね、話を落とし過ぎるけども、それが「剣」とかなんとかになってくるとね・・・結果が「殺し」ですからね、今風に言えば「テロ」ですからね、恐ろしい緊張の一瞬ということになるんでしょうけどね。

今村有希
そんな武蔵がホッとする時間ってあったのですかね?

・・・無かったんです。

今村有希
無かったんですか!?(笑)

一同
(笑)

お風呂に入らないんですよ。

今村有希
はい(笑)

どういういねぇ・・・やっぱり刀を離すってのが恐怖だったんでしょうねぇ、これは、うん。

でもね、黒鉄さん見てるとね、

今村有希
はい。

・・・そんな気がするんです。刀をいつも。(黒鉄の背広の襟の折り返しにつけた、刀をあしらったラベルピンを指して。笑)

今村有希
ここにもついてますね(笑)

今ちょっとね・・・まぁ刀・・・ぜんぜん違うけど(笑)

刀のそれもねぇ(笑)

今村有希
(笑)

いま頭に浮かんだんですけど、武蔵のほどじゃないけど、清水次郎長って剣が物凄く強かったんですねぇ。それで、彼のはいわゆる「喧嘩の剣」みたいなやつ、コツみたいなものを書き残してくれていて、相手がスッと抜刀した時に、相手の刀を(切先で)ちょんちょんとやるんですって。

ほう。

(それで感触が)固ければ勝てる。柳に風のように受け流すのような時は、これは相手が腕が立つからこれはちょっと構え直さなきゃいけねぇ、というような、だから武蔵と随分と水準が違うんですけど、裾野で次郎長も近くまで行っている。

[*抜刀した時に相手を見極める剣術に長けた清水次郎長

(うんうん)

山岡鉄舟があの剣の師匠といいますかね、武蔵よりももっと高邁なんですね。いろんなテクニックを書き残してくれていますでしょう?

はい。

でもあれ人の為に書いたんじゃなくて、あれは何なんですか?

あれはマニアックですねぇ・・・

マニアックですね。

五輪書』なんて、如何に(相手を)斬るか、負けないか、というのを本当に執拗に書いていますからねぇ。

ほとんど変態ですよね(笑)

はい。怖いくらいですよね。

西部・今村
(笑)

さっきの『う』ですけども、「枕をおさえること」といって、相手に技を打たすまえにグッと(相手の刀を)押さえるというようなことから始まって、で僕らは、技って速ければ速いほどいいんだろう、と思うんですけど、「速さは関係無い!」と(五輪書に)書いてあるんですね。「拍子を外す」・・・だからバーンなんて出る必要なくて、ちょっとこう先程のちょんちょんじゃないけど、相手のリズムを崩してゆっくりスパッと斬るとか、なんかそういうことが細かく書いてあるんでよね。

なるほどね。随分前ですけども、秋葉原でね、加藤何某なる、突如人を何人かは忘れましたけども、刃物で殺したりね、武蔵と比べているんじゃないだけど、心の奥底にある何かこう基準をね、失ってしまった時に、

失って、はい。

何か得体の知れない普通の人から見れば「狂気」へと突っ込んでいくというね。

[*秋葉原無差別殺傷事件、心の基準を失い狂気へ ]

たぶん、この本(「武蔵無常」)を今書かれているということはね、別に今よくあるようなこの歴史であーでした、こーでしたということのあれじゃなくてね、紹介でも解釈でもなくて、今もなお人間はそのあたりの『這入』の問題をめぐっていろんな事が起こっているという、そういうふうに武蔵を(藤沢は)見ようとなさっているんでしょうね。

[*今も人間は『這入』をめぐりう色々なことが起こる ]

はい。何がきっかけで訪れるか分かりませんものね、本当に。勿論、人との軋轢、それもまぁ原因だったりするし、コミュニケーションの問題もあるだろうし、或いは、それこそ入道雲を見ていて美しくて言葉に出来なかったからとか、いろんなこうきっかけがありますけど、自分の基準って絶えず壊れたり、あえてこうつくっててみたりとか、揺れ動いているわけですから、まぁ本当に武蔵に限らずやっぱりこの小説も「現代の問題」として書かせていただいたのですけど、はい。

[*自分の基準は壊れたりつくってみたり揺れ動いている ]

這入・・・その問題をユーモアとしてね、

今村有希
はい。

まぁそれは漫画のことも含めてですけどね、人間はこの「究極の基準」を見つけたいけど見つからないという辺りのことをね、ユーモアで表現することによって何とか生存してると・・・いうふうなことを黒鉄さんが仰って。

[*見つからない究極の基準、ユーモアで表現し何とか生存 ]

けどしかし、黒鉄さん、ちょっと聞きたいのだけど、

はい。

ユーモアですけどね、こういうふうに言った人がいるんですよ・・・『ユーモアとウイットは違う』と。これチェスタトンというイギリス人が言ったんですけどね。

[*「ユーモアとウイットは違う」 G.K.Chesterton(1874~1936)]

(うんうん)

ウィット(wit)=「機知」と訳すのかな、機知というのは自分が高みに立って、何だお前の言ってることは?と上から目線、

(うん)

彼(チェスタトン)はニーチェを批判してね、ニーチェはなんたって優蛮民衆、ウルトラマンね(笑)

(笑)

『超人の見地からこの俗世を見下ろす、でもそれはユーモアじゃない。ウイットに過ぎないんだ』と。ユーモアとは何ぞやとチェスタトンは言って、そこは僕はね、宗教を信仰したことは一度もないから理屈でしか分からないのだけども、彼はいろいろとやって最後はCatholicになるんですけどね、天と言ってもいいし、究極のね、神でも悟りでも何でもいいのだけど、何か(究極的、絶対的な)そういうものがあるとして、自分はそこに近づこうとするだけども、到達出来る訳は無いと、この“距離感”にね、彼の言葉で言うと「pathos(ペーソス=物哀しさ、哀愁)」、ユーモアには哀しみの感情ペーソス(pathos)が無いとね。でもニーチェ君には・・・でも、本当のこと言うと、ちゃんと読めばニーチェには有るんですけどね(笑)

[*超人見地から俗世を見下すニーチェはウィットに過ぎず / 天や神に近づこうとしても到達できる訳はない距離感 / ユーモアにはpathos 哀しみの感情がある (チェスタトン)]

有る(笑)

恐らくチェスタトンニーチェをほとんど読まずにね、見当で言ってるんだと思うから、ニーチェとかそういった名前は忘れて結構なんですけどね(笑)

そうなってくると黒鉄先生、どうなるんでしょうねぇ、そういう意味では?

いやだから、ご承知の通り、ユーモアってヒューモア(humor)ですよね「体液」みたいな言葉。で、これ笑うしか無いんですよね、結論は。言語でも追い詰めても。で、武蔵も恐らく、枯木鳴鵙図(こぼくめいげきず)、あの鵙(もず)と芋虫の、

はい。

あれにユーモア(humor)感じるんですね、武蔵の呼吸、深呼吸というんですか。

[*武蔵の枯木鳴鵙図には深呼吸的なユーモアを感ずる ]

あぁ〜。

だから、彼があの刀の鍔(つば)を作ったり、物作りというあっちへ行くというのは、あれは大いなる呼吸をしに行ってる。実は逆転かもしれないですね、人殺す時に深呼吸してたのかもしれないし、これが非常に回り回って面白い見方になるのですけど。

どの道に行っても、チェスタトンでも何でも、高僧でも笑わなきゃしょうがないですよね、哲学者でも。

そうですねぇ。

笑う瞬間というのは、これはやっぱり言語なんですかね?「笑う」という。

[*笑う瞬間という言語、高僧も哲学者も笑う ]

そうですね。キリスト教哲学の一種かな、「神の高笑い」ね、哄笑(こうしょう)。僕は案外ね、smileね、「微笑」は多く使うんだけどね、高笑いをしたことは一度もない。

今村有希
(笑)

バカなことばっかりやってるでしょう、自分の人生振り返るとバカの連続なので。それで「神の高笑い」というのはね、キリスト教はこう考えるんですよ、つまり、「絶対者が人間を創った」んだと。でもね、ちゃんとどこかに不完全・不均衡を(人間に)埋め込んでいて、肺は2つありますけども、腎臓も2つあるけどさ、心臓はこっちに1つでしょう、肝臓もこっちに1つでしょう、どこかこのimbalanceね、不均衡を神様は仕組んで、人間を創ったと。みんな物語なんですよ(笑)

[*絶対者が人間をつくったが不完全不均衡を埋め込む ]

今村有希
はい。

その不均衡のせいで、人間は次々とバカなことをやっとると。戦争やったりさ、まぁ例外もあるかもしれないけど、惚れたり腫れたりも含めてね。

先生、理屈で言うと、神が果たして高笑いをするかっていう、そっからせめて始めて頂かないと(笑)

そうか(笑)

一同
(笑)

言語が破綻した時って、もう笑うしかないんだろうなぁいう気がしますね。あの「寒山拾得図」で、二人の童子が手を仰いで呵々大笑する、あれはもう言語を超越していますから、武蔵もそうだし、やっぱりなんかそういう(言語を)「超越した瞬間」にユーモアが出てくるというんですかね。

[*呵呵大笑の童子描いた寒山拾得図 ]

うん。

まぁあったんでしょうねぇ・・・笑っている武蔵って魅力的ですよねぇ。まぁ非常に怖いですけども。

今村有希
(笑)

いちばん怖いのはね、話ズラして言うと、よく知らずに一知半解で言ってるんですけどね、ぼく道元をちょっと読んで、まぁ座禅の哲学・・・まぁ分かったような気もした。親鸞の「歎異抄」読んで、まぁ分かったような気もしました。それから日蓮の「立正安国」国を思って立て!というね、それも分かったような気がして、高野山空海の摩訶不思議なものを・・・でも、一番分からないのは一遍上人ね。踊りまくる。

はい。

しかもね、女の集団、ほとんど女だった(一遍の)あとをついて歩くのね。それでもう踊りまくる、言葉は汚いけどヤリまくる・・・これは笑いとは逆の「狂気」に近い世界ですからね。僕ね、恐ろしくてこれに近づきたくない。

[*踊り念仏で浄土へという狂気に近い一遍上人


踊念仏(笑)それで、世が混乱した時は、戦後で言うと、北村サヨってご存知?

今村有希
知らないです。

戦後の大混乱期にやっぱり「踊る宗教」のね、女性ですけどね。

[*戦後の混乱期に出てきた踊る宗教の北村サヨ ]

今村有希
へぇ〜。

やっぱりね、時代が大混乱になった時に、まず狂気染みて来るのと同時に、それに感じるのはやっぱり女性なんですねぇ。

今村有希
(うん)

武蔵の場合は女性はどうなってたんですか?

ほとんどその関係は・・・(黒鉄の方を向いて)わかりますよね?どうなんでしょうねぇ。

今村有希
(笑)

熊本の武蔵の碑に女性の名前が刻まれてるって説があるんですよ。見に行って触ったんですけど、ちょっと判明できなかったですけどね。

あぁ〜そう。

ただ、(西部)先生の仰ったのはそれはトランス状態ですね、一見。武蔵も斬り込む時にスッと行く時に真っ暗闇のようなところに居る、するともう気がつけば斬っていたと、これも一種の“静のトランス状態”ですよ。

あぁ〜そうか。

一遍が(踊りながら)大騒ぎしていって路上的にやるけど、武蔵の場合は静かに静かに・・・だから、こう乱動してるんでしょうね。

なるほどね。そうか“静かな恍惚状態”ね。

武蔵の歌でその「振りかざす太刀の下こそ地獄なれ、一と足すすめ先は極楽」というね、(剣を構えた状態で)ここで待ってたら地獄だと。もうその先の方、トランス状態じゃないですけどガーッと前へ出ると、そこに極楽があるんだと、という言葉がありますね。

[*「振りかざす太刀の下こそ地獄なれ、一と足すすめ先は極楽」宮本武蔵

あぁ〜。しかしなかなかあれですね、加藤君に示す基準が出てきませんねぇ。

加藤にしろ、まぁとにかく理由無き殺人者と言われている者、自分がいなくなって、だけど自分を証明しなきゃダメだと、「その存在証明するために殺人という手段を選んでいる」、これは本当に異常な事態なんですけど、これでも例えば表現で、漫画を描く、美術或いは音楽をつくる、文章を書く、こっちの方がやはりかなり近いと思うんですよね。

そうでしょうね。

その加藤(加藤智大)が、表現という手段を掴んでいたら・・・と本当に思いますね。

あぁ〜そうか。

それこそ昔からの永山則夫(殺人犯、死刑執行により死亡)もそうですし、彼はまぁ最終的に小説を書きましたけれども。

うん・・・そうか、そういうことか。

書かれたのは、「言葉以前」のものを求めて、人間は「狂」・・・狂い、でもこの狂いを自覚して自分をなんとか保っていれば、そう無闇矢鱈な秋葉原殺人事件まで行かなくて済む。

しかしながら、その基準が・・・言語以前の基準、といった途端にまた言語が分からなくする

「言語以前の言語とは何か?」という訳のわからぬ話が次の週お二人に、僕にも分かるように説明してもらうということで(笑)

今村有希
(笑)

今週はありがとうございました。

一同
ありがとうございました。

【次回】「なぜいま『武蔵無常』を論じるのか」③ ゲスト:藤沢周(作家、法政大学経済学部教授)、黒鉄ヒロシ(漫画家)

「なぜいま『武蔵無常』を論じるのか」① ゲスト:藤沢周、黒鉄ヒロシ 〜西部邁ゼミナール〜

「なぜいま『武蔵無常』を論じるのか」① ゲスト:藤沢周黒鉄ヒロシ西部邁ゼミナール〜

ゲスト:
藤沢周 作家 法政大学教授 、図書新聞の編集者などを経て作家デビュー「ブエノスアイレス午前零時」で芥川賞受賞、【近著】『武蔵無常』(河出書房新社

黒鉄ヒロシ 漫画家、隔月刊誌「表現者」の表紙を手がける、【著書】『刀譚剣記』(PHP研究所)ほか多数

西部邁ゼミナール)「なぜいま『武蔵無常』を論じるのか」【1】2016.04.16


今村有希
今回は作家で法政大学教授の藤沢周先生と漫画家の黒鉄ヒロシ先生にお越し頂きました。

藤沢先生は図書新聞の編集者などを経て作家となり、『ブエノスアイレス午前零時』で芥川賞を受賞しています。このほど、『武蔵無常』を上梓されました。自己摩擦という人間武蔵が抱えた非常事態、殺人剣を持たざるを得なかった青春期を描いています。

時代が危機に突入する中で、人生に於いても常に危機にさらされている“人間の非常事態”について武蔵無常を題材にしつつ、現代にも通じる話が伺えるかと存じます。

それでは先生方、宜しくお願い致します。

お越し頂いてありがとうございます。

宜しくお願いします。

ところで今村さん、藤沢先生に何か質問があるとか?

今村有希
はい。まず最初に藤沢先生、剣道の4段だとお伺いしたのですが、いつぐらいから始められたのですか?

そうですね。それがですね、いま僕は57歳なんですけども、

今村有希
はい。

46歳から(剣道を)始めたんです。

西部・今村
えぇ〜!!(驚)

非常に遅いんです(笑)武道には幼い頃からわりと親しんでいて、ずっと柔道をやっていたんですけども。

今村有希
きっかけは何だったんですか?

あの、(子供に将来なにになりたい?と(聞くと)、すると『武士(モノノフ)』という子供だったんですよ。

一同
(笑)

それで、じゃあ剣道をやらせようかなと思って(子供に)一緒についていったら、道場の雰囲気が懐かしくてそしたら僕の方がハマってしまいまして。

[*46歳から始めた剣道、息子の付き添いだったはずが・・・ ]

黒鉄先生がね、

今村有希
はい。

雨傘がね・・・実は剣の形をした雨傘を持ってらして、今日起こし頂いたもう一つの理由は、来年になるんですか、ニューヨークの個展は?

[*日本刀を模した雨傘と個展に向け宮本武蔵を創作 ]

えぇ。まだ計画中なので。

あぁ〜計画中。ちょうど今、宮本武蔵のなんて言えばいいのかな、人形を創ってらっしゃると。僕の10倍ぐらいの知識、読書量をお持ちの方で、武蔵を語るには僕は格落ちなので、それで黒鉄先生に助けを求めようと。

今村有希
(笑)

(困惑顔で)いやいやとんでもない(苦笑)

今こういう時期に『武蔵無常』という本を出された、何か思惑がお有りなんでしょうか?

そうですね、僕はジャンルでいうと「純文学」の方ですから、何で時代小説を書くんだと思われてる方が多いかと思いますけども、元々、現代のものを書こうと思ったんですね。自らの基準を失って危機に陥った青年を主人公に書こうと思って考えてたんです。

詩人でもあり作家でもある【ポール・ヴァレリー】が、人は19から24歳の間だったかな・・・その間に“知的クーデターを起こす”というふうに仰っていますけども、そのクーデターでも自分の基準を失っている者、(自己を)一切抹殺してしまった、そういう“危機に陥った人間”とはどうなるんだろうということを考えていた時に、なんかこう乱れた蓬髪の鋭い眼差しの武蔵が浮かんできて・・・あぁ、武蔵か、確かに武蔵ってのはギリギリの精神の狭間で考えていた男で、実際に彼の殺人剣・殺人刀、或いは、活人剣にもなりましたけども、そのギリギリのところでやっていた男、これをモチーフにしたらどうだろうと、まずは思ったんです。

[*人は知的クーデターを起こす 作家・詩人 ポール・ヴァレリー / 自分の基準を失い自己抹殺、危機に陥ったらどうなるのか / 精神の狭間ギリギリの考え、殺人剣・殺人刀の武蔵 ]

で、最初はその現代の青年が武蔵の小説を書いていて精神のバランスをとっていた時に考えたんですね。その交互に書いてるうちに、これダイレクトに武蔵をやった方がいいんではないかと。

今までも沢山の優れた武蔵に関する吉川英治先生から始まって傑作が沢山ありますけども、全く今まで書かれていない武蔵を描くことによって、その人が抱えている「狂気」であるとか、或いは、「危機」においてどういうふうに対処するのかということを考えてみたいと思って、時代小説になったわけですね。

黒鉄先生ね、幕末の志士たちで死んだ侍たちが沢山いるが、黒鉄さん時々誇張されるんで真実は分からない・・・

今村有希
(笑)

(苦笑)

だけど、死んだ人間の8割は土佐人だと。土佐人というのはすぐに人を殺すので。

[*幕末に死んだ志士たち、土佐藩出身が多かった? ]

いや、ちょっと(笑)土佐の使ってた日本刀というのはやっぱり古かったんですね。

ほぉ〜。

それで重くなって、重さで斬られるとか。あと(土佐人は)意気が強くて突入するんで、8割と言ってはどうか・・・

ハハハ(笑)

でも、いちばん死んでますよね。刹那的な・・・だから、武蔵に近いのかもしれないですね、県民性全体が。突撃みたいなもんですから(笑)

はい。

武蔵がその自分の基準を失っていくというのは、やはりあれですか、立て続く闘いというか、殺人ですよね。

はい。

大量殺戮を含めて。

[*なぜ自分の基準を失い、殺人剣を持たざるを得なかった ]

そうですね。ですから、今まで語られている武蔵というのは剣豪、剣聖としての武蔵なんですけども、その巌流島までの武蔵は、むしろ自分の中の・・・言葉は悪いかもしれませんが、『理由なき殺人者』みたいな、すごい魔物みたいなものに気付いて、

あぁ。

そのアリバイとして剣を握っていたのではないかと、まずはそういう角度から入っていったんです。まぁ罪を背負ったりしたわけですけども、で、それをなんとか乗り越えよう、乗り越えようとして剣を鍛えていくことによって、自分自身の存在を確かめようとしたのではないのかなと。

剣豪武蔵というよりも、例えば、ドストエフスキーヒョードルドストエフスキー)が『罪と罰』で書いたラスコーリニコフとか、カミュー(アルベール・カミュ)が『異邦人』で書いたムルソーとか、

あぁ。

あぁいう人たちに近かったんじゃないかなぁと思うんですね、精神性が。

[*「罪と罰」のラスコーリニコフや「異邦人」のムルソー の様 ]

カミュね?

今村有希
はい。

太陽が照っていると。だから殺したと(笑)

[*「太陽が眩しかったから」主人公ムルソーの殺人動機 小説『異邦人』(アルベール・カミュ)]

今村有希
えぇ〜!!(目を丸くさせて驚く)

要するに(殺した)理由。

今村有希
理由!?(笑)

理由は(太陽が)眩しかったからと(笑)、その理由をだけでこういっちゃう(殺しちゃう)と。

今村有希
えぇ〜!!

黒鉄さんはあれでしょう。そういう武蔵の気持ちのそういう動きというのはすぐ分かるんでしょう?

いや、すぐは分からないですよ(笑)

(笑)

ただ、彼の呼吸、深呼吸と言ってもいいんですかね、絵画とか美術の面も非常に遺してくれてるという、

はい。

でも、余計分かり易い一面、余計分かり難くなってるんですね。ですから、“言語との格闘”というのが武蔵の中で行われて、あの『五輪書』(ごりんのしょ)もそうですし、あの『獨行道』(どっこうどう)もそうですし、だから、そこで(藤沢が)作品になされた理由というのは非常に分かる気がするんですよね。

[*武蔵のなかでの言語との格闘、「五輪書」「獨行道」 ]

はいはい。

だから、吉川さん(吉川英治)の武蔵も非常に楽しいのだけども、もうちょっとこう武蔵的に踏み込んでいただくというのが今回の本(「武蔵無常」)だろうと思うのですよ。大変期待していますんで。

はい。自らのライブを一切抹殺して、自分自身がもう分からなくなるわけですね、(自分の)基準が無くなりますから。そういう時に、その無意識の底から「もう一人の自分」がこうせり上がってきて、これがどうにもならないもう“奇の人間”というんですかね、そのせり上がってくる部分というのがなにか、言葉のあるもの・言葉ならざるものか混沌としたところだと思うんですね。

なるほど。

だから武蔵を考えた時に、まさにその(黒鉄が指摘した)「言語の問題」ってかなり重要だなと思って、それも大きなモチーフになりましたけど。

昔にね、まぁナナメ読みと言ってもいいけど、『五輪書』を読んだ時にね、

今村有希
はい。

かなり平凡に考えちゃって、あれは「地の巻」かな?なんか、二天一流という言葉があって、地の巻だから、この土地ってのはざらざらしてたり谷があったりね、デコボコがあったりいろいろあるでしょう。もちろん、こっちの方には畑があったり草むらがあったり、そういう“矛盾に満ちた二つの天(二天)”ね、Aと矛盾するBも自分は引き受けると。この「矛盾」の中で一本筋(一流)にね、後々、『武士道』と言われるものもね、その道を築くんだというね。

ごくね、そういう単純な意味での剣豪の術の、そういう人かなぁと思ってたら、今度の藤沢さんの本(「武蔵無常」)は、そんな生易しい話じゃないんだと(笑)

[*『五輪書』地・水・火・風・空、【地の巻】「兵法の道、二天一流と号し・・・」 ]

いやいやいや、そんなことはないです(苦笑)

(笑)

僕が言ってるのは本当は生易しくなくって、例えば山脈で言えば、山の尾根伝いとかちょっとでもしくじると滑り落ちるわけですから、尾根伝いというのは際どいのだけど、その単なる際どさじゃなくって殆ど「狂気」に近いね、

今村有希
ふふふ(笑)

そういうものがあったんだという、無ければもう渡れないんだとね。

(頷く)

僕としてはね、保守思想を語る身としては分かるけど・・・(両手で口を塞ぐジェスチャーを交えて)隠しとこうというやつを(藤沢の本に)暴露されちゃったというそういう感じで(笑)

(笑)

あの二天一流・・・確か「地の巻」に出てきますよね。あれは元々は「二刀一流」って言ってたらしいんです、資料を調べると。まぁ二つの刀ですね。

おぉ。

で、とにかく実戦上においては、太刀と脇差を持っているのだからこれは(脇差を)使わないのは勿体無いだろうという。とにかく「徹底的に勝つ為に何でも使う」というところから二刀一流という言葉が出たと思うんですけど、

[*二天一流、二刀一流、どんな武器でも勝つ精神 ]

なるほど、うん。

でも、(西部)先生の仰る通り「矛盾」ですよね。それをこう抱え込んでいる、そしてこう人間迷ったりするわけですけども、最終的に武蔵は、迷いの雲の晴れたるところ・・・これが空であると。空を道とし、道を空とみるところなり、という言葉になってくる。

[*迷いの雲の晴れたるところ、実の空と知る 〜 空を道とし、道を空とみるところなり 【空の巻】 ]

そうなってくるんだね、そうか。

はい。それが『万里一空』に繋がってくると思うのですけども。

やっぱり「迷い」というところと、どういうふうにそれを乗り越えるか・・・まぁ剣道をやっていると剣道では独特の言葉が沢山ありまして、(『四病』と書いて)「よんびょう」とも「しびょう」とも言うのですが、四つの病(四病)と書きまして。

ほう。

剣を構えて相手と対峙した時に、『驚懼疑惑』(きょうくぎわく)驚く、懼れる(=恐れる)、疑う、惑う、自分自身がそれに見舞われてしまう。

なるほど。

相手はどう来るのだろう、どう攻めたらいいのだろう、そしたら斬られるかもしれない・・・こんなことを考えたら、まぁやられちゃうわけです。

今村有希
あぁ〜。

その『四病』、四つの病(=驚・懼・疑・惑)をなんとか克服しなければならないということがあって、やっぱりそれも武蔵は本当に沢山抱えていたと思うんですね。

[*『驚懼疑惑』驚く、懼れる、疑う、惑う⇒【四病】といわれ剣の道で克服すべき戒めの言葉 ]

あぁ〜。僕と黒鉄先生と、ときどきお酒呑むんですけどね、

時々というか・・・かなり呑まれていると思いますが(笑)

黒鉄・今村
(笑)

まぁ〜冗談半分で(黒鉄から)しょっちゅうケンカ売られるんですよ。そのテーマはね・・・「自分は言葉なんか信じない!」と、黒鉄さん。

(渋い表情を浮かべ苦笑)

「言葉なんか嘘だ!!」

はい。

ねっ。言葉ってのは今言った「狂気」みたいなものを傍に置いて、認識をパターン化することが多いでしょう。そういうことを(黒鉄は)嫌っているんでしょうけど・・・

で、でもね・・・しょうがないとは認めているんですよ(苦笑)

一同
(笑)

ですから、武蔵が入り込んでいった「美の世界」というんですか、芸術の方は言語前、仏教でいう『真言』ですかね、

はい。

そっちの世界で深呼吸したという。

[*真言的な言語の前、武蔵が入り込んだ美の世界 ]

それから、このお書きになったので(「武蔵無常」)感じますのは、この当時、実は「武士道はまだ無い」んですよね?

そうです。

ですから武蔵は個人的に武士道的な、自分の武士道というもの、生き甲斐みたいなもの、死に甲斐みたいなものですか、これをこう格闘しちゃったという、そこを(藤沢)先生が書いて下さったというのはとっても楽しみですね。

[*自分の死にがい、生きがい、格闘していた武蔵 ]

まぁ吉岡一門と戦う時も、まぁ昔のお侍さんは名乗りますよね、我は○○で○○流派と。そんなことをやっている間に斬らなきゃダメだ、というのが武蔵のやり方で、

うんうんうん。

だから、あの徹底的に形式主義とかform(フォルム)みたいなものを破壊するタイプだったと思うんですね。

[*徹底して形式主義、formを破壊するタイプだった武蔵 ]

なるほどね。

それはまた尋常じゃないほどのレベルで、作家の【坂口安吾】さんが『青春論』武蔵を取り上げて、徹底的に勝つ、生き抜くにはどうしたらいいのか、という考えたのは武蔵だと。で、その為には、道徳であれ倫理であれ、全てのものを捨てるということを言う。

[*武蔵の勝ちへの拘りを紐解く『青春論』坂口安吾

まぁそれは、(坂口安吾の)『堕落論』に繋がっていくのですけど、そういう意味で坂口安吾さんが武蔵の型破りな思考法といんですか、それに惚れ込んだのはなんか分かる気がしますねぇ。

「生きる」ということは、この場合は「闘う」ということですからね、やっぱり『堕落』することだと。この場合、堕落というのはいろんな美意識を含んだものでしょうけどね。

[*生きること(闘うこと) 美意識を含んだ堕落 ]

でも、最後のなんか本当に数十行でね、「人間は堕落しきることできない」と。大事なものを他人に与えられるんじゃなくて、自分で自分の基準、あとは言葉は違うんですけど、見つけなきゃいけないんだ!というところでその堕落論』は終わるんですよね。

そういうことも武蔵はあれでしょう、基準をなくして殺人剣へ行ったけども、やっぱりそれを求めてた・・・

[*人は堕落しきることはできない、自分で基準を見つけねば ]

だと思いますね。そうでない限り、やっぱり自分が生きてゆけないというか立ってゆけないと思うんですよね

うん。

ただそのあり方がやっぱり「自分の地獄」の中に潜り込んでいってめぐってもがいてという“別の強さ”が僕は書いていて見えてきたというんですかねぇ。

いやぁそれは正しいんでしょうねぇ。僕も77年も生きていますからねぇ、77年も生きてるとね、まぁだいたいその時はよく分からないのだけど、振り返ると相当際どいことがほんの数回か、そういう時に確かに(武蔵と)吉岡一門との闘いでいえば、子供まで殺しちゃうでしょう?

はい。

そんないちいちね、子供だから脇に置いておこうとか、そんなことは考えない。向こうが子供をかざして卑怯なことをやってくるならば、(子供ごと)斬ってしまえ!!ってね。そこまでしないと生き延びれないということは武蔵のみならず、多くの人によくよく考えればあるってことなんですね。でもさ、それ書くとさ、ものすごい怖い話になるじゃない?

今村有希
(うんうん)

いつも隠してた。で、黒鉄さんとお酒を呑むと、それをぐっと出す。

今村有希
(笑)

で、藤沢さんを呼んだらそれを文章にまでしてしまう。僕としては、たいへん不利な状況に。

(笑)

自分で隠してきた状況を・・・。(両掌を上にかざしてパー)

黒鉄先生が仰ったその、言葉・・・をまぁ、信じないというか、そういうふうなのがよ〜く分かりまして、それは作家ですからいちばん言葉を使うのですけど、世界の実相を、本当の姿を書こうとして言葉で書くのですけど、言葉で書いたと同時に敗北しちゃうんですね、現実から多少のギャップが出ますからね・・・

そうねぇ。

(大きく頷く)

だから本当に矛盾しているようなんですけど、言葉によって言葉以前の世界、世界が世界になる一歩手前を書きたいな書きたいなと思っていると、言葉を使うことによってもうそこで負けるわけですから、だから、せめて「書く」ってこう“世界と刺し違えるぐらいの覚悟”でやるべきなのかなぁなんて思って、それはちょっと武蔵とつながるんですね。

[*言葉以前の世界を書くこと、世界と刺し違える覚悟要する ]

言葉以前をね、言葉をやると必ずいわゆるrealityというか、もっと言うと、状況とズレますからねぇ。

[*言葉以前の言葉 reality 状況とのズレが出る ]

えぇ。

そのズレを誤魔化す為に、僕の場合は歌をうたっちゃうんですよ。でも、歌にも言葉が付いてることが多いからね。

(うんうん。笑)

僕は楽器を弾けないから一曲うたう、(でも)また言葉がくっ付いてるなってね・・・こうなったら誤魔化しは効きませんよね。そういう本(「武蔵無常」)なんだね、おそろしい本。読者にあんまり読まないように・・・って冗談だけどね(笑)

一同
(大笑い)

ハハハ読んで下さい(笑)

是非読んで下さい(笑)

武蔵はその自分の中の獣染みた、狂気みたいなものに気付いて、自分の基準を失っていって、というようなまぁ設定にしましたけども、その時に「画家としての武蔵」ですね・・・

あぁ〜。

まぁ関心があってですね、画家の方に絞ろうかなと思ったくらい、これがまた画が素晴らしくてですね、『枯木鳴鵙図(こぼくめいげきず)』という有名なのありますよね。

すごいですよね。

えぇ、あの大阪の久保惣美術館(和泉市 久保惣記念美術館)にあってそこにも見に行きましたけども、なんだろな、やはり「言語以前のものを形象化する」そっちのベクトルがかなり強かったのかなと思います。

[*「枯木鳴鵙図」宮本武蔵が描いた水墨画、高みから見下ろす一羽の鵙(もず)と枯れ木を登る芋虫 / 参照:http://artscape.jp/study/art-achive/10102134_1983.html

ちょっと言語的ですよね。

そうなんですよね、画が・・・

芋虫がいて、鵙がいて、こう・・・(木を登るっていくジェスチャー)

はい。

静寂を描いているんですが、ちょっと説明的でしょう。だから、恐らくいってものすごく(武蔵は)かなり「言語的な人」だったと思うんですけどね。

あぁ〜。

逆に、完全に現実に近い人だと厄介なことになる。行ってしまう。武蔵は行ったり来たり、行きつ戻りつつだったから、悩んで僕らに足跡を遺してくれたところがチャーミングでもあるし、欲望をあれだけ「獨行道」に書いて、これをガンガンガンということは、これは(己の)欲望に気が付いているってことですからね。

[*「獨行道」宮本武蔵、世々の道に背くことはなし・・・ ]

そうですね。

だから要するに格闘したんだろうという。ですから僕らを惹き付けるんだと思うんですけどね。

はい。

藤沢さんの御本に対する書評を、小説家の辻原登さんが書いていて、

はい。

最後の最後の、要するに「巌流島の決闘」で、「佐々木小次郎のアートによって救われた」と、武蔵がね。それはどういうことですか?

[*佐々木小次郎のアートにより救われた巌流島の決闘 ]

僕は設定としては、「佐々木小次郎は世界以前を掴んでいたのではないか?」というふうにまず設定したんです。

あぁ〜、それがアートか。

はい。もう武蔵はそれに嫉妬して、どうしてもその(小次郎の)剣を見てみたい、その表現を見てみたい。

うん。

闘うシーンのところで、世界として立ち上がってる刹那をちょっと書いたつもりなんですけど、その時に彼は佐々木小次郎というアーティストの表現ですね、

えぇ。

これによってひょっとして「救われた」「光を与えられた」のではないか。

[*アーティスト佐々木小次郎の表現により光を与えられた ]

なるほどね。

はい。そこで、武蔵は今までの剣を捨てて、剣を生きる、今度は本当の修行の時代というんですかね、に入ったのかなぁと、えぇ。

[*武蔵はそれまでの剣を捨て、剣に生きる修行の時代へ ]

ともかく「art(アート)」に似た言葉ですけども、techné(テクネー:ギリシャ語→artの語源)、今はtechnology(テクノロジー)というと要するにスマホみたいなね。古代ギリシャで「techné
(テクネー)」というとね、例えば、奥さんの面倒のみかたとかね、そういう生活上の智慧ね。

ほぉ〜。

それから宗教ったって、宗教もまだハッキリしないような時代だけども、何か自分の魂の面倒の見方みたいなね、そんなものすごい複合的な意味でtechné(テクネー)と言ってたらしいんですよ。

[*「techné(テクネー)」古代ギリシャでは生活の智慧、自分の魂の面倒の見方と複合的な意味 ]

(うん)

たぶん佐々木小次郎の「art(アート)」というのもね、こういうもの(=techné:テクネー)も含むんでしょうね。

あぁ〜そうでしょうね。

単なる剣術の・・・燕返しでしたっけ?(笑)

燕返しですね。

なにかこう生き方とかなんとかを全部含めてのアートみたいなもの。

『正法眼藏』(しょうぼうげんぞう→道元執筆)の道元道元禅師)の執筆の中に、「鳥飛んで鳥の如し」という不思議な言葉が。

おぉ〜。

鳥が飛んでいる。で「鳥」と我々は認識するのだけども、これを見て(鳥と)言うことではないと。つまり「鳥が飛んいる」と認識したらもうちゃんと掴んでいないと。

あぁ〜

だから“鳥のようなもの”というふうに言うんですけど、だから小次郎はそのへんの位相を掴んでいたのではないかな、というふうに僕はこれ(「武蔵無常」)では書かせてもらったのですけど、やっぱりこう言語になってものを認識するというその「刹那」みたいなことを、絶えず武蔵は疑ったり、やはり戻ってきたりしていたんだろうと。

そうか。

はい。

言語以前のものね、定まったパターン以前の、ふつうでいえば chaos(ケイオス:英語)=khaos(カオス:ギリシャ語)、しかしながらすごい重みを持った、ひょっとしたら美しい・・・こういうものが言語以前にあるんだと。そこへ突き進もうとした。そういうのが武蔵だ、そういう御本だ、ぐらいにまとめたら怒る?

はい。いやいや怒らないです、嬉しいです。

ハハハハハ怒られないね(笑)

というわけで、第2週目に突撃ね。突入します。来週をご期待下さい。

【次回】「なぜいま『武蔵無常』を論じるのか」② ゲスト:藤沢周(作家、法政大学経済学部教授)、黒鉄ヒロシ(漫画家)